アレスの天秤編
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試合再開早々に、帝国の動きがまた変わった。
先程よりも明らかに走るスピードがアップしたように見える。
ドリブルで駆け上がった寺門は、ジャッジスルーを発動する。
えっ、私の知ってるゲームのジャッジスルーより更にえげつない気がするんだけど、本当になんで審判はこれイエローカード切らないの!?まあ、超次元だからと言われたらそれまでなのだけれど。
寺門からのパスを受けて、素早いドリブルで佐久間がフィールドを駆け上がり、雷門ディフェンスを交わして行く。その後ろから稲森が全力疾走で戻って来て、スライディングでボールを弾いた。そのボールをのりかちゃんがキャッチする。
のりかちゃんから奥入にパスされたボールを不動が奪いに向かって、不自然に転けて奥入はその横を駆け抜けていく。
『ん?』
一瞬、不動は自ら動きを止めたように見えた。急ブレーキをかけたが走っていた為止まれなくて転けた、そんな感じだろうか?
不思議な事に、佐久間もボールを奪いに向かって、もう少しでボールに足が届く、その直前で足を止めてしまっている。
2人の動きがおかしくなったせいか、他の帝国選手達も連携が取れなくなっていて、簡単に雷門に抜かれてしまう。
『スパイクがおかしいのかな...』
けれど先程までは動きが早くなって好調のように見えていたけれど。
剛陣の持ったボールを風丸がスライディングで弾き飛ばして、ボールがラインを超えて、スローインの為試合が1次中断する。
風丸はわざと外に出すように蹴ったようなので意図的な中断のようだが、不動がフィールドの外に出てスパイクを脱ぎ出した。
それを咎めるように風丸が寄って何やら話をしていて...というか、口論になってるようだ。
その間に佐久間が割って入っている。そのおかげが話で解決したのか、不動がベンチに向かっていき、それから帝国イレブンは全員スパイクを履き替え始めた。モニターに映る様子からみて今までの帝国スパイクのようだ。
不動と風丸の口論は、恐らくなにかしらの仕掛けがあったであろうさっきまでのスパイクを使うのが、嫌だったって事だろうか?後ろめたさがあったとするなら、不動と佐久間の途中からの動きのぎこちなさにも納得が行く。
そして、グラウンドを眺めて居れば、ついにベンチから源田が立ち上がった。
モニターにも湿川から源田への選手交代が映し出され、フィールドに入った源田は湿川の腕から無理やりキャプテンマークを取り戻して、佐久間の所に向かってそれを彼に渡した。
その端で、湿川が3人の男達に連行されるのが見える。
殺すぞボケェ!この鉄骨野郎!!という湿川の叫びが観客席まで聞こえて、思わずブッと吹き出してしまう。
『ふふっ、鉄骨、野郎。確かにそうだけど...』
ひとしきり笑っていると、野坂と西蔭が何が面白いんだ?って目で見てくる。悲しくなるからそんな目で見るのは辞めて。
『でもなんのためにあの子入ってたんだろ』
強制退場させてたし、育成したい1年生ではなかったようだし。
「チームの結束力を上げるために、わざと使えないキーパーを配置した、というところじゃないかな」
『ああ、なるほど。必要悪の原理か』
1人悪い人作れば、それを倒すために皆が結束するってやつ。確かに帝国イレブンは、1人の無能のためにゴールを守ろうとみんなが結束してたね。
さて、帝国の皆がスパイクを履き替え、GKに源田とキャプテンに佐久間が戻って、雷門側、岩戸のスローインで試合が再開される。
剛陣、稲森、小僧丸と速攻パスが回されて、ボールを受け取った小僧がファイアトルネードを打つ。
ゴール前の源田は、心臓を押さえるようなポーズを取った後、両手を上下に大きく開いた。
『えっ、』
それは禁断の技では!?思わず席から立ち上がる。
「ハイビーストファング」
がっしり、ボールをキャッチした源田が佐久間に思いっきりボールを投げた。
『ハイビーストファング...!?ビーストファングとは違う、のか...?』
