フットボールフロンティア編
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おはよー、教室に入るなり同じクラスの女の子にそう声を掛けられて挨拶を返しながら自分の席へと向かう。
机にカバンを置いて、教科書や筆箱を机の中に直していくと、隣の席からもガタガタと椅子を引く音が聞こえて顔を上げる。
「...はよ」
『おはよう、染岡。足の具合どう?』
「昨日よかだいぶマシ」
そう言って染岡は席についた。
一緒に病院に行った結果やっぱり捻挫だったのだが、医師曰く、処置が良かったので2、3日安静にしといたら直ぐに完治しますよとの事だった。
『そう。でも部活参加はダメだからね』
「わかってるよ。うっせぇな」
『もー、こっちは心配して言ってんのに』
「そーそー。可愛い女の子に心配してもらってんのに、勿体ないぜ染岡」
突然の第三者の声に、振り返れば別クラスのはずの土門が居て、よっ!と片手を上げた。
『おはよう土門。朝からどうしたの』
「いやぁ、それが1時間目から数学なの忘れててさ。梅雨ちゃんか染岡、教科書貸してくんね?」
『ああ、転校生だからまだ教科書ない...って事は無いな。私の時も夏未ちゃん準備万端だったし』
転校生してから1週間立ってるし、雷門中で使ってる教科書を渡されてないなんてことはないだろう。ということは
「いや、純粋に忘れたんだよね」
「お前なぁ...」
『しょうがないなぁ。貸してあげるけど、うちのクラスより今度から秋ちゃんとか他のクラスの子に借りな』
「サンキュー!けどなんで?」
教科書を取り出すために机を漁る。数学数学...。
『うちのクラス夏未ちゃんがいるもの』
「ああ、あの理事長の娘っていう」
思い返すように言う土門に、そうそうと頷きながら数学の教科書を手渡す。
『夏未ちゃんにバレたらお説教だよお説教。私ら今日は数学午後からだから昼休みに、うちのクラス以外で渡してもらう方がいいな...。部室に持ってきて』
「昼休みな、了解!いやぁ、ホント助かったわ!」
教科書を受け取った土門はじゃあな!と言って教科書の出入り口に向かっていく。土門が扉をくぐって出ていくと、入れ替わりで夏未ちゃんが入ってきた。
「おはよう水津さん」
わざわざ私の前までやって来て挨拶をくれた夏未ちゃんに、おはようと返す。
「今、土門くんが数学の教科書持って行ったようだけれど」
いやぁ、よく生徒の事監視...いやいや、見ていらっしゃるなぁ夏未お嬢様は。
『今日の数学、当たるかも知んないからわかんないとこ教えてーだってさ。転校生だと習ってる範囲学校に寄って違うから苦労するよね』
「あらそういう事だったの」
うん、と頷くが全てデタラメである。
「そう言えばお前は、範囲ズレてたりしなかったのかよ?」
染岡の言葉に一瞬、ん?と首を傾げる。ああ、私も一応別の学校から転校してきたとこになってるんだったな。
『私は先に全部習ってたね』
10年以上前にな!!
