アレスの天秤編
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「で?」
『無事完治致しました。お騒がせしました』
ぺこり、と野坂と西蔭の前で深々と頭を下げる。
「本当に...。あんな馬鹿な事してるからですよ」
水被ったのを知ってる西蔭が白い目でそう言ってくる。
『言い返す言葉もございません』
「アンタはもう少し王帝月ノ宮のレギュラーだって事を自覚してください」
「まあまあ、次の試合までに完治したんだからいいんじゃない?」
「野坂さん、...。まあ野坂さんがそう言うなら」
渋々といった様子の西蔭に、心配かけてごめんね?と謝れば別に、と顔を背けられた。
『で、2人は何しに来たの。まだ風邪菌いる可能性あるからミーティングなら別の部屋で』
一応、エレクトロニクスから支給された消毒液散布したけど...不安だしな。
「いえ、今日はミーティング外でしましょう」
『...はい?』
なんで外と首を傾げて野坂を見る。
「一応病み上がりなんで、部活はもう一日様子見した方がいいでしょう。けれど、ずっと部屋にいても身体が鈍ってしまっているでしょうから散歩がてらですよ」
『なるほど』
3日寝込んでたののリハビリってことね。いやまあ、昨日はもう熱もほとんどなくてわりと元気だったんだけどなぁ。
そんなこんなで、野坂、私、西蔭の順でRPGのパーティのように連なって街を歩いていく。
なんだこれ、通行の邪魔にはなんないだろうけど本当完全にRPG。いやそもそもイナズマイレブンはRPGだったわ。じゃあこの歩き方が正解だ。
「風邪の合間、完全隔離されてたんで情報提供にいけなかったんですが、雷門対御影専農の試合は観られましたか?」
ちなみに完全隔離されてたのは学校側の指示とかではなくて、私個人が、皆に移してはダメだと思い、部屋のドアにKEEP_OUTと書き他の者を立ち入らせなかっただけである。
『観たよ。雷門が勝ってたね。まあ杉森がいなかったしなぁ』
去年3年だった杉森は卒業しているので居ないのだけれど、最初見た時キャプテンが下鶴になってるしキーパーは違うしで脳の処理追いつかなかったよね。そりゃあ自分含め円堂達も3年に上がってんだもんなぁ、杉森は高校生かぁ。
「杉森...?ああ卒業生ですね」
『そうそう。去年うちと...あ、えーと雷門と戦うまでは、無失点だったキーパーなんだよ』
「へぇ。西蔭と同じだ」
西蔭も現状無失点である。
うん、王帝月ノ宮もアレスの天秤っていう洗脳みたいな事されてんだからほぼ御影専農だよね。
まあ、今回の伊那国雷門との試合を見たが、彼らは洗脳されたサッカーサイボーグは辞めて意志のあるデータサッカーを極めたチームと化して居たので今は全くうち(王帝月ノ宮)のチームとは似ても似つかないが。
『雷門は次、帝国学園だっけ』
「そうですね」
まあ雷門と帝国が当たるのは恒例のって感じだけど。
帝国学園に関して何より驚いたのが去年の冬にまた監督が変わった事だよね。それもあの影山零治に。何でも彼はアレスの天秤の犯罪者更生プログラムに参加して予定よりも早くの出所となったらしい。...大丈夫かな風丸。私の記憶にあるイナズマイレブン2だと闇堕ちしてたし、鬼道がいなくて影山のいる、しかも調べた結果、フットボールフロンティアが始まる前に不動明王が転入してる。そして最近は練習試合を非公開としてる。そんな帝国学園とか闇に落ちてる気しかしない。
「帝国学園のデータ手に入れておきました」
「そうか。うん、ちょっと寄っていこうか。
そう言って野坂が指さしたのはパステルカラーの可愛い建物のアイスクリーム屋さんだった。
「西蔭、席取っておいてもらえる?」
野坂がテラス席を指差せば西蔭は、はいと頷いた。
「アイスは何がいい?」
「何でも、野坂さんにお任せします」
「そう?それじゃあ梅雨さん、行こうか」
『うん』
からんからん、と鈴の音のなるドアをくぐる。
お店の中の装飾も可愛らしくあり、やはり客層は女性が多いよう。少しだけ出来ている列の1番後ろに並んでショーケースの覗きみれば色とりどりのアイスクリームのバケツが並んでいる。
「何にしようか」
『そうだねぇ』
じっとショーケースを眺めていたのだけれど、不意にショーケースの手前に立てられたボードを見た。
『炎の激辛ハバネロペッパー味...?』
辛いアイス...????
