フットボールフロンティア編
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円堂が読み解いた秘伝書の中で最もの高さを誇る技、イナズマ落とし。
説明文はビョーンとかズバーンとかほぼ擬音だし描いてある図もぐちゃぐちゃで何が何だか分からないがとにかく特訓しようという流れで、今日も相変わらず無茶苦茶というか超次元な特訓が始まった。
当然、いつもの如く学校のグラウンドは借りれなかったので、全員で鉄塔広場に移動して、鉄塔の高いところに括りつけたロープの先にマットを詰めたタイヤが括り付けてあり、それを受けるといった特訓をしている。
敵の凄技を受ける特訓と染岡は言ってるが......、結構高いところから重いものをぶつけるって危険じゃないか?重力加速度とか考えるとヤバいよね、大丈夫かな...。
「水津ちょっといいか?」
豪炎寺に声を掛けられて、あれ?と首を傾げる。ここって円堂に話しかけてなかったかな。
『なに...?』
「くるっと、と言われて思いつくアクロバット技あるか?」
『くるっと、ねぇ』
顎に指を当てて考えるフリをする。正直くるっとの答えを知ってるから教えてもいいのだけれど、やはり豪炎寺自身に気づいてもらいたいものだよなぁ。
『円堂のおじいさんってサッカー一筋って言ってたし、アクロバットの技そんな知らないと思うから一般的な技で思いつくのはフロントフリップ...前宙ね。それとバク宙とかじゃない?』
「なるほど。やってみてもらってもいいか?」
『いいよ』
助走の為に豪炎寺から少し距離を取る。
『まず、フロントフリップやるね』
行きます!と片手を上げて、それを下ろすと共に走り出す。走りながら両腕を上げて蹴りあげと同時に腕を上から振り下ろし膝を抱え込みその勢いで一回転しながら飛んだ。
手を離し軽く膝を曲げた状態で着地し、バッと背筋を伸ばす。
『次バク宙ね』
両腕を前に突き出し、それを大きく後ろへ振ると同時に膝を曲げ身体を前傾させもう一度前方へ腕を振り上げると共にジャンプし、身体を一回転させ着地する。
『よっ、と。こんな感じ』
「なるほど、結構予備動作がいるな」
『まあ、今は分かりやすいようにちょっとゆっくりめにやったけど、フロントフリップは助走もいるからね。バク宙はそんなでもないよ。ほら、サッカーでもオーバヘッドキックってあるじゃない?似たような感じだと思うけど』
「オーバヘッドキックか...。確かにそれならくるっとなって、ズバーンか...」
真剣な顔で、豪炎寺は擬音だらけの秘伝書の内容をぶつぶつと繰り返す。
「円堂!ちょっと来てくれ」
「ん?どうした?」
なんだなんだと円堂がやってくる。
「さっきの秘伝書の事なんだが」
そう言って豪炎寺はしゃがみ込んで、その辺に落ちていた木の枝を使って、地面に書き込みを始めた。
ふと、先程から感じる視線に振り返って見れば、土門がじっとこちらを見てた。目が合えば土門はニカッと笑って軽く手を振った。
誤魔化すの上手いなぁ。
「凄いな豪炎寺!」
ふと、豪炎寺と円堂に視線を戻せば、円堂がキラキラと瞳を輝かせていた。
「そんな不安定な足場から、オーバヘッドキックを出せるのは豪炎寺、お前しかいない!」
ビシッと円堂が豪炎寺を指さす。
「俺が?」
うん、と円堂が頷く。
サッカー経験は圧倒的に豪炎寺が1番あるだろうし、そもそもファイアトルネードでのジャンプ力と身体を捻り横向きでボールを蹴るといった芸当をこなすのだ。豪炎寺しかいないだろう。
「そしてお前の踏み台になれるやつは...」
円堂はタイヤ特訓をしている皆の方を見た。
ちょうど、壁山が振り下ろされたタイヤを受け止めて、飛ばされる所だった。
「壁山か...よし!水津!」
『ん?私!?』
「おう!ジャンプと言ったら水津だ!指導頼むぜ!」
あーそういう事。まあ他に教えれる人いないしね。
『了解。任せてよ』
少しくらいは役に立とうか。
まずは壁山。
「なんっスかこの特訓は...」
2つのタイヤの中に身体を入れた壁山が呟く。
壁山が入るサイズのタイヤよくあったなぁ。ダンプカーとかのかな。
「壁山くんは1段目なの」
そう言って春奈ちゃんが、イナズマ落としの図を書いた紙が挟まったクリップボードを見せる。
「1段目が高く跳ばなきゃ、2段目は空高く登れない、でしょ?」
「だからジャンプ力を付けるのよ」
「でもこれじゃあ、んんっ」
壁山は一度ぴょんと身体を持ち上げようとしたが...。
「跳べないッス」
もとより重い身体に特大タイヤ2個も付けてたら、そりゃあ跳べない。