ゴール前にしっかりと立っている源田の様子はどこも辛そうではない。皇帝ペンギン1号の改良が皇帝ペンギン2号のように、リスクのない改良された技がハイビーストファングなのだろうか...。
「どうされました?」
不思議そうに野坂が見てきたので、いや、と首を振る。
今の彼らは鬼道への劣等感を抱いて影山に従っているわけでもないし、きっと使っても大丈夫な技なんだろう。
ゆっくりと腰を下ろして、グラウンドを見つめる。
佐久間と不動が上がり二人がツインブーストを打つ。それをのりかちゃんがウズマキ・ザ・バンドで対抗するが、2人分のパワーの込められたシュートにジリジリと押し込まれそうになるそこに割り込んた万作が膝でボールを高く打ち上げたおかげで何とかのりかちゃんは頭上でボールをキャッチしてみせた。
そこから雷門は仕切り直しといったように選手達がそれぞれのポジションに戻っていく中、のりかちゃんからのパスでDFからMF繋いだボールは、寺門にあっさりと奪われてしまう。
そこで、あれ?と首を傾げる。たしかにさっきまでのサッカー盤戦法なら自分の範囲しか見ないのでボールが取られ易いのも仕方がないのかもしれないが、嫌にあっさりと雷門イレブンは選手のマークから離れていた。
『というか、これ...サッカー盤戦法じゃない...?』
さっきまでとポジショニングが違う。
よく見ればFWの二人がDF位置にいる。
「ええ、恐らく別のタクティクスでしょう」
わざと空けられた真ん中の道を佐久間、不動、寺門が駆け上がり、ゴール前で彼らは皇帝ペンギン2号を放つ。
その前に、日和、奥入、服部が立つ。
3人による必殺技、グラビディケージ。真ん中に亜空間よような物が渦巻いている四角いケージにボールが閉じ込められ、シュートの威力を吸収され、皇帝ペンギン2号は止められた。
彼らがボールを止めた瞬間何故だか、DF位置についていたFWの二人、稲森と小僧丸は帝国ゴールではなく自ゴールの方へと駆け出した。
明日人を真ん中に、右に小僧丸、左にのりかちゃんがゴールに並んで、その3人の方へと日和がパスを出せば、彼らはうおおおおぉと雄叫びをあげた。
ふぶきと共に彼らの後ろに現れたのは真っ白い熊で、その熊の吐く白い息で凍らされたボールを中心に、まるでイナズマブレイクかのように、3人は同時にボールを蹴り飛ばした。
北極グマ2号。そう呼ばれたロングシュートは帝国学園のゴールへと飛んでいく。
当然、源田はハイビーストファングで止めにかかるが、超ロングシュートにも関わらず、3人の力を込めた事により威力が殺されることなく、止めようとした源田もろとも北極グマ2号は帝国ゴールへと突き刺さった。
そしてここでホイッスルが鳴り響く。
4対3、最後の最後で雷門が決めた。
『雷門の勝利かー』
うん、まあ、これが今までのイナズマイレブンのお話なら雷門が勝つのはそうなんだけど。
如何せん帝国学園の方の子供たちの方が付き合い長いので、負けてしまったのは、なんというか物悲しい気持ちもあるなぁ。
「そう言えば、帝国に敗れたチームは調子を崩すって話だけれど」
「チームの持ち味を殺す戦法でスランプを産んでいるでしたね」
西蔭の返答に、野坂がああ、と頷く。
「でもその話には続きがあるんだ」
2人して、えっ?と野坂に聞き返す。
「帝国と戦ったチームはスランプの後、大幅に勝率をあげるのは知ってるかな」
「どういうことですか?」
「強くなるんだよ。帝国と戦ったチームは」
『あー、持ち味が殺された後の対策を考えるようになるからか...。ひとつの得意な事が潰されたら、何も出来なくなるってチームから脱却。出来ることが増えればそりゃあ勝率もあがるよね』
そういうことです、と野坂は頷いている。
雷門は毎回、突飛な作戦をあの監督が立てるせいか、逆に影山の持ち味を潰す作戦はあまり意味をなさなかったようだが。
というか、影山は本当に##RUBY#アレスの天秤#アレスプログラム##を受けて更生したのだろうか。改造スパイクはありかって言われたらそりゃあ無しだけど、それでも今までしてきた事とくらべれば生ぬるい。裏でもっとおそろしいことをしていないといいけど...。