「へぇ、面白のがあるんだね。それにするんですか?」
『いや、私辛いものはあんまり...』
好きじゃないんだよね、と言いかけた矢先、前のお客さんがお金を払い終わって列が動いた。
「お待たせしました。お決まりですか?」
「じゃあ僕は、バニラをコーンで。それから西蔭の分はそうだな...ミントと炎の激辛ハバネロペッパー味とストロベリーとバニラをコーンで」
...はい?
『えっ、西蔭辛いの大丈夫なの?』
というか、量も多くない?
「うん。ほら梅雨さんも早く言って、後ろが待ってるから」
『えっ、えーと、じゃあチョコとバニラで...カップにしてください。あとすみません、スプーン2本付けてもらってもいいですか?』
「はい大丈夫ですよ。ではお支払いが......」
野坂が財布を出して支払いをする。さらりと私の分も一緒に払われたので、お金...と言えば、大丈夫ですって言ってきた矢先、お店の方に月光エレクトロニクス社で領収をって言ってて笑ってしまった。ちゃっかりしてんな。てか経費で落ちんの??
私は自分の分を、野坂は2人分のアイスを受け取って、テラス席で待つ西蔭の元に戻る。
「お待たせ」
『席取りありがとうね』
ぼんやりと虚空を見つめていた西蔭が、顔をこちらに向けて驚いたような表情になった。
「野坂さん、よくそんな沢山」
西蔭の目に止まったのは、野坂が両手に持っているアイスのうちの4段重ねの方。
それを、はい、と西蔭の眼前に野坂は差し出した。
えっ、と西蔭は野坂を見つめ返す。
そりゃあそうだ。何でもいいとは言ったが、まさか4段アイスが来るとは思ってなかっただろう。
これ、ほんとに?と言わんばかりに野坂から視線を私の方に移してきた西蔭に向かってコクコクと頷けば、目の前に差し出されたアイスにそっと手を伸ばした。
「ありがとう、ございます」
西蔭が戸惑った様子で受け取り、私たちも席に着く。
野坂はアイスを食べながらスマホをいじり出した。まあゲームだとかSNSはほぼ規制されてるから、見ているのは西蔭が手に入れたという帝国学園のデータだろうけど。
その様子を眺めていてもしょうがないので、チョコアイスをスプーンで掬って食べる。
んー、美味しいな。寮にいると甘味ほとんど食べられないもんなぁ。まあ太んなくていいんだけど、たまには甘いもの食べたいじゃない?
「今帝国学園で注目すべきなのは、この男だね。転入したばかりの不動明王」
『不動明王ねぇ』
「何者なんでしょう」
西蔭の問に野坂がスマホを持った手の人差し指を伸ばして指した。
「まさにソレ、みたいな存在かもね」
野坂が指したのは4段アイスの3段目、真っ赤な色したそれだ。
「炎の激辛ハバネロペッパー味」
「えっ、ハバネロ!?」
嘘だろというような西蔭の表情に、あ、これはそんな辛いの好きじゃないと察する。
私が西蔭辛いの大丈夫かって聞いたら野坂、うんって言ったよな。お前...。
「1つ辛いのが混じってることで、全体を美味しく感じられることもあるよね」
「まさか、その説明の為にこれを...?」
いや、多分面白いなとか思って興味本位で買っただけだと思うんだけどなぁ。
何も言わず、アイスを舐めだした野坂を見て西蔭はため息をついた。
『西蔭、早く食べないと溶けちゃうよ』
「あ、はい」
ガブリと頭から噛み付く西蔭を見て、食べ方にも個性が出ることと、2人を眺める。
まあ、不動がハバネロペッパー味ってのは言い得て妙かも。
私の知っている不動明王のままならだが。調べた時に見たライセンスの2つ名なんだたっけ?孤高の...ベンチウォーマー?いや違ぇなそれファンからの名称だわ。
なんだっけか、とスマホで調べてみる。あー孤高の反逆児だわ。まあライセンスカードの写真的に髪型がFFIの時っぽいから新帝国の時ほど荒んだ感じではなさそうだけど。
のんびりとチョコアイスを食べ進めてチラリと西蔭を見ると溶けないうちにと急いでかぶりついていたからから、もう上から2つめのストロベリー味の終わりに差し掛かっていた。これ、接続部混ざりあってて最悪じゃないかな??
