世界への挑戦編
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毎朝書いてもらっているコンデショニングチェックシートと練習の様子を見比べて大きなため息を吐いた。
緑川リュウジ。彼のチェックシートの疲労度の欄には、良い方に丸してあるが……練習風景を見るにどうにも疲れた様子が窺える。
これはやはり、私の目を盗んで練習後も特訓しているのだろう。
カタール戦の前に注意したこともあって、隠れてやってるんだろうけど、コンディショニングチェックシートに嘘を書くとは……。まったく……何のためにこれが必要なのか分かってないな。
『はあ…………』
「随分と大きなため息だな」
そう言って近寄ってきたのは鬼道だった。
『ああ、ちょっと問題児がね』
「不動か?」
『いいや、あの子は練習に関しては、集中して決められたものをしっかりこなし、無駄なことはしないし効率的で模範生的よ』
不動に関してはオーバーワークの心配がいらないの本当に有難い。
みんな残って特訓しがちだからなぁ……。
「そうか……」
鬼道はなんとも言えぬ複雑そうな声色でそう呟いた。
『そうよ。ところで、鬼道はなんか用があって来たんじゃないの?』
練習中に抜けて来るくらいだ。雑談しにきたわけではあるまい。
「ああ、急で悪いんだが、何人かの練習メニューの変更を頼めるか?」
『何か問題が?』
「いや、練習メニューに問題はない。ただ、そろそろ新必殺技が必要となってくるだろうと思ってな」
『あー』
あったな新必殺技の話。
『何人かって事はある程度必殺技の構想はできてるんだね?』
「ああ。1人は風丸だ。代表選考の際に綱海を抜こうとして見せたあの瞬足から生まれた風。あれが使えないかと思ってな」
『確かに、タッパある方の綱海が風に押されてたもんね。いいんじゃない?』
「後は、吹雪と土方に連携技を習得してもらおうと思っている」
『スピードの吹雪とパワーの土方ね。ワイバーンブリザードみたいな感じになるかな』
「ああ。その上、土方はボディバランスがいいからその点も上手く組み合わされれば……」
確かに、土方はスーパーしこふみであれだけ大きく片足を上げてもバランスを保てているのだから、体幹がいいのだろう。
『なるほどね。わかった。直ぐに必殺技用のメニュー用意するよ』
「すまないな。問題児の件もあるだろうが……」
『大丈夫大丈夫。そっちは、まあ、協力してくれる子がいるから』
「そうか?まあ、何かあれば俺も協力出来ることはするから言ってくれ」
鬼道のその言葉に、あ、それなら、と1つ思いつく。
『できるだけみんなのいいプレーは褒めてあげて』
「そんなことでいいのか?」
『うん。鬼道みたいな上手い人から褒められるってのは自己肯定感上がるんだよ』
「ふむ……。俺が上手いかはともかくとして、わからなくはない、な」
鬼道は、どこか遠くを眺めながら小さく肯定した。
恐らく幼い頃から彼のプレーを褒めてくれたのは、師である影山零治だっただろうし思い返すのは複雑な気持ちだろうな。
『鬼道が飴やったその分、久遠さんと私が鞭やるからさ』
「そうか。ならばその鞭に期待しておこう」
『任しとけ』
そう言えば鬼道は、うんと頷いた後練習へ戻って行った。
そして、その日のうちに3名の練習メニューの変更を行い、翌日のミーティングの後から、それぞれ新必殺技の特訓がスタートしたのだった。
が、なぜだか鬼道の予定には無かった壁山と綱海の2人が連携技の練習を行っている。
「水津先輩助けてくださいッス!!」
様子を見にいけば、半泣きの壁山が駆け寄ってきた。
『どうしたの?』
「綱海さん、めちゃくちゃなんッス!!どういう必殺技にするとか、そういうビションも無いままノリだーって!」
「んだよ、こういうのはガッーと勢いでやれば出来るもんだって!なあ、水津?」
嘆く壁山の横に立ち、綱海は同意を求めてきた。
