脅威の侵略者編
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新たなるエイリア学園のチームの事もあるが、ひとまずは豪炎寺が帰ってきた事で歓迎ムードに包まれていた。
彼がチームを離れた理由も、鬼瓦さんがやって来て説明をしてくれて瞳子さんが豪炎寺を追い出した理由がようやっと分かり、彼女への疑念を抱いていたメンバーはちょっとバツが悪そうだった。
「水津ちょっといいか」
みんなの輪から抜け出して、豪炎寺にちょいちょいと手招きされる。
そういえば試合中に後で話があるって言ってたな。
『なに?』
「ちょっと来てくれ」
そう言って歩き出す豪炎寺について行く。
それを見たリカちゃんが、ニヤァ、と笑ったのは見なかった事にしよう。
みんなから離れたグラウンドの隅っこで、豪炎寺は足を止めた。
「お守り、助かった」
『ん?ああ。それは良かった』
困った時に見てと渡した、あのお守りの中には鬼瓦さんへのメールアドレスを書いていた。
電話で警察への連絡は見張られていてできないだろうけど、個人のおじさんにメール連絡する分には気付かれにくいだろうと思って入れて置いた。
いつぞやに鬼瓦さんの連絡先ゲットしといてほんとによかったよ。
「本当に感謝している。おかげで奴らにバレずに夕香を安全な場所に移動することができた」
『うん。夕香ちゃんの事も落ち着いたし、これでまた本気でサッカー出来るね』
「ああ、それなんだが……」
そう言って豪炎寺はじっとこちらを見つめた。
「さっきの試合のお前のシュート。あれ本気だったか?」
『え………』
本気か、本気じゃないか、と言われれば、本気じゃない。
けど、それを素直に答えたら……。
想像して1歩後ろに下がる。
『あの、お腹にシュートだけはご勘弁を…!最近やっと怪我なおったばかりで……!』
お仕置きシュートはヤダ!と豪炎寺を見れば、彼は怪訝そうな顔をしていた。
「……やっぱり、お前もまだ脅されているのか?」
お前も?まだ?………あっ、そうかヒロトと初めてあった時のことを勧誘しに来たって豪炎寺には適当に言ったんだったわ。
『えーっと……うん。まあ、脅されてるっちゃ脅されてる?』
エイリア学園にって言うより世界に?
なんか知らないけど私の自由とみんなを天秤にかけられてるんだもん……。
まあとりあえずここはこの間の話の続きっぽく以前エイリア学園に勧誘されてる事にするか。
「それは…、みんなは知っているのか?」
『うーん、と。勧誘されてるのは知ってる。この間みんなの前で堂々とされたし。脅されてるのは鬼道だけ知ってるかな』
「監督ではなく?」
不思議そうに豪炎寺は首を傾げた。
『監督も多分気づいてはいるだろうけどね。直接聞かれて教えたのは鬼道と君だけ』
「そうか……。内容は聞いても大丈夫か?」
『あー』
目を逸らして、フィールドのみんなの方を見る。
鬼道に話したようにホントの事を話して果たして理解出来るだろうか。いや、内容を理解してもらっても、仲間想いの彼が私が半田達を見捨てた事を知れば……。
「やはり、言えない、か。俺もそうだったからな……」
そう言って豪炎寺もみんなの方へ顔を向けた。
『うん。みんなに何かあっても困るしね……』
「そうか……」
『一応、今回は吹雪の事もあって臨時で試合にでたけど、今は私、トレーナーとしてチームにいるの。瞳子さんも察してそういう采配になってて、私が試合に出なければ、問題ないと思うから……』
どうにか取り繕うように言葉を紡いでいれば、ぽんと頭に手を置かれた。
『豪炎寺?』
「今まで、辛かっただろ。後は俺に任せろ」
そう言って2回ほどぽんぽんと頭を軽く叩いた後、豪炎寺は手を離した。
……恐るべしお兄ちゃん力。
『うん。ごめんね、戦力になれなくて』
「いや、」
ゆるゆると豪炎寺は首を振った。
「前にも言ったろ。お前のトレーニングメニューは力になってる。だからこそ、監督も俺の時のようにお前をキャラバンから降ろさないんじゃないか?」
『それは……』
瞳子さんが私を追い出さないのは、多分怪しさ満点だから逆に手元に置いときたいだけなんじゃないかな、と思ってるんだけど……。
「おーい!!豪炎寺!水津!いつまで喋ってるんだよー!一緒に練習やろうぜ!!!」
ブンブンと手を振りながら円堂が叫んでいる。
「アホ円堂!空気読まんかい!!ええ感じやったのに~」
リカちゃんが円堂にツッコミを入れてるが、これまた恋愛脳炸裂してるなぁ……。
『ふふ、円堂待ちきれないみたいだし行こうか』
「ああ、そうだな」
豪炎寺と共にフィールドで待つみんなの元に向かった。
久々の豪炎寺との練習に、雷門中生たちは特に楽しげだった。それこそ、綱海が俺とやる時もそのくらい楽しそうにしろ!と怒るくらいに。
リカちゃんなんかは同じポジションだし、豪炎寺にライバル心むき出しで勝負を挑んでいる。
「梅雨!うちの仇とったって~!」
豪炎寺に負けたリカちゃんが、むぅ、と悔しそうに頬を膨らませた後のそう叫んだ。
『えっ、私?』
今、彼女が抱きついている一之瀬じゃなくて?
