アレスの天秤編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
染岡に優勝してやると、でかい口を叩いた。
その通り、王帝月ノ宮中は決勝戦に向けて、またひとつ駒を進めた。
……相手を潰す方法で。
胸張って言えるような勝ち方じゃない。
なに、やってんだろうな。
地に伏す、名も知らぬ選手達を見下ろす。
悔しそうに地面を殴る者、動かぬ体で涙を流す者、憎しみを込めてこちらを睨む者。
全て、私たちのした事でこうなっている。
「…、…梅雨さん、行きますよ」
そう声をかけてきた野坂は片手で頭を押さえていて、眉間にシワが寄ってる。
最近、やはり脳腫瘍からくる頭痛の回数が多いようだ。
やっぱり野坂の為には早く試合を終わらせて正解だった。
これが1番効率がいい。
相手の怪我も、二度とサッカー出来なくなるほどの怪我じゃない。
野坂の為には、王帝月ノ宮が勝つには、これでいい。
そう、自分に言い聞かせる。
「梅雨さん……?」
『ああ。今、い、く………』
あれ、おかしいな。
1歩踏み出したら、ぐらり、と視界が揺れて、そのまま前のめりに地面に倒れ込んだ。
「水津さん!?」
驚いた顔をしたまま、固まっている野坂とこちらに駆けてくる西蔭の姿がぼんやりと映って、そのままブラックアウトした。
ぴっ、ぴっ、と鳴る規則的な音で目が覚める。
『………?』
どこだここ。
見慣れぬ白い天井が見える。
腕に異物感を感じ、動かそうとしたら、いきなり、あっ、という声が聞こえた。
「点滴中ですよ」
西蔭の声だ、そう思ったら彼は私の画角に入るかのようにそばに寄ってきて顔を見せた。
「目が覚めたんですね」
『……点滴、って』
つまるところここは病院って事だろうか?
「試合の後倒れたのは覚えてますか?」
『…なんと、なく?』
そう言えば西蔭は、はあ、と大きなため息を吐いた。
「アンタ、最近メシちゃんと食ってますか?」
『………食べるのは食べてるよ』
味はしないけど。
王帝月ノ宮はアレスの天秤で生徒の食事まで管理されてるから、そもそも食べないというのは許されない。
「…つまり、食べた後に吐いてるんだな。試合の後に吐いてるのは知ってたが………」
はあ、とまたため息を吐かれた。
「もしかして、星章学園との試合の後からずっとですか?」
真っ直ぐこちらを見てくる黒目からそっと目線を逸らす。
「水津さん。アンタ、栄養失調だそうですよ」
倒れた原因はそれか。
「最近、食いもんの味がしないと、言ってましたよね。そのせい、ですか?確か、雷門と白恋の試合を見に行った次の日に検査に行かれましたよね?その時は何も言われなかったんですか?」
『あー……』
いや、一応ドクターには、食べ物の味がしない事は伝えてある。
『味がしないのは、ストレスが原因ではないか?という診断だったから』
「ストレス………」
うん。ストレスだ。
思い当たる節しかない。
流石の西蔭も、ストレスの原因に心当たりがあるのだろう。渋い顔をした。
さっき彼が言った通り試合後には必ず吐いてるから。
『……こればっかりはしょうがないよ。慣れないことしてるから、かなぁ』
「アンタは、……優しすぎる」
眉をひそめた西蔭に対し、小さく笑い返す。
『それは、褒め言葉として受け取っていいものなのかな』
「褒めてはないです」
『だろうね』
当回しに、王帝月ノ宮のサッカーには向いてないって言いたいんだろう。そんなの私が1番よく知っている。
『…ところで、私どのくらい寝てた?半日くらい?』
話題を変えるようにそう聞けば西蔭はふるふると頭を横に振るった。
「3日です」
『み、3日!?そんなに寝てたの…!?』
「はい。その間に永世学園と雷門の試合がありましたよ」
『永世…あぁ、エイリア学園か』
「はい?」
何言ってるんだ、と西蔭は首を傾げる。
私の中じゃエイリア学園はエイリア学園なんだもん。急に永世とか名前変えられても覚えられない。
『雷門が勝った?』
「はい」
『だろうね』
イナズマイレブンは雷門中が主人公なのだからそうだろう。
………その理論で言えば、どんなに頑張っても我々王帝月ノ宮中は優勝、出来ないのだろうけど。
でも、その雷門だからという固定概念をぶち壊してでも、王帝月ノ宮を勝たせなければならない。
『そういえば今日1人なの?珍しいね』
「野坂さんは、今日は御堂院に用があると月光エレクトロニクス社に向かわれました」
うん?野坂の方から用があるって珍しいな。
大体あのおっさんからの呼び出しが多いけど……。
「…ひとつ聞いてもいいですか?」
『うん?……どうぞ?』
なんだろうか。妙に真剣な顔をしている西蔭を見て首を傾げる。野坂が月光エレクトロニクスに行ったのと何か関係があるのかな。
「水津さん。アンタはなんで、こうなってまでサッカーを続けてるんだ?」
ああ、なんだ。純粋に私への疑問か。
「王帝月ノ宮のやり方が、アンタに向いてないのは早くに分かってただろ」
確かに初めてグリッドオメガを使った時からそれは分かってた。
それで西蔭とは口論になった。
『そうだね。……天秤に掛けられた物の重さが、片方に傾いてた時、均一にするにはどうする?』
「…はい?」
西蔭は返事になってないと眉をひそめ、首を傾げる。
『足りない重さを足すでしょ?私がやってるのはそういう事だよ』
掛けられてるのは片方が私の脚と野坂の##RUBY#命#決意##。もう片方は、##RUBY#神代#アイツ##の言う通りなら、私がサッカーを続けることと王帝月ノ宮を優勝させる、と言うのがそれに釣り合う錘なのだと思う。
何かを得るには同等の対価が必要だって、某錬金術漫画でも言ってたし、そういう事でしょ。
「………足らない重さ?………アンタが居なくても、うちは勝ちますよ」
どういう思考に至ったかはわからないが、おそらく、私が居ないとチームの力が足りないという意味に取ったかな?
『そうかな?多分、そうじゃないから、私がここにいるんだと思うよ。ねぇ、神代?』
「神代…?」
誰だそれは、と西蔭が私を見つめる。
すると、ガラリと病室のドアが空いた。
「大正解」
そう言いながら、見知ったマゼンタの髪の少年が部屋の中に入って来たのだった。