フットボールフロンティア編
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「水津先輩遅いですよ!もう試合始まっちゃいましたよ!!」
ベンチに戻るなり早々に春奈ちゃんに怒られ、ごめんごめんと謝りながら座る。
『道迷って客席の方に出ちゃってさ』
「もう。しょうのない人ね」
呆れたように夏未ちゃんにもそう言われ、あはは、と乾いた笑い声を上げる。
『試合はどんな感じ?』
「後半戦も御影専農がボールを下げての全員ディフェンスだから、未だに硬直状態」
どうしたらいいのかしら、と秋ちゃんが困ったようにフィールドを見つめた。
フィールド上では、御影専農が全員自陣に引きこもっているため雷門選手は円堂と土門以外がボールを奪いに上がっている。
「どうする?俺も上がろうか?」
土門が後ろを振り返ってゴールの円堂に軽く聞けば、くっそー!と円堂は手のひらに拳をぶつけた。
「攻めに来ないんじゃここに居たってしょうがない」
そう言って円堂はゴール前から飛び出して行って、えええ!?と土門の驚きの声が響き渡る。
「円堂くん!?」
秋ちゃんを筆頭にベンチの一同からも驚きの声が上がっている。
私はこの展開を知ってたから出たよって感じなんだけど最初は驚くよねぇ。キーパーがゴールを無視して走り出したら。私も初見時は大層驚いた。
そして、味方の皆も驚いているが現状1番驚いているのは、御影専農の子達で、データにない円堂の行動に対応出来なかった彼から、円堂があっさりとボールを奪ってドリブルで駆け上がる。ノーマークだった円堂がゴール前にたどり着きシュートを打つ。
「何故だ!?データにないっ!君のシュートはデータにない!!」
突然のイレギュラーに驚きつつも、それでも杉森は瞬時に対応し、何とかボールをキャッチした。
「くっそぉぉぉお!!」
心底悔しそうな円堂を見て、杉森は何故だ?と問いただした。
「何故お前が攻撃に参加する」
「点を取るために決まってるだろ!それがサッカーだ!」
実際、キーパーが点を取りに行ってはいけないなんてルールはないし、私の居た超次元ではない世界でもキーパーが点を取った事例がある。
「円堂ーー!早く戻れ!!」
染岡の怒声に、円堂はにししと笑った。
「久々のシュート楽しかったぜ!」
そう言って走ってゴールに戻っていく円堂をじっと見て、杉森はチームメイトに声をかける。
「オフェンスフォーメーション!」
そう言ってボールを蹴りあげ、10番の大部が受け取り駆け出そうとした前に壁山が立ちはだかり、身を呈したディフェンスでボールを奪う。...というかあの巨体で思いっきり前に倒れ込まれたらそりゃあ1歩引くよね。
奪ったボールを松野が取って進んでいく。無論止めに入ってくる御影専農の8番を松野は華麗なターンで避けて上がっていくが、今度は下鶴のスライディングでこかされてボールを奪われる。
下鶴は1人ドリブルで攻め上がり、ボールを高々と蹴りあげた。
「パトリオットシュート」
空中で爆発しまるで打ち上げられたミサイルのような軌道でゴールへと向かっていく。
「届けぇええ!!」
円堂は拳を掲げ飛び上がる。何とか弾いたボールはゴールラインを飛び越えてピピッーとホイッスルが鳴らされる。ベンチの皆がホッと息をつくのが聞こえるが、まだ終わりじゃない。
御影専農からのコーナーキックだ。
だが、今までの完璧な連携はどうしたのか。蹴ったボールを受けとるのに10番大部と6番寺川がお見合いしてしまい、あらぬ方向へ飛んだボールに慌てて下鶴がカバーに入ろうと走り出した。
そこにすかさず円堂がゴールを捨てて走り出す。
「豪炎寺こっちだ!」
何をするつもりだ!?と驚きの声を上げながら豪炎寺は言われた通り円堂に駆け寄って走る。
「パトリオット、シュート!!」
円堂よりも先にボールにたどり着いた下鶴が必殺技を放った。
宙に上がったボールが、爆発する。
「止まるな!シュートだ!」
「何!?」
「俺を信じろ!行くぜ!」
平行に並んだ2人は、飛んできた下鶴の必殺シュートを円堂の合図で同時に蹴り返した。
下鶴のシュートの威力を生かしたまま打ち返したロングシュートはビリビリと稲光を放ちながら御影専農のゴールへと一直線に飛んでいく。
杉森が必殺技を出す間もなく、それでも何とかボールをキャッチしたものの勢いを殺すことが出来ずボールは杉森事ゴールに刺さった。
