アレスの天秤編
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地区予選の5試合目も勝ち進み、今のところ全勝しており、同ブロックの他校の結果を見れば最終の6試合目の結果がどうあれ本戦出場は確定している。
それでもうちの負けは、エレクトロニクスのアレスの天秤というブランド名に傷を付けることになるので御堂院が許すわけもないだろうし、練習はきちんと##RUBY#アレス天秤#アレスプログラム##に従い本番ではその全力を発揮する。
いつものように授業が終われば、花咲と丘野に護衛されてサッカー寮に帰って着替えて2人と共に寮から続くスタジアムに向かう。
既に来てた野坂から今日のプログラムを貰って規定量のプロテインと水をボトルに入れて振りながら練習メニューを一通り目を通しておく。
1、2年生も全員揃って、野坂を先頭にランニングを始める。
ランニングが終わればプログラムの練習メニュー通り皆散らばってそれぞれの練習を始める。
私は今日は桜庭とフェイント練習。
は無口っぽく見えるが、勉強熱心なのか、純粋にサッカーが好きだからなのか分からないが、サッカーとは少し異質なフリスタの動きも参考になるからと、よく、その動きはどうやるんですか?と質問をくれる。
何となく髪型も似てるし落ち着いた感じやストイックさが豪炎寺っぽくて接しやすい子だ。
桜庭との練習が終わったら今度は奥野と一定以上の距離を取って動きまわりながらのロングパス練習。
私は一矢との必殺技で、奥野は必殺タクティクスの最終パスで、DF位置からゴール前までのロングパスを担当する役目がある。
それこそただのロングパスでいいのならそんなに難しいことでもないが、必殺技やタクティクスの要となる部分で動きながら確実に目的の場所にパスを出さないと行けないというのがなかなか難しい。しかも試合を行うのが王帝月ノ宮中のスタジアムだけでなく他校のグラウンドやスタジアムを使うので、そのグラウンドの風向きや、天井のあるスタジアムのライトの加減など、そういったもので微妙な加減が変わってくる。
そういった場所でもきちんと対応出来るようにするには、基本の感覚を身体で覚えるしかない。普段から同じ力加減で目測の場所にロングパスを行う。試合でズレが生じても、普段から身についていればそこから多少の調整で済む。
大きな弧を描いて飛んでくボールが10数回行って帰ってを繰り返していると、目測を謝った奥野のボールが私の遥か後ろを飛んで行って、奥野があっ、と呟いた。
「竹見!」
ボールを目で追っかける私より先に奥野が珍しく大きな声で竹見の名を呼んだ。
「避けろ!」
私が竹見の姿を捉えれば、竹見と練習していた花咲が大きな声でそう叫んだが、どこかぼーっとした様子の竹見はその声に気づかなかったようで。
「痛!?」
後頭部にボールが直撃して、そう叫びながら崩れるように前に倒れた。
『竹見!?』
慌てて駆け寄って竹見の容態を見る。
他の選手達も突然の事に驚いて練習の手を止めている。
「大丈夫か?」
「すまない」
心配するように花咲が声をかけながら、奥野は謝りながら近くに寄ってきた?
「いたた...大丈夫」
頭を擦りながら、起き上がった竹見を見てホッと息を吐く。
『目の奥チカチカしたりしない?吐き気とか大丈夫』
立ち上がるのに手を貸しながら竹見の顔をじっと覗き込む。
「...だ、大丈夫!」
そう言って竹見は顔を真っ赤にしてバッと後ろに飛び退いた。
「顔赤いけど熱があるんじゃないか?今日なんかずっとぼーっとしてるだろ」
花咲の言葉に、えっ!?と竹見を見て熱あるの?と竹見のデコに触れようとしたら、また後ろに下がられた。
「熱なんかないです!奥野くん触ってみて!」
そう言って竹見はら、奥野の手を取って自分のデコに触れさせた。
「...確かに熱はないようですね」
でもなんでわざわざ自分に?と奥野がが首を傾げた横で、梅雨は、ああ、と頷いた。
『なるほど。わかった』
思春期だもんな。竹見はここのサッカー部の中じゃ1番感情豊かで中学生らしい。女子に触れられるのは恥ずかしいかったのだろう。
『けど、練習にぼーっとしてるなんてどうした?野坂に怒られるよ』
「いや、その...」
口をもごもごとさせた竹見を見つつ、あれ?と首を傾げる。花咲が言うようにそんなにぼーっとしてるのであれば、いつもなら野坂が既に注意してるはずだが、今日は野坂の叱咤はまだない。
キョロキョロと野坂を探せば、同じグラウンド内にいたが、この1連の騒ぎに気づいていないのか、目頭を押さえながら何かの紙を呼んでいるようだった。
...あの野坂がこの1連の騒動に気づかないなんてことあるか?
