アレスの天秤編
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3-4で星章学園がリードする中、雷門ボールで再開したものの直ぐに灰崎にボールを奪われた。
灰崎は1人でワンツーパスをしてみせ、雷門DF陣を抜く。
『帝国戦でも思ったのだけれど、雷門はDFが上がりすぎる傾向があるわね』
「そうですね」
現在もリベロの万作が前線を上げるのに引っ張られるのか、DFがペナルティエリア周辺から大きく離れてしまっている。
そんな中、本来FWのはずの稲森がディフェンス位置にまで下がってきて居て、ゴールを守るのりかちゃんと灰崎の間に立った。灰崎とマンツーマンでのフェイント勝負に勝った稲森がカットしたボールは転がって万作が受け取った。
いつも思うが稲森は本当によく動く。動き過ぎてバテないか心配になるが...。
『え...?』
一瞬、転がったボールに視線を移してた間に、稲森が膝を着いて左足首を押さえるようにしてうずくまっている。
今やった?けど、激しくぶつかったりしてなかったと思うけど...。と、すると、もっと前か?だとしたら足を傷めた状態で、FWからDFにまで下がってきてたの?
稲森はゆっくりと立ち上がって、足首をグリグリと回す。どうやらそのまま試合を続けるみたいだが。
ちょうどよく万作から道成にパスされたボールを水神矢のスライディング攻撃によってラインの外に出された。1度試合が止まった今なら、応急処置ができるのだが、稲森はフィールドに留まったままで、早々に岩戸がスローインし試合が再開される。
『ああもう。アイシングもしないで何やってんの...!というかあの監督気づいてて止めないの?マネージャー達は何してんの』
「水津さん...?」
急にどうしました?と西蔭が不思議そうに首を傾げた。
『いや、元雷門マネージャーとしてあの状態の選手をあのまま放置してんのが許せないだけ』
ハーフタイムでアイシングもテーピングもした様子なかったし、何も考えてんの。ありえないと、ブツブツ言ってたら、そうですか、と淡々と返された。
今勝たなきゃかもしれないが、勝った先の試合の事を考えるなら無茶はするべきではないと思うんだけれどなぁ。
フィールドではボールを白鳥がカットして、それを双子玉川にパスされ、そこから更に灰崎へと渡り、彼はオーバーヘッドペンギンを繰り出した。
そのボールに、DFラインに残っていた稲森が飛びつきヘディングで防ごうとするものの、押され弾き飛ばされる。
稲森のおかげで威力の弱まったシュートをのりかちゃんがウズマキ・ザ・ハンドでしっかりとキャッチして止めた。
だが、高いところから弾き飛ばされ着地した稲森は痛そうにしている。
そんな中、やっと趙金雲がベンチから立ち上がり、何やら選手達に合図を送っている。そして、稲森だけ呼び出されたのかフィールドの外に出る。
『やっとか』
どうやら、手当ての為に呼び出した用で、趙金雲は稲森を芝の上に座らせ傷めた左足を触れてみている。
アイシングやテーピングをする訳でもなく、それから直ぐに稲森は立ち上がって、その場でぴょんぴょんと飛んでみせた。
『指圧?』
まあ功夫やってたんなら、ツボとかそういうの詳しそうだもんな。
稲森がフィールドに戻り、試合時間は残り三分。のりかちゃんが大きくボールを投げて、日和が受け取り、道成、奥入、稲森へとパスが繋がる。
稲森が高く蹴りあげたボールに、氷浦が飛び上がり足を上に向けその上に稲森が足を合わせ飛び乗り、更にその稲森の肩に小僧丸が乗った。
氷浦を踏み台に、稲森は更に高く飛び上がり、そこから更に飛び上がった小僧丸は高く上がったボールにたどり着きそこからオーバーヘッドをして見せた。
「「「メテオドロップ」」」
そう言って3人でシュートしたボールは、流星のように星章ゴールに向かって落ちるが、角度的にゴールの頭上を過ぎそうだった。
『外した...?』
ここに来て新必殺技に挑戦した結果か...と思いきや、そのシュートはいきなりゴール手前で、叩きつけるかのように地に落ち、そこからバウンドして天野の横をすり抜けゴールを決めた。
「ほう...」
感心したように野坂が声を上げる。
『どうしたの』
「いえ、面白い作戦だったなと」
作戦?と首を傾げれば、野坂はええ、と頷いた。
「水津さんは今回の雷門の動きどう思いました?」
『え?そうだな...トータルフットボール的だなって』
所謂全員攻撃、全員守備のプレイスタイル。ポジションに囚われず、流動的に動く戦術だ。けど、それは帝国戦の時もそうだったし...。
『後は、今回稲森がよく動くな、とは思うけど...』
「ええ。まさにその通りです。雷門はトータルフットボールを行なってましたね。では全員攻撃、全員守備のデメリットはなんだと思いますか?」
『そりゃあ、スタミナ切れを起こしやすいのと、速攻カウンターに弱い』
