アレスの天秤編
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おかしい、おかしい...。
こんな展開は知らない。
確かに今までも、私がこの世界に来てしまった為に少し話が変わっているところがあった。それでもだ、今までだったらちゃんと私の知る本筋に戻っていた。それなのに...今回のこれはどういう事だ。
歓声が広がるサッカースタジアムのベンチで大量の水筒に粉と水を入れ、スポーツドリンクを生成する仕事をしながら、頭で考える。
響木監督が雷門イレブンに用意した、世界との試合。
スペイン代表バルセロナオーブとの試合が今開催される。
私の知りうる筈の展開では、宇宙人を名乗るエイリア学園のもの達との戦いを経て、世界大会に行くというものだったはず。
あの日、私が皆にルーティンを見せた日。本来ならあの日に襲撃されるはずだった。
だが、その日がすぎて何日が経ってもエイリアに襲撃されることはなく今日と言う日を迎える事になった。
無論何もせずに今日と言う日を待っていたわけではない。
ネットを駆使して、調べられる事を調べた。吉良財閥の事と、この数年で隕石が落ちてきていないかという事。
吉良財閥に関しては、まあ裏の情報なんかそうそう出ないとは最初から思って調べたのだが、社長の息子が亡くなっているといった情報がなく...。
本来事件であったものを事故処理したとはいえ、名のある財閥である吉良の社長の息子が事故死したとなれば古い記事やwikiにでも書いてあったりもしそうなものだが、そういった情報は全く出ずだった。
そして、エイリア石の元となるあの隕石だ。あのサイズの隕石ならニュースぐらいにはなっているだろうと調べて見たが隕石が落ちたという情報はなかった。
そんな事あるのだろうか。
結局調べても何も分からないまま、ここに至る。
雷門のスターティングメンバーは、GK円堂。
DF、風丸、壁山、栗松、土門。
MF、少林寺、鬼道、一之瀬、松野。
FW、豪炎寺、染岡。
いつもの2トップ制だ。
ベンチには半田、宍戸、影野、目金が控えている。
我らマネージャーもベンチに座る。
春奈ちゃんは新聞部としての仕事もあるのでカメラでの撮影係も兼ねている。
私も記録ボードを手に響木監督の横に座った。
エキシビションマッチの相手、バルセロナオーブも同じ2トップ構成のチームのようだ。
審判のホイッスルで試合が始まる。
ボールは雷門からのキックオフ。
スタートで豪炎寺が蹴ったボールを染岡が受け取り前進し相手選手が迫って来れば、染岡はボールを一之瀬にパスして繋ぐ。そして一之瀬が受け取ったボールは豪炎寺へのセンタリングへ。
宙へ舞った豪炎寺は、ファイヤートルネードを放った。
しかし、ゴールへと飛んだボールはスペイン代表のGKアロンソの人差し指で軽々と止められてしまった。
そしてそのGKアロンソはあろう事かボールを自身のチームメイトへパスするのではなく、豪炎寺の足元へと返して指でクイクイと、煽ってきた。
「円堂!!」
鬼道の掛け声で、円堂がゴール前から一気に駆け上がり、豪炎寺との3人でのシュート、イナズマブレイクを撃つ。
だが、それもアロンソは軽々しくジャンプをして、その落ちる瞬間揃った両足の裏でボールを地に叩きつけた。
驚愕している隙に、アロンソは今度こそ自身のチームメイトへとボールを投げ渡した。ボールを受け取ったスペイン代表は早々にセンターラインを駆け抜ける。
『これは、不味いのでは...』
非常に不味い。雷門チームはイナズマブレイクの為にGK円堂がセンターラインより上がっている。
すぐさま、DF!と鬼道が叫び、DF陣がマークに着くが、スペイン代表の皆はパスを回し軽々しくそれを避けていく。