『竹見』
「...ハイ」
『部活後私の部屋に来なさい』
「ハイ...」
怒られるやつだ、これ、と身を縮こませながら竹見は返事をした。
『花咲、竹見がまたぼーっとしないようしっかり見ててね』
「おう」
『奥野はちょっと待ってて、私野坂の所に行ってくるから』
「はい、分かりました」
頷いた奥野の頭を通り過ぎ様にヨシヨシと撫でて野坂の方へ駆け出す。
その後ろで、竹見は野坂くんに報告しに行った!!とまた震えていた。
『野坂』
名を読んでポンと肩に手を置けば、ゆっくりと首をこちらに向けた野坂は怪訝そうな顔をしていた。
「...梅雨さん?どうされました。まだ練習中ですよ」
じっと野坂の顔を見て今度はこちらが眉間に皺を寄せた。
目の焦点が合ってない気がする。目頭押さえてたし、目の奥の方痛いのか?
私も向こうじゃよく偏頭痛を起こしてたが、頭痛の前兆は目の奥がチカチカとする感覚が訪れていた。
頭、痛いんじゃないだろうか。彼の病気の症状の1つに頭痛がある。
『野坂、薬は』
小さな声でそう聞けば、いや、と小声で返される。
痛み止めを服用して運動するのは心臓血管系に障害が出やすかったはず。極めて危険だ。
かと言ってこの子供は、この部を放って大人しく寝てくれるタイプではないので、困ったものだ。
『野坂、手貸して』
はい?と首を傾げながら野坂が差し出した右手を掴んでその親指と人差し指の骨と骨の間、合谷と呼ばれるツボを押す。このツボを押すことで少し頭痛が緩和されるといいんだけど。
『とりあえず、しっかり水分補給しなさい。多少改善されるはず』
「...わかりました。ありがとうございます」
『無理はしたらダメよ。できるだけ今日は戦術考えるフリでもしてなさい
』
「さすがに、そうはいきませんよ。ぼーっとしてる竹見に示しがつきませんからね」
あら。野坂気づいてなければ、竹見の件は黙っててあげようと思ってたのに、なんだ気づいてたのか。まあつまり、体調悪くて叱責する元気もなかったのか。
『本当に無茶したらダメだからね。竹見のお説教は今日は私が担当するから』
「...大丈夫ですか?甘やかしてはダメですよ」
うーん、皇帝様は手厳しいね。具合が悪いからか本当に怪訝そうな顔をしてるのか分からないが、野坂にじっと見つめられた。
『まあまあ、これでも最年長だからね。任せなさいな』
じゃあね、と声を掛けて奥野の元に走って戻る。
『ごめんね、待たせたね』
「いえ、では練習再開しましょうか」
うん、と頷いて再び練習を再開したのだった。
コンコンと2回ドアを叩く音に、はーい、と返事をしながらドアを開けた。
『いらっしゃい』
ドアを開けた先に居た竹見に、どうぞ入ってとドアを抑えたまま、手で部屋の中を指す。
「お、お邪魔します」
どこか緊張した様子の竹見が、ぺこりと頭を下げてゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れた。
『そんな緊張しなくていいよ』
そう言いながらドアを閉めて、部屋の奥においでと竹見を呼び、この椅子に座ってと椅子を引く。
「いや、緊張しますよ。...女の子の部屋だし」
部屋の中をキョロキョロと見ながら、竹見は用意された椅子に腰を下ろした。
『いやいや、内装は君らの部屋と全く一緒でしょ』
作戦会議する時に野坂の部屋に行った時も、丘野や花咲と勉強会したりする時に彼らの部屋に入った事があるが皆、家具配置まで全く一緒の部屋だったけど。
「そうだけど...それでも女の子の部屋だし!」
『そう?』
まあ、思春期男子としては普通の反応かもなぁ。
「でも野坂くんとか西蔭くんとか、しょっちゅう梅雨さんの部屋出入りしてるよね...嫌だったりしないの?」
『んー、まあ弟が部屋に遊びにくる感じだから別に?』
「そういうものなのかな...」
竹見はどこか納得していない様子で呟いている。
『で、竹見。本題に入りたいと思うんだけど』
そう言えば、竹見はピシッと背筋を伸ばして、ハイと返事をした。
『練習に身が入ってなかったようだけど』
「...はい」
『何か悩み事?』
そう聞けば、竹見はポカンと口を開けた。
『竹見?』
「あ、いや...怒られるんだとばかり」
『んー、それは理由によるかな』
「理由によっては怒るんだ...」
うん、と頷いてベットに腰かけて、竹見をじっと見つめる。
『具合が悪いとかではなかったんでしょう?』
「うん、元気だけど。...その、悩み事というか...。あの、梅雨さんは知ってるっけ?俺、野坂くんと同じ施設育ちなんだけど...」
