アレスの天秤編
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結局当日になって学園を出る前に、野坂さんに言われたので送りますと言ってきた西蔭に、いらないと怒って追い払ってひとり雷門中の前までやってきた。
西蔭はやっぱりなんで私が怒っているのかわからない様子だった。そりゃあそうだ私だってなんでこんなにイライラしているのか。たかが自分の身を心配されなかったぐらいでなんでこんなに怒っているのだろうか。そもそもストーカー話自体は嘘なのだから自分の身の心配なんているわけないと分かっているのに。
なんか、むしゃくしゃするが、その勢いのまま、雷門中の校門をくぐる。
授業終わりで部活をしている者たちや帰宅しようとしている者達の視線が突き刺さる。
そりゃあ、他校の制服着た女が我が物顔で学校の敷地を歩いてたらなんだ?ってなるよね。
とりあえず今は部外者になるので、事務室に許可証貰いに行かないと。
そう思い昇降口に向かっていると、前方から数人の女の子の集団が現れた。
「ちょっと、そこのアナタ。他校の生徒がウチになんのようかしら」
青いミディアムヘアに黒いメガネをかけた女の子がそう言って、周りの他の女の子達も、うんうんと頷いている。ただ、その女の子達の中心にいる薄いピンク色のロングヘアの女の子だけ、じっと私の顔を見つめた。ああ、この子見た事あるな。モブにしては妙に可愛い子だと思っていた...
『夏未ちゃんと同じ生徒会の子だ』
そう言えば、ピンク髪の子も気づいたようで、
「夏未さんの秘書の...」
『いや、秘書じゃないってば』
なんでいつも私、夏未ちゃんの秘書だと思われてるの??ただのお友達なんですけど。
「杏奈さんのお知り合いですか...?」
杏奈さんと呼ばれた子以外の他の子たちは皆オレンジのリボンだし、春奈ちゃんと同学年...恐らく2年生かな。
「水津先輩。伝説のサッカー部のマネージャーよ」
杏奈ちゃんの説明にどうも、と軽く手を振ると、女の子たちは青い顔をしてからぺこりと頭を下げた。
「し、失礼しました」
「すみません...。他校の制服だったから...」
『んにゃ、いいよいいよ。私なんていちモブだし。有名なのは選手の子らだしね』
「そんなことは...!水津先輩と言えば、あの優勝パフォーマンスされてた方ですよね!」
「あっ!それ私見ました!」
ああ、そうか。あれギャラリー多かったし見てた子もいるのか。
「ところで水津先輩、今日はどういうご用件で?」
『ああ、新しいサッカー部を見に来たんだけど』
「あの田舎島の者達ですか?」
「やっぱり水津先輩もあんなのが、雷門中のサッカー部だなんて、認められないですよね!」
なんて、杏奈ちゃんの取り巻きの子たちが言ってきて思わずなんだこの子らと渋い顔をしてしまう。
『認められられないって、学校側が受け入れしたんでしょう?きちんと頑張っている者の評価も出来ない生徒会なんて聞いて呆れるわね。夏未ちゃんは活動してない部には確かに酷かったけど、きちんとしてる部は評価してたわよ』
「それは...」
『まあ、いいわ。時間が惜しいから私は入校許可証貰いに行くわ』
そう言って事務室に行こうと歩き出す。
「待って下さい」
杏奈ちゃんに声をかけられ足を止める。
『なあに?』
「ご案内します」
『いいよ別に。通ってたから場所分かるし』
「サッカー部の新しい部室も?」
『あ、』
そう言えば去年、夏未ちゃんが電話でなんか言ってたな。サッカー棟が出来たと何とか練習のスタジアムも作ってるとか何とか。理事長の金の動かし方すげぇな。いち部活動の為にそこまでやるか?
『じゃあ、お願いするよ』
「はい」
事務室で名札ケース入った入校許可証を貰ってそれを首から下げて、それから杏奈ちゃんに案内してもらって新たに出来たサッカー棟に入る。
中を歩いてみるとミーティングルームなんかもあるみたいだ。円堂たちなんてあの古くて狭い部室にすしずめになってミーティングしてたのになぁ。
「ここが、サッカー部の練習場です」
案内されてグラウンドではユニフォームを着た子供たちが、ロングパスをトラップで受ける練習していた。パス練してるの8人しかいない?キーパーの子は別の練習してるみたいだけど...それでも合わせて9人だ。先日の試合では11人いたからもう2人いるはずなんだけど、お休みだろうか?