「先進校かよ」
『田舎の小さな学校だよ』
「我が校の授業はそんなに遅れてないと思ってたのだけれど...理事長に意見した方がいいかしら」
そう呟いた夏未ちゃんに、いやいやと手を振る。
『1、2ページ位の差だから大丈夫大丈夫』
「そう?ならいいのだけれど...。ああ、そうだわ水津さん」
なあに?と首を傾げる。
「昨日メールした件なのだけれど」
『ああ!放課後ね。一緒に行こうね』
「ええ。よろしくお願いするわ」
私と夏未ちゃんのやり取りに隣の染岡もなんだ?と首を傾げている。
いやはや、放課後の彼らの反応が楽しみだなぁ。
まあ、放課後の前に昼休みがくるんですけどね。
土門に他の教科も習ってないとこ教えてって言われたからと、聞かれてもない事を夏未ちゃんに説明して鞄を持って教室を出た。
部室に行くと、既に土門が来ていて椅子に座っていた彼はドアが開くと共に読んでいた物を慌てて机に置いた。
『お待たせ、待った?』
「いや、俺も今来たとこ。これ教科書サンキューな」
『はいはい』
差し出された教科書を受け取って持ってきた鞄に仕舞う。
「鞄持ってきたの?」
『うん、夏未ちゃんには君に勉強教えるって、言って出てきたから』
「それはそれは、ご迷惑をお掛けして」
『まあ、いいけどね。さっき何見てたの?』
そう言って、先程土門が机に置いたものはなんだろうとわざとらしく視線を向ける。
「あ、いや。梅雨ちゃん来るまでに時間つぶしになんかないかなって勝手に見ちゃったんだけど、まずかった?」
机に置かれていたのは、選手データをまとめたファイル。
『いいや?同じ部員なんだから好きに見ていいよ。自分がどれだけ成長出来たかとか、それ見て知って喜んで貰えたら、一生懸命データ取った秋ちゃんや春奈ちゃんが報われるしね』
「...秋が」
『そう。だから、やるなら上手くやりなよ』
そう言えば土門は、は?と呆けたように口を開けた。
『野生中戦みたいに帝国の技を使ったりしたら、流石に勘のいい子は気づくでしょうよ』
ガタッ、そんな音を立てて椅子が動いて土門が立ち上がった。
「あんた気づいて...!」
『私だけじゃないよ。恐らく豪炎寺はキラースライドが帝国の技だって知ってるんじゃない?というか、今のくらい何とか誤魔化しなよ。それじゃ自分からスパイだってバラシにいってんじゃん』
そう言えば、土門は顔を青くした。
恐らくこんなに早くスパイだってバレるなんて思ってなかったんだろうな。私からすればただの自滅なんだけど。
「...アイツらに、秋に、言うのか...?」
『え、言わないけど』
そんなのここで言ったら話が大きく変わってしまうではないか。
「は...?なんなんだアンタ?まさかアンタもスパイなのか?調べてもここに転校して来る前の事も出てこないし」
『ああ、それでわざわざ私と仲良くしようとしてたの』
今朝の教科書貸してもそうだが、きっと転校初日の朝からだ。仲良くなって情報を聞き出そうって魂胆だったんだろう。
『それって、影山の命令?』
「総帥の事まで知ってんのかよ」
『まあね。で?』
そう言えば、土門は意を決したような顔つきになり、再び椅子に座った。
「こっちの質問が先だ。アンタはどこのスパイだ。千石伊賀島か?木戸川清修か?」
本戦にでてくる歴代のサッカーの強豪校と言えばその辺なんだろうなぁ。
でも木戸川清修って。豪炎寺いたところだし、もしそうなら詰みじゃんね。
『残念ながらどこのスパイでもないんだなぁ。まあ強いて言うなら夏未ちゃんのスパイだけど』
ちょっと前までサッカー部がちゃん練習してるかどうか告げ口する役だったし。
「ホントかよ」
『信じるかどうかは君次第だけど。大体、毎年本戦出てるような強豪校で、こんな弱小チームを予選突破するかも分からないうちから警戒して潰そうなんてするの、君のとこの総帥くらいだと思うけど』
思うところがあったのか、土門は口を噤んだ。きっとスパイに任命された時にでも、なんでこんな弱小チームを?と彼自身疑問に思ったはずである。
『ねぇ、土門。君、二重スパイやらない?』
「は?」
本当はスパイをやめさせて上げたいが、それをしてしまうと物語は変わってしまう。そもそも彼の背景が分からないので親を人質に取られスパイをやってるかもしれないし、そうじゃなくただ帝国でのレギュラーの座欲しさにやってるのかもしれないが、どちらにせよ、やめさせる方法も思いつかない。
非情だとは思うが、私という異端児が入った結果、物語が原作通り進むとも限らない。現に1部おかしくなっているし。そうなった時に、私も情報と手駒が欲しいという訳だ。