《雷門中ゴーーーール!!円堂と豪炎寺の新たな必殺技でついに同点に追いついた!!》
「やった!」
「やったぁ!同点です!!」
秋ちゃんと春奈ちゃんに手を掴まれ立たされて、両サイドで2人がぴょんぴょん跳ぶ。なんだこの両手に花。可愛いな。更にその横では控えの影野と目金も抱き合って喜んでいるし、夏未ちゃんも少し口角が上がっている。
そんな中、冬海先生だけは冷汗をダラダラと流していた。
「あれは新必殺技なの?」
「そうです!」
キラーンと目金のメガネが光った。
「イナビカリ修練場を提供したのは無駄じゃなかったようね」
『ええ。春奈ちゃんは序盤からみんなの動きが違うって気づいてたでしょ?』
そう言えば、春奈ちゃんはコクコクと強く頭を振った。こういう鋭さとかを見るとやっぱり彼と兄妹なんだなぁと思う。
『必殺技の練習こそ出来なかったのかもしれないけれど、基礎体力や身体能力を鍛える事に成功したんじゃないかな』
「なるほど...無茶苦茶な特訓にも意味があったんだ」
実際、特訓に参加してた影野と目金の2人がもしかして俺たちも?とお互いに顔を見合わせている。
『今の点が決められたのはそれだけじゃないよ』
えっ?と一同が私を見つめてきて、フフっと笑う。
フィールドでは、御影専農ボールで試合が再開されるが、すぐさまボールを奪った染岡と豪炎寺がドラゴントルネードの体制に入った。
『みんな、試合をしながらもレベルアップ...、成長してるんだよ!』
「「ドラゴントルネード」」
2人から放たれた必殺技を、真正面から杉森がシュートポケットで受ける。
先程止められたドラゴントルネードだったが、今度はシュートポケットを打ち破り杉森を弾いて、ボールはゴールへと突き刺さった。
《ゴール!!ドラゴントルネードご決まり雷門中逆転だあ!!》
「「やったぁ!!」」
「やりましたねぇ!!水津さんの言う試合の最中にレベルアップ...。確かにゲームでも実践で戦うことで経験値を手に入れます!」
うんうん、と目金が唸ってる。
『オタクくんさぁ...。まあ、そういうことなんだよね』
「ですよね!!」
まあ、実際はそれだけでなく、御影専農の方が自滅気味...というか恐らく監督の指示に疑問を持ち始めた選手達が上手く連携を取れなくなってきているのが、点が取れる要因になっているとは思うのだけれど。
御影専農ボールで再スタートした直後、選手達が一同にコードの繋がれている頭を押さえた。そして困惑した様子で皆足を止めた。そんな敵陣の中を染岡がドリブルで突っ走る。
「御影専農の選手、みんな足を止めちゃいましたけど何かの作戦でしょうか?」
『いや、あっちのベンチ見て』
御影専農側のベンチには、監督の姿がが無くなっていて、変な装置だけ椅子の下に転がっている。
「監督が居ない?」
『うん。彼らはデータサッカーするんでしょ?データを送って指揮する者が居なくなったから行動を停止したってことじゃない?』
「なるほど」
フィールドではゴール前まで切り込んだ染岡がドラゴンクラッシュを放った。
「行け!決まれっ!!」
円堂の声と共に蒼き龍がゴールへと向かっていく。キーパーの杉森が苦しそうに表情を歪めていた。彼も指示がないからどうしたらいいのか困惑している様子で、でも、咄嗟にハッとした表情に変わり彼はクロスさせた腕を大きく開いて胸を反らせた。
「うおおおおぉ!!」
今までは作業のように淡々と発動させていた必殺技を渾身の力で大きな声を上げながら杉森は発動させた。
シュートポケットで勢いを抑え飛んできたボールを両手で鷲掴んだ。
「負けない...。俺は、負けたくないッ!」
少し後ろに押されながらも、ゴールライン手前で踏みとどまった杉森に御影専農の子供達は、キャプテン...!と彼の事を見つめていた。
『おお、止まった』
「何関心してるんですか!敵チームですよ!」
『あ、そうだった』
いけないいけない。アニメのせいで杉森は応援したくなる感じがあるんだよなぁ。
「皆も同じだろう」
杉森はゴールを振り返り見つめていた御影専農の選手達に声を上げて言った。杉森は自分の頭と繋がっているコードに手を掛ける。
「最後まで戦うんだッ!!」
そう言って杉森がコードを引き剥がせば、それを見た御影専農の子供は同じように自分に繋がったコードを外していく。
「最後の1秒まで諦めるな!!」