なんて、ぼんやりとパス練の様子を見ていると、紫色の髪の少年が、白髪の帽子を被った小柄な少年へのロングパスに失敗して、外れたボールがコロコロと私たちの足元に転がってきた。
「あっ、お前...」
転がったボールを目で追った紫色髪の少年は、私たち二人を見て怪訝そうな顔をした。
「杏奈ちゃん!練習見に来たんですか!」
その男子の後ろから、茶髪の可愛い女の子がひょっこりと顔をだしてブンブンと手を振った。この子はゲームで見たことある。大谷つくしちゃんだ。
そして、彼女が大きな声で叫んだ事により、練習していた他の子達もなんだなんだ、と動きを止め視線をこちらに向けてきた。
「...サッカー部にお客さんです」
「お客さん...ってコイツか?」
紫髪の少年は近寄ってきて、上から下までジロジロと見つめてきた。
「雷門中の制服じゃないよな」
「まさか...、次の対戦相手の偵察じゃ...!」
青い髪のメガネをかけた少年がそう言い出して思わずクスクスと笑ってしまう。
「偵察!?」
「美濃道三中の奴等か!?」
とんだ勘違いの連鎖を引き起こしている彼らに、いやいやと首を振る。
「あっー!貴女はー!!」
大谷つくしちゃんが大きな声を出して指さした。
「水津さんじゃないですかー!!」
誰?と新雷門イレブン達は首を傾げている。
「伝説の雷門サッカー部のマネージャーをされてた方です!今はサッカー強化委員として王帝月ノ宮中で「おやおやおや、これはこれは」
つくしちゃんの声にわざと被せるように言いながら、今までベンチに座ってスマホを弄っていた男が、立ち上がって近づいてきた。
ふくよかな体付きのチャイナ服を着た、いかにも中国人ですと言ったような三つ編みをした男がニコニコとして近づいてきて思わず1歩後ろに後ずさる。
「監督?」
「彼女は前年度の冬に行われたSSFF月光エレクトロニクス杯の第1回チャンピオンではありませんか〜!!」
怪しい中国人は口元に子を描きながら目を細めてこちらを見て大きな声でそう言った。
『...よくご存知で』
「SSFF?」
監督らしいこの中国人が傍に来たことで、他の選手の子達も周りに集まって、聞き慣れない言葉に首を傾げていた。
「ストリートスタイルフリースタイルフットボールの事ですよ」
ほっほっほ、と笑う中国人の横でつくしちゃんが、ポンと手を打った。
「そうですよ!水津さんはフリースタイラーなんですよね〜!!雷門でパフォーマンスした時の動画がイナチューブに上がってるんですけど、凄いんですよ!!」
力説してくれるつくしちゃんにありがとうと返せば、他の子達からへぇ、とか、わぁ、とか感心したような声が漏れる。
「チャンピオンって事はめちゃくちゃ上手いんじゃないですか!?」
「すげっー!!」
興奮した様子の子供たちに対していやいやと手を振る。
優勝というがあれは御堂院が私の為に(恐らくアレスの宣伝の為もあるが)わざわざ作った大会だし、そもそもの競技人口が圧倒的に少ないこっちの世界で、参加者は10名に満たない小さな大会での優勝だ。
しかし、そんなサッカー雑誌の隅の方に書かれてそうな情報よく知っていたなこの中国人。
「で、そのなんとかなんちゃらの人がなんのようだ?」
「剛陣先輩...1文字も覚えてないじゃないですか...」
紫色頭くんはどうやら剛陣というらしい。白髪帽子の子がフリースタイルフットボールですよとツッコミを入れている。
『用というか...、OGとして新しい雷門のサッカー部はどんな子達かなって見に来たんだけど、ずいぶんと個性的、ね?』
まあ、この世界の人のほとんどが個性的だけど。
「なんだよ照れるな」
目線の合った剛陣は、へへっと鼻の下を指で擦った。
「剛陣先輩、多分褒め言葉ではないです」
なるほど、この帽子くんは剛陣専属のツッコミ役らしい。
『一応、褒めてるわよ。星章との試合も観させてもらったんだけど』
そこまで言えば、幾人かがあっ、と呟いて顔を曇らせた。
「すみません、俺たち雷門の名を借りて試合に出させて貰ったのに負けてしまって...」
しゅんとしながら謝ってきたのはパッツンロン毛の男子で腕にはキャプテンマークがついている。
『まあ、相手がランキング1の星章学園じゃあねぇ。それにまだこれからの試合勝ち進めば本戦出場も有り得るでしょ?』
