アレスの天秤編
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検査室と書かれた部屋からマゼンタ色の髪の少年が出てくる。
『お疲れ野坂』
「今日は梅雨さんの方が早かったですね」
そう言って隣に立った彼と並んで病院内の廊下を歩く。
『検査結果は?』
「前回とさして変わってないですよ」
『ふぅん?』
感情のない顔で淡々という野坂の言葉にホントか?と首を傾げたまま歩みを進める。
「梅雨さんの方は何かわかったんですか?」
『それが相変わらずさっぱりだって。とりあえず健康状態に異常はないみたいだけど』
「そうですか」
私と野坂は月に1度、こうやって外の病院に検査に来ていた。
私の例の遺伝子異常をネタに外部の病院検査と託けて、御堂院の息のかかっていない外の病院にかかる許可を得て、また例のストーカー事件の事もあるからと野坂を私の付き添いとして連れ出して、ひっそりと野坂の脳腫瘍の検査も行っていた。
『とりあえずは来週からの試合も問題なく出れそう』
「そういえば今日、予選対戦カードの発表がありますね」
来週からフットボールフロンティア地区予選の開始である。今年は選手としての出場。いやぁ、対戦当たった時に強化選手として散った雷門の子らどんな反応するかな。楽しみだ。
『うちは何処と当たるかな』
幸い現在の練習試合のランキング1位である星章学院や昨年雷門に敗れるまで40年間無敗を誇った帝国学園とはブロックが異なるため本戦を勝ち上がるまで当たらない。
「何処と当たっても僕らはアレスの天秤に従って勝つだけですよ」
『まあ、ね』
無論、私達が目指すは優勝。何処と当たっても勝たなければならない。
「梅雨さんは確か、やけに北海道の白恋中と、あと永世学園の事を調べてましたよね」
『ああ、うん』
白恋中はまあ言わずもがな、吹雪士郎が居るからである。まあ彼について調べた結果、まさかの吹雪アツヤという一個下の弟が"生きて"いて北海道内では強い学校だと知られている。
また、永世学園だが、コレはサッカー協会が定めたスポンサード制によってサッカー部にスポンサーが着くようになったのだけれど、基本スポンサーは実力のある学校にしか付かないので、それをデータとして集めている中で最近エイリアン航空という会社がスポンサーとして着いた学園であると知り、そしてそのエイリアンと言う聞き覚えのある単語に引っかかり調べた結果、私の知るお日さま園の子らが選手として登録されていた。
『白恋中の吹雪兄弟と、永世学園の基山ヒロト..じゃなかった。基山タツヤだったかな。彼らは実力者だからね』
そうそう驚いたのが基山ヒロトが基山タツヤと言う名であったことだ。他のお日さま園の子らはエイリア学園のあとにゲームやアニメで分かった実名のままであるが、何故かヒロトはヒロトで無くなっていた。思わずタツヤって誰やねんって突っ込んでしまった。以前吉良財閥について調べた時に瞳子監督の兄についての情報が一切出てこなかったことに関係しているのかも知れない。
受付で支払いを済ませて、病院を出ると入口の壁に凭れている私服姿の見知った顔があった。
『あれ、西蔭』
そう声をかければ、彼はこちらに気がついて慌てて壁から背を離し、姿勢を正した。
「お疲れ様です野坂さん、水津さん」
「結構待たせてしまったかな」
「いえ、到着からそれほど経ってません」
「そう。ならいいけど」
2人が淡々と会話する中1人首を傾げる。
大概外の病院に出た時は、野坂と2人で行って帰るのだが。これは、わざわざ野坂が西蔭を呼んだ様子だな。
「じゃあ西蔭、梅雨さんの事よろしくね」
「はい」
『うん?野坂は一緒に帰らないの?』
「ええ。少し用があるので。帰りの護衛は西蔭に任せてありますから安心してください」
ああ、なるほど。用があって野坂は離れたいが、私のストーカー被害という設定上1人で王帝月ノ宮まで1人で帰らせる訳にもいかないから、代理護衛に西蔭を呼んだと。
この外に出たタイミングでの野坂の用というのはおそらく、御堂院の証拠集めだろうなぁ。
『なるほど、分かったよ。よろしくね西蔭』
そう言いえば、西蔭はこくりと頷いた。
『じゃあ帰ろうか』
そう言って歩き出せば、西蔭は後ろに着いてきた。RPGのパーティーメンバーみたいだな。てかゲームのイナズマイレブンもRPGだし、後ろにゾロゾロとキャラが歩いてたもんね。いやはや懐かしい。RPGなら西蔭は完全に壁役だろうな。野坂は術師系だろうな。他の子なら...と脳内で王帝月ノ宮メンバーのジョブを考えて歩く。
西蔭は元々自分から私に話しかけてきたりしないし、一応こちらから話しかければ、はいとかええとか返してくれるが、現状脳内でRPGを展開してる私に西蔭に話しかける選択肢はなかったので、2人は会話する事無く黙々と帰りの道を歩いていく。
そのまま会話もなく宿舎まで着くかなと思っていた矢先だった。
「あれ?西蔭さん?」
「ほんとだ。西蔭さん!」
そう言って声をかけてきたのはフードを被った湊鼠色の髪の少年と乾鮭色の髪の所謂不良のような少年2人だった。
後ろで西蔭が、チッと舌打ちしたのが聞こえた。
「お前ら...」
