アレスの天秤編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2週間の特訓を終えて、ついに練習試合の当日が来た。
王帝月ノ宮中のバスに乗って、稲妻町の隣町の傘美野中学校へとやってきた。ちなみに、帝国学園みたいな変な乗り物でなくてよかったな、とほっとしている。
「王帝月ノ宮中キャプテン、野坂です。本日はよろしくお願いします」
そう言って野坂は、砂色の髪をリーゼントにしている少年に握手を求めた。
こういう挨拶がきちんとできるのは教育の賜物だよなぁ。
「は、はい。傘美野中キャプテンの出前で、です!よ、よろしくお願いします」
サッカー同好会から部活動に昇格したばかりで試合経験もない。傘美野キャプテンの出前はガチガチに緊張しているようだった。
恐らく王帝月ノ宮も学校自体が設立したばかりで他校との試合がほとんどないようなので、そこで練習試合を申し込んできたのだろう。
「水津!?」
ええっ!?と大きな声で驚いたリアクションを取ってくれたのは、もちろん傘美野中に強化委員として派遣されていた半田真一だった。
『やあ、数ヶ月ぶり?』
「お、おお...久しぶり。ってか!お前それユニフォーム!?」
『そうだね』
半田はいちいち面白いリアクションしてくれるなぁ。
なんで!?とこちらを見ている半田にすくすくと笑みが漏れる。
『私も強化委員だからね』
「
『響木さんと鬼道以外は知らないよ。あー、嘘、あと夏美ちゃんが知ってる』
「なんでだよ。言っとけよ!!」
『えー?だって、黙ってた方がフットボールフロンティアで当たった時面白いじゃないか』
「お前そういう所あるよな。そういえば、雷門の話だけど...「水津さん」」
半田の話を遮って、西蔭が私の名を呼んだ。
「いつまで喋っているんですか。集合です」
淡々と冷たい声で伝えられ、思わず、すみませんと返す。
『今行きます。悪いね半田』
ごめんね、と手合わせのポーズを軽くして、急いで皆が集まっている王帝月ノ宮側のベンチに向かった。
「いや...。なんつーか、水津のいる学校雰囲気が怖ぇなぁ...」
「半田さん!今の方お知り合いですか?」
「ん。同じ雷門のサッカー部」
ああ、そうなんですね。と頷いた傘美野サッカー部員にそろそろ俺たちも行こうと言って、ベンチに向かった。
審判のホイッスルで試合が開始する。
先行は傘美野中。FWの10番茶髪を横流しした髪型の安永から11番黄色いツンツンヘアーでトンボの目のようなゴーグルをした水口へと蹴られたボールは、1度後ろに戻されMFの右頬に傷のある6番茶木にパスされる。そこからドリブルで傘美野の選手たちは上がってくる。
王帝月ノ宮のFW、MFはそれをスルーし止めることなく前線へ上がる。そう、傘美野を止めるのは私たちDFの仕事だ。
「半田さん!」
茶木からMFの半田にパスが回される。そこから半田はシュートの体制に移る。
「ローリングキック!!」
空中にボールを打ち上げ体をひねりながらジャンプしその回転の勢いを生かしシュートだ。
『花咲』
「ああ」
ゴールへ向かっていくそれに、花咲と2人、息を合わせてボールを蹴り返す。傘美野フィールドに飛んだボールを草加が取って、それを野坂にパスする。傘美野の必死のDFを軽々と突き破って野坂がノーマルシュートを放つ。
「あっ、」
とキーパーの堤が腕を伸ばしたが、あっさりとボールはゴールへ突き刺さった。
傘美野の選手たちは、悔しがったり、どんまいどんまいと掛け声をしたり、背中を叩いたりしている。
それに反してこちらのチームは黙々と皆、自身のポジションへと戻ってスタンバイする。
そんな中、ピコっとイレブンバンドが音を立てた。監督からの作戦指示だ。