今帰る席をを去る観客達との混雑に巻き込まれるから、と少し待つことにしようと、ぼんやりと片付けられていくグラウンドを見つめた。
「おーい!」
「水津さーん!」
観客席の下からそんな声が聞こえて、柵の方に向かってみれば、源田を筆頭に帝国学園の面々がこっちに向かって大きく手を振っていた。
『よく分かったね』
そう言って手を振り返す。
「おう、佐久間が気がついてな!」
そんな万丈の言葉に、目、良すぎん?と佐久間を見る。
「さすがに観客席買い占めてガラガラにしてたら目立つぞ」
ああ、なるほど。そりゃあ、チケット売れた筈なのになんであそこだけ空いてるんだってなるわな。
『ところで、源田は大丈夫?痛いところない?』
「ん?怪我も何もしてないぞ?相変わらず心配性だな水津は」
『そう。それならよかった』
一応ビーストファングと名が付いてるから副作用があったりしないか心配してたんだけど、キョトンとしたようすの源田の反応を見るに本当に大丈夫そうだ。
『そう言えば、開始前に鬼道に会ったよ』
「えっ、鬼道さん来てるのか!」
「何処だ!」
『今何処にいるかは知らないけど、入り口で別れたからこの辺ではないよ』
「そうか」
じゃあな、そう行って帝国選手達は鬼道を探しにバラバラと散っていく。
『鬼道は愛されてんね』
「そうだな」
そう返したのは1人残った風丸だった。
『風丸は会いに行かないの?』
「...鬼道に合わせる顔がない」
まあ、今回負けてしまったしね。風丸は真面目だし、帝国を更に強くするために強化委員として派遣されたのに、何も成せてないとか思ってるんじゃないかなぁ...。
『そっか。...あの時、言わなきゃよかったね』
「...?」
『サッカーも楽しいよ、なんて』
現状私がサッカーを楽しめていない。いや、こうやって試合を見るのは今でも楽しいし好きだ。けど自分がやってるサッカーはちっとも面白くないのである。
無責任に楽しいなんて押し付けるものではなかった。
「いや、水津。俺はちゃんと今サッカー楽しいよ。影山が監督に戻ってきて色々とまあ、帝国の皆は複雑だろうけど、俺は前よりも上手くなってるのが分かるし、負けて悔しいのも全力でやってるからだしな」
『そっか、ならよかった』
影山の傍で風丸メンタル大丈夫かなとか思ってたけど、思っていたより前向きで大丈夫そうだ。それに影山は悪事を働く点を除けば教えるの上手い指導者だしなぁ。
「試合内容は観れてないけど、確か水津の所も勝ち上がって来てたよな。マネージャー業も大変だろうけど頑張れよ」
『え、ああ、うん』
地区大会の当たるとこのビデオ先に見るもんね。そうか知らないのか。
「いやいやいや、何言ってんだ風丸」
そう言って何処から現れたのか、風丸の横に不動が立った。
「こいつ確か王帝月ノ宮のDFだろ」
不動がそう言えば、えっ、と風丸が私を見上げた。
「元雷門のお仲間だろ?なんでわざわざ隠したんだァ、なあ、水津チャン」
厭らしい聞き方してくるなぁ、不動は。
『別に、風丸だけじゃなくて他の子達にも言ってないよ。試合当たった時に驚かせようと思って、黙ってただけ。その方が面白いでしょう』
「ふぅん」
「面白いって...まあ水津はそういうとこあるよな」
私の返答に不動はつまらなそうに、風丸は呆れたように言った。
「本当は、後ろめたさ、からじゃねぇの」
『...、』
どこか見据えたような不動の目と視線がかち合う。図星だ。確かに最初は面白いからという理由で隠していたが、今はそれだけじゃない。勝つためだけに、私があんなサッカーをしてるのを雷門の子達に見られたくない。
「水津チャン、沈黙は肯定d「水津さん」
不動の言葉に被せるように、西蔭の大きな声が後ろから掛けられた。
「帰りますよ」
その声に振り返って野坂と西蔭に、うん、と頷く。
『そういうわけだから行くね。またね、風丸』
観客席の下に声をかけて、急いで2人の元に駆け寄る。
「ああ、頑張れよ!」
「いや、オレは無視かよ!」
なんて、風丸と不動の声が下から響いた。
まさか君に言われるとは
綺麗な不動って気持ち悪いね。そう言えば、野坂も西蔭も綺麗...か?と首を傾げるのだった。