アレスの天秤編
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星章学園スタジアムに設置されたモニターに星章学園のスポンサーキラスター製薬のCMと木戸川清修のスポンサーZゼミのCMが流れた後、スターティングメンバーが発表される。
木戸川清修は去年とは違い武方三兄弟に強化委員の豪炎寺修也を加え、まさかの4FWという稀な布陣である。といっても豪炎寺は元々木戸川清修から去年雷門に転校してきたわけで、一昨年前のフットボールフロンティアではこの異例な4FWという布陣で帝国学園の決勝にまでこぎつけている強豪校だ。
そしてDFには西垣守。彼は秋ちゃんや一之瀬や土門、アメリカ組の幼なじみで実力は言わずもがなである。
対する星章学園は...、雷門との試合には出てこなかったが流石に相手が木戸川清修となるとMFに鬼道が入ってくるね。あとは...DFに天野...あれこのもじゃもじゃ髪の子はGKじゃなかったっけ?じゃあGKは...、!???
『これ、表示ミス...?』
GKの所に灰崎の名があった。
FWの所に名がないのは、いつもの気まぐれで試合に出ていないのだと思っていたが、まさかGKにいるとは。
《フィールドの悪魔灰崎と炎のエースストライカー豪炎寺のストライカー対決が見られると思っていましたが、なんということでしょう!灰崎がキーパーのポジションについています!》
実況の角馬さんがいうように、表示ミスなのではなくて、フィールド上に現れた灰崎は星章GKの水色の長袖ユニフォームを着てゴールの前に立った。
「星章の監督は大胆な事をしますね」
『くどかん、か』
星章学園の監督はあの久遠監督である。イナイレファンの中では無能と名高いが正直言葉足らずなだけだと思う。恐らく今回も説明無しで灰崎はGKにさせられたんだろうなぁ。モニターで顔がアップにされた彼は凄く不服そうな表情をしている。
「やり方はともかく監督の意図は分かる」
久遠監督の意図ねぇ。大方ワンマンプレイの酷い灰崎をGKに据えて、後ろからチーム全体の動きを学べとかそんな感じかな。
『随分とリスキーな手段だよね』
ええ、と野坂が頷く。
灰崎はキャッチ技なんて持ってないだろうし、そもそも真面目に取り組むかも分からない。そんな中、相手は4人もFWのいる攻め攻めプレイのチームだ。木戸川から見れば、星章が点を取ってくださいと言っているのと変わらない。
「しかし、等の灰崎くん自身は理解していないようだね」
「前回の試合でも星章の問題点は明らかでした」
『わかってる問題点をそのまま放っておくような男じゃないよ、鬼道有人は』
「さて、どうなることやら」
ホイッスルが鳴り響き、木戸川ボールで試合がスタートする。
豪炎寺と武方三兄弟の素早い連携プレーでどんどんと攻め上がっていく。去年のあの豪炎寺に対するギスギスとした雰囲気からここまで仲を修繕しチームしてまとめてくるとは思っていなかった。
武方三兄弟の3つ子ならではの素早い連携パスから豪炎寺へとボールが渡り、彼はボールを蹴り上げる勢いで前宙し、一度地にしゃがみ炎を身に纏う。そのしゃがみから立ち上がるバネで飛び上がり身体を捻り回転させながら炎の渦と共に宙へ舞い足を振り下ろした。
「ファイアトルネード!!」
雷門で使っていたファイアトルネードとモーションが違う。木戸川清修で随分と改良を重ねたようだ。
勢いよく飛んでいく炎のボールに、星章GKを任された灰崎は構えもせず、ただボーッと飛んでくるボールを見ている。そんな彼の前に、星章DFの3番白鳥と4番八木原が身を呈したディフェンスで何とかゴールを阻止した。そして、あろう事か灰崎はそのボールの勢いに驚いたのか、尻もちをついていた。
様子見のシュートといったところか、豪炎寺は不敵に笑って、自陣のポジションへと戻っていく。
恐らく灰崎は今、これまで得たことの無い屈辱を味わっていることだろう。
「この屈辱に灰崎は耐えられますか?」
「これがあの人のやり方なんじゃない」
「元雷門の鬼道有人...」
ふふっ、と珍しく野坂が楽しそうに笑っている。
やっぱり知恵者は知恵者の考えが分かるのか。
『天才ゲームメーカー...いや今はピッチの絶対主導者だっけ』
今の木戸川清修相手に、この布陣でどう立ち回るのかお手並み拝見といこうじゃないか。
しかしながらフィールド上では、木戸川清修の連携プレーに星章学園が圧倒されている。
木戸川清修は今でこそ素晴らしいチームワークを見せてはいるが、豪炎寺を裏切り者として敵視していたことの蟠りは前年のフットボールフロンティアでの試合後解決してはいたものの、恐らく強化委員として出向いたばかりの頃は武方三兄弟が豪炎寺にストライカーとして対抗心を燃やしたりしたんじゃないかと推測される。