ああ、子供英才教育センターだっけ?ここ王帝月ノ宮中の生徒の半数はそういった施設育ちの子供と聞くし、特段驚く事ではないが、そう、野坂と同じ所育ちか。それで竹見だけ野坂さん呼びじゃなく野坂くんって呼んでるのか。
「俺、その施設に居た女の子の事が好きだったんだけど、彼女は王帝月ノ宮には入らなくて、別の学校に行っちゃったんだ」
『うん?』
なんか唐突に恋バナ始まったんだけど。
「で、この間試合があったでしょ?その時その彼女がたまたま試合を見に来てたみたいで、帰り際に俺を見つけて声を掛けてくれたんだけど...団体行動中だったからちょっとしか喋れなくて。それでも俺、すっごく嬉しくて!」
だんだん声のボリュームも大きくなっていて、少し頬を染めながらも口元に弧を描いている竹見の様子に本当に嬉しかったんだな、と言うのが伝わってくる。
「彼女また、王帝月ノ宮中の試合見に来てくれるのかな、とか。俺は二軍だから、そもそも俺を応援しに来てくれたわけじゃないんだろうけど。多分、野坂くんのファンなのかな、とかそんなこと考えてて...その、」
ちら、と竹見は様子を伺うように見てきた。つまり、好きな女の子の事考えてて練習に集中出来なかった、と。なるほど
『はい、ギルティ』
「えっ、有罪っ!?いや、まあ練習集中してなかった俺が悪いけど」
『うん。てか、オタクはリア充に厳しいんで』
「えっ、梅雨さんオタクなの!?」
初聞きなんだけど、と言う竹見にそうだっけ?と首を傾げる。
『うん。ゲーオタ。アニメも漫画も好きだよ』
「えっ、ゲームするの!?サッカー一筋だと思ってた」
『あー...うん、まあ...色々あってね』
オタクになったのもフリスタ出来なくなってからだし。
「へぇ〜、ゲームって面白いの?」
『やったことないの?』
「だって俺施設育ちだし、中学からは寮だし」
あー...そうだった。ミスった。
『そっか、んー、ここが寮じゃなければなぁ。家にいっぱいあるから貸したげるよって言えたんだけどなぁ』
持って来れない荷物は全部木枯らし荘のヨネさん所に預けて来てしまったからなぁ。
「そうだよね。普通の中学生は、漫画読んだり、ゲームしたりするんだもんね」
いいな、と竹見の口から零れた。
ここの寮は規制が多いからそういったものに触れる機会もないもんなぁ。ちょっと可哀想ではあるが。
『まあ仕方ないね。無料で学校に通わせて貰ってるんだから、学校の指示には従わないとね。それに、プロでも強くなる為に邪魔な物は断ち切ってストイックに生活してる人もいるし、そういうものだと思おうよ』
「うーん」
納得はしたくないが、わかったと言うように竹見は頷いた。
『よし。いい子だね。今日のお咎めは無しにしてあげるから明日は練習頑張るんだよ』
「...ハイ」
『よろしい』
じゃあ、お話は終わりと立ち上がれば、竹見もつられて席を立つ。
『それこそ、その彼女に頑張ってるとこ見てもらうため、まずはサッカーで一軍目指してみたら?』
「うー、それが難しいんだよ!梅雨さん譲ってよ」
いやでーすと言いながらドアを開け外に出れば、竹見もぺこりと頭を下げて部屋を出る。
「お邪魔しました」
『はい、また明日ね』
「うん。おやすみなさい」
『おやすみ』
もう一度ぺこりと頭を下げてから竹見が廊下の先に消えて行くのを手を振りながら見送る。
『竹見は、危ないな』
ぽつり、と呟く。あれだけ感情豊かな子が、アレスの天秤で制御されたこの状態に疑問を抱き始めている。竹見の中で矛盾と葛藤が起こっている状態で無理にでもアレスの天秤を続ければ、耐えられなくなって、茜ちゃんがなったというように心が壊れてしまうかもしれない。早急に対応しないと...。
「水津さん、こんな時間になにしてるんですか」
竹見が去った方とは反対側からそんな低い声が聞こえてビクリと肩を震わせる。
ゆっくりと振り返れば、ジャージ姿のまま首からタオルを下げた西蔭がいた。
『...西蔭こそ』
「俺はフィットネスルームの帰りです」
『ああ、なるほど』
王帝月ノ宮には、筋トレ器具が色々置いてあるフィットネスルームが設備されている。私も時々使う。
西蔭はGKに必要な腕の筋肉を付けるのにバーベル上げとかしてきたんだろう。
「竹見と何を話してたんですか」
なんだ、聞かなくても見てたんじゃないか。
『ん、お説教しただけだよ。今日の練習身が入ってなかったみたいだから』
「そうですか」
じっと、西蔭の目が私を捉えている。
それだけ言って黙ったままだし、...何か特に話がある訳ではないのかな。
『さてと、キミもさっさとお風呂入って寝なよ』
「はい。失礼します」
はい、おやすみなさいと西蔭に手を振って自室に戻った。
危険信号
ゆっくりと点滅していく。