後半戦、キックオフでボールを持った剛陣から灰崎がボールを奪う。それを稲森がスライディングで取り返して小僧丸にパスを出した。
そこでフィールド上の雷門イレブン達は腕に付けたイレブンバンドを一斉に見ていた。恐らく監督からの支持だろう。
その隙に、星章の双子多摩川が小僧丸からボールを奪い返し、すぐさま灰崎へとパスをした。
それを受け取って走り出した灰崎に雷門の万作、奥入、道成の3人がマークに着いた。

『うわぁ、ウザイな』

自分がされたら凄い嫌なんだよね、3人マーク。
それでも機敏な動きで突破しようとした灰崎から、そのフェイントをみきって万作がボールを奪い取った。
万作から奥入にパスが回されれば、怒り狂ったような顔をした灰崎が奥入に突撃していく。慌てたように剛陣にパスが回り、そこから直ぐに明日人、小僧丸へとパスが繋がれていき、小僧丸は身を回転させながら空に登っていく。

「ファイアトルネード！！」

飛んでくるシュートに星章GKの天野は反応が遅れもじゃキャッチを発動しようとするが間に合わずゴールを割られてしまった。
苛立ちを露わにする灰崎がセンターからのキックオフで再び雷門陣へと上がるもののまたも3人によるプレスを仕掛けられるが、逆に今度はそれを巧みな足さばきで翻弄し、別方向からスライディングしてきた服部の攻撃も躱した。
やはり1年生でレギュラーに選ばれてるだけあって上手いな。
しかしながら4人にマークされるのは相当キツいのでは、そう思ったところで星章の佐曽塚が、こっちだと手を上げた。
木戸川清修戦以降、仲間へのパスを覚えた灰崎は素直に佐曽塚へとボールを蹴った。
灰崎にばかりマークを付けていたからこそ、ノーマークだった佐曽塚から今度は折尾へと綺麗にパスが繋がった。シュートをするためペナルティエリアまで上がる折尾の前に、うおおお、と雄叫びを上げながらDFの万作がボールを奪う。
そこから彼は服部にバックパスを出したあとどんどんと駆け上がっていく。センターラインを超えてディフェンダーであるはずの万作は、星章陣内に足を踏み込んだ。

「へぇ、彼リベロだったんだ」

...私と同じポジションか。
じっと、フィールドを駆ける万作に目をやる。
他のチームのリベロがどう動くのか興味があるな。

服部から日浦に、日浦から稲森に、そして剛陣へと渡ったボールを鬼の形相で下がってきた灰崎が奪いに来て、慌てた様子で万作へとパスされた。
ドリブルで上がる万作の前に八木原が立ち向かう。

万作はニヤリと笑った後、いち、に、と一定のリズムでボールを蹴り、3回目の蹴りでボールを高く上げ自身の体をスピンさせながら飛び上がった。

「スパークウインド」

電気を帯びた竜巻に八木原は弾き飛ばされ、万作はそのままドリブルで抜けて明日人にパスを回す。
しかし、ペナルティエリアにたどり着いた明日人を水神矢がブロックして、
取りこぼしたボールを何とか万作が拾った。
そこにチャンスとばかりに天野が飛びつけば、万作はつま先でボールを蹴りあげた。
弧を描いたボールは天野の上を通り過ぎてゴールの中にコロコロと転がって入っていった。

『は...、ループシュートって』

必殺技使わんのかーい！ってツッコミもあるが、まあ、確かにゲームやってると時々ノーマルシュートでも特典取れるときあるもんね、と納得する。
実際普通のサッカーなら、今のプレーは上手いしな。

「どうですか？今大会でリベロがいるチームを見るのは初めてですよね」

『うん。客観的に見ると嫌だね。DFの目線からしたら守備に付かなきゃいけないのが増えるってのが。ましてやこっちが攻め損ねてのカウンターだった場合にリベロが攻撃に参加とかしてきたらマジでウザいと思うわ。キーパー的にも単純に攻撃数増えるの嫌じゃない？』

西蔭に話を降れば、そうですか？と首をかしげられた。

「全て止めればいいだけの話なので」

淡々と表情も変えずにそう言われて、そうかぁ、と頷く。

『止めればいいだけ、か』

「はい」

まあ確かに攻撃手段が増えたところ、打ち破られなければ意味がないもんなぁ。

ふと、フィールドに視線を戻せば、雷門イレブンはまたおかしなことをしていた。
ボールを星章から奪ったものの攻めに転じず、チーム内でパス回しを始めた。
そのパス回しから何とかボールを奪おうと星章選手たちは、それぞれに着く。

