アレスの天秤編
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後半戦の開始早々、稲森が美濃道山からボールを奪ったものの、すかさず要塞守備に入られ、仕方なくと言った様子で後ろでパス回しが始まる。
これでは前半戦と代わり映えしない。
美濃道山からのプレスを躱してパス回しを続ける雷門選手達に、監督指示が入ったようで一斉にイレブンバンドを見ていた。攻めの指示かとも思われたがどうやら違うようで、選手一度ピタリと足を止めてしまっている。
しかしながらFWなのに攻められないことに痺れを切らした剛陣が、ボールをもって進もうとしたのを小僧丸が何やら言って引き止めた。
そして小僧丸が向いていた方向と反対側、自陣のゴールの方へ顔を向けると雷門選手達もつられるように後ろを振り返っていた。
「へぇ、やるねぇ雷門の11番くん」
「どうかしましたか?」
「彼も気づいたみたいだよあの監督の狙いに」
『彼も?って事は野坂は分かったの?あの監督の狙い』
フィールドの外、ベンチでタブレットを弄りながらクルクルと回っているあの変人を見つめる。
「ええ。梅雨さんがさっき言っていた事が答えですよ」
『私...?』
なんか言ったっけと首を傾げる。
「ここで焦って今の陣形を崩して、攻め上がれば美濃道山の思うつぼ、でしたか?」
よく覚えてんね、西蔭。
自分で言っといてなんだが、それの何処が答えなんだ。
今の守備陣形を保つって事?勝つための作戦じゃなくない?
何喋ってるのか分からないフィールド内の様子を見て、野坂はわざわざ小僧丸を褒めた。つまり小僧丸がした事にヒントがあるとして...剛陣を諭して後ろに振り返ってた。いやだからなんだと言うんだ??
自陣のゴールを見てたのかな?オウンゴール?いやそれじゃ敵の点じゃん反対にボール蹴ったってメリットなんてないし。反対のゴールをわざわざ見た理由...。反対...。
『あっ、そうか。反対か!』
「ええ。そういう事です」
なるほどね。つまりあの監督のやろうとしてる事は、逆に守りを固める事で美濃道山を焦らせて攻めさせて今の陣形を崩す、と言うことか。
その後の試合展開も両チームとも攻めることはせず守備に徹している。やはりあの監督の狙いはそういう事なのだろう。
どちらが先に折れるかの我慢比べ、先に折れたのは美濃道山中の方だった。
『あー、』
選手達は要塞フォーメーションをといて、GK以外の10名が横一列に並んだ。
動く要塞、その圧に雷門選手達は自陣に追いやられ要塞に弾かれた飛ばされて行く。
一気にゴール前に来た美濃道山のシュート。ゴールの前に雷門の中で1番大きな体が立ち塞がった。そして、彼が手を突き出し気合を入れて突き出すと共に後ろから大きな壁山が現れる。見た事のある技だ。
『ザ・ウォール!?』
そう、美濃道山中の強化委員として行っている我が雷門中の壁山の技だ。
大きく競り上がった壁が倒れ、相手からボールを奪うことに成功した雷門の選手、この間様子を見に行った時にちょうどいなかった子だ。名前は...確か...ゴーレムって言ってたかな。
一瞬、イレブンバンドを見たかと思ったらゴーレムは大きくボールを蹴りあげた。ボールは美濃道山選手達の頭上を飛んで行く。それを見て慌てて戻っていく。そりゃそうだ、10人で上がってきていては守備はおらずゴール前はがら空きだ。
慌ててDF陣が戻ってゴール前に立ちはだかるが、もう遅い。
パスを繋いで上がった雷門陣は小僧丸へと繋ぎ彼は空高く舞っている。
「ファイアトルネード!!」
渦巻く炎が美濃道山のゴールへと突き刺さり一点をもぎ取った。
少ない残り時間の中、先制点を許したことで焦りが出たのか、試合再開して直ぐに美濃道山中は大技を使ってきた。
4人の選手達が壁を作り、繋ぎ合わせるレンサ・ザ・ウォールという技を発動し、先程の動く要塞と同じように攻め上がってきた。
「なるほど、オーバーライドですね」
『オーバーライド...』
合体技の事、そんなかっこいい風に言うのか。知らなかった。
先程活躍したゴーレムがザ・ウォールで止めに入るのかと思いきや、捨て身のアタックで何とかボールを弾いた。そのボールは雷門の青髪の美少年の元に転がった。
確か氷浦といったか。彼はレンサ・ザ・ウォールを目前に、一度くるりとターンして右手で空を切った。一瞬にしてボールが凍り、蹴りあげたボールは上空に向けて放った矢のように弧を描いて、レンサ・ザ・ウォールを抜けてロングパスとなった。
その勢いのあるロングパスを利用し稲森がダイレクトシュートを撃つ。
美濃道山のGKが食らいついて飛ぶが、ボールは見事GKの頭上を越えてゴールへと入った。
そしてここで試合終了のホイッスルが鳴り響くのだった。
「あの監督は何者なんだろう」
野坂の疑問にホントそれと頷く。
「過去のサッカーの記録にあの者の記述はありません」
西蔭と共に調べたが、日本での監督経験も雷門が初めてのようだし、中国で選手だった過去や監督をやっていた過去がないか調べて見たが全くといって情報が出てこなかった。
「じゃあ、これから名を残すことになるのだろう」
『かもね』
明らかに今までのイナズマイレブンの監督達とは違う。久遠監督もまあある種怪しい類ではあったが、彼は過去の情報が出てきた男だった。いやまあ、ぶっちゃけ響木監督も見た目怪しいし、瞳子監督もなんも言わないし怪しい人ではあるな。全員怪しいじゃないか。うん、やっぱ趙金雲もイナズマイレブンの監督なんだな。
「しかし野坂さん、貴方がそれを気にする必要はないでしょう」
西蔭の言葉に、なんで、と彼を見る。
「誰であろうと戦術の皇帝と言われる貴方の前ではなすすべなく崩れ落ちることになる」
「ああ」
ああ、そういう事。確かにこの戦術の皇帝様は今回の趙金雲の作戦にも早々に気がついていたしなぁ。
何より、野坂が戦術の皇帝といわれる理由は同じチームのメンバーである私は嫌なほど分かるし、その実力は認めざるおえない。
『慢心は身を滅ぼすよ』
「わかっていますよ」
『そう。じゃあ帰って次の試合の作戦会議だ』
ええ、と頷いた野坂と共に椅子から立つ。
「帰ろうか。王帝月ノ宮へ」
「はい、野坂さん」
勝つための戦術
これにおいて野坂の右に出るものはいない。