脅威の侵略者編
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皆が必死にボールを奪おうと走り回るが、ジェネシスのスピードに追いつく事が出来ず、再びグランにボールが渡る。
「来い!!」
1番ボロボロの円堂は、それでもなお立ち上がりゴール前で構える。
「好きだよ円堂くん。君のその目」
そう言ってグランはここまで1度も使って来なかった必殺技を打つ為飛び上がった。
「流星ブレード!」
グランがボールに足を振り下ろせば眩い光が放たれる。
「うわあああああああ」
雄叫びなのか悲鳴なのか分からない、そんな声を上げながら吹雪がその光の中に突っ込んで行く。
「吹雪!?」
吹雪は持ち前のスピードで、グランのシュートに追いつき、ゴールの前で身体を広げた。
そんな彼の顔面に流星ブレードが直撃した。
『………っ、』
吹雪が倒れるのが、酷くゆっくりと見えた。
グラウンドに倒れたまま動かない吹雪に、フィールドから、ベンチから、みんなが駆け寄っていく。
その中で、動けなかったのはベンチに座ったままの私とフィールドの中の風丸だけ。
吹雪!吹雪くん!とみんなが声をかけて、その中で立向居が救急車を呼んできます!と駆けていく。
その傍にグランが近寄っていく。
「大丈夫かな……」
ぽつり、と彼は本当に心配そうな顔をしてそう言った。
「行こうぜグラン」
バウザーがグランに声を掛ける。
「こんなヤツらとやったってウォーミングアップにもなりゃしねぇ」
そう言って立ち去る準備をするジェネシス達を見て、風丸の表情が歪んでいく。
「円堂くん、」
グランは何か言おうとして、一瞬瞳子さんの方を見てやめた。
「…それじゃあまたね」
そう言って仲間の元に歩み寄った彼は、黒い渦に包まれ出した。
ふと、私の方を見たグランが、口を開いた。
音は発しないが、パクパクと動く口元は……、
こうなるって、知ってたの?
恐らくそう言って、彼は酷く悲しそうな顔をして仲間と共に黒い渦に巻かれ消えていった。
「──さん。……水津さんっ!」
ガクガクと肩を揺らされた。
『えっ、あ、夏未ちゃん?』
どうしたの?と彼女の顔を見れば、困っているような、悲しそうなそんな顔をしていた。
「貴女………。いえ。…吹雪くんの治療、終わったそうよ。中に入っていいって」
ああ、そうだった。ここは病院の待合席で、救急車で運ばれた吹雪を心配してみんなでここに来たんだっけ。
けれど、他の子達は周りにいない。もうみんな病室に入ったのか。
『……ごめん。ぼっーとしてた。行こうか』
立ち上がれば、夏未ちゃんは静かに頷いた後、こっちよ、と手を引いた。
室内に入れば、ベッドに横にされた吹雪の周りに皆が暗い顔をして立っていた。
「俺たちがいけなかったでやんす……」
シーン、とした空気の中、栗松がそう呟けば、円堂が、え?と聞き返した。
「俺たちが止められなかったから吹雪さん…無理をして……」
栗松の言葉にDF陣は皆、更に顔色を暗くした。
「あのっ、」
春奈ちゃんがみんなの前に1歩出る。
「吹雪さん、本当にボールを取りに行っただけなんでしょうか……」
「どういうこと?」
「あ、いえ…ただ、ちょっと……」
夏未ちゃんの問に、春奈ちゃんはハッキリとは言いきれない様子で吃った。
……しかしながら、この兄妹は本当に勘がいい。
「なんだよ、音無?」
もう1度、今度は円堂が問えば、春奈ちゃんは自分で自分の手を握って、意を決しったように口を開いた。
「私…、少し怖かったんです」
その言葉にみんなは、え?と驚いた様子で春奈ちゃんを見た。
「あの時の、先輩の顔……」
「確かに、見た事ないような顔してたな……」
塔子ちゃんが思い返すように呟く。
「それにイプシロンと戦った時も…!ボールを持ったら感じが変わるのは何度かありましたけど、あの時は妙に気持ちが昂ってたように……」
春奈ちゃんがそう言えば、円堂はハッとしたように目を見開いた。
「どうしたの、円堂くん?」
「実は、俺、イプシロン戦の後、吹雪に聞かれたんだ。ボク変じゃなかった?って……」
…吹雪自体は結構早くからSOS出てたんだよね。
「でも俺、なんか上手く答えられなくて……。もしかしたら吹雪のやつ、相当悩んでたのかな……」
