アレスの天秤編
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フットボールフロンティアの優勝。その後に起こる悲劇を知る私は、皆が優勝で浮かれる中、独りでに覚悟を決めバスに乗り込み、雷門中へと帰還した。
「なんだ」
雷門中へと到着しバスが校門をくぐった瞬間に見えた光景に、風丸が声を上げた。
...本当に、何なんだ。
私は独り、皆とは違う方向に驚愕した。
「みんな喜んでくれているんだ」
多くの雷門中生徒が、彼らを出迎えていた。あのグラウンドも貸して貰えなかった雷門中サッカー部が、歓迎されている。
バスを降りれば、皆は沢山の生徒達に囲まれる。
どういう事だ。
確かアニメでは、バスで学校に戻ってきた時には、エイリア学園を名乗るもの達によって学校破壊されていたはず...。ゲームではどうだったか...時間を空けてからの襲撃だったか...?くそ、その辺の記憶は曖昧だな。
「梅雨ちゃん、大丈夫?」
先程までたくさんの生徒に囲まれる皆の様子をニコニコと嬉しそうに見ていたはずの秋ちゃんが、そっと私の腕に触れ声を掛けてきた。
『秋ちゃん...』
「もしかして具合悪い?なんだか、バスに乗る前から様子がおかしかったし」
心配そうな顔で見つめてくる彼女を見てハッとする。
純粋に優勝した事を喜んでいる子供達に水を差すような事をしてはダメだ。
『心配してくれてありがとう』
よしよしと彼女の綺麗な深緑の髪を撫でる。
『皆の優勝で感極まって泣きそうだったの、我慢してたの。皆が喜んでるのに泣くのは違うかなって』
この場を乗り切るための嘘だが、半分は本当。応援してきた彼らの優勝。泣きそうなくらい嬉しいに決まっている。
「そうだったの...でも、泣いたってよかったんだよ?嬉し泣きだもの。私も泣きそうだったし」
『ホント?』
うん、と頷く秋ちゃんの髪をもう一度だけ撫でて手を離し、その指で1を作り口元に持っていく。
『でも、恥ずかしいから2人だけの秘密ね』
しっー、とやれば、秋ちゃんはふふふ、とかわいい声を上げて笑った。
「わかったわ」
『うん、よろし「せーんーぱいっ
!!」ぐぇっ、』
かわいい秋ちゃんに見とれていたら後ろから思いっきり抱きつかれ、カエルが潰れたような声が出た。
『春奈ちゃん』
「おふたりでばっかり狡いです。それに梅雨先輩約束忘れてないですよね~」
「そうでやんす!」
振り返れば春奈ちゃんを筆頭に、雷門1年ズが固まっていた。
『あの囲いから抜けてきたの?』
「急に優勝インタビューとか無理っすよ!!壁山に捕まって強引に抜けてきました」
どや、と宍戸が胸を張り、壁山の肩に乗った少林寺がうんうんと頷いている。
「皆酷いんスよ、俺を盾にして」
『あらあら』
巨体の壁山を盾にタンクのように突っ込んで抜けてきたのだろうなぁ。
「それで、フットボールフロンティア、優勝したらってあの約束忘れてないですよね」
壁山の上で脚をパタパタとさせて楽しそうに少林寺が笑う。
『あー、うん、約束ね。覚えてるよ』
今までは単発でそれぞれの技しか見せてこなかったが、雷門中が優勝したら、ダンス有りきのルーティンを見せるって約束だ。
「じゃあ、先輩ボール取って来ます!!」
『待った待った!』
慌てて春奈ちゃんを止める。
『今からやるの!?』
「そうです!」
「善は急げでやんす!」
うんうん、と1年生ズが頷いている。
『こんなにギャラリー居る中で!?』
君たちが囲いから逃げだしたから、追っかけて来た雷門中生が結構な数居て、何が始まるんだとこちらを見ているのに!?
