フットボールフロンティア編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
御影専農戦の翌日。つまり今日は日曜日で学校が休みだし休養も大事ということでサッカー部の活動も休み。
溜め録りしてたアニメもあるし、詰んでるゲームもあるし一日中家でゴロゴロするぞー!と意気込んだ矢先だった。
コンコンと部屋の扉が音を立てた。
「梅雨ちゃーん、お友達が来てるよー!」
部屋の外からのヨネさんの声に、友達?と首を傾げる。そもそも誰かと遊ぶ予定なんてないし、家を知ってる子は夏未ちゃんしか居ないはずだが...。
『はーい』
とりあえず返事をして、ドアを開けて廊下に出る。
「お節介かもしれないけど、外に黒い外車が止まってから結構時間が経つからさ。いつものお嬢さんが待ってるんじゃないかい?」
黒い外車ならやっぱり夏未ちゃんか。でもいつもなら来る前に連絡が来るんだけどなぁ。携帯電話を開いて確認するが、連絡はやっぱり来ていない。
まあ、待たせてても悪いしとりあえず出るか、と階段を降りて玄関に行き靴を穿いて外に出る。
ヨネさんの言う通り黒い外車が木枯らし荘の前に止まっていたのだが、夏未ちゃん所の車とは車種が違うし何より車の前で立っている執事のおじさんがいつもの場寅さんではない。金持ちなら車何種類も持っててもおかしくないし、執事さんも何人いてもおかしくはないけど...。
ロマンスグレーの髪をオールバックにし、モノクルをつけた目は随分と伸びた眉で埋もれている。マジで見たことない。誰だよ。
思わず警戒して足を止めると、こちらに気がついた執事はつかつかと歩いてやってきた。
「水津様でございますね」
『...、はい』
「坊ちゃんがお待ちです。どうぞご乗車下さいませ」
そう言って手のひらで車を指した。
坊ちゃん...って思いつくのは1人なんだけど。
『あー...、鬼道家の』
「左様にございます。ささ、どうぞ」
絶対に車に乗せるという意思なのか、そのポーズのまま動かない執事さんを見て、乗んなきゃダメかとため息をつく。
それから歩き出せば、無論執事さんも着いてきて後部座席のドアを開けてくれた。
「来たか、乗れ」
ドアが開くなりそう言ってきた鬼道の言葉を無視して、開けられたドアの前で立つ。
『なんで家知ってんのとか、アポ取ってから来いよとか言いたいことは山ほどあるんだけど、まず何用?』
「影山総帥がお呼びだ」
『嗚呼、なるほどね。デートのお誘い乗ってくれるって?』
よいしょ、とドアを潜って座席腰を下ろせば、鬼道家の執事さんが扉を閉めた。
「馬鹿を言え。総帥がお前のような者と出かけるはずがないだろう」
『えー、そう?総帥意外とパパ活とかやってそうじゃない??』
「パパ活...?」
訝しげに鬼道は小首を傾げた。あっ、これ知らないやつだ。
『うん、そのまま純粋な少年でいな』
ポンと右手で鬼道の肩を叩けば、すぐさま彼の手に叩かれた。
「気安く触るな」
『あら、ごめんなさい』
なんだよ。こないだ頭撫でた時は嫌がらなかったのになぁ。
「袴田、出してくれ」
「かしこまりました」
運転席に座った執事さんが頷いて車がゆっくりと動き出す。
『どこ連れてく気?』
「決まっているだろう」
こちらを見向きもしないで鬼道はそういった。
「帝国学園だ」
(Side鬼道)
総帥の命令で、サッカー部の練習を一時的に抜けた俺は、水津梅雨を帝国学園へと連れて来て、学園内の理事長室へと向かった。
水津は車でのとち狂った質問以外は連れてこられた理由すら聞かず、だだ、興味深そうに校舎や幾つか併設してあるサッカー部の練習スタジアムを見て、へぇ、とか、ここが、など感心の声を上げながら俺の後ろを付いてきた。
理事長に入れば、椅子に腰掛け足を組んだサングラスの男...影山総帥が俺たちを見下ろした。
「ようこそ、帝国学園へ」
『お招きいただき感謝します』
胸に手を置いて仰々しくお辞儀をする。
『初めまして、水津梅雨です。まあ名乗らなくとも私のことは調べあげてますよね』