そして何故だか、そのままパスやドリブルを行うだけで、シュートを決めようとしなかった。
違和感を覚える間に、円堂がゴール前と戻る。それを見てニヤリと笑ったスペイン代表のずいぶんとガタイの良い選手が、必殺技でもない、ただの素早いシュートを雷門ゴールへと叩きつけたのだった。
シュートを決めたのは、スペイン代表キャプテン、クラリオ=オーバンだった。
「円堂くん...」
シュートされた事に反応すら出来なかった円堂を心配するように夏未ちゃんが見つめている。
「円堂くん、まだチャンスはあるよー!!」
秋ちゃんが鼓舞するように声を上げれば、ベンチのみんなも、がんばれー!と声をあげた。
「チャンスなどない」
「『え?』」
響木監督の言葉にベンチの皆が監督を見た。
「この試合の意義は、知ることだ」
「知る?何をですか?」
「現実だ」
現実。
その言葉はきっとサッカー部に向けられた言葉だったのだろう。
だがしかし、自身の知る展開ではない、この状況に戸惑っている私に向けられ言葉のような気がした。
再び試合が再開され、駆け上がる雷門イレブン達。
土門、一之瀬、風丸の3人が、ザ・フェニックスを放つ。
だが、それをクラリオは片足て止め、チームメイトへとパスを回す。
パスを受け取ったFW選手のルーサーが雷門陣内を駆け上がる、すかさず壁山がブロックに向かいザ・ウォールを起こす。だが、ルーサーは器用にもその壁にボールを跳ね返らせて壁打ちのように使い自身脚に戻したボールをふわりと蹴りあげザ・ウォールの遥か頭上をボールが飛んでいく。
そして、そのボールは息付く間もなくゴール前へと上がってきていたクラリオによって再び決められた。
気がつけば1度も円堂がボールに触れることも無く、5点もの点数が入れられて前半戦が終了した。
本来、私が知り得る限りでは、エイリア学園との戦いで力を付けてから、世界大会へと挑んで行く予定だったものをカットして、世界と戦っているのだから致し方ないとはいえ、実力差は明白。それでも折れずに雷門イレブンは後半戦へ向かった。
スペインボールから始まり、軽やかでスムーズなパス回しによってあっという間に雷門ゴール前へとやってこられ、後半開始早々に円堂は得点を許してしまう。
だが、折れることのない円堂は、次のシュートではマジン・ザ・ハンドを繰り出した。
だが、それもクラリオの放ったボールの回転を止められず掌から弾かれたボールは無常にもゴールの方へと吸い込まれていった。
圧倒的レベル差。
ゲームで言えば、小ボスに勝ったレベルで中ボス無視して大ボス戦に挑んでいるようなものだ。
それを決定付けるように、タイムアップ目前でクラリオは必殺技を放った。
ダイヤモンドレイ。
美しい光を放つその技は一直線に、円堂の横をすり抜けて、ゴールへと突き刺さった。
そして無常にもタイムアップのホイッスルが鳴った。
0対13。
完敗だった。
『はい、豪炎寺』
「ああ...すまない」
試合終了し、疲弊しきりグラウンドに倒れたままの雷門イレブン達に、タオルとドリンクを渡していく。
圧倒的なレベル差に沈んでいる者が多い中、円堂はやっぱりサッカーは面白いと笑っている。
「日本のレベルはこの程度か?」
倒れた雷門イレブンを見下すように近づいて来たのは、スペインチームの3人だった。
「なんだと!?」
『染岡っ』
いつもの如く短気な染岡が挑発に乗ってしまったので慌てて豪炎寺と抑える。
「わざわざ日本まで来た斐はなかったな」
「いや」
ルーサーの言葉に、軽く否定をしたクラリオが、じっ、と私を見詰めた。
『...何』
手でガードするように、豪炎寺と染岡が前へ出て壁になってくれる。
「はじめまして。貴女に会えて光栄に思う。しかしながら何故、貴女がプレイヤーとして参加しなかった」
は...?思わず口をぽかんと開ける。
