世界への挑戦編
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前で走る彼の柳色のポニーテールが揺れている。
正直、悩んでいる。ここで声を掛けてしまって話が変わってしまったら……?
だけど、トレーナーとして、何より同じような事をして足を壊した私からして、彼のオーバーワークを見過ごす訳にもいかない。そう思って、彼の背を追って走る。
たが、流石ジェミニストームのキャプテンだけあって足が速い。彼は全然余裕そうなのに、こちとら全力疾走でやっと追いついた。
『み、ど、り、か、わー!!!止まりなさーい!』
パシッと彼の左腕を自分の右手で掴まえた。
「うわ、なんだよ!?って、トレーナー……!」
手を引かれたことで驚いた顔をして振り向いた緑川はやっと足を止めた。
『こらっ、今日の練習はもう終わりだよ』
「いや、オレはまだ……」
『まだじゃない。走り込みの前にも練習はあったし、これ以上はオーバーワーク』
「だけど、全然疲れてないし、もっとやらなきゃ……!」
『レギュラーの座を奪われる?』
続くであろう言葉を想像して言えば、緑川は険しい顔をした。
「……そうだ」
『気持ちは分かるけど、』
「分からないよ!!」
怒鳴るようにそう言った緑川に掴んでいた手が、彼の反対の手で叩き払われた。
『っ……!』
「あっ………」
叩かれた右手の手首を押さえた私を見て、緑川の表情は青くなった。
「す、すまない。そんなに強くしたつもりは……!」
『……大丈夫』
「しかし……」
あわあわと慌てる緑川を前に、冷や汗をかいた私は必死に手首を押さえた。
「緑川!水津さん!」
2人分の名を呼びながら掛けてきたのは、赤毛の少年。
「ヒロト……」
「何か揉めてたみたいだけど」
『ああ、いや、ちょっとオーバーワークだから練習やめなさいって怒ってただけ』
「水津さんのその手は?」
眉をひそめてヒロトは私の手首を見た。
「掴まれた腕を払おうとして、オレが叩いた」
「え、」
罰が悪そうに答えた緑川に、驚いた顔をしてヒロトは彼を見た。そして、ヒロトはその目をスッと細めた。
「緑川。トレーナーの指示には従わなきゃだめだ。いいね」
いつもより冷ややかな口調。まるでグランを思い出させるかのようだ。
「……わかった。今日はもうやめる」
グランとしての彼を知っているからか、緑川は大人しくそう答えた。
「それから?」
「叩いて悪かった」
ヒロトに促され緑川はもう一度謝罪をしてきた。
『いいよ。さっきも大丈夫だって言ったでしょ。それよりもクールダウンして今日はしっかり休みなさい』
「水津さんならオレが医務室に連れて行ってくるから、緑川はちゃんがクールダウンするんだよ」
ほら行きましょうと、ヒロトに背中を押される。
『え、いや、1人でも大丈夫』
そう言うが、いいからいいからとヒロトはズイズイと私を医務室まで押して行った。
「さてと、」
医務室に着くなり、ヒロトは扉の鍵を閉めた。
『………ヒロトさん?』
なんで鍵を閉めたのかな?怖いんですけど?
「水津さん」
振り返った彼は先程と同じく少し怖い表情をしていた。
「左手を離して」
ずっと右の手首を抑えていたそれを見ながら言われて、冷や汗が垂れる。
『いや、これは……』
さて、鍵を閉められたこの状況でどうやってかわそうか……。
「大丈夫。オレは水津さんの身に起こってる事、知ってるから」
『え?』
どういう事だと、ヒロトを見つめる。
「消えうる前兆。父さん達がそう言ってたのを聞いたんだ」
『言ってたって……』
面会した時、これに関しては何も言って来なかったぞあの人。
「本当はもっと早くに話をしたかったんだけど、選抜以降互いに忙しかったし、中々水津さんが1人のタイミングもなくてね。練習禁止令が出てた時にでも、って思ったらいなかったしね」
あー、私が久遠さんに追い出されたからなぁ……。
『なるほどね。とりあえず、キミ相手に隠しても意味が無いって事だね』
隠すように多いかぶせていた左手を離せば、手首の部分だけ切り取ったかよのうに透けていた。
ヒロトはそれを興味深そうにまじまじと見た。
「本当に透けてるんだ。父さん達の話では一瞬って言ってたけど……これ、さっき緑川に叩かれてからだよね。長くない?」
『たぶん最初の頃よりだんだんと長くなってると思う』
「そうなのか……。痛い?」
ヒロトは手首から視線を上にあげ、心配そうな顔をして私の顔を見た。
『痛くないよ。感覚ないし』
「感覚がない……。ちなみにこれ、今、手首だけ透けてて手はちゃんとあるけど、動かせるの?」
『ああ、うん。透けて無いところは感覚あるし、不思議なことに動かせるよ』
「消える部分はいつも同じなの?」
『違うね。手だったり足だったり、全身だったりマチマチ。手だともの掴めなかったり、足だと動けなかったりするから結構困ってる』
「それは、困るって次元じゃ………」
そんな次元の話じゃないとヒロトは渋い顔をする。
「病院は……」
『行っても無駄でしょ』
てか医者が困るでしょこんなの。
『それに一応、当時はこれに気づいてなかったけど初めてこの症状が出た真・帝国戦の後、全身検査してもらってるんだよね』
で、お腹の怪我以外は何も言われなかったし。
「お医者さんが無理でも、うちの研究所なら……!」
『モルモットになる気はないし、何より吉良財閥の持物はエイリア関連で警察のご厄介中でしょうよ』
そう言えばヒロトは、うっと唸って黙った。
『心配してくれてありがとう』
左の手の方でヒロトの頭を撫でる。
『一応ね、こうなる原因は分かってるし、ある程度は自分でコントロール出来るから』
「えっ、唐突になるんじゃないの?」
『唐突っちゃ、唐突だけどね。でも一定の法則があるんだよ』
「法則……。身の危険が及んだ時、とか?」
『それも思ったけど……』
確かに、今も叩かれそうになってだし、真・帝国の時も身動きの出来ない空中で、不動に故意に足を狙われた時だったしそう思えなくもないが……。
『そうじゃない時もあってね。私が思うに、私が心変わりしてシナリオを変えようとした時なんだよ。キミに煽られて、真・帝国戦で佐久間たちを助けようとしたりだとか』
「じゃあ、今回も……?」
そうね、と頷く。
「分かっててなんで……!」
そう言ってヒロトはハッと表情を変えた。
「ああ、いや、そうか………。水津さんの事だ。分かってて今回動いたってことは緑川の身に危険なことが起こるからか」
『具体的なことは言えないけど、トレーナーとして見過ごせない件だったしね』
「そういう人だもんね。水津さんは」
そう言ってヒロトは、うん、と1人で頷いた。
「どうせみんなには隠す気なんだろう?」
『うん。世界を前に、皆には余計な心配はかけたくないからね』
「わかった。じゃあ今回みたいに体が透けて困った時は何時でも呼んで。助けに入るから」
協力するよ、とヒロトは力強い目をこちらに向けたのだった。
心優しき協力者
その代わり消えない方法も一緒に探そう、とヒロトは優しく笑うのだった。