フットボールフロンティア編
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『今日もまた増えてるのかなぁ』
ここ数日、日に日に増えゆく他校の偵察に頭を悩ませている。
夏未ちゃん命令で必殺技の練習は禁止となり、皆は基礎練に励んでいるが...。
『円堂が言ったみたいに誰にも見られない練習場でもあればなー』
わざとらしくそう言ってチラリと隣を歩く夏未ちゃんを見る。
「そんな都合のいい所はないわよ」
『だよねぇ。せめて校内のグラウンドでも使えれば、部外者は立ち入り禁止ですって追い払えるのになぁ』
河川敷で練習してるとあらゆる方向から見放題好き放題に観察されている。
「校内グラウンドは無理よ。他の部活動の予約で当分埋まってますから」
モンスター校であるこの雷門中学は部活動の数も相当多く、グラウンドの使用権は全国大会に出る部活優先での貸出となっている。
『だよねぇ。グラウンドは使えなくても、せめて必殺技だけでも練習できる場所がないかなぁ』
「そんなこと言われても...」
うーん、と2人して唸りながら歩いていれば、後ろから名を呼ぶ声が聞こえて振り返った。
「夏未さん、水津さん!」
秋ちゃんが名を呼んで、早歩きで近づいてきた。
「えっと、良かったら2人共、一緒に部室まで行きましょう?」
向かうところが同じなので、もちろんと頷く。
「あら、ごめんなさい。私は今から理事長室なの。サッカー部には2人で向かってもらえるかしら」
『あー、生徒会?頑張ってね』
「ええ。2人共、円堂くんが必殺技の練習しないようにしっかりと見張っていてね」
それじゃあ、と夏未ちゃんは階段前で立ち止まった。
部室に向かう私達は下に、夏未は上の階に行くので、ここで別れる形になる。
『また明日ね、夏未ちゃん』
「ええ。...、木野さんもまた明日」
友達というものに慣れない夏未ちゃんが少し気恥しそうにそう言えば、秋ちゃんは一瞬驚いた表情をしてそれから直ぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「うん。また明日」
バイバイと手を振って夏未ちゃんと別れて階段を下っていく。
『秋ちゃんは、夏未ちゃんの事ちょっと苦手...?』
「えっ、」
『ああ、いや。ほら夏未ちゃん、廃部!とか言ってたからさ。染岡なんかは割と目の敵にしてたじゃない?』
あー、と思い返すように呟いて秋ちゃんは困ったように笑った。
「苦手だとか敵とかいう気持ちはないよ。ただ、理事長の娘さんだしどう接したらいいのかな?とはちょっと思ってる」
なるほど、仰々しがったのはそっちせいか。
『そっか。まあ、さっきの反応見たら分かると思うけど、夏未ちゃんもただの女の子だからさ。まあちょっとツンケンしてるけど...今日みたいにまた、一緒に行こうとか声掛けて上げて欲しいな』
「ええ。水津さんと仲がいいんだもの。悪い子じゃないのは分かるわ」
おおう、そこで私が引き合いに出されるとは思ってなかったわ。
「また話しかけてみるね」
『うん。夏未ちゃんをよろしくね』
そう言えば、秋ちゃんはふふっと小さく笑った。思わずなんだ?と首を傾げる。
「水津さんっては夏未さんのお母さんみたいね」
『そう?』
まあ自分アラサーだし、夏未ちゃんに限らず、サッカーみんな子供気分だけどねぇ。
ええ、と頷いてくすくすと笑う秋ちゃんと共に部室へと足を進めていくのであった。
タオルとドリンクの準備を部室で終えてから、河川敷に向かう。
選手たちは先に河川敷に来て既に柔軟を始めているが...やっぱり今日も偵察増えてるね。
無視して、基礎練習しようと意気込んで選手たちは柔軟を続けていると。
「おい、なんか変なのがきたぞ」