「…なぁ、梅雨はずっと心配しとったやろ……。なんや、温和な吹雪が消えるみたいって……アンタが言ってたの軽く流さんといたらよかった……」
そう言ったリカちゃんは凄く青い顔している。先日の夜、話をして彼女は、ウチらで助けたらええ!そう言ったけど現状がコレだからな。
「梅雨先輩、吹雪さんとの試合前のやり取り、確認だって言ってましたけど、何か知ってるんじゃないですか……?」
そう言って春奈ちゃんは伺うようにこちらを見た。
そして、他のみんなも確認?と私に視線を向ける。
『…本人からは何も聞いていないよ。確認ってのは、彼が吹雪士郎である事の確認だよ』
どういうこと?とみんなが首を傾げる。
「……本人からは、か。じゃあ、監督は何か知ってるんじゃないですか」
今までずっと黙ってきた鬼道がそう言って、これまた黙りを決め込んでいた瞳子さんを問いただした。
え?とみんなは1度鬼道を見て、それから瞳子さんの方を見た。
「水津のその言い様は、吹雪からは聞いていないが、他の誰かから聞いている、と言うことだろう。そしてこの中で、他に何か知っているなら監督しかいない」
「そうなんですか監督!?」
みんなにじっと見つめられ、瞳子さんは1度目を逸らした。
「監督!!」
円堂がそう叫べば、瞳子さんはシラを切るのを諦めたように口を開いた。
「吹雪くんには、弟がいたの」
「いた?」
「アツヤくんと言って、ジュニアチームで吹雪くんと一緒にサッカーをやっていた。兄がボールを奪って、弟がシュートを決める。完璧なDF、FWコンビだった。でもある日、事故が起きたの」
事故?と円堂が聞き返す。
「サッカーの試合が終わって車で帰る途中……、雪崩に……」
はっ、とみんな息を飲んだ。
「運良く車から放り出された吹雪くんは助かったけれど、アツヤくんとご両親は……」
「そんなことが……」
「それ以来、吹雪くんの中にはアツヤくんの人格が生まれたの」
「アツヤの人格……?」
「吹雪くんの中に2人の人格が存在するのよ」
「それじゃあもしかして、」
そう言って一之瀬はベットに横たわる吹雪に視線を移した。
「エターナルブリザードは……」
「アツヤくんの必殺技よ」
えっ、とみんなも吹雪の方を見た。
「つまり、エターナルブリザードを打つ時はアツヤになってたってことか!?」
「で、でも本当にそんなことできるッスか?2つの人格を使い分けるなんて…」
驚く土門がそう言えば、壁山が疑問をぶつける。
「していたから、水津は、士郎と名を呼び確認、をしていたんだろう。よくよく考えれば、イプシロン戦の後にお前は吹雪の下の名で呼んでいた」
そうだろう?と鬼道がこちらを見た。
『そうね。二重人格者ってのは、稀にいるんだよ。でも、自分の意思で切り代われる人ってのは更に少ないだろうね。心の防衛反応から二重人格になる人が多いらしいし、それをコントロールするとなると……』
「難しいでしょうね。だから吹雪くんはエイリア学園との過酷な戦いで、その微妙な心のバランスが崩れてしまったのかもしれない」
「えっ、崩れてしまった…?」
秋ちゃんがそう聞けば、瞳子さんは、ええ、と淡々に頷いた。
「ええって……。そんなっ!だったら、どうして吹雪くんをチームに入れたんですか!!」
そう、秋ちゃんが大きな声を上げて叫べば、瞳子さんはハッとしたように目を見開いた。
「だって、監督は知ってたんですよね?吹雪くんの過去に何があったのかを…!だったら今日みたいな事が起こるかもしれないって分かってたじゃないですか!!」
「…っ!」
「なのにどうして吹雪くんを!!」
ああ……、胸が痛いな。
今秋ちゃんに責められているのは瞳子さんだけど、私だって、知ってて知らぬ顔をした。
「勝つためですか!?エイリア学園に勝てれば、吹雪くんがどうなってもいいんですか!!」
「秋、言い過ぎだ」
一之瀬が冷静に、秋ちゃんの肩を持って止めに入る。
「だって……!」
そう言って、秋ちゃんは唇を噛んだ。
病室に、嫌な沈黙が流れる。
少しして瞳子さんは姿勢を正し、口を開いた。
「それが私の使命です」
それだけ言って、瞳子さんはみんなに背を向け病室を出ていく。
「え……監督……」
みんなからすれば、間違っていたと謝罪が欲しかっただけなのだろうけど、監督はこの場から逃げた。
そして次なる矛先は
私だろう。