脅威の侵略者編
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稲妻総合病院で診てもらった結果、アフロディの様態は悪く、そのまま入院する事となった。
アフロディを運ぶのを手伝ってくれた円堂と、彼の事が気になってか、付き添って来た吹雪と3人で病院を出て、皆が待つ雷門中へと向かった。
アフロディと別れる前に、彼と話をした吹雪は何処か少し前向きになった様子だった。
これから彼も変わっていく。
『あ、』
校門が見える所までたどり着くと、そこに女の子が2人立っているのが見える。
「円堂くん!」
「キャプテン!」
こちらに気が付いた秋ちゃんと春奈ちゃんは少し駆け足で寄ってきた。
「どうした?」
「ジェネシスのグランが来たのよ」
秋ちゃんの話を聞いて、円堂は、なに!?と校内に向かって走り出す。
「瞳子監督の事、姉さんって呼んでたの」
秋ちゃんのその言葉に、円堂は走り出した足をピタリと止めた。
「え……、姉さんだって!?」
まあ、驚くよね。
私も初見では驚いた。
「今、皆が問い詰めてるところなんです」
少し不安そうな顔をして春奈ちゃんが言う。
『皆は今どこに?』
そう聞けば、こっちよ、と秋ちゃんが案内してくれる。
建設中の校舎の前に皆は居た。
「答えてください、監督!」
夏未ちゃんが先頭に立って瞳子さんを問い詰めているところのようだった。
「監督!」
円堂が声をかければ、瞳子さんはハッとしたように目線だけこちらへ向けた。
「おお、円堂、こいつスパイやスパイ!そうに決まっとる!」
そう言うリカちゃんの表情はすごく怒っている。
アフロディが怪我しそうだから代わりに自分を出してくれと懇願したのに聞き入れてくれなかったこともあってだろうな……。
「スパイ……?」
「そういう事か」
納得した、と言うように口を開いたのは土門だった。
「監督が時々居なくなっていたのはエイリア学園と連絡を取るためだったのかもしれないな」
元スパイだったからこその土門の考えに、皆がそんな……と表情を曇らせた。
「なあなあ、敵に姉さんって呼ばれてたって事はさ」
「監督は宇宙人!?」
ヒソヒソと綱海と木暮のやり取りが聞こえる。
「説明責任があると思いますねぇ」
それは確かにそう、と目金の言葉に思わず頷く。
「ねえ」
「どっちにしろ話してもらおうじゃないか!」
声を荒らげるみんなを見て、待て、と円堂が制止する。
「俺が話す」
そう言って円堂は瞳子さんの目の前まで歩み寄った。
「本当にアイツの姉さんなんですか」
円堂の質問を聞いて、瞳子さんは深くため息を吐いた後垂れた前髪を掻き耳にかけた。
「確かに私はあなた達に隠している事がある。でももう少し待って欲しいの。エイリア学園はただの宇宙人ではないわ」
「え……」
ザワザワと円堂の後ろで皆がざわめく。
「みんなには私と一緒に富士山麓へ行って欲しいの。そこで全て話すわ」
意を決したように瞳子さんがそう言えば、皆は富士山麓?と訝しんだ。
「なんで富士山なんですか?」
そんな塔子ちゃんの疑問に応えたのは瞳子さんではなく鬼道だった。
「そこに宇宙人がいる」
えっ!?と1度が鬼道を見遣る。
「出発は明日の朝8時。それまでに準備を整えておいて」
そう言って瞳子さんは皆に背を向けて去っていってしまった。
「そんなん信用できひん」
「結局監督は俺たちの質問には何にも答えなかった……」
むっとした表情のリカちゃんの隣で一之瀬が珍しく暗い顔をしている。
「ダーリン………」