「サッカースタジアムはもっと観覧が居ましたよ」
俺らはそこで試合をしたんだと、さらりと宍戸が言ってのける。
『はぁ。わかったよ。でもせめて制服からは着替えさせて欲しいな』
大きくため息をついて、部室に向かった。
部室にたどり着いて、ガラガラと扉を横に動かす。
誰かいるかもしれないが、男子が着替えてようが、キャーキャー言う歳でもないのでお構い無しに開ける。
「む、水津か。どうした」
扉を開ければちょうど部屋を後にしようとしていたのか響木監督が扉越しすぐに居て、その奥にはブレイク組の3人が居た。
『かわいい子供たちのお願いされたんでね』
部室に置いていた私物を手に取る。
『お祝いのパフォーマンスを、と』
片手に持ったソレを指の上でくるくると回せば、なるほどな、と呟いて響木さんは笑った。
「お前はトコトン年下に甘いな」
『優しいお姉さんでしょ??』
「ああ」
通り過ぎ様ポンポンと私の頭に手を軽く乗せて響木監督は、楽しませて貰おう、と言って部室を出ていった。
響木監督が去った部室の奥には、椅子の背もたれを前に掴んだ円堂が、目をキラッキラとさせてこちらを見ていた。
「アレ、やるのか!?」
『うん』
返事をしながら、制服のリボンを取り外す。
うぉ~~、楽しみだ~!と何故だか円堂が燃えている。
そんな見たかったのか。
ロッカーから、ユニホームを取り出す。1番最初の雷門対帝国戦で秋ちゃんが用意してくれて、公式戦には出られないから尾刈斗戦以降来てなかったユニホームだ。マネージャー業務では常にジャージだったしなぁ。
そんなに経っていないのに懐かしい。
手に持ったズボンをスカートの下から穿こうと足にかけようとした瞬間、バッと腕を掴まれた。
「待て待て水津!!」
必死の形相、かはゴーグルで顔が見えないので分からないが、切羽詰まったような声で鬼道が止めに入った。
『どうしたん』
「着替えるなら着替えると言え!!!」
彼のゴーグルをかけた耳の端が赤くなってるのを見て、ああ、と察する。
『鬼道クンのえっち』
きゃー、とふざけて前を隠すようなポーズを取れば、掴んだままの腕に強い力が入った。
『痛い痛い、鬼道。痛い』
「いいか水津。お前は女で、俺たちは男だ。恥じらいを持て」
んなこと言われても一回り違うし
『皆、弟みたいなもんじゃん...って痛い痛い』
「頼むから危機感も持ってくれ」
『わかった、わかった』
そう言えば、やっと腕が解放される。
いてて、と腕を摩ると、「強く握りすぎたな、すまない。」と謝ってきたので、よしよしと鬼道の頭を撫でる。
「だからお前はそういう事を...!」
「鬼道。円堂を連れ出して置いた」
鬼道が私に論議しようとしたところに、豪炎寺が声をかけた。
どうやら2人でわちゃわちゃやってる間に、おそらく私が着替える事を察せない円堂を追い出してくれたのだろう。
「あ、ああ...そうか」
『ほらほら、着替えるから鬼道も出てって~』
「お前っ、」
そこまで言いかけて鬼道は大きくため息を吐いた。
「後で覚えていろ」
そう言って鬼道は部室を出ていった。
『ハッ、秒で忘れた』
そう言えば、1人残った豪炎寺が、ぶっと小さく吹き出した。
「仲がいいな」
『そう?』
ああ、と豪炎寺が頷く。
「パフォーマンス楽しみにしてる」
そう言って、ぽんと私の頭に手を1度置いて、それから部室を出ていった。
『ヒュー』
イケメンはやることが違うぜ。
ユニホームへと着替えて、リフティングボールを抱えて、部室を出ると目の前に夏未ちゃんがいた。
その表情は何処か怒っているように見える。
「貴方、男子が居るのに着替えようとしたんですって??」
『いやぁ?そんな訳ないじゃないですかー』
「何故敬語なのよ。それと、しらばっくれても無駄よ。鬼道くんから報告を受けました」
あの野郎。私が夏未ちゃんに弱いと知ってチクったな。
「貴方って人は本当に...!」
『ごめんて。別に全部脱いだりしようとした訳じゃないよ?スカートの下からズボン穿くつもりだったし、そもそも下にスパッツ穿いてるし。シャツもさきにユニホーム着てその中で脱ぐつもりだったし』
そう言えば、夏未ちゃんは頭を抱えた。
「ありえない...鬼道くんの心痛察するわ」
えーー、私が現世で学生やってた頃は田舎の学校だったからか更衣室なんてものはなかったし、男女一緒の部屋で着替えさせられてたし、別に問題なくない???
