アレスの天秤編
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《木戸川清修の豪炎寺修也は、炎のエースストライカーと言われその名を少年サッカー界に轟かせています》
女性アナウンサーが、Zゼミと沢山書かれた広告ボードを背景に説明をする映像が、TVモニターに映った。
基本テレビの使用時感は限られているしニュース番組位しか映らないのだけれど、作業のBGM代わりにと付けていたら、連日話題となり取り上げられているフットボールフロンティアのニュースが始まり、つい手を止めて見始めてしまった。
《次の試合では強豪、星章学園との試合が注目されています》
アナウンサーのじゅんじゅんから映像が切り替わり、豪炎寺修也の姿が映った。
《星章学園はターゲットに捉えている。キーマンである灰崎は星章の力でもあり弱点でもある。完全なるチームワークを誇る我ら木戸川清修なら綻びを抱えた不完全な星章学園を倒せる》
『相変わらず、この子は素で人を煽るよね』
天然でやってんだもん。煽りの天才だよ。
淡々とインタビューに答えている豪炎寺を見ていると、後ろのドアからコンコンとノックの音がして、はい、と返事をする。
『開いてるよ、どうぞ』
頭だけ振り返ってそう言えば、ガチャりとドアが開いて、一瞬間を開けて野坂が入ってきた。そして、その後西蔭がドアを閉めながら入ってくる。
「お邪魔するよ」
「不用心ですよ。女子なんですから鍵はかけて下さい」
我が物顔で入ってくるなり人のベットに腰掛ける野坂と、まるで親のように叱ってくる西蔭だが、まあいつもの事で、もう慣れてしまった。
「豪炎寺修也。木戸川清修の強化委員ですね。彼のインタビューを見ていたんですか」
野坂はモニターに映っている映像を、興味無さそうに見つめた。
「何か有益な情報でも?」
『サッカーも上手いけど、煽りも上手い事が分かったね』
西蔭の問に答えて、リモコンでモニターの電源を切り消した。
「梅雨さんが事前にマークしていた地方のチーム、順調に予選ブロックを勝ち上がってきているようですよ」
「最新のデータです」
と西蔭からタブレット端末が差し出され受け取る。
『データ移していい?』
「どうぞ」
タブレットと自分のPCをUSBケーブルで繋ぎデータを送る。
データ移行の終わったタブレットを返し、自分のPCに送ったデータを開く。
「東北地方は北海道の白恋中学が現在2勝中得失点差もトップ。梅雨さんの読み通り攻守のバランスの良いチームのようだね」
以前も言ったが調べた時に、まさかのまさか、吹雪アツヤが存在してたのだ。吹雪士郎、吹雪アツヤの2人が揃ったこのチームが弱いわけがない。ましてや我が雷門中から染岡が強化委員に派遣されているわけだし。
「中部地方は、仰っていた通り永世学園が上がってきています。ここは現在中部での最多得点を叩き出してますね。しかし、今回初参戦のチームでデータがないのに、よく上がって来るとわかりましたね」
『あー、うん。まあほら星章のスポンサーのキラスター製薬とここのスポンサーのエイリアン航空って調べたら同じ吉良財閥のグループだったから、星章にスポンサーついてるところが弱いチームにはつかないでしょ、っていうね』
そう言えば、なるほど、と西蔭は納得したように頷いているが、本来勝ち上がると分かっていたのはそれが理由ではない。
エイリアン航空、吉良財閥の持つ会社。これだけで思い返えされるのはエイリア学園であり、絶対基山ヒロトやら南雲晴矢やら涼野風介やらが居るでしょ強いでしょ、と言うだけの話である。
『関東は...言わずもがな...』
2ブロックに分けられては居るが、どちらかといえば私達のいるBブロックよりもAブロックの方が強豪校の嵐だ。
ランキング1位鬼道率いる、星章学園。
先程テレビに出ていた炎のエースストライカー豪炎寺の居る木戸川清修。
そして去年まで40年間無敗を誇っていた帝国学園。こちらには鬼道ではなく風丸が強化委員として向かっている。
そして、現在成長中の伊那国雷門中。
Bブロックはうちの一強だろうが、知ってる学校が幾つかあったな。尾刈斗中とまさかの今年も予選に出てきた秋葉名戸。尾刈斗は影野、秋葉名戸は目金氏が強化委員である。ピッタリだよね。
近畿は、木暮夕弥がいる京都の漫遊寺中、浦部リカのいる大阪ギャルズCCCがあるが、ここ2つは出場していない。
「近畿はやはり去年本戦出場の戦国伊賀島中が強いですね」
忍者のとこね。普通に強いもんなここは。
