アレスの天秤編
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『おはよう。お待たせ』
サッカー部宿舎の自室から出て、廊下で待っていた花咲と丘野の2人に声を掛ける。
「おはよう、水津」
「おはよう。そんなに待ってないぞ」
嘘八百のストーカーの為に2人は毎日迎えに来てくれる。申し訳ないな。
「じゃあ、食堂に向かうか」
『あ、うん』
「どうした?」
首を傾げる花咲対し、こちらも、えっ?と首を傾げた。
『何が?』
「いや...、気のせいか?」
じっとこちらを見詰める花咲に、一体なんなんだと見つめ返す。
「お前たち、見つめ合ってないで食堂に行くべきじゃないか?」
丘野にそう言われ、そうだったと2人して食堂に向かって歩き出す。
食堂に入れば他の学年の子も、ゾロゾロと集まって居て、お膳を持って席に着いていく。私たちもそれに倣って今日の朝食の膳を持ってテーブル席に着いた。
3人ともそれぞれ、いただきますと手を合わせて、箸を取った。
今日は和朝食だ。ご飯とお漬物、焼き鮭に卵焼き、そして味噌汁。
栄養価配分とかはアレスの天秤が全部してくれるから、便利だよね。それにちゃんとした食事で良かったなと常々思う。栄養価だけ取れればいいとか言ってサプリメントとかレーションみたいな食事だったらこんな所私も逃げ出してた。
まず、ご飯を口に運んで...あれ?
思わず首を傾げる。
気のせいかなと思いつつ、卵焼きを1口食べて、味噌汁に口をつける。
『......んー?』
「どうしたんだ?」
正面に座った丘野が不思議そうにこちらを見た。
『いや、なんか今日味薄くない?』
「そんな事ないと思うが」
『えっ?味噌汁とか全然味しないんだけど』
「いつもと変わらないが...?」
首をかしげながら、同意を得ようと丘野は隣に座る花咲を見た。
そうすれば花咲はズズっと味噌汁を啜った。
「んー。いつもと同じだな」
『えぇ、そうかなぁ...』
全然美味しくないんだけど...なんでだ?
「お前風邪でも引いてるんじゃないか?」
『でも朝の体温チェック平熱だったよ?』
「じゃあ引き始めかもな。気をつけろよ大会中だし」
『うーん』
前みたいに水被ったりとか風邪引くような事してないと思うんだけどなぁ。
ウイルス性のものだといけないから、みんなに移さないように気をつけないと。
そんな風に思いつつ、何となく味気ない朝食を完食して2人と共に授業を受けるため、校舎の方へと移動した。
授業も終えて放課後の部活動も終わった。
やっぱりお昼の給食も味がしない気がしたから風邪の引き始めかもしれない。
部活でかいた汗で体を冷やすといけないからさっさと流してしまおうと、部屋に帰った。
シャワーを浴びる前に、朝起きた時に開けっ放しだったカーテンを閉めておこうと窓に近づいて、ふと外を見た。
『ん??』
校内にコソコソと隠れるように移動する人影が見えた。よく目を凝らして見れば雷門中の稲森明日人だった。
『...偵察、かな?』
そう思いカーテンを閉める。
それから部屋を出て、サッカー部宿舎から王帝月ノ宮スタジアムへと向かえば、バッタリと出会った。
『え?杏奈ちゃん?』
あれ、稲森だと思ったんだけどなぁ。
首を傾げていれば、神門杏奈ちゃんは驚いたような顔をした後、ぺこりと頭を下げた。
「こんにちは、水津先輩」
堂々とした様子でそういう彼女はどうにも、偵察といった様子ではなさそうだ。
『ええ、こんにちは。王帝月ノ宮に何か御用?』
「どうしても野坂くんと話がしたくて」
『......、ファン、かな?』
追っかけ、的な...、偶にいるんだよね学校まで押しかけて来ちゃう子。
そう思っていれば杏奈ちゃんは慌てて首を横に振った。