「いいからやってみろよ」
そう言って、壁山と同じようにタイヤ2つに身体を入れた円堂が現れた。
「俺もジャンプ力は身につけなきゃいけないんだ!な?」
「けどこれタイヤに意味あるんっスか?」
そう言って壁山は忌々しそうに身体の周りにあるタイヤを見詰める。
『タイヤは単純に負荷だね。ジャンプ力に1番必要なのは筋力なんだけど、ただの筋トレだけじゃどう考えても試合までに必要な筋力を得られないから、ジャンプ練習も負荷を掛けてやろうって事』
「なるほど...。ちゃんと意味があるんスね」
『うん』
私も最初アニメ見た時に意味あるのかこれ、とは思ったけどね。
『ジャンプに必要なのはまず、大きな腕の振り、そしてしっかり膝を曲げること。最後に踏み切りの時に踵は着けない事。この3つに要点を当ててやっていこうか』
「おう!頑張ろうぜ壁山!」
「は、ハイっす!」
繰り返し、その場でぴょんぴょんとジャンプを始める2人を見る。
壁山は重量が相当あるので全然跳べてないが、円堂は5センチ位は跳べてるな。
ここは図も代わり映えしないし、円堂がしっかり壁山に声掛けしてるし、しばらく置いといても大丈夫かな。
『春奈ちゃん、2人の腕の振りが甘かったり、踵が着いてたりしたらビシビシ注意していって』
「はい!任せてください!」
『私は豪炎寺の方見てくるね。何かあったら呼んでね』
はい!と元気の良い春奈ちゃんの返事を聞いて、別の箇所で特訓している豪炎寺の元に向かう。
豪炎寺の方は、風丸と染岡が居て、2人が腕を組足場を作り、豪炎寺がそれを踏み台にしてジャンプしてオーバヘッドを行っていた。
空中で縦回転した豪炎寺はそのまま背中から落ちていった。
「ぐっ、」
『はああああああ!?何してんの君ら!!』
「うるせぇ」
「水津」
染岡は耳を塞ぐポーズをとり、風丸は豪炎寺を起こしながら私の名を呼んだ。
ズカズカと3人の元に近寄り、思い切り睨みつける。
『君ら馬鹿なの!?』
「はあ?お前喧嘩売ってんのか!?」
そう言ってきた染岡に、売ってないわ!と返す。
『なんでマット敷いてないの!!』
「当日のグラウンドにマットはないだろ。本番を想定してだ」
豪炎寺の言葉に頭を抱える。
『出来もしない内に下手なことして大怪我したら元も子もないんですが』
「それは、」
『だいたい受け身もなってないし。とにかくさっきタイヤに詰めてたマットあったでしょ。風丸あれ持ってきなさい』
「あ、ああ!」
慌てて風丸が駆け出したのを見送って、豪炎寺を見る。
『ちゃんとした受け身を癖つけて。それだけで怪我のリスクが減らせるから』
「お前、怪我とかにうるさいよな」
染岡の言葉にため息をつく。うるさくもなるよ。
『着地失敗して頭打ったら、二度とサッカー出来なくなるからね』
こちとら実体験済みだ。
『最悪死ぬし。受け身はきちんとしようね』
「...ああ。どうしたらいい」
『1番は両足で着地出来るのがいいんだけどね...。着地失敗すると思ったら必ず頭は内側に向いて肘を曲げて...ここ』
自身の二の腕の内側を摩って見せる。
『両腕のこの部分をクッションにして背を着くことによって背中に直にくる衝撃を減らす』
「水津!持ってきたぞ!」
マットを抱えた風丸が戻ってきた。
『ちょうどいいね。実践してみようか』
着地点にマットを敷いて、染岡と風丸に足場を組んでもらう。
『よし、豪炎寺。3、2、1、GO!』
合図と共に豪炎寺は助走し、2人の腕に飛び乗った。豪炎寺の次の踏み切りと共に風丸と染岡は大きく腕を押し上げた。豪炎寺は空中で足を大きく振り上げ一回転して、また背中からマットの上に落ちた。
「カハッ...」
『大丈夫!?』
近づいてしゃがんで見れば、上半身だけ起こした豪炎寺はゴホゴホと咳き込んで居るので背を摩ってやる。
「ケホ......。マットがある分さっきよりマシだ。受け身はどうだ」
『もっと顎は引いた方がいいよ。肘はちゃんとしてたね』
「そうか」
「なあ、水津ならこれ出来るんじゃないか?」
近づいて問うてきた風丸に、えっ、と零す。
『どうだろう...。結構足場悪いしな』
「フリスタなんかチャラチャラしたやつじゃサッカーの技は出来ねぇだろ」
『はああああ?』
染岡、君は尽くフリスタをバカにするね。
『オーバヘッドキックぐらいできますけど?』
「おう、じゃあやってみろよ」
『ならさっさと足場組みな』
染岡と風丸が足場を組んで、私は助走距離を保つ為移動する。
いやー...売り言葉に買い言葉というか、挑発に乗ってしまったけど、不安定な足場からオーバヘッドキック...出来るかこれ…??