中国地方はすまない。知っている学校がなかった。
「九州は福岡の陽花戸中と沖縄の大海原中が去年本戦出場の千羽山中と接てるね」
陽花戸は円堂に憧れてMFからGKに転身した天才の立向居がいるし、大海原中は恐らくイナズマキャラバンと出会って居ないので綱海はいないだろうが、音村とか強い選手がいるし勝ち上がってきてもおかしくない。
『どこが勝ち上がってきてもいいように徹底的にデータ収集して作戦練ろうね』
「ええ。そこで、今週末の星章学園対木戸川清修の試合、視察に行きますから着いてきて下さいね」
『了解』
ライセンスカードをリーダーに翳し、ピッと言う音と共にゲートが開かれる。
未だ慣れないが、サッカー関係者特典ホント便利だよなこれ。
本日行われる星章学園対木戸川清修の試合を見に星章スタジアムへと足を運んだ。私と野坂と西蔭。それと2軍の子達も何人か連れて。今回の試合は注目株同士の戦い故、観覧者も多くそこにストーカーが紛れていては厄介だと言うことで警備代わりに連れてきたと西蔭は言っていたのだが、ストーカーの件は嘘なんだけどなぁ。
野坂を挟んで私が壁のある右側、西蔭が左側を歩きその両脇を2軍の子達が固める布陣で歩いているのだが、目立つ目立つ。
護送感強過ぎて悪目立ちしてるって。
キャーキャーと女の子達からの黄色い歓声も上がってるし...ってこれはわりといつもの事だな。
野坂も西蔭も目は死んでいるが顔はいいんだよなぁ。顔は。
そんな事を思いながら歩いている梅雨達の通りすがりに、雷門中のマネージャー2人が居た。
「戦術の皇帝って異名を持っててプレイも凄いし顔も整っているの。更には勉強もパーフェクトらしくて3拍子揃ったプレイヤーなのよ」
大谷つくしからの説明にふーん、と頷いて王帝月ノ宮の一行を見た神門杏奈は、あっ、と呟いた。
「あれは水津先輩...?」
「あっ、そうなんですよ!実は水津さんは王帝月ノ宮中のサッカー強化委員なんですよ!!杏奈ちゃん一緒に手を振りましょう!」
「えっ?」
「水津さーん!」
大谷が大きな声で名を叫びながら手を振る。その隣で神門も戸惑ったように小さく片手を掲げた。
そして、その声が聞こえた梅雨は一瞬視線を動かし彼女らを目に止めたかと思いきや、そのまま無言で王帝月ノ宮の一同と去っていってしまう。
「あれ?聞こえなかったのかな?」
こてん、と首を傾げる大谷に、神門もあれ?と不思議に思った。
彼女の雰囲気が違う気がしたのだ。
先日雷門中に来た時と...いや、去年雷門中に居て夏未さんのそばに居た彼女とは別人のような気もする。もっとニコニコ笑っている人で、夏未さんのお手伝いによく生徒会室にも来られて居た時は会釈をして目があったらニコッと目を細めて笑っていた彼女が今さっき目があった瞬間は、ああ、なんだ、とでも言うような冷たい視線が向いていた気がした。
「あの人あんな感じ、でしたっけ...?」
「いやいや、きっと聞こえてなかっただけですよ!さ、私達も席に向かいましょ!」
そう言って大谷は、離れた場所で構っている男子達を呼びに行った。
「なんだか梅雨さんの熱烈なファンがいましたね」
相も変わらず人気のない席を好んでスタジアムの隅に向かっていると、ふと、野坂が話し出した。
『ああ、さっきの。ファンじゃないよ。雷門のマネージャー』
「へえ。挨拶よかったんですか」
『別にいいでしょう。勝ち上がってくるなら敵だし』
この間の試合を見て分かった。やっぱり雷門中はこれまでと同じ主人公のいるチームで絶対に勝ち上がってくる。
神代の野坂が主人公だという話を真に受けるなら話は変わってくるが、嘘だって可能性が高い。だとしたら、勝ち上がってきた雷門と本戦のどこかで当たるはずなのだ。
そうなった時、例え向こうが主人公のいるチームだとしても私は、私と野坂は勝たなくてはいけない。私はともかくとして、野坂は賭けているものが重すぎる。
だからこそ勝つために野坂はグリッドオメガを使う事を選択するであろう。そうなった時、私の持っている情という物が邪魔になってくる。
彼女、彼らと今の顔見知りという状況よりも更に上のランクになってしまえば恐らく私にはグリッドオメガを使うことが耐えらないと思う。
王帝月ノ宮を優勝させる。その目的を果たすためなら私は、
情を切り捨てる
他を傷付けるのは嫌なんじゃなかったのか、だって?しょうがないじゃない、野坂や西蔭、王帝月ノ宮の子達への情が移っちゃったんだから。この子達を勝たせる為だけに私は今ここにいる。