「ち、違います!私はただ、なんであんな試合をしたのか聞きたくて...!」
真っ赤な顔をして必死に否定する杏奈ちゃんを見て、嗚呼と呟いて目を細める。
『あんな試合、か...』
「...水津先輩にも、聞きたいです。なんであんな酷いことを...?私はあの日、雷門中で会った水津先輩の事を正義感の強い人だと思いました。それなのになんで...」
じっと、こちらを見つめてそう言う杏奈ちゃんに思わず鼻で笑う。
正義感?そんなものはそもそもないんだけど。ただのエゴだよ。
『なんでって、勝つために決まってるでしょ』
それ以上それ以下でもない。
「どうして...、貴女も野坂くんも...!」
悲痛な声でそう言う、杏奈ちゃんに大きくため息を吐く。
グリッドオメガを使えば批難される事など重々承知でいたが、やはりキツいな。
酷いことなんて他の誰でもない自分が1番分かってる。
『私はなにをしてでも王帝月ノ宮を勝たなきゃいけない理由があるんだよ』
こちらに連れて来られた理由がかかっているのと、優勝を目指さなければ神代の奴に足を折られるというリスクがある。
『それに強化委員としても、海外の選手に勝てる強い選手を育てないといけないんだ』
「強い選手、ですか」
『うん。野坂を見れば分かるでしょ。彼は技術も知略もトップクラスだ』
「それはそうかもしれないですけど...」
彼女は雷門の現生徒会長だ。
だから昨年のフットボールフロンティア優勝校であった雷門イレブンがスペインとの試合でぼろ負けしたのを知らないはずがない。雷門の雪辱を果たすにも強い選手を育てることは必要な事だと分からない子ではないだろう。
『まあ野坂はまた別だろうけどね。野坂の事は本人から直接聞きなよ。一緒に寮に戻らなかったから、まだスタジアム内にいると思うよ』
「...そうですか。分かりました」
納得してないような顔をしつつも、杏奈ちゃんは、ありがとうございます、と礼をしてスタジアムの方に歩いて行った。
スタジアムのゲートの中に彼女が入っていくのを見送って、さて、と振り返る。
『稲森。そんな所に居ないで出ておいで』
そう言えば稲森はひょこっと生垣の後ろから顔を出した。
「あははは...」
乾いた笑い声を上げながら生垣の後ろから全身が出てきてこちらに近づいて来た。
『何してたの?』
「えっと、その...」
稲森は言いにくそうにして目をそらす。
『偵察?』
「え、いやそういう訳じゃ...!杏奈さんを追っかけて来たらここに入って行ったから」
杏奈ちゃんを追っかけて...?
『......稲森。ストーカーは犯罪だよ』
「ち、違います!!監督が杏奈さんがイケナイお友達と会ってるって言うから心配で!!」
『イケナイお友達...』
ふむ。と首を傾げて考える。
どう見てもそういう人間と付き合わなさそうだけどな、杏奈ちゃん。どちらかと言えばクソ真面目っぽいし。
まあ8割型あの胡散臭い監督に稲森がからかわれたんだろうな。こっちは馬鹿正直っぽいし。
「でも水津さんに会いに来てたんですね」
どこかほっとしたような表情の稲森にいや?と首を振る。どうやら稲森には先程の会話の内容は聞こえてなかったようだから少し意地悪したくなった。
『私とはたまたま会っただけよ。他の用事があるってスタジアムに行ったから、そこにイケナイお友達が居るのかもね』
「ええっー!!た、大変だ!」
純粋かよ!可愛いわね。
思わず笑みがこぼれる。
『心配だし、一緒に様子見に行きましょうか』
「え、いいんですか!?」
『うん。これは隠密活動だから静かに着いてくるのよ、いい?』
「はい!あっ、」
大きな声で返事をした後、稲森は慌てて手で口元を覆って小さく頷いた。
抜き足差し足忍び足
スパイごっこは得意だよ。