「ああ、そうだ。しかし貴様の事はいくら調べても、雷門に編入するまでの情報が一切で出てこない。いったい何者だ」
総帥の仰る通り、調べても調べてもコイツの情報は出てこなかった。
『何者って言われても...。そうですね、疫病神と呼ばれサッカー界を追われて失踪した父親のせいで母親が病死し、親戚中を追いやられて現在一人暮らしをしている可哀想な子供とでも言えばいいですか?』
スパイとして送った土門が聞いたという身の上話と同じ話。この件を調べようとした俺を総帥はなぜたか自分が調べるからいいと、止めた。
総帥はじっと水津のことを見たまま口を開かない。
『それとも所属していたサッカーチームが乗ったバスが事故にあって試合に出られなくなった可哀想な子供の方がお気に召します?』
真顔で淡々と言い放った水津を見て、総帥の眉がピクリと動いた。
「誰の入れ知恵だ」
『貴方の想像するような方々じゃないですよ。私が知ってるのは、まあ1種のチートのようなものなので』
水津の意図するものが何なのかまったくといって分からないが、総帥は何の話か分かっている様子だった。
「ほう。そのチートとは」
『単純に私がこの世界の人間じゃないって事ですね』
は...?
何を言っているんだ?
「ふざけているのか?」
思わず声に出して言えば、水津は、まあ、そうだよねと呟いた。
「なるほど。別の世界から来たということか」
「総帥!?こんなふざけた話を信じるんですか!!」
「鬼道。事実は小説よりも奇なりだ」
そう言って、続きを話せと水津に催促した総帥を見て、本当に信じるのか、と思わず疑ってしまう。
「どうしてこの世界に来のかね」
『さあ...?気がついたらこっち来てたんですよね』
「つまり、どうやって来たかも分からないと」
『そういうことですね』
いやどう考えても適当に考えた嘘に決まっている。何故、総帥はそんな戯言に耳を傾けているのか。
『社会人だったのに気がついたら若返ってて雷門中に入学してるんです。驚愕ですよね』
若返...??嘘をつくにしても設定がめちゃくちゃすぎるだろう。
「何を何処まで知っている?」
『そうですね...貴方がとても優秀な指導者で、』
水津はふと俺の方を見た。
『貴方の教え子たちは皆、聡明でいてとても優秀なプレイヤーばかり、ということでしょうか』
そう言って、水津はクス、と笑った。
嫌味か、とも思ったが水津の俺を見る目が、どうにもそういった感じとは違った。
「なるほど。のらりくらりと躱すのが上手い」
『世渡りの秘訣ですよ』
「そうか」
そう言って総帥が、フ、と笑った。
「帝国学園に入れ。お前のその能力、私が使ってやろう」
『え、嫌ですけど』
しれっとそう言った水津を、は?と見つめる。断るにしてももうちょっとあるだろう。そもそも総帥から滲み出る重圧を何とも思ってないのかこの女。
「なぜだ?」
『私はただのフリースタイラーで、サッカー選手じゃないです。貴方の望む選手になるのは私じゃないですよ』
そう言って水津はもう一度俺を見た。
総帥の望む選手。当然だ。俺は幼き日々から総帥に師事している。
だが、なぜこの女は、その事を知っているかのような目で俺を見てくるのか。
『まあ影山さんの目なら、プレイを見てもらったら分かると思いますよ』
その一言により、俺たちは日曜日でも練習を行っている帝国学園サッカー部、一軍選手たちの練習スタジアムに移動した。
総帥がわざわざ出向いた事に帝国イレブン達は驚き、更に総帥の後ろから現れた水津を見て幾人かが、あ!と声を上げた。
「雷門の暴力女!」
そう言って佐久間が指させば、何しに来たんだ!と便乗するように他の者達も声を荒らげる。
「ああ、鬼道さんをビンタした奴か」
イマイチ誰だかピンと来ていなかった様子の成神がそう言えば、全員がシーンとなった。忌々しいことを思い返させないで欲しい。
『あ、そうだわ』
ポンと両手を合わせて忘れてたと言ってから、俺の顔に手を伸ばして添えた。
「は...?」
『あの後腫れたりしなかった?』