『いや、それで出来るならみんな苦労しないって』
ウンウンと壁山が首を激しく縦に振る。
「けどよー」
綱海からすれば、彼のツナミブーストもザ・タイフーンも、試合の最中ノリと勢いで出来た技だからそれでいけると思うんだろうけど……。
『綱海ひとりの必殺技ならね、それで良いと思うけど、連携技を作りたいのなら、まず相手のことを考えないと。ほら、サーフィンする時だって、最初にどんな波か知ってから、どう波に乗るか考えるでしょ?』
「確かに。そうか、壁山の事を考える、か」
『そう。特に壁山は怖がりで慎重派なんだから、せめてシュート技にするのかブロック技にするのかぐらい決めてから練習しな』
「そうッス。俺たち2人ともDFなんッスからブロック技にしよう〜とかいろいろあるじゃないッスか」
「おお、確かに俺たち2人ともDFだな。よし!んじゃ、それで決まりだ!行くぜ壁山!」
そう言って綱海はボールを持って走り去っていく。
「え、ええー!?そんな簡単に……!?」
『まー、しょうがない。あれが綱海だし。頑張れ、壁山』
ぽん、と肩を叩き壁山を応援した後、次の場所に向かった。
『3人とも様子はどう?』
今度は、本来鬼道の予定にあった連携シュートを練習している吹雪と土方、それとそれに付き合ってゴールに立つ円堂に声をかけた。
「おう、水津!それがなぁ……」
うーん、と円堂が渋い顔をしている。
「なかなか難しいもんだな連携技ってのは」
汗を拭いながら土方がそう言う。
『タイミングとか合わせないとだもんね』
「そうなんだ。そこがなかなか上手くいかなくて」
困ったなぁと吹雪は笑っている。
この吹雪のスピードだしなぁ。あれに練習もなしにドンピシャでセンタリングをあげた染岡って改めて考えると凄いんだな。
「どうすれば上手くいくんだろう」
『そうだねぇ。それこそ、ワイバーンブリザードの時ってどうやってたの?』
「あれは、染岡くんがボクに合わせてくれてたから」
『なるほどね』
まあそうよね。あの頃の人格は俺様な感じだったわけだし。
吹雪が人に合わせるようになったのは、エイリア学園との戦いの終盤の方だった。
『もしかして、今は吹雪が土方に合わせようとしてるんじゃない?』
そう聞けば吹雪は、え?と少し首を傾げたあと、うんと頷いた。
「だって、そうしないと上手く連携できないでしょ?」
ああ、やっぱりね。
『で、土方は土方で吹雪に合わせようとしてるでしょ?』
「そりゃあそうだろ?」
連携なんだからお互いが合わせようとするのは、土方がいうようにそりゃあそうなんだけど……。
『それ、お互いが自分の良いところ潰してるかも』
どういうことだ、と円堂を含め3人が首を傾げる。
『だって、土方に合わせるために吹雪は自分のトップスピード出せてないんじゃない?逆に土方は、吹雪に合わせる為にフルパワーで撃ててないんじゃない?』
そう聞けば、吹雪も土方もそれは……と言い淀んだ。
「つまり、お互いが合わせようと遠慮した結果、合ってないってことか?」
円堂の言葉に、たぶんね、と頷く。
『どちらかに合わせた方がいいんじゃない?ワイバーンブリザードみたいに、吹雪に合わせるとか。それなら、前例のある染岡にタイミングのアドバイスとかももらえるかもしれないし』
「なるほどな。それでやってみるか?」
「うん!そうだね、染岡くんに聞いてみるってのも凄くいいかも!ね、水津さん連絡して聞いてみてよ」
吹雪の言葉に思わず、えっ、と固まる。
『…いや、連携技やるキミらが直接聞いた方が早いでしょ。連絡先は吹雪が知ってんだし。次、風丸の様子見なきゃだから私はもう行くね』
「え、あ、うん」
まくし立てるように言ったからか、吹雪は少し驚いたような顔をしていた。
「サンキューな水津」
「言われたこと試してみるな!」
そう言った円堂と土方に頷いて、足早にその場を去るのだった。
あからさまに避ける
いや、だってなんか気まずいし。