アレスの天秤編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
フィールドを楽しそうに走るなえちゃんは圧倒的に速い。速いが、やはりボールを取りこぼす。それを、アツヤが拾いフォローする。
『あぁ、なるほど』
この子を入れた意図はコレか。
士郎以外との連携をしないアツヤに無意識的に仲間との連携をさせる。口で言っても聞かないタイプだろうから、一番いい方法かもしれない。
ドリブルで駆けながら交互にボールを回す吹雪兄弟の元に、なえちゃんが寄った。
そして直ぐに白恋中の一同がイレブンバンド見て、FWとMFが彼女の周りに集まった。
なえちゃんを起点に扇のように後ろに広がって走る。
『なんかこれ昨日も見たなぁ』
「戦国伊賀島の蹴球戦術、鶴翼の陣ですね」
西蔭に、そうそれと返事をする。似て非なるものだろうか?
そのままの隊列で一糸乱れず突っ込んで来る白恋イレブンに雷門イレブン達は翻弄され、突破されていく。
ゴール前まで来れば、いくで!となえちゃんが声をかけボールを強く蹴った。
彼女がクラウチングスタートのように姿勢を低くする左右を吹雪兄弟が走り抜けた。
そしてその後ろからびゅん、と物凄い勢いでなえちゃんが走り出す。
吹雪兄弟が左右からボールを挟み込むように回転し冷気でボールを包み込む。そこになえちゃんがライダーキックでシュートを打った。
「「「トリプルブリザード!!!」」」
吹雪兄弟のパワーとなえちゃんのスピードが込められた氷のシュートは、のりかちゃんを1歩も動かすことなく点を奪い去った。
そしてまた、なえちゃんは嬉しそうに両手で頭の上にうさ耳を作ってぴょんぴょんと跳ね、会場のうちわを持った彼女のファン?がぴょんぴょぴょーん!とコールしている。
点を取られた雷門のキックオフからだが……、すぐに士郎にボールを奪われ、白恋は先程と同じ陣形を作った。
「ふっ、完璧な連携だね」
『そうね』
「まさかあんな方法で、チームを指揮するとは」
「あんな方法?」
野坂はもう、あの連携がどういったものか理解してるのか。さすが戦術の皇帝。
ちなみに私は、西蔭と同じで分かっていない。
「ふふ、雷門に見破れるかな」
そう言って笑う野坂は悪い顔をしている。
『雷門に見破れるか……か』
つまりだ。私や西蔭は野坂がヒントをくれずとも、分かると言うことだ。…いや、野坂はわざわざ見破れるか、って言ったな。つまり、見る?
フィールドを駆ける彼らをじっと見つめる。
『ううん?』
先頭を行くなえちゃんに合わせて、みんな移動している。
いや、それは誰が見ても分かることだ。
『……彼女ハンドサインとかしてない、よね』
次は右とか、左とかハンドサインを出してる様子も、イレブンバンドで指示を出してる様子もない。
「そうだね」
ふふ、と野坂は未だに笑っている。
『あ、れ?』
彼女の後ろにいる、吹雪兄弟も、染岡も他の子も、彼女について走ってる筈なのに彼女を見ていない気がする。
じゃあ何を見てるんだ。
みんな、見ている方向がバラバラだ。
それなのに何故進む方向が合うんだ…?
「「「「………え!なーえ!なーえ!なーえ!」」」」
『だあああもう。観客うるさい。考えてんのに気が散…る……?』
観客???
ふと、フィールドではなく顔を上げて観客席の方を見た。
あちらこちらまばらだが集団でいるなえちゃんのファンのような人達。お揃いのうさ耳と法被を着て、なえと書かれたうちわを持っていてとても目立つ。
そして彼らは揃ってうちわを右や、左に傾けている。
『……これか!』
そりゃあ白恋の子達はどこ見ててもいい。観客席全体になえちゃんファン達が散っていて、しかも目立つ格好をしているからすぐに分かる。
『なるほどね、うちわか』
「うちわ…?……ああ、なるほど」
西蔭も理解したのか、頷いた。
『彼女のファン達が彼女の動いた方へうちわを動かし選手達に伝える。場外戦術か』
「いや、少し違いますね」
えっ、違うの?正解だと思ったのに。
「彼女の動いた方を伝えるなら、選手達は直接目の前にいる彼女を見た方が速い」
『あー……』
そっか、1回観客挟む意味無いか。
「あれはどちらかと言えば、彼女を思い通りに動かす為のうちわだろうね」
『なえちゃんを?……思い通りって、誰が……?』
「チームの指揮をするのは誰かな」
『……ゲームメイカー?参謀?キャプテン?』
「それもあるけどね。それが選手内に居ないチームだってあるよね」
え、うちだと野坂の役割だしな……。
チームの指揮をとる人?
「うちのチームのは無能だから、思いつかなかったかな」
野坂にそう言われてやっと分かった。
『ああ、監督か!』
そうそうと頷く野坂の横で、今度はフィールドの外、白恋側のベンチを見た。
白恋の監督で白うさぎ本舗の社長が、ブロックサインをしていた。
「白兎屋さんは恐らく無意識的にうちわを振られた方に行くんだろうね。その習性を彼女の父である監督は理解しているからそれを使って指示を出し誘導しているんじゃないかな」
『はえ〜』
そんなん、よう思いつくなぁ。
娘であるなえちゃんはサッカー初心者みたいだが、ほいほいとブロックサインを出しているあの監督は、結構やるみたいだ。
さて、はて。
兎を見て犬を呼ぶ
どうやら雷門も1人だけ気がついたようだ。