脅威の侵略者編
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練習を始めたものの、みんなのやる気も集中力も切れていた。
マジン・ザ・ハンドで円堂が行き詰まってた時も、みんなこんな感じだったなぁ。
リハビリを兼ねてグラウンドの端っこでリフティングをしながら、みんなの様子を眺める。
リカちゃんと塔子ちゃんは気丈に振舞おうとしているが、明らかにいつものような元気がない。
壁山、栗松、木暮はボッーと突っ立っていることが多い。特に栗松は、思い詰めた顔をしている。
一之瀬と土門は、そんな1年生を心配してか彼らもまた集中出来ていない。
「こういった時に動じないのは鬼道くんだけですね」
そう、隣に立った目金が言う。
彼も、現状メンバーが足りないのは理解してるのか、いつもは渋る練習に自ら参加しているものの、やる気というよりは気力がない、と言った感じだ。
『そうでもないと思うよ』
「ああ、アナタもですね」
それは、先を知ってるから動じる必要ないってだけなんだけど。
『そうじゃなくて、鬼道が動じてないって話』
そう言えば、目金は首を傾げた。
『全く動じてないわけじゃないと思うよ。顔や態度に出ないだけで』
だから、多分、私に選手に戻るように、彼なりに助けを求めに来たんだと思う。
『……円堂がこのまま抜けたら、雷門にはキーパーいないし、鬼道が先を考えないわけないでしょ』
「そうですね……。あの円堂くんがダメなら、みんなも……」
芋ずる式に辞めていくだろうね。
『分かってるから、みんなを安心させる為にも鬼道はいつも通りをやって見せてるんじゃないかな。それに……』
「それに?」
『信じてるんだと思うよ。円堂は絶対に立ち直るって』
「信じてる、ですか。……そうですね、僕らに出来るのは円堂くんを信じて待つことだけかもしれません」
そう言って目金は静かに前を見た。
『信じて待つだけじゃないよ』
「へ?」
リフティングを辞めて、ガシッと目金の腕を掴む。
『信じて練習するんだよ』
「えっ、ちょっ」
『私も久しぶりだし相手してよ。1on1でいいからさ』
「ええぇ、嫌ですよ!僕が水津さんに勝てるわけないじゃないですかぁってちょっと引っ張らないでくださいよ!」
文句を言う目金を引っ張ってフィールドの中に入っていった。
目金との1on1に圧勝したら、何故か鬼道ともやることになってボコボコにされた。
こちとら病み上がりだぞ。勝てるわけねぇーだろ。もっと優しくしろと悪態ついていたら、いつの間にか休憩時間になって、マネージャー達がおにぎりを用意してくれた。
「…私、円堂くんに届けてくるね」
そう言って秋ちゃんが、お皿にいくつか取り分けたおにぎりにラップして、円堂の元に行ってしまった。
大丈夫かな。さっきも夏未ちゃんが円堂に練習しなさいと言いに行って泣いて戻ってきてたけど…。
今までだったら、おにぎりッスー!!と喜んで叫んでいた壁山も大人しく、食べている。まあ、量は相変わらず凄い。
和気あいあいって感じはなく、静かに進む昼食の最中、少し離れた所から、マジン・ザ・ハンド!!と叫ぶ声が響く。
「立向居くん、まだ練習してるんですね」
『春奈ちゃんおにぎり2、3個お皿に分けてもらってもいい?』
「はーい。立向居くんにですか?」
『うん。彼、休憩も忘れてやってそうだからね。持っててあげようかと』
一緒に食べようって声を掛けるのは多分、彼萎縮しちゃうだろうし。なによりこんなお通夜みたいな空気の中に入れるのは可哀想だ。
「確かにずっと、声聞こえるよな。ちょっとはサボ……休憩すればいいのに」
木暮は呆れたように、声のする方に顔を向けている。
