世界への挑戦編
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水津梅雨。代表選考の日に紹介されたイナズマジャパンのトレーナー。
元々雷門中のマネージャーらしいが、オレたちの練習に混ざってボールを蹴る姿を見るに、素人目で見てもサッカーが上手いんだろうと分かる。
特にリフティングってやつをやってる時はボールにも体にも磁石が入ってるんじゃないか、ってほど落とさない。
だから、同年代のやつがトレーナーでも納得できた。
響木さんには、練習中分からないことがあれば水津に聞けと言われたが、皆の前で分からないなんてダセェことが言えずにいた。
そんなオレのことを知ってか知らずか、水津トレーナーはいつも個人用のトレーニングメニュー表に、トラップやチェックなどのサッカーの用語を説明を懇切丁寧に書いてくれている。
夜に響木さんとの特訓のため出かけるのにも、いつも何も聞かず、行ってらっしゃいと見送られるので、響木さんに事情を話したのかと聞けば、話してないぞ、と笑われた。
響木さん曰く、水津はそういう奴だ、との事だが、そういう奴はどういう奴なのだろうか。
今日も響木さんとの特訓のため、いつもの路地裏に向かったが、来たのは何故かキャプテンで、響木さんとじゃなけりゃやらねぇと河川敷に逃げたオレをキャプテンは追っかけて来て、なんだかんだあって結局、夜遅くオレがシュートを決めるまでキャプテンと特訓をした。
腹が減ったというキャプテンを先に帰らせて、少しだけ、今の感覚を忘れないようにと誰も立たないゴールに何回かシュートを打って、満足したところで合宿所に帰ればいつもの如く食堂に明かりがついていた。
いつも通りならば、水津トレーナーが仕事をしているはず。自室もあるのにここで仕事をしているのは、出かけた奴らが帰ってくるのを出迎えるためのようで、オレも帰ってきたら一応声をかけるようにしている。
「戻りました」
食堂へ顔を覗かせれば、水津トレーナーと一緒にキャプテンがいて、その手には丼と箸が握られていた。
『おかえり〜。飛鷹もお夜食、食べてくでしょ?』
「いや、オレは………!」
断ろうと思った瞬間、腹の虫が鳴った。
「動いた後は腹減るよなー!水津の作ったたまご丼美味いぜ!」
『響木さんのチャーハンには負けるかもしれないけどね!』
キャプテンもトレーナーもニッと笑って、おいでおいでと手招いてくる。
まあ、腹は減ってるし、と2人が座っている席から少し離れた席に腰をかける。
そうすれば、水津トレーナーは席を立ち奥の厨房へ入り、数分して戻ってきてオレの前にふわとろのたまごの乗った丼を置いた。
『どうぞ』
「あざっす」
オレが食べ始めると同時にトレーナーは目の前の席に座った。
『円堂と特訓は疲れたでしょ。むちゃくちゃだから』
え、とキャプテンの方を見る。
特訓の事は秘密に、と言ったはずだが……。
キャプテンは丼をかけこんだタイミングだったのか、頬をいっぱいに膨らませたまま慌ててブンブンと首を横に振った。
『あ、秘密なんだっけ、ごめんごめん』
トレーナーの言葉にやっぱり話したのかと睨めば、キャプテンはゴクンと口の中のものを飲み干して口を開いた。
「飛鷹!オレは喋ってないぞ!ほら、水津はそういうやつだから……!」
「そういうやつって……」
どういうやつだよ、と水津トレーナーを見る。
『あー、響木さんから聞いてない感じ?』
聞いてないって何をだ。
『その顔は聞いてないね』
心当たりがあるとすれば……。
「響木さんも、そういうやつって言ってましたけど……どういう意味っすか?」
「ああ、そっか!飛鷹は知らなかったのか」
キャプテンは何か納得したような顔をしている。
『とりあえず、私について説明しようか』
そう言って水津トレーナーは、かくかくしかじかと自分の事を説明してくれた。
だが、その話が突拍子もない。
「からかってるんっすか?」
『まあ、普通はそういう反応だよねぇ』
なぜだか嬉しそうにトレーナーは笑っている。
『でも、からかってるわけじゃないよ。嘘つくんならもっと分かりにくい嘘つくって』
そう言われてしまえば、確かにと言わざるおえない。
けど、異世界から来て、オレたちの過去や未来を知っていて、その上、中身はオレたちよりうんと歳上……ってそんな話か信じられるか?
「……でもまあ、2人してわざわざオレにそんな嘘つく意味ねえですもんね」
『うん、ないね』
「ああ、ないぞ」
2人揃って即答される。水津トレーナーは分からないが、キャプテンに関しては明らかに嘘がつけるタイプでもないだろうし、何より響木さんが信頼している時点でトレーナーがオレたちより歳上と言うのは納得がいく。
「じゃあ、水津姐さんに
なるのか……?」
『うん?姐さん?まあ、お姉さんだけれども……飛鷹、結構混乱してるね?』
その言葉に、ッス、と小さく頷く。
『無理に理解しようとしないでいいよ。ただ皆と認識の相違があると話についていけない点はあるだろうから、頭の片隅にそんな事言ってたなーくらいに留めて置いて』
水津トレーナーからは、信じて欲しい等という必死さは一切感じられない。
むしろこれが大人の余裕って奴なのか?
「わかり、ました」
『うん。あ、2人とも話で箸止めさせちゃったね。食べていいよ』
「あ!そうだった!」
そう言って再びガツガツと丼を駆け込むキャプテンを見て、オレもうっすと頷き再び丼に手をつけるのだった。
アウトサイダーなのは
オレだと思っていたのだが。後々、それは私だと彼女は笑って言うのだった。