水津を上がらせろ、と端的な指示。リベロとかこういうのって後半まで温存しとくんじゃないのか。とにかく点を取れってことかな。
上がるって事はゴール前のDFが、実質3人になるって事だが、まあ、花咲も桜庭も奥野も強いし、なによりキーパーは西蔭だし安心して任せれるな。
軽くその場で屈伸して、キックオフを待つ。
再び、安永がボールを蹴り水口に回し、それをMF8番マッシュルームヘアーの立野に1度下げ、そこから上がっていく。
立野から半田へとパスされる。強化委員だからかめっちゃ期待されてんだな、半田。よかったな。なんて心底思いながら、自分が上がるタイミングを見計らう。
「ジグサグスパーク!」
立ちはだかった我らが王帝月ノ宮のMF丘野を半田がジグザグのステップて切り抜ける。おお、雷門に居た時より成長してる。やっぱ期待や信頼は人を強くするよね。
そのまま半田はドリブルして上がったが、桜庭と奥野にマークされる。それを見て、私は野坂たちFWがいる前線へ走っていく。その後ろでマークされた半田が、出前へとパスを出した。
「出前、決めろ!」
キャプテン出前のシュート。
「スピニングシュート!!」
だが放たれたその必殺技は西蔭の片手にあっさりと止められてしまう。
「野坂さん」
西蔭から野坂へロングパスが渡され、野坂はそれをすかさず谷崎に回し傘美野DFから逃れる。
「水津さん」
『了解!』
谷崎の横を飛び出して、ペナルティエリアへ一直線に走る。そんな中傘美野選手達のえ!?という驚きの声が上がる。DFがこんな所にまで上がってくるんだびっくりだろう。私も最初アニメで円堂がゴールほっぽってシュートに向かったのはびびったなぁ。
「野坂さん」
「水津さん」
谷崎から野坂へ、野坂から私へ、リズム良くボールが回され、そのボールを高く蹴り上げ、バク宙捻りを魅せる。
『篠突く雨!!』
撃ったシュートは、ゴールへと降っていく。
「トルネードキャッ...うわぁ!!」
トルネードキャッチを発動しようとした堤の横を抜けて、ボールがゴールへ突き刺さった。
『やった』
とん、とフィールドに着地する。2週間の練習で着地まで何とかものになった。
やったな!とかそういう喜びのパフォーマンスなんかは、この王帝月ノ宮にないのは分かりきっているので、ひとりでにガッツポーズして、いそいそとDF位置まで戻る。
その後の試合も圧倒的で、傘美野はゴールを決めれず、王帝月ノ宮はシュートを決め、点を取っていった。
前半も後5分の所で、再びイレブンバンドが鳴った。
必殺タクティクス、グリッドオメガを使えとの指示だった。
野坂に言われるがまま練習したものの、いったいどういうタクティクスなのか全然わからないままの参加だが、いいのだろうか。
傘美野の安永がボールを奪った瞬間野坂が高らかに叫んだ。
「グリッドオメガ、フェイズ1」
野坂の指揮に従い、王帝月ノ宮選手は姿勢を低くして一斉に走り出す。
「フェイズ2」
切り裂くような突風が生まれ、それに傘美野の選手達が飲まれ巻き上がって行く。その異様な光景に、思わず走る足を止めた。
「フェイズ3」
野坂の指示で、更に巻き上げるように強い竜巻になり、そして、急に止んだそれが傘美野の選手達をフィールドに叩きつけた。
『......え』
背中から、頭から、お尻から、誰一人として受け身の取れぬ状態で落ちていく。FWもMFもDFもGKも関係なく全員巻き込まれて叩きつけられた。
なんだ、これは...。
「う、ぐ...」
『はん、だ...』
かつてのチームメイトだった半田が、苦しそうに息を漏らしていた。
ああ......。これは...。
まるで帝国やエイリアのような
自分がそちら側だなんて思っていなかった。
傘美野の女監督から棄権の申し出があった。