「はあ。とりあえず、皆待って居るからグラウンドへ行きましょう」
歩き出した夏未ちゃんを追って隣に並んで私も進む。
『は...、緊張してきた』
「大丈夫なの?」
『ん、口から胃が飛び出そう』
「なんなのよその表現」
そう言いながらも、夏未ちゃんは私の背を摩ってくれた。
『ありがとう』
「別に貴方の為じゃないわ。ただ、私が貴方のやるフリースタイルフットボールってのが見てみたいから万全の状態でいてもらわないと」
どうたらこうたらと夏未ちゃんの口から紡がれる。
ツンデレありがとう。
『夏未ちゃんの為に最高のパフォーマンスをするよ』
「もう。私じゃなくて雷門イレブンのお祝いでしょう」
グラウンドに着いて、沢山の生徒達、その1番前に並んだ雷門イレブンの前へと、ずいっと夏未ちゃんによって背中を推される。
『えー、と、』
「よっ!待ってました!」
茶化しを入れてきた半田をひとまず無視して、雷門イレブンではなく、生徒達の中に居るはずであるある人物を探す。
『あ、居たいた。角馬くん』
ひょいひょいと手招きすれば、角刈り眼鏡の彼がいつものお手製実況台を首からぶら下げて出てきた。
『MCが欲しいんだけど、出来たりする?』
モチベーション的にMCがあってくれる方が助かるのだが...。
「この角馬圭太におまかせください!」
ぐっ、と親指を立ててくれた。
『助かる。よろしく頼むよ』
MCの流れの説明と、この曲をかけてとスマホを渡す。
角馬くんには客席から見て左の方でMCやって貰うので、自分は右のグラウンド端に寄って待機してOKサインを出す。
「それでは参りましょう。本日のメーンイベント。雷門サッカー部のフットボールフロンティア優勝祝いに、フリースタイルフットボールを見せてくれるのはこの女、水津梅雨~!!」
大きな拍手が起こりそれと共に音楽が鳴り出す。
楽曲は私が気に入っている和ロック。
全身でリズムを測りながら、緊張感とボールを片手に中央へ向かう。
「「頑張れ水津~!」」
そう言って、一之瀬と土門が音楽に合わせてクラップハンズで場を盛り上げてくれる。
2人に見習って周りも手拍子をくれる。
アメリカ組はノリが良くて助かる。
舞台中央でボールを両手で挟んで内側に回転をかけて落とす。
それを右足側面で受け止めて、リズムに合わせて簡単なリフティングから始める。
クロスオーバーからアラウンドサワールド、そこからさらにフェアリーレッグオーバー。
立ったまま行うエアムーブだけではなく、座って行うシッティングも間に織り交ぜながら、多種多様な技を見せていく。
大きな技をした時に、おお~と上がる歓声に、自身のボルテージも上がっていく。
元々現世で作っていた本来のルーティンにはなかったが、身体能力の上がったこちらの世界ならではで、できるのではないかと、組み込んだアクロバット技。
皆には知られていないが、この約束を取り付けた時から雷門中が優勝するのを知っていた私は、ひっそりとこのルーティンの練習をしていた。
円堂曰く、練習はおにぎりだもんね。ちゃんと私の身になっている。
最後に、音楽が鳴り止む音と共に、現世にもある大技、ボール真上に蹴り上げた後バク宙をして空中でボールを太ももに挟むという、バックフリップクラッチを決める、はずだった。
最後の最後に、目測を誤った。
ボールは、自身が思ったよりも高く浮いていて、それに気がついたのはバク宙をキメた瞬間で、咄嗟にそのボールが爪先に届くと判断しそのままの勢いでボールを地に叩きつけた。
『えっ...』
今、一瞬、ボールの周りだけ雨が降らなかったか?
