アレスの天秤編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『西蔭ー、こっち向いて』
「はい?」
カシャっという音と眩い光が放たれて西蔭はぱちぱちと瞬きした。
『うーん、イマイチだな』
デジタルカメラの内蔵データを見ながら梅雨が唸れば、西蔭はああ、と呟いた。
「ライセンス用の写真ですか」
『そう。今年のフットボールフロンティアに向けて新しいのになるからね。皆学年も変わったし、1年生達の分もいるしね』
「なるほど」
王帝月ノ宮に来てから幾つもの月日が流れて3年生へと進級し、この1年間でようやく中学生と名乗るのに慣れてきた感じだ。
『西蔭もう1枚』
「はい」
頷いた西蔭は棒立ちで、思わず苦笑する。
『そうだな...。西蔭、グローブをこうグイッて引っ張って』
「こうですか?」
『あ、いいねぇ』
グローブが見えるとキーパー感あるし、腕の筋肉も映えるね。というかこの1年で西蔭は更に筋肉量増えたよね。
『確認する?』
はいと頷いて、西蔭は近づいて私の横に立って手元のカメラを覗き込む。
身長差がだいぶあるのでそれでは見えないだろうと、高い位置に掲げて見せる。
『どう?これでいい?』
「はい。大丈夫です」
『よし、じゃあ次は...道場ー!それと香坂ー!』
2人で練習していたマスコットの様な可愛らしい顔立ちのまろ眉の男の子と灰色の雲のような髪型の猫口の小柄な男の子をおいでおいでと呼ぶ。
「はい!」
「水津先輩なんでしょう!」
にこやかな笑みを浮かべてやってきた彼らは今年からサッカー部に入った1年生で2人ともポジションはDFだ。
『ライセンス用の写真を撮るよ』
「「はいっ」」
ビシッと、背筋を伸ばし気をつけの体制になった2人に思わず笑みがこぼれる。
『ふたりとももうちょい肩の力抜いていいよ』
このままだとガチガチの証明写真みたいになりそう。まあ、ライセンスは身分証明書代わりだし間違っちゃ居ないんだけど。
『ポーズも取ってくれると映えるしその方がお姉さんは嬉しいかな!』
棒立ちもそれはそれで可愛いけどね。
「ポーズ...」
うーん、と道場がこめかみに人差し指で触れた。
『あっ、それいいね』
「これですか?」
『うん、道場分析得意だしイメージにあってる』
「じゃあこれで!」
『はい、じゃあ撮りまーす!』
カシャっと1枚、口角を上げて笑っている道端が取れた。
先輩というフィルターを除外しても可愛い。
『よし、じゃあ次は香坂ね。どうする?』
「動きがあってもいいんですか?」
『いいよ』
「じゃあ、こう、走ってるみたく...」
そう言って香坂は駆け出すポーズを取った。
『お、可愛い〜!』
パシャと1枚写真に収める。
「え、かっこいい、じゃないんですか!」
『うん、可愛いかな。取り直す?』
はい、と香坂が頷いたのでもう1枚角度を変えて写真を取った。最初の可愛い方は、プレカ用の写真に提出していい?と聞けばいいですよと返ってきた。どんなカードになるか楽しみだなぁ。
「そう言えば、ライセンスカードに二つ名が付いてるじゃないですか?アレって誰が決めるんです?」
『アレは確かサッカー協会が付けてるはずだよ』
「へぇ、僕たちも付くのかな」
「野坂さんの戦術の皇帝みたいにカッコいいのがいいよね」
こういう所は中学1年生らしくて実に可愛いらしい。
「西蔭さんのもカッコいいですよね!」
『ああ、静かなる##RUBY#守護者#ガーディアン##だっけ?』
西蔭に確認するように彼を見ればコクリと頷かれた。
『守護者をガーディアンって読ませるのは確かに厨二心を燻られるよね』
「中2心?先輩は3年生ですよね??」
首を傾げる香坂の純粋な瞳が突き刺さって、ウッと心臓を押さえる。
「ふふ、そうだね。水津先輩は3年生だね」
