アレスの天秤編
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空中での競り合いに勝利した野坂が得点を決めホイッスルが鳴り響く。
これで3-0だ。
空中から叩き落とされてグラウンドに転がった灰崎は、両膝をついたまま身体を起こし、クソっと思いっきり両拳で地を叩いた。
「俺はこの時を待っていたと言うのに...!!王帝月ノ宮を、アレスの天秤を倒すと誓ったんだ!!そのアイツらに俺は手も足も出ないと言うのか!!」
灰崎は手も膝も地に付けたまま、悔しそうに叫ぶ。その上に影が落ちた。
「君が僕らを倒す?」
見下ろす野坂に灰崎は顔だけを上げて見上げる。
「ちょっと高望みが過ぎたみたいだね」
何っ!と食らいついた灰崎の眼前に野坂は掌を向けた。
「僕はこの手で世界を変える」
それだけ言って野坂は、自分のポジションに帰っていく。
今までの相手だったら、ここで心折れて試合も終わるところ、なのだが...。
『...正直、』
視線の先にいる灰崎はゆっくりと立ち上がった。
『立ち上がらないで欲しかったな...』
何故なら、今みたいに、灰崎につられるように倒れていた他の星章選手達も起き上がって来るから。
「ここで引き下がったら...あいつに負けた感出ちまうだろうがあああ!!」
雄叫びのように叫ぶ灰崎と共に、順に立ち上がっていく星章選手達を見て大きなため息を吐く。
このまま大人しく負けを認めてくれれば良かったのに。仕方ない、この世界は立ち上がリーヨ!、諦めない奴が勝つんだもんなぁ。
「まだやる気なんだ...」
野坂が冷たい目で灰崎を見据える中、星章のキックオフで試合が再開される。
折緒の蹴ったボールを灰崎が受け取り、愚直に突っ込みながらボール上に蹴りあけてピュイと指笛を吹いた。ボコボコと地面からペンギン達が飛び出してボールに突き刺さる。
「オーバーヘッドペンギン!!」
取られる前に速攻で決めてやると言う事だろう。
オーバーヘッドキックで放たれたシュートが真っ直ぐゴールへ向かう、その射線にアクロバットで飛んで入る。
『ソフィアンクラッチ』
片手倒立の状態で足をクロスさせ飛んできたボールを難なく受け止める。
「なっ、!?」
灰崎は止められた事に驚いているが、こちとら練習相手が野坂だぞ。女だからと舐めて貰っては困る。
『谷崎』
「くそっ、!!」
止めたボールを直ぐに谷崎にパスすれば、灰崎は大きな舌打ちをした後、守備の為に自陣に走っていく。
谷崎から野坂にボールが回され、どんどんと攻め上がる。
「左を抑えろ、早乙女!双子玉川!外に開け!」
星章側も、鬼道からの指揮が飛ぶ。
左側から上がる野坂に早乙女と双子玉川のダブルマークが付き、中央に行かせまいと左に押しやってくる。
「でりゃあああ!」
右にパスが出さない状態にされ、左側の奥野か一矢にパスを出そうと状況確認をしようとした野坂の足元に、灰崎のスライディングが刺さった。
ボールは弾かれ、鬼道の方に転がっていき、彼はそれを踏み止めた。
「お前たちの攻撃パターンは見切らせてもらった!」
「クククッ、やるな鬼道。言うだけあるじゃねぇか」
やっぱり攻略してきたか。流石、天才ゲームメイカー。
「ピッチの絶対主導者、鬼道有人の本領発揮と言うわけかい。いいよ、相手にとって不足はない」
「来い、野坂悠馬。戦術の皇帝と呼ばれるお前の力見せてみろ!」
やる気満々に言う鬼道に対し、野坂の顔に影が差す。
「言っておこう。僕はね...こんな所で遊んでいる暇はない。無駄に出来る時間など1秒足りともないんだ」
珍しく感情の出ている顔だ。
他の人から見たら余り変わりないのかもしれないが、怒りと似たようなそんな怖い顔をしている。
『時間、か...』
「うおおおおぉ!!」
野坂が、雄叫びを上げて、ボールを持つ鬼道に向けて走り出す。
私が彼の病気の事を知ってからでも結構な月日が経った。
定期的に検査で一緒に病院に行くものの、彼が教えてくれる検査結果はいつもまだ大丈夫だということだけで。
ここのところ頭痛も酷くなっているようだし、思っていた以上にリミットが近いのかもしれない。
それなら、やはり彼に余り無茶をさせるべきでは無い。
『...は......すぅ...』
大きく深呼吸をした後、意を決して走り出だした。
覚悟
全てを賭ける彼に敬意を払って。
私も全力を尽くそう。