そこから今のチームの状態を作り上げられたのは二階堂監督の手腕か、それとも豪炎寺がファイアトルネード治療法を行ったのかは知らないが、中々に大変だったのではないかと思われる。
「木戸川と星章...チームとしての完成度の高さは歴然ですね」
「灰崎くんはどうするのかな」
ゴール目前まで攻め込んできた木戸川の武方三兄弟は、3人でひとつのボールを囲み、それを同じタイミングで天高く蹴りあげた。デルタの光と共に飛んでいくそれは正しくトライアングルZなのだろうけど、前とだいぶ技の感じが違わないだろうか。蹴ったあとのクソダサポーズはどうしたよ。
《おおっーと、武方三兄弟のトライアングルZは大きく外れ...いや!》
実況の声が白熱するなか、フィールド上に出来上がった幾重ものデルタの輪の中で、豪炎寺がファイアトルネードを放つ時と同じ要領で炎を纏ながら飛び上がった。
『トライアングルZとファイアトルネードのオーバーライド!?』
「「「「爆熱ストーム!!」」」」
技と技の掛け合わせで生まれた新たな技、爆熱ストームはキャッチ技を持たない灰崎の真正面に飛び、そのまま彼ごとゴールへとボールを叩きつけた。
起き上がった灰崎は、イライラとした様子でボールを掴み鬼道へとパス...というよりシュートに近い威力のボールを蹴りあげた。鬼道はマントを優雅にたなびかせながらボールをトラップした。
星章ボールから試合が再開するが、木戸川はパスカットも上手く早々にボールを奪われ豪炎寺へと渡る。
豪炎寺から武方三兄弟へパスが行き、再び3人は3角に陣形を作りボールを蹴りあげた。デルタの輪達がゴール前の豪炎寺に向かってカーブして進む。
豪炎寺がシュート体勢に入り再び爆熱ストームが放たれるかと思いきや、それはフェイントで武方三兄弟が放ったトライアングルZは大きな円を描いて、灰崎に何もさせることなくゴールへと突き刺さった。
星章0点、木戸川が2点の状態で前半戦終了のホイッスルが鳴った。
『この状況で鬼道は焦りもしてないなぁ』
「反対に他のメンバーには焦りが出ていて上手く連携がいってないですね」
まあ、本来2点も先制されたら焦るのが当然であり、余裕ぶっこいてる鬼道の方がおかしいのだけれど。
そしてその余裕の割に、本来のゲームメイカーとして腕を発揮していない。どうにもその役割はキャプテンである水神矢に行わせているようで、強化委員と言う立場故、育成の面に力を入れているのだろうか。
ただ勝つだけのチームを作るなら、今のままの灰崎のワンマンプレイを鬼道のゲームメイクで補佐する事で彼なら簡単に作り上げるのだろうが、我々強化委員の目的が世界に通用する選手を育てることである、ということをスペイン代表と試合した彼だからこそ強く思っているのかもしれない。
やはり、後半戦もメンバーチェンジは行われず、灰崎をGKに据えたまま行われるようだ。
木戸川による猛攻が続く中、灰崎が動いた。GKであるはずの彼は物凄いスピードと気迫でフィールドを駆け上がり、武方三兄弟の1人からボールを奪い木戸川ゴールへと駆け上がっていく。
まあ、普通はキーパーがゴールを空けて飛び出すなんてびっくり仰天だろうけど、円堂で慣れてしまったから特段驚きはしない。
にしても相変わらず連携もなにもない。灰崎はただひたすらに1人でボールをドリブルしチャージを交わし、パスを回すことなく進んでいく。
しかし、ゴール目前で木戸川の2名のDFが灰崎のマークにつく。2人のDFの後からもう1人と現れ、囲うようにして灰崎の動きを制限する。
味方にパスするという選択肢を持たない彼が、シュートコースを定めれずイライラとした様子で木戸川DF達と対峙していると、その横から更に西垣が回り込んできて、スピニングカットを放った。
直に技を食らった灰崎はフィールドに倒れ込み、転がったボールは西垣からダイレクトに豪炎寺に渡る。
そしてGKの居ない星章ゴールへとファイアトルネードが撃たれ一直線に向かっていく。
炎を纏ったボールは、ゴール直前で阻まれた。身を呈したディフェンスでボールを止めたのは本来の星章GKである天野で、その彼を後ろからささえるDFの3名の根気と執念でなんとか防いだ。
DF4人の前に灰崎が戻ってきて、キャプテンである水神矢に何やらお叱りをうけているようで、彼は渋々といった様子で再びゴール前に立った。
コーナーからのスローイン。
木戸川がボールを取り、ボロボロの星章DFを翻弄していく。そんな中、また灰崎がゴール前を飛び出した。豪炎寺の足元のボールをスライディングで蹴り飛ばした灰崎は、立ち上がって何やら怒声を上げながら指揮を取り出した。
すると、何故だろう。イマイチ噛み合っていなかったDFの連携が取れだした。
9番の武方がボールを持って上がってきたのを、水神矢がゾーン・オブ・ペンタグラムで防ぎボールがサイドラインを飛び出した。