「うぉおおおお」
「すげぇええええええ」
着地と共に歓声が轟、ビクリと肩を揺らす。
大きな歓声と拍手が鳴り響き、慌ててお辞儀をする。
「すっげー!!ずっげーよ!!水津!!」
誰よりも早く、円堂が飛び出してきて肩を掴んで揺さぶられる。
『え、ちょっと』
「くるん、びょーん、ぱっ!ってなんだあれ!お前すっげーよ!!」
1ミリもどの技の事言ってんのかわかんないよ。
というか、
『えん、どう、ガクガク、するの、やめ』
「落ち着け、円堂!水津が死ぬ」
そう言って風丸が止めに入ってくれたおかげで、お、そうか、と円堂は揺らすのを止めてくれた。
「すっげーなー!!特に最後のアレ!!」
「なんかスコール見たいに見えたな」
風丸に続いてぞろぞろと他の雷門イレブンも周りに集まってくる。
「必殺技ぽかったでやんす!!」
『いやいや、あれ最後キャッチで終わるはずだったんだよ』
「え、失敗だったの!?」
そうは見えなかったけど、とマックスは言うが私の中では完全に失敗だったのだ。たまたま運良く爪先が当たって、ボールを蹴れた。それだけだった筈なのに、皆にも雨のようなアレが見えているとは...。
「バッチリカメラにも収めてありますよ!!」
録画をしてくれていたのか、春奈ちゃんがビデオカメラのモニターを開けば、皆がどれどれと覗き込む。
「これ...極めれば必殺技になりそうだね、フフフ」
影野の言葉に、いやいやいやいや、と返す。
「オーバーヘッドキックですから、イナズマ落としに近い感じの技になりそうですね」
『勝手に必殺技にする方で話を進めないでくれたまえ目金氏』
「ネーミングは任せてください」
グッ、じゃないんだよ。親指を突きつけるんじゃないよ。
もう...、皆、失敗のやつにインパクト取られて、ルーティン全然褒めてくれないじゃん。
地味に部活終わりとか休みの日に練習頑張ったのに。
むぅ、と膨れていると、半田の横にいた染岡と目が合った。
ああ、そう言えば、フリスタなんか、と馬鹿にしてくれた子がいた気がするなぁ?
『よぉよぉ、染岡よぉ』
「うっわ、なんだよ」
近づけば、心底嫌そうな顔をされる。
『実際見てみて、フリースタイルフットボールはどうだった』
「あー...、」
過去に自分がついた悪態を思い出し、染岡は唸った。
「凄かったぜ水津。音楽と合わせると華やかさとワクワク感が凄かった!!」
答えない染岡の代わりに半田が答えてくれた。
『半田はいい子だなぁ!!』
感想の語彙は死んでるけど。
よしよしと頭を撫でる。撫でれば、馬鹿やめろってと怒られる。照れちゃって、かわいいなぁ。
「あー」
染岡があげた声に、半田と2人してそっちを見る。
「悪くなかった」
『はぁ??』
「お前それはよくねーぞ!!」
染岡の回答に2人でキレれれば、染岡は、あーもう、と頭をかいた。
「正直ここまでのレベルのもんだと思ってなかった。遊びでチャラチャラやってるもんだと思ってた。悪かった」
ぶっきらぼうにそう言った染岡を見て、半田と目を合わせる。
「どうですか水津さん。この回答でご満足いただけたでしょうか?」
『うーん、そうですね。まあまあと言った所でしょうか』
「クソ茶番始めんな!」
『えーー、だって染岡が素直に褒めてくれないんだもん』
ねー、と半田のと顔を合わせる。
「お前らなぁ...!」
染岡の怒ったような声を聞いて半田と2人でけらけらと笑う。
こちらに来てから、よくある光景。
それを見てふと、思った。
日常となりつつあるこれが、おそらくこれからエイリアの襲来によって壊される。
それでも今は。
一次の休息
まさか、エイリア学園は来ないし、春奈ちゃんが撮った動画がイナッターで10万再生も行くなんて思ってもいなかった。