アレスの天秤編
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王帝月ノ宮中学への編入初日は雷門中に転校した初日と大きく異なった。
王帝月ノ宮の生徒は皆、大人しく...というか淡々としており、編入生の紹介を先生がされても、「ああ、編入生ね」みたいな感じで、机の周りを囲まれる事も質問攻めにされることもなかった。
ちなみに入ったクラスには、所属することになるサッカー部の、モヒカンマッチョこと花咲泰全と褐色ロン毛ヘアーの丘野康介がいた。
自己紹介中にその姿を見つけた時の安心感と言ったら。まだ、たった1日だけ勝負をやっただけの相手だったが、見た事のある顔があるというのはとても安心感を得られた。
授業に関しては、とても驚いた。
普通の授業もあるが、学校の設立に電子機器メーカーの月光エレクトロニクスが関与しているためか、VRゴーグルのようなものを装置して行う授業もあった。かがくのちからってすげー!とか思いながら授業を受けていたらあっという間に放課後になっていた。
そして案の定、野坂に案内して貰った練習場まで道は忘れてしまったので、花咲と丘野に案内してもらうがてら、一緒に部活動へ向かった。
学校を出て、まずは併設されているサッカー部の選手宿舎へと連れていかれる。
「ウチは更衣室はないから、各部屋で着替えをして、部活動へ向かうことになっている」
「部屋はもう渡されてるんだろう?」
花咲の質問に、うん、と頷く。
『今朝、部屋の明け渡しがあって荷物の搬入もしてもらったよ』
「制服と一緒にジャージとユニフォームも貰っただろう」
『うんうん、部屋に置いてあったね』
その置いてあったグレーのシャツとパンツと白に金の縁取りのあるブレザー、黒いネクタイの制服を今は着てる。
「ならジャージに着替えて、練習場に来てくれ」
「練習場はこの廊下を真っ直ぐ抜ければいい。迷うこともないだろう」
『ありがとう二人とも』
2人に礼を言えば、気にするなと言って、それぞれの部屋に入って行った。
梅雨も今朝方渡された部屋に入る。
部屋はワンルームでお風呂とトイレもある。
備え付けのベッドにエアコン、電子機器メーカーがバックについているからか、壁には大型TVモニターが掛けられていて、ノートPCも設置されていた。
と言っても、TVは見る時間見れる番組も限られていて、PCも使用制限が掛けられていて、フィルタリングサービス以上に制限かあるようでほとんどネットサーフィンなんかは出来ないようだ。完全にオタク殺しで泣いた。
けどまぁ、本来ならスマホも月光エレクトロニクス製の新しいものに変えられて使用制限がつくらしいのだが、強化委員としてサッカー協会との連絡や、やり取りが頻繁にあるだろうというのを考慮して、私はスマホ持ち込みで使用自由になっている。このスマホ1台でオタクの生命線がつなぎ止められた。
白と黒を基調に赤の縦線の入った王帝月ノ宮ジャージに着替えて、部屋を出た。
丘野と花咲に言われた通り真っ直ぐ廊下を進んで抜ければ、サッカーの練習場へ出た。スタジアムも完備してるとかほんと金かかってる学校だな。
「来たな」
スタジアム内に入れば、殆どのメンバーが集まっていた。
彼らが集団で集まっている正面に1人の男性が立っていた。
「お前が強化委員の水津梅雨だな。私がこの王帝月ノ宮サッカー部の監督、嵐新次郎だ」
『ご挨拶が遅れ申し訳ございません。私が雷門中より派遣されました水津です。よろしくお願いします』
ぺこりと、頭を下げて挨拶をすれば、監督は偉そうに腕を組んだ。
「強化委員だか何だか知らんが、ここではここのやり方に従ってもらう。
『心得ております』
それがここへの入学規定だしね。
そこのところは、ちゃんと入学前に説明も受けているし理解している。
各自の練習方やスタメン入りも全て
「分かっているならいいが、もしも規律に反するようなことがあれば強化委員と言えど部から去ってもらうからな」
