脅威の侵略者編
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「異常なしです。運動されても大丈夫ですよ」
きっと、あの足の怪我をしたばかりの頃の私が聞いたらのなら凄く喜んだことだろう。
あれだけ望んだ検査結果の異常なし、をこんなに嬉しくないと思うだなんて、ね。
医師に礼を告げて診察室を出た。
帰ろうか、と病院の受付で支払いを済ませ外に出れば、いつの間にか雨が降っていた。
ザアザア降りだし、陽花戸中まで歩いて帰るには距離がある。
『古株さん、呼ぶか〜』
院内だからとマナーモードにしていた携帯を手に取れば、ブルブルとタイミングよく震えた。
通知を見れば、染岡、の文字。耳元に携帯を持っていく。
『もしもし?』
《あ、おう。水津か?》
『うん。電話してくるの珍しいね、どうしたの?』
病院の入り口に突っ立ってては邪魔だからと、端による。
《あー、いや、…つか、お前今外か?なんかザアザアいってる……》
『ああ、今ちょうど病院帰りでね。ザアザアいってるのは雨降ってるから。うるさい?』
《ちょっと聞き取りずれぇけど、それよりお前病院って、やっぱりなんかあったのか?》
ん??やっぱりってなんだ???
《昨日から吹雪の奴に連絡するけど返事がねぇし、アイツいつもならすぐに返信してくんのに……。さっき円堂と風丸にも連絡してみたんだがあいつらも出ねぇし……》
……おお、ピンポイントで今出れないところに連絡してんな。
『ああ、それは……』
かくかくしかじかと、昨日の出来事を説明する。
《…そうだったのか。それじゃあ返事がねぇはずだ。何となく、二重人格か?とは思ってたけどよぉ…、アイツそんな思い詰めるまで……》
『…うん。ずっと無理してたんだと思うよ』
吹雪が、私に染岡くんの分もボクが頑張るとよく言っていたから、今までも連絡を取り合っていたのなら吹雪から同じようなセリフを染岡も聞いているだろう…。
《しかも、風丸が抜けて円堂も、か……》
『うん。……風丸も北海道の時からずっと悩んでたから。終わりの見えない戦いに、着いて行けなくなったんだろうね……』
《北海道の時からって……》
知らなかったと、染岡は言う。
『たまたま2人で話す事があってね、その時に風丸、円堂に神のアクアを使ったらどうかと言って怒られたって……』
「なっ……!」
『その時は、円堂に俺たちは正々堂々と戦うんだ!って言われて、納得してたみたいだけど、やっぱり強いチームがどんどん出てきたら、正々堂々じゃ勝てないんじゃないかと思うようになるよね。円堂も、風丸がそう思ってたのを知ってるから、今回引き止められなかった事が、余計にきてるんじゃないかなぁ……』
電話越しに、はー、と長く息を吐くのが聞こえる。
《………しんどいな》
『うん』
しんどい。
何より円堂と風丸は幼なじみで、元はサッカー部の部員が足りないからって1番最初に来てくれて。陸上部に戻って来て欲しいという宮坂の願いを蹴って、サッカー部へ残ってくれていたのに。その、風丸が耐えられなくなった。
彼がダメで、吹雪の事も気づけなくて、このままじゃ他のみんなも……と考えないわけない。
現に、鬼道も考えて、リカちゃんひとりの重荷にならないように、私に選手へ戻れと言う。
《けど、円堂は大丈夫だろ》
どこか自信に満ちた声で言う染岡に、え?と聞き返す。
《何度やられても何度だって立ち上がる。それが円堂だろ》
『うん。そうだね』
円堂だから、大丈夫。
《ところで、水津。怪我の具合どうだ?》
『え、ああ。大分回復したよ。もう運動していいって許可もおりたし』
《そうか!よかったな!》
電話越しに喜んでくれる染岡に、そっちは?とは聞き返せなかった。
彼の怪我がまだまだ治らないのは知っているから。
『うん。ありがとう』
《試合に出るのか?》
『そうなると思う。メンバーも減ったしね……』
《あー。監督人使い、というか水津使い荒いからな》
それは私もそう思う。
まあ、できることはやりたいからやるけどさ。
《あんま無理すんなよ?》
『うん。大丈夫だよ』
《あと無茶もな。真・帝国の時みたいな事すんなよ!》
真・帝国の時、か……。
あの試合で、私も、染岡も、佐久間も、源田も怪我をしたのに、私ひとりこんなに早くに回復してる……。
『…うん。もう余計な事はしないよ』
《(余計……?)…とにかく、俺も傍で庇ってやれねぇし、1人で無茶すんじゃねぇぞ》
『…そう、だね』
あの時、染岡が肩でぶつかって来なかったら、不動によって脚をやられていただろう。
『あの時はありがとう』
《なんだよ急に……》
『いや、あの時突き飛ばしてくれなかったらと思うとゾッとするし……、それにあの時怒ってくれたじゃない?なんだっけ……、私が他の人の怪我を見たくないように、染岡も《 だああああああ!!!》
言ってくれた言葉を思い返しながら言えば、染岡が急に大声を上げた。
《アレは違ッ!!いや違わねぇけど!!言葉の彩というかなんというか…》
精一杯の照れ隠しなのか、大きな声を張る染岡に思わず笑みがこぼれる。
随分と可愛らしい少年だ。
『ふふ、分かってるよ。でも、ああ言ってくれたおかげで、間違ってたって気づけたし。心配してくれたのも嬉しかったんだよ』
《なっ…、ぐっ……!》
染岡は照れているのか言葉にならない声を上げている。
『ありがとうね』
《…………おう》
先程とは違って凄く小さい声で、染岡は返事して。それが愛らしくてまた笑みをこぼす。
『外、雷落ちそうだしそろそろ切るね』
空がゴロゴロと鳴っていて、いつ雷が落ちてもおかしくない。
「え、ああ。気をつけろよ」
『ええ。じゃあ、またね』
Call
久しぶりに少し笑った気がする。