西蔭は深々と息を吐いて、それから意を決したようにアイスにかぶりついた。その様子を先程まで何食わぬ顔でスマホをいじってた野坂がじっと見つめている。
「ん...、」
『...大丈夫?』
「意外と平気で......ン″ッ!!?」
口に含んだ最初はそうでもない?と首を傾げながらアイスを飲み込んだ西蔭は、急にゴホゴホと咳き込み出した。
『大丈夫!?』
椅子から立ち上がって近づいてトントンと背中を摩ってやる。
「あれ?美味しくなかった?」
「い、いえ...そんな事は...っ」
引きつった笑で野坂に西蔭はそう返すが、いやどう見てもそれ辛かったんでしょ。
小さい声でいってぇって呟いたのも聞こえたし、辛いくて口の中痛いんだよね。なんでそんな痩せ我慢すんの!?
『無理しない方がいいよ?辛いのお腹壊すし...』
「い、いえ、このくらいなら、ぜんぜん、いけます」
そう言って西蔭はもう一口齧り付く。いやもうやめときなって。
野坂ももう興味なくなったのか、コーンまで食べ終わったアイスの紙をぐしゃぐしゃと丸め出したし。
「ゴミ捨ててくるね」
ついにはそう言って席を立つ。野坂さんがせっかく買ってきてくれたからと、我慢して食べてるのに鬼かお前は。
『西蔭。野坂も行っちゃったし無理しなくていいんじゃない?』
「いや、」
そう言って、大きくガブリと噛み付く。我慢するねぇ。
けど、めっちゃ汗吹き出てるけど大丈夫か...これ。
『西蔭、』
「なん、っ、あークソッ痛てぇ...」
恐らく喋ると痛いからか、口を抑える西蔭の片手に持ったアイスを奪い取る。
「...何して、」
スプーンでほんのちょこっとハバネロペッパー味を掬って食べてみる。
『...うっ、』
下の上に乗せただけでヒリヒリするし、飲み込んだら飲み込んだで喉の奥が異物と感じて戻ってくる感覚に陥り噎せる。
慌てて残ってたチョコアイスを流し込むように食べる。
「ッ...なんで食べたんですか!辛いに決まってるじゃないですか!」
『けほけほ、いや、これ見つけたの私だったし、野坂止められなかったから...もしいけるならちょっと手伝おうと思ったけどコレはダメだわ』
人の食べるもんじゃないよコレ。
「俺が処理しますから返してください」
『いや、西蔭待って。1番下のミントと、私のバニラ交換しとこう』
「...何でですか」
『じゃないと死ぬよ』
わけが分からないと西蔭は首を傾げているが、このままでは絶対に死ぬ。
『この辛いののまま、スースーするミント食べてごらんよ。口の中に痛辛いのが広がるどころか匂いとして鼻の方にもダメージが行く』
「...なるほど」
確かにそれは有り得ると西蔭は頷いた。
『更にバニラ...というか、乳製品は辛味を緩和するし、油膜で胃守っといた方がいい。辛いものはお腹下すよ』
「...水津さん。...分かりました」
うんうん、いざという時の為にバニラを選んで置いて更にスプーン2本貰っといたんだよ。
『ただ、接続部だけはミント混じっちゃうから、頑張ってね』
「.........はい」
可哀想だけど、そもそも君が食べる気を無くせば良いだけのはなしだからね。この子の事だから残したりはしないって分かってるからしょうがないけど。
使ってないスプーンでミントの上部分から残りのハバネロペッパー味を丸ごと掬い取って、カップの中のバニラアイスの上に載せる。
『よし、施術完了』
そう言ってコーンとカップをトレードしたら、ちょうど野坂が帰ってきた。
「あれ?交換したの?」
『うん。私がチョコ食べたらミントの方食べたくなったから』
「へぇ、そう」
あまり興味無さそうに頷いた野坂は、また席に着いてスマホをいじり出した。
それを見て、待たせてはいけないと慌てて残りのハバネロペッパー味を口に含んだ西蔭は、また噎せるのであった。
皇帝のブランチ〜炎のハバネロペッパー味〜
で、全体を美味しく感じられたでしょ?と有無を言わさない同意を完食した西蔭に求めた野坂を見てやっぱ鬼だなと確信した。