どうやら西蔭的には会いたくない知り合いだったようだが、近寄ってきた2人の少年の様子からして彼らは西蔭に出会えた事を喜んでる様子だった。
『お友達?』
西蔭が足を止めたので、同じく止まって見上げるように彼を見れば、いや...と濁すように呟いた。
「誰だアンタ」
ああん?とフードの少年が、私を睨みつけ、乾鮭髪の少年がまさか!と大きな声を上げた。
「西蔭さんの女ッスか!」
「はあ!?」
突然のクソデカボイスに、西蔭ってそんな大きな声も出せるんだな、とぱちぱちと瞬きしながら彼を見れば、罰が悪そうに目を逸らされた。
「この人はそんなんじゃねぇよ」
いつもの野坂のそばに居る西蔭では有り得ない口調で話すのを見て、ああ、そういえばと思い返す。
1番最初に王帝月ノ宮に顔出しした時にめっちゃガンつけられたし、確かに時々アンタとか言うし、野坂がいない時に口が悪くなるのは何となく気がついていたが。
『もしかして...元ヤン?』
「なんだアンタ知らねぇのか!?西蔭さんといやぁ小6でここらのシマを張ってたすげぇ方だぞ!!」
いや小6でって。うん、まあ、確かに去年あった時も中1にしてはガタイ良すぎだったし、小学校の時点で他の子らより頭1つ抜きん出てただろうし、タッパがあればそりゃ喧嘩も強いでしょうよ。
にしてもなんだ。
『西蔭って下の名前せいやだったよね』
「はあ、そうですけど...?」
急になんだ?と西蔭は首を傾げている。
『ああ、いや、せいやって名前の不良の話を聞いた事あったなぁと』
私が知ってる飛鷹征矢、彼はこの時空だと今だに不良やってるんだろうか?
円堂達が2年生の時だもんね?FFIは。現状3年生になってしまったわけだし、彼はあのまま蹴りのトビーとして生きてるんだろうか。
そんなことを思っていれば、湊鼠色の髪の少年がなんだ、と声を上げる。
「やっぱり西蔭さんの名が轟いてたんっすよ!」
『え、ああ...そうね』
私の連想した彼は全くの別人なのだけど、嬉しそうに言うものだから肯定しておく。
「西蔭さんやっぱり戻ってこないですか」
「そうっすよ」
2人の言葉に西蔭はいや、と首を振った。
「俺はあの人について行くと決めたからな」
「そうですか...」
がっくし、と言った様子で2人が肩を下ろした。
そんな2人を見て西蔭はなんと声を掛けたらいいか分からない様子だった。
そんな様子に見かねて声をかける。
『2人とも良かったら来週から始まるフットボールフロンティアの王帝月ノ宮の試合見においで』
そう言えば、え、とこちらを見つめられる。
『西蔭が革命起こすとこ見においで』
「水津さん...。そうだな。俺らの試合を見れば、俺があの人について行った意味もわかるだろ」
少年2人はお互いに顔を見合わせて頷きあった。
「わかりました」
「ぜひ見に行きます」
そう言ってくれた2人に、今回のフットボールフロンティアから出場者の特典で身内を無料でスタジアムに呼べるチケットが配布されているのでそれを渡して、そこで別れる。
『元ヤンねぇ』
「...なんですか」
横を歩く西蔭をジロジロと見ていれば怪訝そうな顔をされた。
『なんで不良だったのに今、野坂に付き従ってるのかなという純粋な疑問』
「愚問ですね。そりゃあ、あの人が凄い人だからです」
『確かに頭も切れるし統率力もあるけれど、そこまで入れ込む程に?』
正直、西蔭の野坂への入れ込みは相当だと思っている。
「俺は...人間に希望なんか持っていなかった。あの日、大人達は見てるだけだった火災現場に飛び込んで行った野坂さんに会うまでは」
『火災現場って...』
それ西蔭が元ヤンやってた時の話なら野坂も小学生の頃の話よね??
「燃え盛るアパートの中に女の子が取り残されていて、近づいてみたものの火の勢いが強くてとても入れるような場所じゃなかった。なのに、あの人は自分の身も顧みず飛び込んでそこから女の子を無事助け出したんですよ。野坂さんの存在があの子供が死んでいたかもしれない世界を変えたんです」
...なるほど???人間なんてと絶望していた西蔭の前に颯爽とスーパーヒーローのような人間が現れてこの人ならという希望を抱いたって事...かな。ましてやそれが同い年の子供だったからって事か?それなら。
『野坂は少女だけでなく西蔭の世界も動かしたんだね』
そう言えば、西蔭はハッとしたように目を見開いた。
「そうですね。俺もあの人に世界を帰られた人間だ。この先もどう変えて行くのか、俺は最後まで見守るつもりだ」
『ははっ、重いね』
「そう、ですか?」
『うん。けど、そのくらいの方が野坂にはちょうどいいかも。彼は自分の命を軽んじ過ぎてるから、君の存在が抑止力になるかもね』
脳腫瘍の件もそうだか、どうにも死にたがりのようだし、彼は自身の存在価値を決めあぐねている気がする。
自分よりも他者を優位に考える子だからこそ、自分の存在を大切にしてくれる者がいる間は、それを無下にはしないのではないだろうか。
はてな、と首を傾げている西蔭の背中をぽん、と叩く。
『さ、早く帰って革命の為に試合の対戦カード見ようか』
「そうですね」
パラダイムシフト
FF予選第1試合は...星章学園対......雷門中学校!?