結構な高さになるし普通に怖いよな。
スーッと大きく息を吸い込んで、吐き出す。
もし、失敗して頭を打ったら。また、サッカー出来なくなるんじゃないか。
そう思ったら、背筋がぞっとした。
「水津ー!無理しなくてもいいんだぞ!」
始める気配のない私を見てか風丸がそう叫んだ。女子なんだし、と付け加えた風丸に大丈夫と手を振る。
マットも敷いてあるし、受け身をきちんと取れば大丈夫。落ち着け。
『もし、失敗したら危ないから腕振り上げたあと2人とも急いで離れてね』
ああ、と2人が頷いたのを見て。もう一度深呼吸をする。
『いきます!』
助走を付けて地を蹴って、2人の腕を踏みつけて、そこからしっかり膝を曲げてまた飛び上がる。飛び上がった勢いに任せて足を振り上げ、くるりと回って、両足でマットの上に着地する。と、
『おっと、っと、』
バランスを崩して二、三歩後に下がるが何とか踏みとどまった。
「おお...」
「凄いな水津!!」
「なるほど、蹴りあげの後もっと勢いがいるのか...」
三者三葉の声が聞こえる中、胸に手を置く。
『めっちゃ、怖かった』
心臓バクバクいってるんだが。
これ、更にボールに合わせて蹴るんでしょ。難易度めちゃくちゃ高すぎないか??
『しかし、ジャンプの高さがイマイチだったな。やっぱ足場不安定だと難しいな...』
「いや、いい手本になった。水津、綺麗に着地するコツがあるか?」
『え、コツ?怖がらないで思いっきり回る事かな。豪炎寺は多分、オーバヘッドキック決めたあとの勢いが足りてないんだと思う』
「やはりか。よし、染岡、風丸、もう一度足場を組んでくれ」
ああ、と頷いて2人が持ち場に着くので、マットから離れる。
「水津は見ていてダメなところがあったら教えてくれ」
『うん。了解』
「いくぞ」
そう言って豪炎寺は駆け出した。
染岡と風丸の腕を踏み台にし、飛び上がった豪炎寺は大きく足を振り上げオーバヘッドキックを決め、くるりと身体を回転させて、両足での着地を決めた。その足元にマットはない。
『よし!』
練習開始から数時間。何回飛んだかもう分からないが、やっとマット無しの地への着地を決めた。
「やっはー!豪炎寺!!」
染岡が両手を上げて喜んでいる横で、風丸がフッと笑みを零す。
出来たのか?といった様子で少し惚けていた豪炎寺も柔らかな笑みを浮かべそして、そのまま前に倒れた。
「豪炎寺!!」
慌てて3人で駆け寄る。
「豪炎寺!」
『大丈夫!?』
「大丈夫だ」
倒れた豪炎寺を風丸と染岡が支えて立ち上がらせる。
「とうとうやったな」
「いやまだまださ。ようやく3分の1ってところさ」
そう。まだこれに壁山のジャンプに合わせて跳ぶというのと、跳んだ後のオーバヘッドキックでボールをゴールに向けて正確に蹴るという難題が残っている。
「でもとにかくやれそうな希望は見えてきたよ」
そうだね、と風丸の言葉に頷いておく。
『さてと、諸君』
「なんだよ改まって」
3人ともオーバヘッドが上手く出来てとても嬉しそうであるが、一度自分達の姿を確認して欲しいよね。
『ボロボロな君達は今から消毒タイムだよ!!』
何度も地に叩きつけられていた豪炎寺も然る事乍ら、足場となっていた染岡と風丸の腕もスパイクで踏みつけられた事により真っ赤に腫れあがり擦り傷も出来ている。
『さっき秋ちゃんに救急箱持ってきてもらうようメールしたから、3人ともそこにお座り!』
「あー...」
3人は自分達の姿を見返して、これは従った方がいいな、と地に腰を下ろすのであった。
努力の勲章
だけど放置したら化膿するからダメだよ。オカンかお前は。え、染岡と風丸には言われたくないな。