『はい。それとお話は変わりますが、サッカー協会からの連絡事項です。後日イレブンバンドの支給があるのと、イレブンライセンス用の写真撮影を早期に行って欲しいとの事です』
「ああ、話には聞いている」
イレブンバンドというのは、今年から選手に義務づけられる事になるバンドで、選手の運動量を測ったりして、過度の練習をしていないか、など選手の状態をチェックできる代物である。またバンドに備え付けられた小さなディスプレイから試合中に監督の指示を見ることができるらしい。
イレブンライセンスの方はこちらも今年から導入予定で選手たちの持つIDカードになるらしい。主にフットボールフロンティアの会場のロッカーを開けるカードキーになったり、持っていれば無料で試合観戦が出来る特別チケットのような役割になるらしい。
またサッカー協会側の話では、このライセンスカードに登録された写真を利用してプレカという、まあ所謂トレーディングカードにしてそれを売るという話も出ていた。そこの収益から各学校に配るバンドやライセンスの資金繰りをするって事だろう。
ちなみに私もいちオタクとしてイナイレキャラのトレーディングカードめっちゃ欲しいので、サッカー協会にはめっちゃいい案ですね!!と推して置いた。
「ライセンス用の写真撮影は後日時間を取ろう」
『はい。よろしくお願いします』
「では、各自本日の練習メニューを配る」
そう言って監督はそれぞれに、練習メニューの書かれたメモを渡していく。
一人ひとり違うメニューか。これを行えるってのはやはりコンピューター管理ならではだなぁ。
練習メニューを受け取った選手達はそれぞれ自身の練習に移行していく。
まあ、まずはみんなストレッチからのようだが。
私以外のメンバーのメニューが配り終わり、最後は私か、どんな練習メニューだろうかとワクワクして待っていたが、監督は練習メニューのメモを持っていなかった。
「水津」
『はい』
「お前の今日の練習メニューはない」
『え?』
もしかして初日から監督による新人いじめですか??
「入学前に検査を受けただろう」
『はい』
先週にDNA検査とか身体検査とか確かに受けたけど...??
「その結果で
『はあ?』
DNAが特殊ってなん...ああ、私がトリッパーだからか???確かに、元の髪色や目の色から変色してたりするし、何より若返ってるしそりゃあおかしいだろう。
「もっと詳しい検査を行うとのことだ。研究者がミーティングルームに来て待っているからお前は今日は再検査に行ってこい」
『はい。えっと、ミーティングルームって何処ですか?』
「ここを出て廊下を右に曲がった先だ」
『ありがとうございます。行ってきます』
そう言って、練習を行っている皆の傍を通り抜けてスタジアムを出る。
せっかくマネージャーから選手になったのに初日から練習すら出来んって悲しいな。
そんなことを考えつつ、教えてもらった通りに廊下を曲がれば、先に大扉があった。
『失礼します』
そっと扉を開けて中に入れば、広いミーティングルームに、白衣の人間がひとりぽつんと座っていた。
「やあ、来たね。水津梅雨さん」
にっこりと笑ってこちらを見たその人に、何となく恐怖を覚えた。ブルりと身が震え、鳥肌が立った。
肌の色もとても長い髪の色も白く、顔立ちも声も男か女か分からない。
「ふふ、怖がらなくてもいいよ。こちらに来て座って」
何となく本能がこいつは危険だと警鐘を鳴らす。
従わなければ何を仕出かすか分からない。そういった恐怖に従い、ゆっくりと近づいて、前に座る。
「うん。いい子だね。君はいつも勘よくて助かるよ」
『いつも...?』
震える声で小さく呟けば、また、ふふ、と笑われた。
「うん。いつも見てたよ。君が一生懸命、ズレたこの世界を正そうとしているのを」
この世界、つまりこの人物はここがイナズマイレブンの世界というのを認知している?
