脅威の侵略者編
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「なあ……梅雨ちゃんは吹雪の事、監督から聞いてたって、いつからだよ」
そう言ったのは土門だ。
『……チームに入れた日だよ。でも、あの二重人格は危ないって私は伝えたんだよ』
「そう思ってたならなんで、俺たちに教えてくれなかったんだよ!そうしたら吹雪は…!」
早くにみんなに伝えたら、何が変わってたんだろうか。
『ああはならなかったかもね』
「かもねって…!!」
『でも、それじゃあ、あのまま吹雪がいなてジェミニストームに勝てた?イプシロンを凌ぐことができた?白恋中も漫遊寺中も守れなかったかもしれない』
それは……とみんな下を向き押し黙る。
そんな中、鬼道だけが私を見据えて口を開いた。
「そうだな。お前の言うように吹雪がいなければここまで来れてはいない。俺たちは吹雪に頼りすぎていた。そうでなければ、吹雪も水津に余計な事をするな、とは言わなかっただろうな」
鬼道の言葉に私含め皆が、え?と首を傾げる。
「なにわランドの修練場で吹雪に言われたと落ち込んでいただろう。キャラバンで木暮のサボりをお前が許容してたときだ」
『え……、あー……』
「ああっ、あの時!確かに梅雨さん変だった……って、別にサボってないからな!」
みんなにアレは休憩してただけとアピールする木暮を横目に、確かにキャラバン内で鬼道とそんな話をした事を思い出した。
「お前の事だ。あの時点で吹雪がおかしくなっていたのに気づいていたんだろう?今までのお前ならその時点で止めたはずだが……、吹雪にそう言われたのもあって、言い出せなかったんじゃないか?」
少し優しい声色で鬼道がそう問いかけてきた。
『……ごめん』
吹雪に余計な事をするなと言われたからじゃない……。
物語を変えるのが怖かったから。ただそれだけなのに。
「アンタもいろいろ悩んどったんやな…」
そう言って、リカちゃんがそっと私の背に手を置いた。
やめてくれ。今、優しくされたら泣いてしまいそうだ。罪悪感に押しつぶされてしまいそうで。
「水津のせいでも、監督のせいでもない。これはチームの問題だ」
鬼道がそう言えば、チームの…?と一之瀬が聞き返した。
「俺たちはエターナルブリザードに頼りすぎていた。吹雪にさえ繋げば点を取ってくれる、と。吹雪にとって、そんな思いが重圧になっていたに違いない……」
「水津の心配も受け入れない程に、か……」
「吹雪……」
円堂が眠る吹雪を見つめた。
「戦い方を考え直すべきかも知れない。吹雪の為に、そして俺たちが更に強くなってエイリア学園に勝つために!」
鬼道の言葉に、ずっと下を向いていたみんなが、ハッとしたように顔を上げた。
「エイリア学園を倒すために……!」
「鬼道!」
確認するように塔子ちゃんが言い直し、円堂がグッと拳を握れば、彼はああ、と頷いた。
「ああ、賛成だ」
「俺もだ!」
「賛成ッス!」
次々にみんなが鬼道の案を肯定する中、風丸が静かにみんなから顔を背けていた。
「そうだな。吹雪の為に、エイリア学園に勝つために」
「そやそや!そのノリやで!」
「そうと決まれば練習だ!」
円堂が叫んで、おう!と返事したみんなは順番に病室を出ていく。
「あっ、ダーリン待って!ほら、梅雨も行くで〜」
そう言ってリカちゃんに腕を引っ張られる。
『私は……』
「ウチはアンタが吹雪の事心配しよったん、誰よりも知っとる。せやから落ち込むのも分かるけど、そういう時ほど身体動かした方がええねんで!!」
そう言ってグイグイ引っ張るリカちゃんの横に、部屋の外に出かけてた一之瀬が戻ってきて立った。その一之瀬は土門の腕を掴んで居て、彼の半歩後ろに立たされた土門はバツの悪そうにこちらを見た。
「ほら、土門」
つんつん、と一之瀬が肘で土門の腰をつつけば、彼は分かってるよ!と声を荒らげた。
「……ごめん、梅雨ちゃん。さっきは強く言いすぎた」
『ううん。土門は間違ったこと言ってないよ』
知ってたなら早く言えは、正論だもん。
「そりゃそうだろ。つーか、何より俺が前に、1人で思い詰めるなって言ったのに、また1人で抱え込んでるし」
『うん。ごめん』
謝れば土門は、はあ、と大きなため息を吐いた。
「まあ、事情が事情だったし。ペラペラと他人が勝手に話していい内容でもないし。吹雪が嫌がってたんならしょうがねぇか」
そう言って土門はわしゃわしゃと頭の後ろをかいた後、親指を立てて、ドアの方を指した。
「行こうぜ。結局また1人で思い込むんだろうし、リカの言うように身体動かそうぜ。そんで、エイリア学園に勝つためにも、新しい練習メニュー考えてくれよ、梅雨ちゃん?」
「そうだね。行こうよ水津」
私は、みんなを騙して見て見ぬふりという酷いことしてるのに、彼らはこうやって気を使って優しくしてくれる。
『……ありがとう』
「馬鹿やな、礼なんて要らんで」
ほな行こ、とリカちゃんに手を引かれた。
慈雨
少しいいか?と最後に部屋を出ようとした夏未に鬼道が声をかけた。
静かに目を合わせた2人は、みんなが病室の廊下を進んでいくのを見て、もう一度病室内に戻り、そっと扉を閉めた。
「どうかしたの鬼道くん」
「……水津の事だ。注意深く見ておいてくれ」
「それはどういう……」
夏未が不信そうに鬼道を見つめる。
「アイツがおかしいのは気がついているか?」
「ええ。…吹雪くんの事を思い詰めてるのでしょうね」
「ああ……それもあるんだろうが……。今回、水津は吹雪が倒れた時に駆けつけて来なかった」
鬼道の言葉に夏未は、えっ、と目を見開いた。
「そう言われれば、確かに、今回は呆然とした様子でずっとベンチに居たわ。今までなら必ずみんなに処置の指示や救急車を呼んだりしてたのに……」
「黙っていた事による罪悪感からかは分からないが……。今回は上手くリカがフォローしていたが、恐らくこのままでは水津も第2の吹雪になるだろうな」
「それはどういう意味?」
夏未は眉をひそめた。
今回の責任で思い詰めるかもしれないのは分かるが、第2の吹雪、とは…?
「…俺たちは吹雪の時のように、水津の事を何も知らないんだ」
鬼道はそう言って、ゴーグルの中で赤い瞳を閉じるのだった。