「はい」
『私は君らの諦めないサッカー、良かったと思ってる。応援してるから頑張ってね』
「あ、ありがとうございます!」
キャプテンにつられて他の子達も頭を下げる。
まあ、本戦での優勝はうちの王帝月ノ宮が頂く予定だけど。
『それに試合で面白い子いたよね』
そう言ってチラリと、ぽっちゃりとした彼を見る。
「小僧丸ですか?」
キャップ帽を被った少年がそう言えば、小僧丸と呼ばれた彼はツンとした表情ながら軽く会釈した。
『うん。君、豪炎寺と同じファイアトルネード使ってたじゃない?』
「はい!」
何故か豪炎寺の名を聞いた瞬間、小僧丸はぴしりと姿勢を正した。
『すごくいいシュートだったよ』
「ありがとうございます!」
今までも同じくファイトル使う子はいたけど、この子は豪炎寺とは体格が全く違うタイプだからきっと使えるようになるの苦労したんだろうなぁ。
『あとは...確か女の子がキーパーだったよね?』
そう聴きながら、ユニフォームに身を包んだ青緑色の天然パーマの女の子を見る。
「はいっ!海腹のりかです!」
『のりかちゃんか。FFに参加してる女子選手少ないから、会えて嬉しいよ』
「ありがとうございます。私もです!」
握手を交わしながらのりかちゃんが、でも、と続けた。
「都会でも女子選手って少ないんですか?」
『私も田舎育ちだから、こっちの事はよく知らないんだけど...調べたら女子だけのチームは結構あるみたいだけど、FFに出場出来るほどのスポンサーのついた強いチームはないみたい』
「へぇ。水津さんも田舎育ちなんですか!」
『そうだよ。家の前、海!後ろ山!みたいな所で育って。学校通うのも山1個越えなきゃ...って所に住んでた』
「あー、そういえば水津さんは去年転校してきたんですもんね」
つくしちゃんの言葉にそうそうと頷く。
「水津さんも田舎育ちなんだ〜!なんか親近感湧くな〜!」
人懐っこい笑みを浮かべた彼は、試合の実況で名前言ってたな...確か...。
『稲森、だっけ?』
「はい!稲森明日人です!」
稲森がそう言えば、1人ずつ自己紹介しようとキャプテンの子が言い出し、順に名を名乗ってくれた。
キャプテンが道成。
剛陣の専用ツッコミ役の子が日和。
眼鏡の子が奥入。
キャップ帽が万作。
忍者見たいな格好をした小さい子が服部。
で、もう名前を知ってる稲森、小僧丸、のりかちゃん、剛陣で9人。やはり2名居ない。
『星章との試合では11人居たけど...後の2名はお休み?』
確か壁山見たいな大きなDFの子と、水色の髪のイケメンがいたはずだ。
「ああ、氷浦とゴーレムか」
『...ゴーレム?』
氷浦は、名前のかっこよさそうな感じからしてあのイケメンくんだろうけど。
「ゴーレムはあだ名です。本名は岩戸って言うんですけど」
「2人は、今ちょっと...」
そう言って伊那国雷門のメンバーはじろりと趙金雲という名の監督の事を見た。
「はーい、お2人には今、練習はお休みいただいてます」
『そうなんですね』
ニヤニヤと笑っているこの監督はいかにも怪しすぎる...。2人だけ個別特訓でもさせてるのか?
「練習させないで、水やりと壁のラクガキ消しって雑用させてるだけだろ」
ボソリと後ろで愚痴るように小僧丸が呟いた。
水やりと壁のラクガキ消し...なるほど、わからん。いやきっとここがイナイレの世界だからアニメでの久遠監督の練習禁止とか泥の中での練習みたいに意味があるものだと思いたい。
『もう少し練習の様子見ていっても構いませんか?』
「ええ、構いませんよ。さあ、皆さんは練習練習♪」
趙金雲はそう言いながらポッケからスマホを取り出してベンチでピコピコと遊び出した。
『ええ...』
「ああいう監督なんです...」
はあ、と道成がため息をついてからブンブンと首を振った。
「みんな練習再開だ!」
おお!という掛け声が響き、それぞれ持ち場に移動した。
「あっ、良かったら水津さんも一緒に練習しませんか!」
稲森が言えばいいアイディアだなと言うように他の子も一緒にやりましょうと誘ってくれたが、いや、と首を振る。
『今日スカートだからさ』
そう言って制服のスカートを摘んで見せれば、幾人かの男の子達が顔を真っ赤に染めていた。
新しい雷門サッカー部も
あの子達と同じような反応するんだなぁ。