だからこそ、帝国戦では服部が1人DFポジションに残って居たはずなのだけれど。
今回はその服部も皆と同じように、前に出ていたし、そのDFの空いた穴をほぼFWである稲森が担っていた気がする。
そして、試合終了間際だが、暴走気味の灰崎に合わせるからかスタミナ切れ気味の星章学園と打って変わって、雷門側は少し余裕があるように見える。
『まさか...。稲森にDFを任せて、他の選手は体力温存してた?』
「そういう事ですね。FWである稲森くんがDFにまで下がることで、雷門側は全員守備をしていたように見せていた」
つまり、前回のように調子に乗って攻め込んだ分けでも、リベロの万作に引っ張られて前線が上がった訳でもない。意図的にDFを薄くしていたと。
「稲森くん以外の選手は、交代で少人数ずつで守備に入り休息を取っていた、と言うことです」
『はー...。稲森の体力有りきの奇策じゃない』
それで、足を傷めてるのを無視して続投させてたわけだ。
「その上、まだ雷門は打つ手を残していたとは...。何故最初から使わなかったのでしょう」
西蔭の言う打つ手は新必殺技の事かな。
『それは、切り札は最後まで取っておくもの、だからじゃない?』
そう言えば、野坂は、ああと頷いた。
「雷門の技はまだ覚えたてだ」
えっ、そうなの?よく他人の技見ただけで分かるな。たしかに初披露の技ではあったけど...。
「1度目は意表をついて得点出来るが、鬼道なら直ぐに荒削りな技の突破口を見つけるだろう」
『まあ、鬼道ならね。10分もかからず攻略の糸口を掴みそう』
「趙金雲はそれを分かっていて必殺技を最後の一手にしたんだ」
「未完成の技も使い用と言うわけですか」
「雷門の監督は実に抜け目がないようだ」
更に試合が再開されたフィールドでは、ボールを奪った雷門は稲森が切り込んで行きオーバーヘッドでシュートを放つ。
「シャイニングバード!!」
『また新必殺技!?』
光の鳥たちがボールに集まり大きな1羽の鳥となってゴールへの軌道を描く。
そこに、決めさせないと鬼道と灰崎がゴール前に立ち、同時にシュートを蹴り返そうとするが、押し負け弾かれる。
羽ばたく鳥と天野の一騎打ち。モジャキャッチで対抗しようとするも、もじゃもじゃの中を掻き分けた鳥はキャッチ技を突き抜けて天野ごとゴールに叩きつけた。
雷門に逆転を許した星章学園は、キックオフからすぐさま攻めに転じる。最後まで負けないという気迫が凄まじかったが、無常にもタイムアップでホイッスルが鳴り響いた。
「雷門の選手も中々だけど、あの監督侮れないな」
『ちゃらんぽらんっぽいのにね』
ベンチでずっとスマホいじってるのに、考えてくる作戦はちゃんとしてる。
「僕達はあの人に勝てるかな」
『おや、珍しく弱気だね』
「野坂さんはここまでの雷門監督の手の内を全て見切ってらっしゃるじゃないですか」
西蔭の言葉にそうそうと頷けば、野坂は無表情のまま、喜んでハイタッチを交わしている雷門イレブンのいるフィールドを眺めた。
「王帝月ノ宮は負けることなどないでしょう」
「負けることがない、ではなく負けることができないんだ。王帝月ノ宮は」
『ん、そう、だね』
何をしてでも勝たなければならない。
賭けてる代償が大きすぎるもの。
「星章に雷門。全国で会うのが楽しみだね」
「そうですね」
思ってもなさそうな声で西蔭が返事をすれば、ちょうど彼のスマホが音を鳴らした。西蔭はポケットからスマホを取り出して、画面を見た。
「野坂さん、水津さん。竹見が揉め事を起こしたようです」
『揉め事...?』
喧嘩とかか?いや、王帝月ノ宮の生徒がそんなことするかな...?
『とにかく帰ろうか』
立ち上がってそう言えば、はい、と西蔭が頷き、野坂は座ったままでちらりと視線を寄越した。
「そっちは頼むよ」
いつもより低めのトーンでそう言った野坂に少し違和感を覚える。
『野坂?』
「僕は、稲森くんや灰崎くんにヒーローインタビューでもして帰るよ」
大丈夫か?と言う意味で聞いたのだけれど、これからどうするの?と言う意味に捉えられたらしく野坂はそう答えた。なんとく、おかしい気がしたのだけれど、おちゃらけて返す余裕があるようだし大丈夫だろう。
「水津さん、行きますよ」
『え、あ、うん』
先行く西蔭に呼ばれ、慌てて荷物を持ち彼の元に駆け寄った。
『しかし、揉め事って竹見何したの?』
歩みを進めながら西蔭に問う。
「...、練習中に感情に任せて口論し掴み合いになったと」
『竹見が?珍しいね。元気はいいけど基本大人しい子なのに』
「まあ、兆しはありましたからね」
淡々と言ってのけた西蔭の言葉を、兆し、と繰り返してみる。
最近、恋煩いでぼーっとして練習に身が入ってなかったしそのことでの口論だったのかな?
帰って話を聞いてみてだな、と足を進めるのを早くした。
知らぬところで事が起きる
竹見の事もだが、まさか野坂は野坂で大変な事になってたとは思ってもなかった。