アレスの天秤編
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「ところで、竹見の件ですが。彼はもう限界のようですね。水津さんも、危ないと仰ってました」
「そのようだね。彼の目には感情が現れ過ぎていた。あれは弱い人間の目だ」
星章学園スタジアムの観客席を、野坂と西蔭は歩いていた。
「梅雨さんも危険だと判断してるなら、そろそろ切り捨てるべきかな。代わりはいくらでもいるからね」
そう淡々と言った野坂の言葉に、ギリ、と歯を食いしばる者が居た。
「待てよ」
何食わぬ顔で傍を通り過ぎ去ろうとした野坂と西蔭に、そう声をかけたのは、星章学園の灰崎だった。
「てめぇ、今なんて言いやがった!」
ん?と2人は足を止めて後ろを振り向いた。
「灰崎くんじゃないか」
そう言った野坂を護るように西蔭は1歩前に出た。
「灰崎?」
たまたま灰崎と一緒にいた雷門の稲森が、灰崎のただならぬ雰囲気に首をかしげる中、野坂は庇わなくても大丈夫と言うように西蔭の肩を叩いた。
「彼は僕に話があるようだ」
「野坂さん」
「大丈夫だよ」
そんなやり取りをする、2人を灰崎はギラギラとした目で睨みつけている。
「人間が弱くて悪いのかよ。てめぇは何様のつもりだァ!!」
「それは戦って見れば分かるんじゃないかな」
そう言って野坂はフッと笑った。
「少なくとも君たちよりは上のレベルの人間さ」
「最も、木戸川清修程度に苦戦するお前たちでは野坂さんを本気にさせることはできないだろうがな」
「ほざけ!てめぇらは俺がぶっ潰す!」
「灰崎くん。君はどうしてそこまで僕達に敵意を向けるんだい」
「何も知らないとでも思ってんのかよ!アレスの天秤システム。その薄汚いやり方をなァ!!」
え?と1人話についていけない稲森が、灰崎を見詰めた。
「茜が...。あいつがその犠牲になって...」
ぐっ、と灰崎は歯を食いしばる。
「てめぇらだけは絶対許さねぇ!!」
「そう。でも今のままの君じゃ僕達に勝つことなど不可能だよ」
そう言ってのけて、野坂は西蔭を連れてその場を立ち去ろうとする。
「待って!」
踵を返した2人に声をかけたのは稲森だった。野坂は、はあ、とため息を吐いて振り返った。
「...、雷門の稲森くんだよね。何かな」
「さっき、2人が言ってた水津さんって、雷門から強化委員として行ってる水津梅雨さんなの...?」
「そうだよ」
頷く野坂に睨みを利かしながら灰崎は水津?と首を傾げたあと、ああ、デカチチかと呟いた。
「あの人の事で何かあるのか?」
西蔭が睨みを効かせて稲森を見れば、稲森は、ううん、と首を振った後ひとりでに首を傾げた。
「同じ人なんだ...。けど、水津さんがそんな事いうのかな」
「まるで、彼女の事を知ってるかのように言うんだね」
「知ってるよ。練習中に学校まで応援しに来てくれた事があるんだ」
その言葉に野坂と西蔭は、ああ、そんなこともあったなと思い返した。
「バカか。どう考えても偵察だろ偵察」
呆れたように灰崎がそう言えば、稲森はそんなことないよ!と反論する。
「俺らの諦めないサッカーが良かったって!応援してる頑張ってねって言ってくれたよ!?」
「そんなもん建前に決まってんだろ。あんな冷てえ目の女が、心からそんな風に思ってるわけねーだろ」
「目が冷たいって、灰崎は誰の事言ってるの!?水津さん、すっごい優しい人だよ!?」
「お前こそ上っ面に騙されてんだよ。あの女はコイツらと同じ王帝月ノ宮だ」
三度、灰崎が睨めば、野坂はふっ、と笑った。
「そうだよ。梅雨さんは僕らと共にアレスの天秤システムで強くなった選手だ。今の君なんか比じゃない##RUBY#選手#プレイヤー##だ。さ、無駄話はこのぐらいにしてそろそろ行こうか、西蔭」
歩き出した野坂に、はい、と頷きながら西蔭は灰崎の方を見た。
「水津さんが言うには、お前など眼中に無いそうだ」
ではな、と西蔭は踵を返し野坂について行ってしまった。
「アイツら...!」
灰崎はギリギリと歯を食いしばって、野坂と西蔭の背中に穴が空くかというくらい睨みつけていた。
「...水津さん、本当にそんな人、なのかな...?」
ぼんやりと灰崎の姿を眺めながら稲森はひとり疑問に思うのだった。
一方その頃。少年たちに一悶着あった事は露知らず...
「あ、」
失礼しました、と水津が頭を下げて寮の管理室を出れば、廊下に葉音一矢が居た。
『あ、おはよう。一矢』
そう言えば、うっす、と葉音は会釈した。
「今日、星章の試合では?」
『そうだね』
「いつもなら野坂達と観戦しに行くじゃないですか。今日は行かなかったんですか?」
『うん。今日はやらないといけないことがあるからね』
やらないといけないこと?と葉音は首を傾げたあと、ああ、と頷いた。
「強化委員の仕事ですか」
『そう。一矢はなんで管理室に?』
「フィットネスルームの鍵を借りに」
『ああ、それで。今日、部活も休みなのに頑張るわね。きちんと休息を取ることも大事だから無理しないでね』
じゃあ、私は部屋に戻るね、と声を掛けて去ろうとしたら、葉音にここでちょっと待ってくださいと言われ彼は管理室へと入って行った。
すぐに管理室から鍵を握って出てきた葉音に、行きましょうと言われ並んで寮の廊下を歩く。
『どうしたの?』
「いつも誰かに護衛されてるじゃないですか。だから1人で部屋に帰すのは良くない気がして」
あはは...と思わず苦笑いを漏らす。
『あれはみんなが過保護なだけだよ。流石に寮内の移動は大丈夫だと思うんだけどなぁ』
「そうやって油断した時がヤバいんじゃないですか」
うーむ。この子ももれなく過保護か。
「さ、着きましたよ」
自室のドアの前で足を止める。
『うん、ありがとうね。筋トレ頑張ってね』
「はい。では」
ぺこりと頭を下げて葉音はフィットネスルームへと去っていき、それを見送った後、部屋に戻る。
『さてと、』
とりあえずノートPCを開いて電源を入れる。
どうやって鬼瓦刑事に連絡を取ろうか。
電話は盗聴されてる可能性があるし、メールもハッキングされてたら見られる可能性がある。
御堂院にバレずに警察にこの学校の異常さを伝えないといけない。
データをまとめてSDカードに詰めて郵送...は無理だな。宛先でバレるもんなぁ。そもそもPC自体もハッキングされ監視されてるなら、調べた事のデータ入力すら危ういし。そうだったらSDカードに移行した所で意味は無い。
『どうするかなぁ...』
ノートPCを前に机に伏せるのだった。
懊悩する
彼らが帰ってくるまでに何とか思いつかなければ。