香坂の隣で道場が可愛い顔して笑っているが多分お前は厨二が何か知ってるな。
『厨二心はそうだね...実際に中2になったら分かるかもね』
「来年まで待てって事ですか?」
『そうね』
まあ中2になっても、わかんない子はわかんないだろうし、わかる子は痛い子になってるだろうし。
「そう言えば水津先輩の二つ名は何になってるんですか?」
『私?私は「フリースタイラー、だよ」
私の言葉を遮って、後ろからそのまんまな私の二つ名を言ったのは野坂の声だった。
野坂さん!と名を呼んで1年生のふたりと西蔭が背筋を伸ばす。
「梅雨さん、撮影の終わった者をいつまで引き止めてるんですか?君たちもおしゃべりしてないで、終わったなら練習に戻る」
『えー、』
「「す、すみません」」
ペコペコと、1年生2人は頭を下げて慌てて去っていく。
入ってきたばかりの2人は他の子達ほど感情の起伏が薄くなく年相応の反応をしてくれるし、同じDFポジションというのもあってつい可愛がりたくなるのだが、コミュニケーションを測ろうとするとどうにも野坂に邪魔をされる。
ちなみに前に文句を言ったら「ショタコンなんですか...?」とドン引きされながら言われ心が折れた。いいじゃん別に。
「西蔭も見ていないで、ああいう時は注意して」
「はい、すみません」
「梅雨さんは放っておくとすぐ下の者を構いたがるから」
「はい、肝に銘じます」
『いや、銘じないで』
真面目に頷く西蔭に思わずつっこむ。
『だいたい野坂は最近私が一矢と新技練習してるのが気に入らないんでしょう』
ちなみに一矢は2年生のFWの葉音一矢の事なのだけれど、彼は王帝月ノ宮生に珍しい熱血漢なので気軽に話しやすく最近は弟のように可愛がっている。きっと同じFWなのに自分が構われないのに野坂は不貞腐れてるに違いない。
「アレスで決められた事なのでそれはないです」
『ふーん?まあいいや。ついでだから野坂も撮ろうか』
カメラを掲げて見せれば、そうですね、と頷いた。
「さっさと撮って梅雨さんも早々に練習に参加してください」
『じゃあさっさとポーズ取って』
はい、と腰に手を置いた野坂を写真に収める。
くっそ、イケメンめ。単純なポーズでも絵になるな。
「なんですか?」
『いやムカつく顔してんなと思って』
そう言えば、失礼ですねと返ってきた。その顔も1枚写真に収めておく。
『はい、西蔭チェックして』
「え、俺ですか?」
どうぞ、とカメラを西蔭に手渡す。
『どう?』
「よく撮れていますね。野坂さんの素晴らしさがひと目でわかるいい写真だと思います」
ありがとう。野坂厨がそう言うならファンの子たちも大喜びの写真になるだろう。
「野坂さんも確認されますか?」
「いいよ、西蔭がOKだすなら大丈夫だろう?それより、梅雨さん自身は撮ったんですか?」
『まだだよ』
「なら西蔭撮ってあげなよ」
「え、俺がですか?」
「ちょうどカメラ持ってるし」
はあ、と困ったように頷いて西蔭はカメラを構えた。
あー、自分のポージング考えてなかったな。
どうしようか、と悩んでる間にカシャっとシャッターの切られた音がした。
『待った待った!撮るなら撮るって声掛けて!』
「あ、はい。じゃあ撮ります」
『いやいや、待って!!髪とか跳ねてないかな?大丈夫??』
髪を撫でつけながらそういえば、野坂が大丈夫ですよと言ったが、ホントか?ホントに跳ねてないだろうな??
「大丈夫可愛いですよ。ね、西蔭」
「はい、そのままでも十分絵になりますよ」
『ぐっ、お前らそういう事をあっさり真顔でいいやがって』
もっと照れて言え、中学生の可愛らしさを見せろ。
「じゃあ撮りますね」
そう言って西蔭の手によって容赦なくカメラのシャッターが切られた。
写真撮影
結局西蔭が撮った写真はブレブレで使えなかったので、丘野に撮り直して貰ったものをライセンス用に提出した。