「ストライカー勝負やもん!ダーリンはMFやし~」
「あはは……」
リカにスリスリと擦り寄られて一之瀬は困ったような笑みを浮かべていた。
『いや、私ストライカーじゃないんだけど』
「何言うてんの!今日かてバッチリ点決めとったやん」
あー、うん。あれは私の中じゃ事故みたいなもんなんだけどね。
「俺もお前と久々に本気の勝負してみたいけどな」
そう言って豪炎寺が手に持ったボールをポンとこちらに投げてきた。
本気、か……。
まあさっきの試合が本気じゃなかったの見逃してお仕置シュートしないでくれたし、その礼じゃないけど……。
『しょうがないなぁ。お姉さんがお相手してあげるよ!』
「結局ノリノリやん!」
リカちゃんのツッコミを聞きながら、ボールを地に置いて、豪炎寺と同じほど距離を取る。
「勝負は1回。先にゴールへシュートを決めた方の勝ちや!」
白恋で染岡と吹雪がしていたのと同じ勝負だ。
「ええか?行くで~。よーい、ドン!」
リカちゃんの合図で両者駆け出す。
最初にボールに触れたのは私の方だった。
へへ、こう見えてちゃんと毎日走り込みしてるもんね。しかもフォームは風丸仕込みだし。
そのままドリブルでゴール目指して一直線に走れば、追い上げてきた豪炎寺が横からチャージしてきた。
それに当たり返せば、横目に映る豪炎寺は驚いたような顔をしていた。
…とはいえ、このまま当たり続けられたら豪炎寺の方が若干体格が上だし、押し負ける。
だから、今度はドリブルでそのまま前に進むと見せかけて、ボールをつま先で掬いあげるように蹴りあげ上空へ飛ばした。
そのまま自分も跳んで両足でボールを挟んでムーンサルトで豪炎寺から距離を取ればいい。そう思っていたが、私が跳んだのと同時に豪炎寺はオーバーヘッドキックで、上空のボールを蹴り飛ばした。
『え、ええーー!?』
「ふっ、今のはお前らしいプレイで分かりやすかったからな」
ボールはラインの外に飛んでいき、地面に着地した豪炎寺は不適に笑っている。
「だが、前より攻撃性が増したか?前ならチャージはほとんどしなかっただろう?」
フットボールフロンティア期間中に何度か練習相手をしたが、確かにその時はチャージはしなかった。男の子相手じゃ自分はパワー負けするし、怪我もし易いしで。
『あー、染岡と練習してたせいかも?』
「ああ。なるほど、アイツは暑くなればなるほどぶつかってくるからな」
そうそう、と頷く。
豪炎寺が抜けた後は私が染岡と練習する事多かったし。特に白恋の間は、染岡は吹雪といるの嫌がってたしね。
そういえば吹雪は、とフィールドをぐるりと見渡せば、彼はフィールドの外で1人ポツンと下を見ていた。そんな吹雪の手前には先程豪炎寺が蹴飛ばしたボールが転がっているが、彼はそれを見つめているようだった。
「………。ボール取ってくるから少し待っててくれ」
豪炎寺にそう言われて振り返れば、返事もする間もなく駆け出していて、豪炎寺は吹雪の傍に近づいて、ボール拾い上げた。
そして、彼はそのまま吹雪と会話を始めた。
「なーんや、勝負はお預けになりそうやな」
ひょい、と近寄ってきてリカちゃんが肩に手を置く。
『うーん、そうね』
「2人で会話させて大丈夫かな?」
心配そうに2人の様子を見つめながら一之瀬も近づいてきた。
「ほら豪炎寺って結構ハッキリ言ってくるからさ……」
『うん。それにすぐお仕置シュートするしね』
「ん?」
「なんやお仕置シュートって…!」
一之瀬が首をひねり、リカちゃんが驚いたような顔をしていた。
『あー、そうか。リカちゃんは当然だけど、そっか、一之瀬も地区予選後の加入だもんね』
みんなの前でお仕置シュートしたの帝国との地区予選だったわ。そりゃ一之瀬からしたらなんの事って話だ。
「ちょっとカッコええと思っとったけど、なんか怖いやつなん…?」
『いやいや!普段は優しいお兄ちゃん気質な子だよ!?』
ただ時々ファイヤートルネード治療法って精神治療始めるだけであって。
「普段じゃない時は怖いっちゅーことやん、それ!」
否定はしない
いい子なんですけどね。時々過激っていうかね。うん、いい子なんですよ、ホントに。