『まあ、断ってもらっても別にいいんだけど。ねぇ、土門は知ってる?』
彼が私の言葉に集中するように、ねっとりと甘い声を放つ。
「な、何を」
『去年、帝国と決勝で当たった木戸川清修。そこのエースストライカー、豪炎寺修也。去年の大会の注目選手だったよね。その彼が決勝戦には出てこなかった』
「か、風邪かなんかだったんだろう」
『あれ、知らないの?妹さんが交通事故に合ったんだよ』
交通事故という単語に一瞬、土門の瞳が揺らいだ気がした。
『今も意識不明の重体で病院に入院してる』
「それは...っ、可哀想だけど、単なる事故だろ!」
まあ、君らは試合で負けた学校を破壊してる事しか知らないんだもんね。影山が裏で何やってるかなんて、影山と一番近い関係の鬼道でさえ知らなかったはずだし。
『それは本当にただの事故かな?』
「な、何が言いたいんだよ!」
『もうひとつ、もう40年も前の話なんだけど。イナズマイレブンという伝説のチームがありました』
土門の頭の中では恐らく、古株さんが話してくれた内容が思い浮かんでいることだろう。
『そのチームは帝国学園との決勝戦に向かう途中、バス事故になり選手達は大怪我。試合放棄となりましたとさ。さて、2つの事故の共通点はなんでしょう?』
「...、帝国、学園。だからなんだって言うんだよっ!!そんなの、たまたま...」
『たまたま、ね。本当にそうならいいけど。雷門が後2戦勝ち上がったら、帝国学園との地区予選決勝。秋ちゃん、幼なじみなんでしょう?事故に合わないといいね』
そう言えば、土門は青い顔して息を飲む。
それと共に予鈴が鳴り響いた。
『ああ、昼休み終わっちゃった。5限目始まっちゃうわ』
よいしょ、と鞄を持つ。
『じゃあ、またお勉強会やろうね』
ニコッと笑って部室を出る。
私にとって、怪我がトラウマであるように、きっと土門の中には交通事故というトラウマがあるはず。
とても卑怯で最低なやり方だとは熟知している。それでも、彼の心に揺さぶりをかけたかった。影山に疑念を抱いて欲しかった。
おそらく彼は今回の事を影山や鬼道に伝えたりしないはず。それは自分の任務失敗を報告する事になり、自分がどうなるか分からないからだ。
私の2重スパイになってくれるかどうかは分からないが、彼に疑問を抱かせることが出来たのなら上等であろう。
「水津さん、行くわよ」
『はーい』
放課後、夏未ちゃんを連れて部室に向かう。
『どうぞ』
ドアを開けて夏未ちゃんを通すと一度すん、と鼻を鳴らした。
「ホント、前ほど臭くないわ」
『ね、言ったでしょ。あ、散らかしっぱなしだ』
お昼休みに土門が見ていたファイルが机に出しっぱなしのままだったので、棚に直していると、ガラリとドアを開ける音がして振り返る。
「お疲れ様でーす!」
元気な声と共に春奈ちゃんが飛び込んできて、部室に入ったもののどうしたらいいかと、キョロキョロしていた夏未ちゃんを見て驚いたような顔をした。
「音無さん?入口で固まってどうしたの...って、夏未さん?」
秋ちゃんも驚いてる驚いてる。
『ほら、夏未ちゃん』
彼女の元に駆け寄り、背中を押す。
「ちょっと、水津さん」
「何かお話ですか?」
後ろ手で部室のドアを閉めながら秋ちゃんが問うと、夏未ちゃんはコホンとひとつ咳払いをした。
「今日からわたくし、雷門夏未はサッカー部のマネージャーになりますからそのつもりで」
うーん。上から目線!
「「は、はぁ」」
ほらー、秋ちゃんも春奈ちゃんも困ってんじゃん。
『野生中戦で感動したんだって』
「えっ、そうなんですか!」
「ちょっと!誰もそんなこと言ってないでしょう!!」
ぷんぷんと怒り出した夏未ちゃんに、クスクスと笑う。
『じゃあ本当は?』
「...貴女がいつも楽しそうにサッカー部の話をするから...」
『夏未ちゃん...!』
「ほんのちょっと興味を持ったってだけですからね」
ふん、と顔を背ける彼女を見て、秋ちゃんがニコリと笑った。
「夏未さん、水津さんの事が大好きなのね」
「な、何を言ってるのよ!」
「夏未さんも可愛らしいところがあるんですね」
『そうなのよ』
頷けば、なに貴女も頷いてるのよ!と怒られる。
「でも、そういう事なら大歓迎です」
よろしくね夏未さん、と秋ちゃんが手を差し伸べた。
誘引する者される者
後からやってきた男子たちは夏未ちゃんのマネージャー宣言に驚いていて、その中でも目が合った土門は青い顔をしていた。