荒々しい声を上げて、杉森は大きく振りかぶってボールを投げた。
それに応えるように御影専農一同、おう!と返事をして一斉に駆け出す。
いいね。これでこそサッカーだ。
雷門の選手も御影専農の選手も皆全力で攻め、全力で守る。
ボールを繋ぎ、奪われ、取り返し、シュートを打って、止められて。そんな攻防が繰り広げられる。
「決めろ!豪炎寺!!」
円堂が豪炎寺に向かって大きくボールを投げた。
ボールを受け取った豪炎寺は宙に蹴りあげ、ファイアトルネードの体制に入る。
「来いッ!」
杉森もゴール前にどっしりと構えシュートを受ける準備をする。
「ファイア...!」
炎を纏ってボールを蹴り下ろそうとした豪炎寺と同じ動きでボールに飛びついた者が居た。
ボールを真ん中に2人の足と足がぶつかり合った。
「改ーッ!!」
豪炎寺と同じファイアトルネードが打てる下鶴が飛び上がっていたのだが、接触により下鶴も豪炎寺もシュートを決める事無く、そのまま背中から地に落ちていく。
『...、あ、...ああ...』
フラッシュバックする自分の過去に震える腕を抑え込む。
「豪炎寺ーッ!!」
土煙が晴れて、芝に倒れた豪炎寺とその足の上に同じよう倒れた下鶴の足が乗っている。
執念で頭だけを動かして、下鶴はボールをゴール前の杉森にパスした。
そのボールを受けて杉森はゴールを捨てて一目散に走り出した。
『......ああ...』
「水津さん...?」
右の二の腕にそっと秋ちゃんの手が触れられた。ゆっくりと秋ちゃんを見れば、心配そうにこちらを見ている。
落ち着け。私が動揺してどうする。
『...、ありがとう』
秋ちゃんの手にそっと左手を重ねて、大きく深呼吸する。大丈夫。この先の展開は知ってるじゃないか。
『冬海先生、御影専農の校舎行って保健医呼んで担架借りてきてください』
「えっ、」
『早く!!』
「はっ、はい!!」
慌てた様子でベンチを出ていく冬海先生を見送って、フィールドに目を移す。杉森が蹴ったシュートを円堂がゴットハンドで受け止めた所だった。
ピッピッピーッと試合終了のホイッスルが鳴り響く。
やったー!!と喜んでいる雷門のみんなには悪いが、救急箱を掴んでフィールド内へと駆け寄る。
倒れている豪炎寺と下鶴の元へ近寄る。雷門の選手はもちろん、御影専農の選手達も心配そうに2人に声をかけている。
『ちょっと通して!』
間を開けてもらい、2人の前でしゃがんで様子を見る。
良かった頭から血が出てたりはしてないね。
『2人とも意識ある?』
ああ、と声を上げ無理に身体を起こそうとした豪炎寺を止める。
『確認終わるまで動くな。下鶴は?』
「え、ああ。意識はハッキリしている」
『豪炎寺は?ぼーっとしたりクラクラしたりは?』
「大丈夫だ」
『よし。そこの君ら』
チョイチョイと御影専農の2番と3番の子を呼ぶその後ろで、豪炎寺!改!とそれぞれのチームのキャプテンが駆け寄ってくる声が聞こえる。
『足は折れてる可能性があるからなるべく動かさないで。今そっちの学校の保健医呼んでもらってるから後で診てもらって。いいね?』
そう言えば、はい、と2人とも頷いて、下鶴に手を貸そうとしゃがみ込んだ。
あちらはあちらで任せるとしてと豪炎寺を診る。
『足、両方とも痛む?』
「いや...、左、だけ」
やっぱ、アニメ通り利き足やってんのか...。
『あんまり動かさない方がいいんだけど...、あ、染岡!』
来てと呼べばこちらに向かってきていた円堂と合流し駆け足で寄ってきた。
「大丈夫か豪炎寺」
「ああ、平気だ」
『平気じゃないでしょ。足痛めてるから染岡手貸して』
おう、任せろと染岡が頷いてくれて、円堂が俺も!と手を挙げてくれたが1人で十分と収めてもらう。円堂だと怪我した足のこと気にせず引き摺りそうだし。
『染岡、左側入って。そうそう』
豪炎寺の左側に回り込んで染岡が肩を貸し、勢いよく引き上げた。
『よし、とりあえず冬海先生戻るまでベンチね』
「ああ」
よし行こうと歩きだそうとして、そうだ!と円堂が声を上げる。
「杉森!!」
下鶴に声をかけていた杉森が振り返った。
「円堂」
「またサッカーやろうな!サッカー!」
「ああ、また」
そう強く頷いて2人は固く握手を交わした。
「またな!」
新たなるサッカー馬鹿の誕生と
エースストライカーの骨折。診察を終えた豪炎寺にかかったドクターストップを聞いて、雷門中一同は悲鳴をあげた。