「はい、先輩出来ましたよ」
お皿に乗ったおにぎりをどうぞと春奈ちゃんが渡してくれたのを受け取って、ちょっと行ってくるねと声掛けて、校舎裏の声のする方に向かった。
「マジン・ザ・ハンドーー!!…ぐっあっ!!」
気に括りつけたロープにタイヤを吊るして、それを相手に手のひらを突き出しては吹き飛ばされる立向居がいた。
「…これじゃ、全然ダメだ…っ、」
そう言って立向居は、倒れたまま地面に拳をぶつける。
『精が出るね少年』
彼の前に回ってしゃがみこみ、お皿を持っていない方の手を差し出す。
「え、あっ、すみません、ありがとうございます」
そう言って立向居はそっと片手を私の手の上に乗せた。
ゆっくりと引っ張りあげるように立ち上がれば、立向居はぺこりと頭を下げた後、手を離して固まった。
『どうかした?』
「す、すみません、俺…!グローブのまま…!手汚れましたよね。タ、タオル…!」
慌てて駆け出して、木の根元に置いた自身のバックをグローブを脱いで漁り出した立向居に、思わず吹き出す。
『ふふっ、大丈夫だよ。けど、グローブ泥だらけになるほど頑張ってんだね』
「え、いやぁ……あっ、ありました!これ使ってください!」
戻ってきてどうぞと差し出されたタオルをありがとうと受け取って、代わりにこっちをあげるとお皿を差し出す。
「これは…」
『差し入れ。うちのマネージャーちゃんたちが作ったんだけど…、あっ、もしかしてお弁当持ってきてる?』
「いえ、持ってきてないです。そっか、もうお昼なんですね」
『気づいてなかったんだ?まあ、めちゃくちゃ集中してたもんね。じゃあ、やっぱり来て正解だったな』
根詰めすぎそうって、予想は当たってたね。
「けど、これ俺が頂いていいんですか?水津さんのは…」
『私は向こうでもう食べてきたよ』
皆のいるグラウンドを指させば、なるほどと立向居は頷いた。
「じゃあ、せっかくなんで頂きます」
『飲み物ある?なかったら持ってくるけど』
最近は減ったが、もしかしたら夏未ちゃんの激しょっぱおにぎり混ざってるかもしれないし。飲み物は大事だ。
「あります!」
『じゃあ、よかった』
そう言って、よいしょ、と木の根元に腰を下ろし、タオルで手を拭き取る。
『立向居、座って食べな』
そう声をかければ、はい、と返事をして、立向居は隣にヒト一人分空けて木の根元に背を預け腰を下ろした。
「いただきます」
『はい、どうぞ』
きちんと手を揃えてから、立向居はおにぎりを食べ始める。
「おいしいです!」
『それはよかった。ところで、マジン・ザ・ハンドはどう?完成できそう?』
「なかなか難しいです。でも、必ず完成させてみせます」
そう言って立向居は拳を掲げてみせた。
「円堂さんでも、フットボールフロンティアの決勝でボロボロになりながら挑戦して完成させたんですから、俺はもっともっと頑張らないと」
立向居の目は真っ直ぐでギラついている。
『円堂に憧れて、か……』
「え?」
『ああ、いや。戸田キャプテンが言ってたでしょ?立向居は円堂に憧れてミッドフィールダーからキーパーになったって』
「はい。そうなんです」
えへへ、と立向居は照れたように頬をかいた。
「テレビで見た円堂さんは、どんなに辛くても何度だって立ち上がって、最後にはしっかりボールを止めるんです!それがかっこよくて…!」
『……わかるなぁ』
「そうですか!?」
『うん。私も、円堂を見てもう一度立ち上がろうと思ったから…』
もう、フリースタイルは出来ない。そう宣告されて、身体に麻痺が残り死んだ方が良かったと、死にたいと思っていたあの頃。
立ち向かう勇気
それをくれたの円堂と、イナズマイレブンだったから。