思わず後ろに身を引いて離れる。
「気安く触るな!」
『ああ、そうだったごめんごめん。あの時は、つい大人気もなく叩いちゃったんだけど、あれは君らが悪いからしょうがないよね』
「なんだお前クソ野郎じゃねーか!」
辺見がそう言えば、水津はクスクスと笑った。
『ブーメラン乙』
「なんだこの女!!」
「総帥!なんでこんなやつ連れてきたんですか!!」
意外と気性が荒い万丈や佐久間が噛み付く。
「お前たち私の客人に文句があるのか?」
「「いっ、いえ」」
総帥の一言で、やいのやいの言っていた一同が言葉を辞めた。
「水津。お前の1番得意とするものを見せてみろ」
それだけ言って総帥は水津にサッカーボールを投げてからスタジアム内のベンチに腰掛けた。
『得意とするものねぇ。今日スカートじゃなくて良かったわ』
投げられたボールをトラップしながら、そう言って水津はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
ドゥンと、爆音で携帯電話から音楽が流れてだして、水津はフィールドの外にそれを置いて、音楽のリズムに合わせながらゆっくりと歩いてフィールドの真ん中に移動した。
そして、イントロの終わりと共にリズムに合わせてボールをリフティングし始める。自らフリースタイラーと名乗るだけあって見事なフリースタイルフットボールを魅せつけてくる。
優雅にそれでいて楽しそうに舞う水津に帝国イレブン一同、声も出せずに見ていれば、お前たちと影山総帥から声がかけられた。
「曲が終わるまでに水津からボールを奪って見せろ」
その言葉でまず切り込んで行ったのは寺門。
水津はゲッといった表情をして、ボールを内ももに挟んで飛び上がって寺門のスライディングを避ける。
大野がそのガタイを使ってタックルしに行けば、バタフライツイストと呼ばれるアクロバット技で回転しながらボールを蹴り、尚且つ自身の身体も大野を避けるように飛ばし、すかさず浮いたボールを奪おうと飛び上がった咲山の目の前でボールを宙に蹴りあげて、バック宙で後ろに飛ぶ、その足が頂点にたどり着くところで、ボールをキャッチしその勢いのまま後ろに下がり距離を取る。
雷門戦で見せた動きと変わらず、身体にボールがくっ付いてるかのようであり、帝国イレブンは各々ボールを奪いに突っ込んでいくが、水津に翻弄されている。
背の高い五条よりも高く飛び、小回りの効く洞面よりもちょろちょろと動く。
「やはり、行動は自身の足が届く範囲。そして、アクロバットを行う時は右足が軸になる事が多い」
前回の試合から相変わらずそれは変わらない。
俺が出るか、と一歩踏み出せば、横から腕が伸びてきた。
「俺が行く」
そう言って佐久間が駆け出した。
最初は他の者と同じようにひらりひらりと躱されるが、何度か食らいついて行くと佐久間の足が、水津が持っていたボールを蹴りあげ弾き飛ばした。
「よしゃあ!」
思わずガッツポーズをした佐久間を見てから、水津はそのままフィールドに倒れ込んだ。
『疲れた...』
そのまま倒れたままの水津の元へ、ベンチから立ち上がった総帥がやって来て水津を見下ろした。
「その左足はどうした」
総帥がそう聞けば、水津は寝っ転がったまま、さっすが〜と笑った。
『子供の頃にした怪我の後遺症で動かくなったのの癖ですよ。この身体でも染み付いた癖が抜けなくて』
総帥が見れば分かると言っていたのは過去の怪我のことだったのか。しかし、後遺症が残るほどの怪我であれだけ飛んだり跳ねたりを繰り返していたのか?
「なるほど。確かに今のままではサッカープレイヤーには向いてないな」
『でしょう?』
そう言いながら水津はやっとの事起き上がった。
『だから私じゃないんですよ。影山さん貴方の望みを叶えるのは』
立ち上がった水津はぽんぽんと尻を叩く。
『そしてそれは遥か遠くない未来です』
そう言って水津は総帥に向かって優しく笑っていた。
突飛的な女と
何故だか総帥は水津を気に入ったのか、帰るまで動きの講座を行っていた。