土門の言葉に、振り向けば大型トラックが2台続けて河川敷の横に止まった。
こういうの確かウィングボディと言っただろうか。トラックのアルミバン出できている側面が開いて、そこから人工衛星のパネルのような形のアンテナが伸びていく。
「偵察にしちゃあスゴすぎじゃね?」
「今度こそテレビ局でヤンスか!?」
「バカ、上にあるのレーダーだぞ、レーダー」
柔軟をしていた選手達がゾロゾロと集まって、その異様なトラックを見つめる。
「戦争でもする気かよ」
戦争ちゃ戦争だよなぁ、今から起こるのは。まあ、あのレーダーは恐らく衛星通信用のアンテナだろうけど。
「なんだぁ、アイツら」
ぼんやりと見上げて言う円堂に春奈ちゃんが、次の対戦相手です!と声を上げる。
「次の対戦相手?」
『御影専農中だったよね?』
そう聞けば、はい!と春奈ちゃんは大きく頷いた。
「あの2人は御影専農のメンバーで...、私、データベース作ったんです!」
そう言って春奈ちゃんは持ってきていたピンクのノートPCを開いて見せた。
「今までの記録とか対戦するかもしれない相手の。それでピンときて!」
カタカタとキーボードを叩いて春奈ちゃんは円堂にPCを見せた。
「エースストライカーの下鶴改と、キャプテンでゴールキーパーの杉森威です!」
浅蘇芳色の髪の少年、下鶴と背の高い青紫のトゲトゲ頭の杉森はトラックの開かれた荷台部分に設置された椅子に座り、薄グリーンのゴーグルのような物を装着して監視を始めた。
「徹底的に観察する気でいやがるぜ。やな感じだな」
「気にせず行こう。さ、シュート練習だ」
染岡と豪炎寺が、偵察を無視して練習に向かえば他の子達もつられて練習に向かった。
円堂がゴール前に立ち、選手達は1列に並び1人ずつシュートを打っては交代していく、超次元ではない至って普通のシュート練習。
超次元じゃない世界で育った身としては少年サッカー部としてしっくりくるなぁとぼんやりとシュート練を見ていると、円堂がタイム!と手を広げた。
「みんなちょっとストップ!」
何事かと円堂の見ていた方を見れば、グラウンド内にズカズカと御影専農の2人が入ってきた。
「御影専農のキャプテンだよな!練習中にグラウンドに入らないでくれよ!!」
「何故必殺技の練習を隠す」
噛み合わない会話に、えっ?と円堂だけでなく他の子達も怪訝そうに、杉森を見た。
純粋に答えるなら君らみたいなのが偵察に来るからなんだけどなぁ。
「今更隠しても無駄だ。既に我々は君たち全員の能力を解析している」
「評価はD-だ。我々には100%勝てない」
淡々と語る2人に対象円堂は顔の前で力強く拳を握った。
「勝負はやってみなきゃ分からないだろ!」
「勝負?これは害虫駆除作業だ」
何を言ってるんだ?という風にただ淡々とそう言う下鶴に雷門イレブン一同から、害虫ってなんだよ!とか最低!!とブーイングが入る。
「俺が追い出してやる!!」
雷門イレブン1血気盛んな染岡が動き出そうとするのを、まあまあ、と腕を引いて止める。
「痛てぇ、何すんだよ!水津!...水津?」
静かに怒りを燃やした円堂が杉森と下鶴に俺たちを害虫と言ったのを取り消せと怒っている。
そんな彼らの前に梅雨はニッコリと笑みを浮かべて出た。
「...アイツ、めちゃくちゃ怒ってんな」
何度か梅雨を怒らせた経験がある染岡が何かを察したように呟く。
『君達、誹謗中傷は名誉毀損罪ってしってる?』
「誹謗中傷?ただ、事実を述べたのだが?」
何か間違ったことを言っただろうか?そんな雰囲気の杉森に、嗚呼と頭を抱える。隣の円堂もぷるぷると震えている。
『お話にならないわ』
「もう絶対許せねぇ!」
やれやれと諦めた梅雨の横で円堂がビシッと指を指す。
「俺たちの必殺技を見せてやる!今すぐ決闘だ!!」
ええーっ、と雷門イレブンから驚きの声が上がる。
