アレスの天秤編
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フットボールフロンティア全国大会、Aトーナメント1回戦。
王帝月ノ宮中対星章学園の試合は本日、ここ王帝月ノ宮スタジアムで行われる。
「試合中の作戦指示はアレスの天秤の状況分析結果によって暗号コードで提案される。くれぐれも見落とすことのないようにな」
監督からの指示に、分かりましたと野坂が返せば、監督はそれと、と選手達を見回した。
「言っておくが私は常にお前たちを見ているぞ。アレスへの不信感を抱いたり、命令に背くような気配があれば即刻処罰する。いいな」
そう言って監督はじろりと私を見た。
まあ、私はそもそもが余所者だし、傘美野との練習試合での前科があるからなぁ、睨まれてもしょうがない。
「そんな者がこの中に居るとは思えませんが」
野坂がそう言い返せば、監督は鼻で笑った。
「ならいいんだが?みすみす脱走を取り逃したキャプテンがまとめるチームだ。ちょっと不安でな」
なんだコイツ。嫌味言うくらいなら監督としてきちんと処罰下せよ、ムカつくな。そう思っていれば隣に立つ西蔭も同じようにムカついたのか、振り上げはしていないものの拳が握られている。
全国大会中じゃなかったら、よし、殴れ!って言うところだわ。有難く思えよと監督を睨みつける。
「さあ行け」
そう言って、監督は大股を広げて偉そうな態度でベンチに腰掛けた。
選手達は、はい、と返事をしてベンチに背を向けてフィールドに向かう。
「監督とは名ばかりの無能が」
『んっ...!!!』
ベンチから少し離れて、吐き出すように言った西蔭の言葉に、思わず笑ってしまって口元を抑える。
「一般の監督なんてあんなものさ。おかげでアレスの天秤の価値を知ることが出来る」
『ふふっ...』
裏で子供達にボロカス言われてんの知ってんのかな。知らないだろうな。
「梅雨さん?何を笑っているんですか」
『いや...、なんでもないよ』
1つ息をついて、呼吸を整える。おかげで少し緊張も解れた。この子達は意識してやった事じゃないんだろうけど。
「さあ、整列だ」
センターラインを挟んで王帝月ノ宮と星章の選手達がそれぞれ1列ずつ並ぶ。
「本日はよろしくお願いいたします」
キャプテンの野坂が星章キャプテンの水神矢と握手を交わすのを筆頭に、それぞれが向かい合う選手と握手を交わす。
無論、私も目の前に立つ鬼道と手を結ぶ。
「ピッチで会うのは雷門対帝国の練習試合ぶりだな」
『そうだね。あの時は結局君にボール取られちゃったけど、今回は負けないよ』
前回は完全にフリスタの癖を見抜かれて動きを読まれてしまったが、今は違う。私もいち選手として研鑽を積んできた。
「ふん、またレッドカードを切られないようにな」
何処か愉快そうに、懐かしそうにそう言った鬼道に、ああ、と目を伏せて手を離す。
『先に謝っとくよ。ごめんね』
「水津?」
怪訝そうな顔をした鬼道に背を向けてフィールドに散る。
ゴール左前のディフェンス位置に立って、大きく深呼吸をする。
よし。勝とう。
ピッーと始まりのホイッスルが鳴り響く。キックオフは星章学園から。
折緒がボールを後ろに蹴り、星章選手達が走り出す中、ボールは灰崎が取った。
「最初から飛ばすぜ、!?」
1歩踏み出そうとした灰崎の真横にいつの間にか野坂が居て、ボールを奪って上がっていく。
すぐさま双子玉川がカバーに入るが、そのスライディングをも野坂は軽々と跳んで避けた。
そして、そのままの勢いで八木原、白鳥の2人をドリブルで抜き去った。
「速い!」
鬼道が驚きの声を上げる中、野坂の足から蹴られたボールは、星章学園のゴールに突き刺さり、ピッーとホイッスルが響いた。
観客席からも歓声と黄色い声が上がっている。
「くそっ、」