「おやおや」

野坂が楽しそうな声を上げフィールドを見つめている。
と、言うことはこれは雷門のタクティクス？


《おおっーと！パス回しに釣られたのか中央ががら空きだ！》

実況の角馬さんが言うように大きく空いた中央に稲森だけが居て、そこに剛陣からのパスが通った。
そのまま稲森はストレートにシュートを打って、天野からゴールを奪った。

『パス回しで雷門イレブン達が距離を取ることで、それに釣られた星章イレブン達の位置取りをズラしたってこと？』

「ええ。雷門の選手だけでなく、星章の選手までコントロールして見せた。
あの監督は一体なんなんでしょうね」

『なんにせよ、このまま鬼道が黙ってるわけないだろうけどね』

去年のフットボールフロンティアでも、不調だった雷門に編入して、たった10分で全ての軌道修正を行ったぐらいだし。

『直ぐに解決策を出すはず』

「水津さんは、鬼道さんを信頼してますよね」

『まあね。なんだかんだ言ってやっぱり鬼道は天才なんだよね』

今のピッチの絶対主導者と言う肩書きよりも、やはり天才ゲームメイカーが私にはしっくりくるし。

ボールをセンターに置いて、星章選手たちは一斉にイレブンバンドを見た。
ああ、そうだった。星章には久遠監督もいるんだったな。
何やら指示があったのか、キックオフと共に灰崎はボールを後ろへと蹴った。
MFであるはずの鬼道が、ゴール前へとたち全体を見て指揮を取る。相手を見てディフェンスするマンツーマンディフェンスと違い、味方同士のポジショニングが他大事となってくるのがゾーンディフェンスだ。そのポジショニングの指揮を鬼道が取るのだ。無駄のない、陣形で守備を取られ雷門は攻めるどころかボールを奪うことさえ出来ない。
その隙をついて抜け出した灰崎にボールが渡り、灰崎はパーフェクトペンギンを放つ。
それに雷門DF陣である奥入、日和、服部はグラビティケージで対抗する。
しかし、そのケージの隙間をするりと抜けたペンギンはそのままの勢いで雷門ゴールへと突き進む。
のりかちゃんがうずまき・ザ・ハンドで止めようとするものの、パーフェクトペンギンの勢いを殺せず掌で弾かれたボールはゴールの中へと飛び込んでいった。

「既に試合は決したというべきでしょうか」

「さあ？どうだろう。雷門がこのまま引き下がるとは思えないけど」

『選手たちも諦めた様子ないものね』

ゴールを割られたのりかちゃんも悔しそうだが笑っているし、チームメイトがそれを責めている様子もない。

「まだ打つ手を残していると言うことですか？」

「十分に考えられる事さ。あの監督ならね」

『そう言えば、あの監督の事調べてたんでしょう？』

そう聞けば、はいと西蔭は頷いた。

「スタンフォード大学を首席で卒業後、功夫師範として3年、軍人として3年」

『待て待て待て。スタンフォード大学って難関校だよね』

こっちでどうかは知らないけど向こうじゃそうだ。それの首席ってマジで？

「はい。ベースボールプレイヤーとして3年活躍した後、サッカープレイヤーに転身し3年活動し、その後監督になったものの1年で辞め、その後10年、スポーツ界での記録はありません」

『...わけわからん』

功夫はわかる。中国人だし。軍人だったのも他の国は徴兵制度があるだろうからそこはわかる。
でもなんで間にベースボール挟んで、そっからサッカーなんだ？功夫からサッカーはわかる。少林寺サッカーとかもあるし。
あーでも、アメリカの大学行ってたんなら野球もやるか。いやでもやっぱりそこからサッカーにはならないよ普通。

『監督を辞めた理由はなんだったの？』

「サッカーへの侮辱によりサッカー協会から追放されたとありました」

『侮辱？』

「詳しい内容までは...」

首を振る西蔭に、そっかぁ、と返す、

『やっぱ過去の経験が戦略を考えんのに生きてんのかな？』

「まあ、軍事の経験は関係ありそうですよね」

『私、野球はミリも興味なくて、フットベースボールでの知識しかないんだけど、戦略的に関連してそうなものあるの？』

前にサッカーの試合なのに野球で例え話してたし何かわかるかなと2人に聞けば、さあ？と2人して首を振った。

『...なるほどね』


趙金雲が何者か
わからない事がわかった。