「お互いにシュート1本。止められるかどうかで決着をつける。いいな!」
「我々はその必要を認めない」
「そっちはそうでも、こっちは納得できないんだ!」
「何がだ?」
何を言ってるのか分からないといったように下鶴が聞き返す。
「俺たちみんなの気持ちがだよっ!!」
「何故そうなるのかが不明だ」
あーもう、と上手く伝わらない事に、頭を掻く円堂の代わりに口を開く。
『貴方たちの言葉によりこちら側は一同傷つき、名誉毀損を訴えています
。しかしながら貴方達の言い分は、誹謗中傷でなく事実を述べただけだと...。それは、こちらとしては納得出来ないので実践で証明をして見せて、と言うこと。理解して?』
「なるほど、理解した」
「おお、流石水津!通じたぜ!!よっしゃあ、見てろ!絶対に負けないからな!!」
円堂の言葉をかたっ苦しく言い換えてようやく理解した杉森と、通じた事を喜ぶ円堂を見て半田が、疲れるヤツらだなぁ...、と言っていて思わず同意した。
「円堂!絶対に止めてくれよ!」
「頼みますよキャプテン!」
周りからの応援にああ、任せとけ!と返事をした円堂はゴール前に立ち手を広げた。
「では始める」
ボールに足を乗せそう言った下鶴に、よし来いと円堂は手を叩く。
ピッーと秋ちゃんがホイッスルを吹く。
その横で私は携帯で動画撮る。一応いいビデオカメラを持った春奈ちゃんには河川敷に架かる橋の上から撮影をお願いしているが、せっかくの敵の資料だ。色んな方向からデータを撮っておきたい。
ドリブルでゴール前まで走った下鶴はボールを大きく蹴りあげた。
そして、
「えっ?」
雷門イレブン達から驚きの声が漏れる。
下鶴は炎の渦と共にクルクルと回転させて飛んだ。雷門イレブンなら誰もが見覚えのあるモーション。
「ファイアトルネード」
振り降ろされた左足から蹴られたボールは炎を纏ってゴールへと飛んでいく。
円堂は驚きながらも、咄嗟に熱血パンチを繰り出した。
しかし、シュートの勢いは止まることなく、円堂の後ろ、ゴールへと突き刺さった。
「ファイアトルネードだ...」
「そんな...」
「どうしてアイツが...」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事。雷門イレブンたちは驚愕していた。
「こちらの能力を解析したと言ってましたが...まさか必殺技までコピーしているとは...」
円堂が止められなかったということは、本物さながらの威力だったということだ。
ボールを拾った円堂と入れ替わりで豪炎寺がフィールドに立つ。
「俺が蹴る」
頼んだぞ、と円堂は豪炎寺にボールを渡す。
ボールを踏み豪炎寺が見据える先のゴール前には杉森が立つ。
「決めろ!豪炎寺!!」
「ファイアトルネードはお前の必殺技だ!!」
「コピーは本物に叶わないって教えてやるっスよ!!」
みんなからの声援に豪炎寺は、うんと頷いた。
再び秋ちゃんがホイッスルを鳴らす。
ドリブルで駆け出した豪炎寺は先程の下鶴と同じようにボールを上げて炎の渦と共に回転し飛んでいく。
振り下ろされた左足から放たれた炎のボールはゴールに向かって飛んでいく。
杉森は胸の前でクロスさせた両手を大きく広げて見せた。
「シュートポケット」
ドーム場のバリアのような物にボールが触れると、シュートの威力を消して吸い込まれるようにドームの中へ向かっていき、杉森の右手に掴まれた。
今度は、雷門イレブン達から言葉も出なかった。エースのシュートが、本物のファイアトルネードが止められた。
ボールを持った杉森は呆然と立ち尽くす豪炎寺の前までやって来てその足元にボールを落として踵を返した。
「証明は終わった」
そう言って去っていく杉森と下鶴に、唇を噛むことしか出来なかった。
ビハインド
大丈夫。まだ試合まで数日ある。