はあ、とため息を吐いた私を見てデザームは怪訝そうな顔をした。

｢…そうか。まだ足りぬか。ならば全力でお前たちを潰しにかかるとしよう｣

『なっ……！それは……』

若干の流れは違うが、展開は合ってる。
……だからこそ、最悪だ。
デザームは私を焚きつける為にみんなを潰しに行くだろう。だけど、それに答えてシュートをしに行って、万が一決まってしまったら……？物語が大きく変わってしまうのでは？
そうならないようにするには、またみんなを見捨てるしかない。


そんなことを考えていれば、ピィッーーと甲高い音が鳴り響いた。

｢雷門中対イプシロン改！後半戦開始〜！｣

ホイッスルが鳴り終わり、角馬くんが叫ぶ。
目金がボールをちょんと蹴り、受け取ったリカちゃんがドリブルで走り出す。
そんな彼女の背後からデザームが追い抜き足元にあったボールを取って雷門陣内へ走りはっていく。

｢早すぎやろ！？｣

｢一之瀬！水津！｣

鬼道の合図に合わせて正面からデザームに向かうが、尋常ではないスピードで当たられ3人とも吹き飛ばされる。

『いった……』

起き上がってゴールを見ればデザームはゴール前でグングニルを打つ体制に入っていた。

｢今度こそ…！｣

円堂も構えて待つ。

｢グングニル！｣

デザームの足からボールが蹴られ必殺シュートがゴールへ向かっていく。

｢簡単にはやらせないよ！｣

デザームと円堂の間に塔子ちゃんと壁山が駆けてきて割り込んだ。

｢ザ・タワー！！｣
｢ザ・ウォール！！｣

2人が同時に必殺技を使いグングニルの壁になる。だが、2つの必殺技を破りグングニルはゴールへと飛んでいく。

｢ぅおおおお、正義の鉄拳！｣

円堂が拳を突き出して正義の鉄拳を放つ。
グングニルと正面からぶつかるが、まだグングニルのパワーが上回っていて正義の鉄拳が破れ円堂が後ろに弾き飛ばされる。

｢またも正義の鉄拳が打ち砕かれた！｣

｢入れさせねぇ！｣

そう言った綱海が飛び出し、ボールを腹で受け止める。

｢綱海が飛び込んできた！だが！グングニルの方がパワーが上だあ！｣

｢舐めんなぁ！！｣

そう叫んだ綱海は、右の足を後ろに折りゴールポストへ引っ掛けた。そのまま空中でバランスをとり、ボールの勢いが止まるまで耐えた。……無茶な事をする。
綱海のお腹からぽとりと下に落ちたボールを円堂が慌てて抑えて止める。

｢なんと綱海！ゴールポストを利用してボールを止めたぁ！捨て身のディフェンスで2点目を防ぎました！｣

｢グングニルを止めるとは…！これは潰しがいがありそうだな｣

デザームはどこか楽しそうな顔をしている。
本当に最悪だ。同じフィールドにいるのに、私は……。




｢水津！｣

円堂からボールが投げ飛ばされてきて、それをトラップする。

｢打たせろ！｣

ボールを奪おうとマキュアやフォドラが駆け寄って来ていたのをデザームが制した。
本当にどうしろってんだ……。


｢水津！気にせず打て！｣

そう鬼道が叫ぶ。

｢そうやで！舐め腐っとって腹立つから決めたってや！｣

リカちゃんもそう言ってくれる。……まあ多分鬼道の気にせずってのは、相手の動きじゃなくて、話が変わることを気にするなと言ってくれてるんだろう。
だけど、私は……。

思い返すのは、佐久間と源田と染岡の姿。


『……っ、』

｢水津？｣

私のシュートは、レインドロップと命名されるまで、初見殺しシュートって呼んでたようなシュートだ。
あのデザームにも効いたから、ゼルにも効くかもしれない。そうなった時また点を取ってしまったら………？

『私は……』

ヒーローが現れなくなって、この後みんなが傷つくかもしれない。半田たちや、佐久間や源田や染岡のように……。

『私には無理だ……』

デザームにあんなこと言っといてこれだと怒られそうだな。
足先でボールを掬ってリフティングをした後高く蹴りあげ自身も飛ぶ。

『レインドロップ』

振り下ろした足でボールを叩き落とす。
行けー！とみんなが後ろから叫ぶ。
地面にボールが落ち、そして。

｢来い！｣

キーパーのゼルが構える。
ごめんね。

｢あっ、｣
｢え？｣

みんなの困惑した声が聞こえた。
落ちたボールは地面に跳ねて、ゴールではなくゴールラインの外に出ていった。

『アハハ、ちょっと緊張して力み過ぎた、かなぁ……』

みんなの反応が怖くて伺うようにそっと振り返って見る。

｢あ〜、惜しかったな！｣
｢ドンマイ！｣
｢次や次！｣

そんなみんなの反応に、ホッと息を吐く。

｢貴様……！｣

ゼルが睨みを効かせてくる。
多分キーパー側から見たらわざと外したのバレバレだったたろうな。

｢デザーム様！｣

ゴールラインからゼルがデザームへボールを投げた。
それを受け取ったデザームがまたとんでもないスピードで皆を吹き飛ばしなから雷門陣内を進んでいく。

｢いくぞぉ！グングニル！｣

｢正義の鉄拳！｣

デザームのグングニルを再び正義の鉄拳で受け止めようとするが、やはりそのパワーに押されている。

｢うわあっ！｣

｢再びグングニルが正義の鉄拳を粉砕！2点目ゴー…いや！これは…！｣

ゴールの前にDF陣が横並びになって壁を作る。

｢人の壁だあ！雷門防いだ！ああっと！しかし、これは円堂を含め雷門全員が倒れている…！恐るべきデザーム！恐るべきグングニル！！｣

ごろり、と雷門陣内はみんなが横たわっている。

『……っ、大丈夫……』

これでちゃんとシナリオ通りのはず。

｢しかもボールはデザームに渡ってしまった！雷門絶対絶命！！｣

きっと、そろそろ……。横たわりながら観客席を見渡す。目立つオレンジ色はまだベンチに居た。

『……どうか』

じっと、見ているがオレンジは立ち上がらない。
なんで……、やっぱりあの時点を入れてしまったから…？

｢こんなものでは無いはずだ！立て！立って私を楽しませろ！｣

デザームがそういい雷門イレブンたちを見回した。だが、彼に返答をするものはなかった。
おかしい……円堂が立ち上がらない。

｢こんなもので終わりだというのか……？｣

デザームがどこか悲しそうな口調でそう呟いた。

円堂が立ち上がらないと彼が来ない。
この流れは、1番最初にも見たなぁ……。また、私が動かないとダメなのか。
私がバクなのかデバッカーなのかハッキリしてほしい。

……ゆっくりと起き上がる。

｢そうだ！立て！｣

再びデザームは楽しそうに笑った。
観客席を見れば、彼は電話をしている様子だった。やっぱり私が動けば進むって事か。でも好き勝手やるとその代償は大きい。めんどくさい。

『ああもう！！』

とりあえずは彼が来るまでの時間稼ぎをすればいいんだろう。
電話をしてるって事は、もうすぐだろうから。

やってること2転3転
私の手のひらドリルスマッシャーかってくらい手のひらクルクル。