「俺だって、今度の戦いには疑問がいっぱいあった。それでもついてきたのエイリア学園の攻撃で傷ついたみんなの思いに応えたかったからだ。今日のカオス戦だってアフロディが倒れている」
そう語る一之瀬に、いたたまれなくて思わず目を逸らす。
「だけど監督にはみんなの思いなんて何一つ何にも届いてない。俺はこんな気持ちじゃ、富士山になんか行けない」
言い放つ一之瀬の後ろから、ゆっくりと手が伸びる。
「俺も一之瀬と同じだぜ。もう我慢の限界だ。鬼道はどうよ」
「どっちに転ぶにしても判断材料が少なすぎる」
「らしい答えだよ」
淡々と応えた鬼道に肩透かしを食らったように土門は軽く笑った。
「悩むことなんてない。エイリア学園の全てが分かるんだぜ?行くしかないだろ。監督が勝つことに拘って俺たちを引っ張ってきたのはきっと理由があると思ってた。その答えは富士山にあるんだよ!行こうぜ、みんな!」
「待て円堂」
みんなを奮い立たせようとする円堂を、静かに鬼道が止めた。
「俺は一之瀬が戸惑うのもわかる。一緒に行くかどうかはそれぞれに決めてもらおう」
「だけど!」
「みんなには考える時間が必要だ」
鬼道のその言葉に、円堂はハッとしたようだった。
「そうか。そうだな。今夜1晩あるんだもんな」
「どんなに時間をもらっても答えは同じだよ」
「一之瀬……」
「俺は、降りる」
そう言った一之瀬に、なんと声を掛けたらと、言ったようにリカちゃんが後ろでワタワタとしている。
「なんで監督は話さないんだ。隠してたっていい事ないだろ」
私には分かる。そんなの………
『怖いからに決まってんじゃん』
「え?」
誰かが呟いたのと同時に視線が集まった。
『大人だって、怖いんだよ。秘密を話すのって、勇気がいるんだ』
「梅雨ちゃん……」
心配そうな顔で秋ちゃんが私の名を呼んだ。
『一之瀬だって、土門と秋ちゃんに自分を死んだことにして秘密にしてたでしょう。真実を告げる時、勇気は要らなかった?』
「それは………」
一之瀬は口を噤んで俯いた。
『私は、瞳子さんの気持ちがよく分かる。私はずっと、みんなを騙してきたから』
「騙してって………」
母親に騙されて置き去りにされた木暮が、苦しそうに顔を歪めた。
「話すのか?」
秘密を知る鬼道は、このタイミングでか?と少し驚いているようだった。
「その感じ……まさか鬼道は梅雨ちゃんの秘密、知ってんのか?」
あの日心配してくれた土門が、他とは違う鬼道の違和感に気付いた。
鬼道は、ゴーグル越しの視線をこちらに向けてきた。本当にいいのか、と訊ねてきているようだった。
「秘密って……?」
元々雷門ではない追加メンバーの子達が首を傾げる中、雷門中生達はずっと有耶無耶にしてきた事を思い出しただろう。
「話してくれるの?貴女の事……」
ずっと、私の周りを嗅ぎ回っていた夏未ちゃんが不安そうに訊ねてくる。あんなに知りたがっていたのに、どうしてそんなに不安そうな顔をするのだろうか。
『うん。いいよ』
ずっと黙って罪悪感に押し潰されそうになるのにもう耐えられなかった。
きっと言えば、皆は優しいから罵りはしないだろうけど、すごく幻滅されるだろう。
それでも、もう………早く、楽になりたい。
『でも、今じゃない』
また、誰かが、え?と声を上げる。
『明日、瞳子さんの真実と共に私も話すよ』
「なんだよ、それ……」
一之瀬がずるい、と言うような顔をした。
彼は今しがた、どうあっても考えは変わらないと言ったばかりだった。
『ごめんね、出来れば瞳子さんも響木さんも揃った時に説明したいんだ。……それに、私も心の準備が欲しいからさ』
嫌われる準備を
また、明日。全てはその時に。