倒れた綱海がストレッチャーでスタジアム内の医務室に運ばれ、交代になったのは飛鷹。
その際、一緒に、疲労の大きいヒロトと緑川も交代を告げられた。

「なっ、オレはまだ……！」

緑川はやれると言いたげだったが、審判が札を掲げた以上、交代は絶対。悔しそうな顔をしてベンチへと戻ってきた。
彼ら二人に代わってMFに入るのは栗松と立向居。
私が弄ったシナリオもいつもの如く元に戻った。

「クソッ……もっと体力がついていれば…！まさに、渇して井を穿つ」

緑川の言う通り、対戦発表から数日でそんなに体力が増えるわけはない。日頃からコツコツと積み重ねて得るもの。
そうして、それを手に入れているのが、彼らカタール代表デザートライオンだ。

イナズマジャパンのキックオフで再開し、豪炎寺からボール受け取った吹雪がドリブルで進む正面からザックがスライディングを仕掛けてきた。
上に跳んで避けようとした吹雪はよろけ、ボールをザックの足が弾き飛ばす。
ボールは何とか鬼道が拾い助かったが、起き上がった吹雪が走る姿がよろよろとしていた。

『この暑さだもんね……』

白恋の頃からDFもFWも1人でやってた吹雪は体力はある方だ。だけど、北海道出身の彼にはこの暑さはキツイのだろう。沖縄に行った時もへばってたもんなぁ……。

フィールドでは鬼道からダイレクトパスで吹雪がシュートを打った。
雄叫びを上げて放たれたウルフレジェンドは、デザートライオンのGKナセルのストームライダーに簡単に止められてしまった。

「フッ、この程度か！」

「そん、な………」

どさり、と吹雪が前面に倒れた。

「吹雪ーーー！！」

倒れた吹雪の周りに皆が集まり、それをまたデザートライオンのキャプテンカイルは見下ろした。

「そろそろ限界だな。この気温の中よく頑張ったと認めてやろう」

上から目線のその言い草に、なに、と円堂達は彼を睨む。

「最後に勝つのは極限まで鍛えられたフィジカルを持つ俺達だ」

そう言ってカイルの横でザックがニヤリと笑った。

「お前たちの得意なチームプレーで俺たちの攻撃をどこまで凌げるかな」

「チッ、好きに言ってくれるぜ」

ぱちん、とベンチの不動が右手の拳を左の掌に打ち付けた。

「選手交代」

監督のその言葉に、待ってましたと不動がニヤついた。

「宇都宮虎丸」

「なに！？」

「…はい！」

一瞬、オレ？と驚いた顔をした後、虎丸は立ち上がりフィールドへ掛けていく。
入れ替わりで豪炎寺が肩を貸して吹雪がフィールドを出る。

『そのままベンチに………OK。ありがとう』

「ああ、頼む」

吹雪をベンチに座らせた後、豪炎寺は走ってフィールドへ戻っていく。

「ごめん……なんだか、動けなくなっちゃって……」

赤い顔して吹雪はそう言った。意識はハッキリしていそうだけど……。

『恐らく熱中症だね。頭痛い？』

「……少し、」

「水津。吹雪を医務室に連れて行け」

『あ、はい』

「ついでに綱海の様子も確認して来い」

『了解です。吹雪、肩貸すから掴まって』

「…、うん」

先程、豪炎寺がしていたように吹雪に肩を貸して、医務室へ向かって歩き出す。

「……染岡くんに怒られそうだな」

歩きながら吹雪がそう呟く。

『無茶しやがって、って？』

「………。ああ、うん」

熱中症でぼーっとするのか、妙な間を置いて吹雪は頷いた。


医務室へ入れば在中のドクターが居た。
ドクターは吹雪を視界に入れるなりこちらへと空いているベッドの方へ手招いた。
もうひとつあるベッドを見れば、そこには綱海が寝かされていた。

「試合を見ていましたが、熱中症でしょうね」

そう言ってドクターは吹雪に経口補水液を渡し、患部を冷やすための氷を用意し始めた。
見ていたって……ああ、音声は聴こえないが大きな壁掛けモニターがあり、そこに現在の試合の様子がながれている。
今は、シュートチャンスだった虎丸が何故か豪炎寺にパスをし、そのボールで打った爆熱ストームがナセルのストームライダーに止められてしまう所だった。

「そちらの彼は、幸いなことに外傷はありませんでした」

ドクターの言葉にハッとして、寝かされている綱海を見る。
高いところから落ちて外傷なしとは、さすが超次元。
ホッしてと私が深く息を吐く横でドクターは吹雪にベッドに横になるよう伝え、首の後ろと脇の下に氷まくらを挟んでいった。

「さっすがオレ。丈夫だよなー」

気絶したままだと思っていた綱海が、そんな呑気な声を上げてニッと笑っていた。

『綱海！意識戻ったの！？良かった……』

「へへっ、相変わらず大袈裟だな！早くから気がついたから試合に戻ろうとしたらおっさんが大人しく寝てろって言うから寝てただけだぜ」

綱海の言葉にドクターはおっさんかと苦笑いをしている。

『いやいや、あのシュート頭で止めて高いところから落ちてるんだからねアンタ！』

当然ドクターは大人しく寝てろって言うわ。

「いやでも、今回顔面ブロックはしなかったんだぜ？お前怒るし」

確かに前回めちゃくちゃ叱ったもんなぁ…。

『まあ、多少成長してるか』

だろ？と綱海はニカッと笑った。この様子なら本当に元気そうだ。
吹雪も医務室はエアコン効いて涼しいし、ドクターの処置のおかげで顔色も良くなってきた。

さて、この後は、とモニターを見上げる。

フィールドでの荒治療
いつものやつがモニターの映像に流れていた。