「水津はマネージャーだ」
「マネージャー?あれほどの技術を持ちながら??」
本当に疑問だと言ったような口調のクラリオを見て、彼のチームメイトのピンク髪のベルガモがああ!と私を指さした。
「あんたが、水津梅雨か!」
『え、あ、はい』
なんでただのマネージャーの私の名がフルネームで知られてるの。
「ああ、Ranaか」
あれかー、と言ったようにルーサーが呟くがラーナってなんだよ。
『わけがわからない』
私の様子を見て、クラリオは顎に手を当ててふむ、と呟いた。
「動画だ」
『へ?』
「イナッターやイナチューブで貴女の動画を見た。私達の国でも貴女の動画はRana en la lluviaそう呼ばれ人気がある」
あー、理解。
春奈ちゃんが撮ったあの動画、確かに目金と2人でイナッターとイナチューブに上げてた。ちゃんと許可取ってきたから良いよって答えた気がする。
『あれ海外でも見られてんの...恥ずか死ぬんだが。しかもなんか変な異名付けられてるっぽいし』
「貴女のフリースタイルフットボールの様子が雨の中、水を得て華麗に飛び跳ねる小さなカエルの様だと言う意味で付けられてる」
いや、カエルて。
あーでも最後の未完成必殺技っぽいあの雨のやつと飛び跳ねる様子の連想からなら、納得ではあるが。
「貴女のそれはとても素晴らしいプレーだった」
そう言ってクラリオはグッと拳を握った。
「だからこそ、その貴女が所属する日本1のチームとの試合を楽しみにしていたのだがな。まさかプレイヤーではなかったとは」
『フットボールフロンティアは男子のみの参戦だからね。私にはライセンスがない』
「そうか日本のサッカーはまだ、男女の差別化を図っているのか」
クラリオの言い分に首を傾げる。
「なるほど、通りで日本がこのレベルの筈だよ」
やれやれ、といったポーズでベルガモが呟いた。
私の知るフットボールフロンティアインターナショナルでは確か女子選手はいなかったはず...。
女子選手が出てる話は、公式戦では無い試合の時だけだったはずだ。
『スペインでは、男女混合で公式試合を行っているの?』
「スペインだけでは無い。他の国でも優秀なプレイヤーであれば男女問わず出場可能だ」
他の国でも。男女差別なくサッカーができるのはいいことだな。
しかし、私がこの世界に関与してしまった為に、私の都合のいいように、話が変わっていっているような気がしてならない。
「日本の選手達よ」
そう言ってクラリオは1歩前へ出て、雷門イレブンへと声を投げかけた。
「あなた方のプレーは決して悪いものではなかった。だがしかし、現状では話にならない。今後のあなた方の進化に期待する」
雷門イレブンはぐっと息を呑んだ。
「水津梅雨。これからもその素晴らしいフリースタイルフットボールを極めていって欲しい。そして日本のサッカーが変わった暁には、貴女と試合できる事を期待している」
そう言って手を差し出されたので、こちらも手を差し伸べた。
握手だと思い差し伸べたその手をクラリオは添えるように下から掬い自身の方へと運び、指先に軽くキスを落とした。
「「「はああああ!???」」」
何の気なしにその光景を見ていた雷門イレブン達から大きな声が上がった。皆すごい声でるなぁ。
「お、お前何やって」
染岡が真っ赤な顔で非難の声をあげようとすれば、クラリオはフッ、と鼻で笑って踵を返し去っていく。
はー、一之瀬も再会時に秋ちゃんにハグしてたし、海外勢は本当スマートに事をなすよね。
指先贈るキスは尊敬だったかな。
自分がキスされたわけでもないのに騒ぎ倒す雷門イレブンに腹が痛いと言うほど笑ったベルガモとルーサーもアディオスと片手を上げてからクラリオを追って去っていった。
Nos vemos.
また会うことがあるのだろうか。これから先の未来は知らない。