一之瀬、土門、円堂がザ・フェニックスの体勢で攻め込んで来たのを、事前の宣言通り西垣がスピニングカットで止めた。
ボールを得た西垣が風丸へループパスを飛ばし、カットに入ろうとした鬼道を軽々と飛び越えた風丸がヘディングでシャドウへとセンタリングを上げ、シャドウがダークトルネードを打ち、ディフェンスに入った木暮と綱海、ゴール前の立向居ごと、ボールをゴールへ押し込んだのだった。

先制点を得て勢いづいたダークエンペラーズは、センターラインからの再開ですぐさまボールを奪い駆け上がって行く。

現在、ドリブルで上がるのは風丸で、そんな彼の前には円堂が駆け寄ってくる。

「疾風ダッシュ」

えもいわれぬ速さで、円堂の前から消えた風丸は彼の背後を走っていた。

「しまった！」

そう、円堂が声を上げた頃には風丸は最前線。

「いけ、染岡！」

そこから風丸はボールをスルーパスし、染岡がそれをトラップする。

「今度は俺が決めるぜ！」

目の前にDFがいないキーパーと1体1の状況に笑みを浮かべた染岡の耳に、おお～っと！っと喜びに近い驚きの声を上げた実況の声が聞こえた。

「またしても吹雪がディフェンスに戻っている！！果たして間に合うのか！？」

風丸と変わらない速度を出せる吹雪だからこそ、反対側の最前線からここまで駆け戻ってこれていた。

「染岡くんはボクが止める！止めなきゃいけないんだ！」

「やれるもんならやってみろ！！」

そう言って染岡はボールを蹴り上げ、ワイバーンを呼び、シュート体制に入った。

「ワイバーン──ッ！！」

「ぐぅッ！！」

染岡が足を振り下ろしたボールへ何とか追いついた吹雪が足を伸ばした。

「テメェ！さっきから俺の邪魔ばっかりしやがって！！」

「染岡くん！ボクと風になろうって約束したじゃないか！！忘れちゃったの！？」

「だから覚えてねえって言ってんだろーが！！」

そう、染岡が叫ぶと共に、彼の胸元の石が強く光を放った。
そうすれば、染岡のパワーも増し、吹雪は軽々と吹っ飛ばされてしまい、ワイバーンはゴール目掛けて飛んで行く。

「ムゲン･ザ･ハンド！」

立向居がキャッチしようとしたが、パワー負けしてゴールを割ってしまった。

これで、ダークエンペラーズは2点目だ。

「よしゃあ！」

嬉しそうに叫んだ染岡が、拳をこちらへ突き出してきた。
距離があるから拳は合わないが、見てたよと言うように、同じように拳を突き出してみせれば染岡は満足そうに口角をあげ、くるりと向きを変え、吹き飛ばされて倒れた吹雪の元へ歩み寄って行った。

「見たか！最強のストライカーは俺だ」

ハハハハ！と愉快そうに笑う染岡を下から吹雪は睨みつけていた。







更に追加点を、とダークエンペラーズの快進撃は止まらない。
ボールを得た半田と松野が新必殺技、レボリューションＶを放つ。
立向居がムゲン･ザ･ハンドを使うが、またしても破られた。
しかし、今回は円堂が立向居の後ろに回り、ヘディングでカットし、何とかゴールを死守した。

攻め返そうと雷門陣はボールを繋いで上がって来たが、円堂がボールを持ったところで風丸が立ち塞がった。

「分身ディフェンス！！」

その名の通り、分身した風丸がドリブルで攻め上がった円堂を止めてボールを奪った。
地に着いた膝を殴り円堂が悔しそうにする中、ピッピーと前半戦終了のホイッスルが鳴った。

まさに予定調和。
世界の秩序は、神が定めた結果、か。
本当にシナリオ通り進んでいる。

「素晴らしいですよ、みなさん！」

ハーフタイムにベンチへ戻ってきた選手達を研崎は嬉しそうに出迎えた。

「へっ、水津の出番はなさそうだな」

半田が口角を上げ見下ろしてくる。
口の端に人差し指を置いて、うーん、と考える素振りを見せながら、私はゆっくりとベンチを立ち、席を譲った。

『まあ、向こうが今のまま……ならねぇ』

「どういう意味だよ」

どかっ、とベンチに腰掛けながら半田はギロリと睨みつけてきた。おお、怖い怖い。

『あの鬼道の事だし普通に打開策考えてくるでしょ』

「そんなもん俺が全部ねじ伏せてやる！」

パシン、と染岡が開いた右の手のひらに、左手の拳をぶつけた。
うーん、脳筋め。

「うわ、脳筋」

「んだと、マックス！」

同じことを思った松野が口に出して言えば案の定、染岡はキレた。

「そういう挑発に乗りやすいところ気をつけた方がいいんじゃない？鬼道ならそこに漬け込んでくるでしょ」

やれやれとお手上げのポーズをする松野を前に、染岡はビキビキと青筋を額に浮かべている。

『まあ、松野の言うように、鬼道ならこっちのそういう習性を突いてくるだろうね。こっちが雷門サッカー部たちの動きを知り尽くしてるのと一緒なように、向こうだってこっちのことを知ってる』

雷門側のベンチを見れば、みんなで固まって作戦会議をしている様子が見て取れる。

まあ互いに互いを知っていると言っても、こちらの方が些か不利だ。
だって、こちらは11人中9人は雷門サッカー部。西垣のプレイは、幼なじみの一之瀬や土門が詳しい。キーパーの杉森は1度対戦している。知られていない手札はシャドウのみだ。
それに引き換え、向こうは塔子ちゃん、吹雪、木暮、リカちゃん、立向居、綱海の6人がほとんどのメンバーに知られていない。
綱海以外の5人は、風丸と栗松が知っていると言っても2人で5人の対処は些か厳しいだろう。

何より完全未知数な男、サッカーの知識がない綱海は脅威的な身体能力だけで動くから予測も難しい。

『力で押し切るのも悪いとは言わないけど、対策されるって事は念頭に置いて欲しいね。愚直に突っ込んでボール取られるのは馬鹿だよ』

「なっ！…………チッ」

舌を打った染岡は不機嫌そうに顔を逸らした。
あれ………ここで怒鳴りつけて来ないなんて意外………。
……いや、染岡は実力を認めた物には反発しない。鬼道が雷門に入った時もそうだった。

『ふぅん』

ニヤニヤと染岡を見上げれば、なんだよ、と眉をひそめられた。

そうかそうか。
あの染岡が、認めてくれている、というわけか。

ならばピンチは私が救おうか
だって、私なら綱海の対策もできるもの。