センターに置かれたボールは先制点を取られた星章のキックオフで灰崎が鬼道に回す。
攻め上がった灰崎に間髪を入れず鬼道がパスを出した。
そのパスを受けて灰崎が飛び上がり、ピュィ、と指笛を吹けば地面からボコボコと6羽のペンギンが現れてボールに向かって飛んでいく。
「オーバーヘッドペンギン!!」
突き刺さったペンギンごとシュートされたボールは真っ直ぐフィールドを突っ切って、王帝月ノ宮のゴールへ向かう。
『ロングシュートだと威力落ちるし大丈夫でしょ』
呑気に王帝月ノ宮のゴールを見つめれば、普段と変わらない様子で西蔭が左手を突き出した。
その手に吸い込まれるかの様に、灰崎の打ったボールは収まって止められた。
「こいつ...!」
「ふん、この程度か」
灰崎に嘲笑う様に言った西蔭は、そのままボールを大きく投げつけた。
無論そのボールは野坂の元に向かい、当然野坂にマークがつかないわけが無い。八木原と古都野が駆け寄ってきたが野坂は焦ることなく、バク宙して両足にボールを挟んでキャッチした。
そしてその野坂の邪魔をさせないようにと、丘野と谷崎が間に入って八木原と古都野を止める合間に野坂はドリブルで駆け上がる。
「効率よく得点する為に、先ずは相手の抵抗する力を奪う」
そう言った野坂は奥野にパスを渡す。
そして、その受け取ったボールを奥野は佐曽塚にぶつけた。その跳ね返ったボールを取った桜庭が今度は早乙女の足にボールをぶつけた。
その後も、我らが王帝月ノ宮はわざとボールを星章学園の選手達にぶつけていく。
「まさか、わざと俺たちを狙っているのか!?」
水神矢が驚いた様に言う中で、鬼道がこちらを睨みつけてきた。
だから先に謝ったじゃないか。
「水津さん」
草加から回ってきたボールを受け取って、それを双子玉川にぶつけた。
小柄な彼は軽々と吹っ飛んだ。
「貴様ら...!!汚い真似しやがって!!」
叫ぶ灰崎に、汚い?と野坂のは首を傾げた。
「僕らは君たちの走力を奪うために正確に足を狙っているだけだ。勝利のための合理的な手段を選択しているだけさ」
そう、この方法が、1番早く試合が終わる。
長時間の激しい運動はきっと彼の脳に良くない...。
「そもそも君たちとの勝負なんて僕の目的の為のただのステップに過ぎない」
「野坂、貴様ァ...!野坂ァァ!!ッ!?」
叫んだ彼の顔面にボールがぶつかって、ぶっ飛ばされる。
そりゃ、突っ立ってたら狙いやすいわ。
「灰崎!!」
鬼道が叫ぶ中、灰崎にボールをぶつけた一矢から目線で上がれと言われたので、星章陣内へと駆け上がればちょうど足元に桜庭からボールが届いた。
それを天高く蹴りあげて、上に飛びバク宙から体を捻って足を振り下ろす。
すでにボロボロな星章DF達を月ノ宮のMF達が易々と押さえつけてくれたおかげであっさりとシュートに入れた。
『篠突く雨』
竹槍の如く激しく降る雨がボールの姿を隠した。豪雨のカーテンから急に飛び出したボールに天野は反応出来ず、ボールはゴールに入った。
「水津!何故お前が」
ポジションに戻ろうと踵を返せば鬼道が詰め寄ってきた。
『リベロだからだけど?』
「得点の話ではない!分かっているだろう!」
まあ、そっちだろうねぇ...。
『雷門との練習試合で同じことをした元帝国学園のキャプテンの君なら分かるでしょうよ』
そう言って鬼道を見れば、彼は唇を噛んだ。
「勝つため、だと言うのか...?」
『それ以外に何があるの?』
「だが、お前は...!」
そこまで言って鬼道は言葉を止めた。
私がなんだと言うのか。不思議に思って鬼道を見れば、そうか、と彼は何かに納得した様に呟いた。
「1発叩かれる覚悟は出来ているんだろうな」
真面目な顔してそう言った鬼道を鼻で笑ってその場を離れてポジションに戻る。
全く、よく覚えているものだ。
逆転の立ち位置
覚悟が出来てなきゃこんなとこ立っちゃいない。