「ふふ、困惑しているね。まずは自己紹介しようか?君は私の事をなんて読んでいたかな?じんだい、かみしろ、かみよ、まあ、僕的には読み方はなんだっていいんだけどさ。これが俺の名刺」
そうブツブツ言って小さな紙のカードを渡される。この人なんなんだ、一人称がぐちゃぐちゃで気持ち悪い。
渡された、名刺を見ればそこに【神代】とだけ書かれていた。
神代って、この身体の保護者だ。私の雷門への転校手続きを行った張本人。
思わず彼の顔を見れば、先程とは違う人物が立っていた。髪は黒く短く、先程の中性的な人物とは異なるハッキリとした男性の顔。
『え、?』
「あはは、驚いてる驚いてる!!あたしは誰でもないし何でもないんだよ」
男はケラケラと笑って、顔がぐにゃぐにゃと歪んで今度は金髪の可憐な少女に変わっていく。
『な、なんなの...』
分かることは、この異様な存在が、私がこの世界に来たことに関係していると言うことだ。
「そうそう。理解が早くてたすかるなぁ」
心の声とも会話ができる、ようだ。
「ふふっ、そうだよ」
そう言って少女は1番最初の白い人物の姿に戻った。
「私はね君に感謝をしているんだよ。俺が接触せずとも、自らこの世界のバグ修正を始めてくれたからね」
『バグ修正...』
恐らく私が自身がこちらに来てしまったせいでおかしくなったストーリーを元に戻そうとしていた事だろうけど。
しかし、現状私の知らないストーリーに進んでしまっている。
「うん。いいんだよ。この世界は君への報酬なんだから」
『報酬...?』
「ああ、おかしくなったこのイナズマイレブンの世界を修正したご褒美なんだよ」
エイリア学園が襲撃しないこの世界がご褒美??
『つまり、私に取って都合のいい、世界になってるって事?』
「ううん、そう言う訳では無いよ。ここは君にチャンスをあげる場だからね」
チャンス...??
「水津梅雨、27歳。元フリースタイラー。18歳の頃、フリースタイルフットボールの大会目前に無茶な練習をしアクロバットに失敗して脳震盪を起こし、その後遺症で左足に麻痺が残る。それ故に選手生命を絶たれる。そうだよね」
つらつらと、向こうの世界での私に起こった出来事を話し出した。
「君が豪炎寺や染岡が足を負傷する怪我をおった時に過剰な反応をしてたのはそのせいなんだよね」
全部知っているよ、と彼は笑った。
「過去に怪我でフリスタが出来なくなった君へのチャンスの世界なんだ。もう一度サッカーボールが蹴れるっていうね」
『それが、バグ修正を行った報酬...けどそもそもなんで私をこの世界に呼んだの』
その意味が分からない。
私で、なくてもよかったはずだ。
「その理由が知りたい?ならさ、この王帝月ノ宮でスタメンになって、フットボールフロンティアで優勝して見せて。そうすれば私が君を呼んだ理由を教えてあげる」
『フットボールフロンティアで優勝って...』
「ふふ、無理な話ではないでしょ。秘密を教えるとね、野坂悠馬は主人公なんだ。彼を優勝に導く為に雷門の時のようにバグを修正していけばいい」
主人公、野坂が...?
この世界で円堂守に代わる立ち位置って事??
「さてと、僕が今回君に教えれるのはここまでだ。次は君が優勝したらね」
そう言って神代は目を閉じた。
バタリ、と魂が抜けたようにその身体が机に伏せた。
『えっ、』
「うう...」
机に伏せた神代の姿は茶色の短髪の男になっていて、それがうめき声を上げて起き上がった。
「ここは...?はっ、水津さん!すみません、寝落ちていた見たいで!」
仕事の疲れが溜まっていたのかなぁ、あはは、と言いながら彼は首の裏をかいた。
彼は神代ではない、気配が全く違う。
「すぐに再検査の準備を行いますね!」
『え、ええ。よろしくお願いします』
なんだったんだろうか。
神代。
神の代、ねぇ。バグ修正を喜んでいたと言うことはこの世界を治世しようとしている者なのだろうか。
アフロディにも言ったが、生憎神様と言うものは信じていない、が……。
あの存在はなんなのだろうか
知る術は、フットボールフロンティアでの優勝か。