脅威の侵略者編
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ボールを奪っても動きを読まれて直ぐに奪い返される。その状況に雷門イレブンが焦る中、鬼道は何故だと、冷静にフィールドを見ていた。
「(何故奴らには俺たちの動きが全て読めるんだ?)」
古謝から喜屋武へのパスを梅雨が跳んで上空でパスカットしてすぐさま一之瀬へ渡した。
「(試合前に相性が悪いと言っていた割に、今日の水津のセーブ率は高い。が、それ故に水津は守るために下がりすぎていて、FWとして機能していない。相性が悪いというのは、攻め上がれない事を指していたのか……?)」
梅雨からパスされたボールを一之瀬が持って駆け上がる。
「任せろ!」
そう声を上げて向かってくる綱海を軽々と避けた一之瀬だったが、
「8ビート!」
音村がそう叫び、一之瀬の元に向かった東江が彼の足からボールを抜き去った。
「トゥントゥクトゥントゥクトゥントゥク……」
自分の横を通り過ぎフィールドを駆け上がる音村がブツブツと呟いている事に気がついて鬼道はハッとしたように、音村の背中を見た。
「(まさか、アイツ……だが、そんなことが本当にできるのか!?)」
「キラースライド!!!」
土門が、ドリブルで上がった東江の足元にスライディングを仕掛ける。
「アダージョ、2ビートダウン!」
そう音村が叫べば、東江は少しスピードを落とし、土門のスライディングが過ぎ去った後にそのまま余裕を持ってドリブルで進んで行った。
「…やはりそうか」
確信を持ち鬼道が呟く中、大海原中が動いた。
池宮城、古謝と共にまたもやイーグルバスターを打つためにDFのいちから上がってきた宜保に東江からボールが飛ぶ。
これはディフェンスが間に合わない。
「「「イーグルバスター!!!」」」
宜保が振り上げた池宮城と古謝が蹴りあげたボールは、何とかゴールポストの上を過ぎていって得点にはならなかった。
サッカーにタイムがないが、ボールが外に出いる間はアデショナルタイムに換算されるのでこの間を使って気がついた事を、鬼道は皆に伝えた。
「リズムを測ってる!?」
驚く円堂に、鬼道はそうだと頷いてみせた。
「俺たちが抜こうとしたり、チャージをかけようとしたその瞬間に、やつはプレーのリズムを割り出しそこから逆算して仲間に指示をたしている」
『音村、2ビートとか8ビートとか言ってるしね』
そう言えば鬼道は、ああ、と頷いた。
「それでボールが繋がらなかったのか……」
しかし、リズムをビートで現すだけじゃなく、アンダンテとかアダージョという音楽用語も織り交ぜて指示をだしている。
ぶっちゃけこの音楽用語も、ビートも覚えて音村の指揮に従える大海原中の選手たちはめちゃくちゃ凄いのでは??
「でも瞬間にってそんなの何秒もないぞ。一瞬でリズムなんて本当に測れるのか?」
一之瀬の疑問は最もだが、それが出来てしまうのが音村楽也。
「あいつにはな…。恐ろしいリズム感だ。いいか皆!少しずつタイミングをずらしていくぞ」
鬼道の言葉に、皆がおう!と返事をして、ポジションに散っていく。
「水津」
『なに?』
「お前は向こうのリズムが読めるか?」
『いや、無理だね。今日、パスカットが上手く言ってるからそう聞いてきたんだろうけど、読めないよ?』
そう言えば、本当か?と言うように鬼道はこちらを見つめてきた。
『私は、音村が他の選手に何ビートを伝えたかを聞いてから動いてるだけだからね』
「そういうことか。それで合わせてカットはできるものの、後手にまわり攻め上がれなかったのか」
『うん。しかも私は、フリスタじゃショーケース。ガチガチのルーティン派よ?一定のリズムじゃなく動くの凄く苦手』
「相性最悪というのは、読まれやすい、ということか……」
左様ですと答えれば、分かったと頷いて鬼道もポジションに戻る。
『ゲームメイカーさんは、相手の動きだけじゃなく、選手をどう使うかも考えなきゃだから大変だなぁ』
どういう風にパス回しするか悩んでるんだろうな。私なら、臨機応変が得意な一之瀬に回すなぁ。
そう思いつつ自分もFWの位置に立つ。
再開するぞ、と円堂がボールを蹴り飛ばし、受け取った鬼道がドリブルでセンターを駆け上がった。
「一ノ瀬!」
だよね。
鬼道はライトから上がる一之瀬を呼ぶ。
「16ビート!」
トゥントゥクトゥントゥクとリズムを測っていた音村が叫べば、渡具知が鬼道へスライディングを仕掛ける。
「……今!」
鬼道はいつもより3歩分多く進むことで渡具知のスライディングを避け、一之瀬へパスをだした。
「繋がったァ!雷門パスが繋がった!」
盛り上がる実況席の声を聞きながら、ボールを受け取った一之瀬がドリブルで上がる。
「8ビート!」
一之瀬に向かってDFの赤嶺が駆け寄るが、一之瀬も先程よりドリブルの歩幅をずらすことで赤嶺を抜き去った。
それを見て驚いたように音村は目を見開いている。
「いかせん!」
ゴール前にたどりついた一之瀬の前に宜保が立ちはだかる。だが、一之瀬はゴール目前でぐるりと身体を捻ってボールを後ろに蹴り飛ばした。
「バタフライドリームだ!」
ボールは一之瀬の後ろから駆け上がっていたリカちゃんの元へ。
「塔子!」
リカちゃんが呼べは、塔子ちゃんが近づいて2人は手を繋ぎ飛び上がった。
「「バタフライドリーム!!」」
「出た!雷門の必殺技!」
蝶が鱗粉を撒き散らすように飛んで行ったシュートの前に、大海原中GKの首里は足元の地面を丸く抉り持ち上げた。
「ちゃぶだいがえし」
その言葉の通り、ちゃぶ台返しのように縦になった、くり抜いた地面の面でボールを受け止める。
しかし、バタフライドリームの威力に押され、パキパキと割れ、ボールはその勢いに乗せてゴールへ入った。
「ゴーーーール!!雷門先制!ついに均衡が破られました!」
「決まったな!」
「ああ!」
やったと喜ぶリカちゃんと塔子ちゃんに、ゴールが円堂がナイスシュート!と叫ぶ。
そしたら何故か、大海原イレブンたちがイエーーーイと喜びの声を上げた。
「点取られてもイエーイなのね……」
呆れたようにベンチのマネージャーたちが呟いた。
giocoso
でもまあ、楽しげに試合してくれる分にはいいよね。