ここでホイッスルが鳴り、星章学園の選手交代が行われる。FWを1人減らしDFと入れ替え、それから、天野と灰崎のポジションチェンジも行われた。
これで正規の星章チームとなった。
『灰崎は意外と的確な指示を出してたね』
「キーパーの位置からは敵と味方の動きが手に取るようにわかるからね」
「守りの立場から敵の連携攻撃パターンを見れば前線において有効な攻撃ルートが何処にあるのかも自ずと見えてきますからね」
本職のGKが言うと説得力あるなぁ。
『なるほどね。その上、彼自身がFWであることから自分が攻めるならこう動くと行った予測がつけやすかったのか』
しかし残り10分か。灰崎が意図に気づくまでに随分と時間がかかり木戸川清修に2点取られている中、鬼道はこれからどう取り返すつもりなのか。
選手の入れ替わりが終わり、天野がボールを蹴って試合が再開する。鬼道にボールが渡り、灰崎とパスとドリブルをし合いどんどんと上がっていく。そして灰崎から他の星章FWにボールが渡った。
あの灰崎が連携してる...。鬼道の指示もありチーム連携を取り戻した星章に対し木戸川は灰崎マークに陣形を切り替えるが、灰崎はドリブルしたままマークを振り切って星章10番折緒にパスをだした。
受け取った折緒はスペクトルマグナという必殺技を放ち、木戸川ゴールから1点をもぎ取った。
灰崎が連携しただけではなく、シュートを他の選手に譲り、ましてやアシストするなど、今までの試合では絶対に有り得なかった事だ。
1点取られた木戸川は、試合再開後また直ぐに脅威の連携スピードで攻め上がり豪炎寺のファイアトルネードで1点取り返す。
試合時間は残り5分。3対1で星章学園はピンチだが、めげずに攻め上がる星章は早乙女がエンジェルレイで木戸川ディフェンスを躱してシュートを決めた。
「灰崎くんが連携を意識することでチーム全体の力が引き出されている。上手くいってるじゃない、彼らの思惑通り」
全て鬼道と久遠の思った通りに動いているかは彼らのみぞ知ることだが、野坂の言う通り、ピンチにも関わらず星章の士気は圧倒的に上がっている。
現に、白鳥と水神矢の連携ディフェンスでボールを奪い、パスを繋いで攻め上がっていく。灰崎まで繋がったボールは、高く蹴りあげられ飛び上がった灰崎は指笛を吹いた。
その音に地から6匹のペンギンが飛び出してボールへと突き刺さる。
「オーバーヘッドペンギン!!」
灰崎の必殺技が、木戸川DF2人を吹き飛ばし、ボールをキャッチしようとしたキーパー事ゴールに叩きつけた。
これで同点に追いつき、アディショナルタイムに入る。
速攻で攻め上がった木戸川の武方三兄弟の1人がボールを蹴りあげ、ファイアトルネードに似たモーションで飛び上がる。
「バックトルネード!!」
踵の振り下ろしでシュートされたボールは、星章ゴールへと飛んでいく。
GK天野がキャッチの体制へはいる。
「もじゃキャッチ!!」
腕から生えたもじゃもじゃの毛が洗車ブラシのように回りながらボールを捉える。片手でボールをキャッチした天野は、ダイレクトに鬼道へとボールを蹴った。飛んできたボールをトラップした鬼道はそのままドリブルで走り出す。
MFからFWへと交互にパスを繋ぎ着実に攻め上がっていくが、残り時間はもうわずか。
1人、ディフェンスの少ない所に飛び出した灰崎へと双子玉川からパスが飛ぶ。しかし、灰崎の後ろから追い上げてきた豪炎寺がカットに入ろうとする。そこに何とか鬼道が割って入りボールを蹴り飛ばした。しかしながら、飛んだボールの予想着地点に灰崎は居ない。駆け上がっている灰崎の遥頭上をボールは超えて行く。もう、勝負は決したな、そう思われた瞬間。灰崎は猛スピードでボールに向かっていると駆け出した。
火事場のバカちからとでもいうか、負けず嫌い故の決死のダッシュで、追いついた灰崎はボールを受け止め、ドリブルて走り出す。
そして、後ろから灰崎に追いついてきた2人、折緒と佐曽塚と共に3角の陣に飛び上がってクルクルと回り出した。
「「「デスゾーン」」」
執念で繋いだ紫に光るボールは、木戸川キーパーを吹き飛ばしゴールへと突き刺さった。
ここで、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
『逆転勝利か』
「チームプレーを考えるようになってきた灰崎は厄介な相手となりますね」
「ああ。だけど灰崎くんの持ち味は仲間と連携するプレイじゃない」
ワンマンプレイでの突破力や勢いを連携で殺すことになるってこと、だろうか。
「灰崎くんを本当に怖いプレイヤーに変える要因は別のところにある。そんな気がするんだ」
...そういうことじゃないのか。つまりどういう事だ?
「それは?」
西蔭の問に、野坂はあはは、と笑った。
「僕の勝手な妄想さ」
そう言ってただ真っ直ぐフィールドを見てる野坂を見て、私も西蔭もどういう事だと顔を見合せ首を傾げるのだった。