フットボールフロンティア編
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フィールドに雷門中サッカー部員たちと尾刈斗中サッカー部員たちが並び合う。
尾刈斗中、リアルで見ると本当に不気味だなぁ。なんとなく空まで暗くなった気がする。
雷門の顧問である冬海先生と尾刈斗中の監督の地木流が握手を交わしている。
『夏未ちゃん、今回はここで見るの?』
先程まで円堂に声を掛けてきていた夏未ちゃんが、木に持たれていた私の傍に来たのでそう訊ねる。
「いいえ、日に焼けるもの。ちゃんと理事長室で見るわよ。それにしても貴女その格好...」
『ああ、これ?』
そう言ってユニフォームの裾を引っ張ってみる。
『園芸部の水やりに巻き込まれて制服濡れちゃってね。体操着もなくて困ってたら秋ちゃんが使ってって』
「そう。ちゃんと乾かしたんでしょうね」
『大丈夫大丈夫』
夏未ちゃんも意外と心配性よね。
フィールドの方へ視線を戻せば、地木流監督が豪炎寺にわざわざ声をかけていた。
「やっぱり豪炎寺くん目的なのね」
『まあねぇ。前回のフットボールフロンティアの注目株だった選手だし』
案の定、染岡が地木流に噛み付いていたが、円堂が必死に押さえて鎮めていた。染岡を宥める事に成功して、選手達はフィールドに散って持ち場に付く。
「始まりそうだから戻るけど、貴女はここで見るんでしょう?」
『うん』
「わかったわ」
それだけ言って夏未ちゃんは校舎の方へと帰って行った。
その後ろ姿に手を振り終えて、フィールドを見ながら、将棋部の角馬圭太が、お手製の実況台を首からぶら下げ実況を始めているのを聞く。
「さあ試合開始です!」
尾刈斗ボールから始まり、キャプテンの幽谷が蹴ったボールを11番武羅渡が雷門ゴールへと運んでいく。それを少林寺がスライディングで飛ばしたボールを上手いことフォローに入った10番の月村がかっさらって行く。月村は壁山のディフェンスを抜けてゴールへ一直線に走った。
「くらえ!ファントムシュート!!」
月村の放ったシュートは幾つかに分裂してゴールへ向かっていく。
「ゴッドハンド!はっ!」
円堂の突き出した黄色に輝く大きな手が、ファントムシュートを受け止めキャッチした。
帝国戦で見せたそれをしっかりと物にしたようだ。
円堂から風丸へとボールが渡され、ドリブルで駆け上がった風丸は少林寺にパスをした。
「豪炎寺さん!」
豪炎寺にパスをしようと少林寺が見れば、既に3人ものマークがぴっちりと付いている。
「少林!こっちだ!!」
すかさずマークの付いていない染岡にボールをパスし受け取った染岡はゴールへと一直線に走った。
「見せてやるぜ、俺の必殺シュート!!ドラゴンクラッシュ!!」
蒼き龍と成ったそのシュートが、渦巻いてゴールへと向かっていく。尾刈斗中のGKの鉈が手を伸ばすが、あっさりとゴールを決められた。
『おお、』
決めることは知っていたが、思わず感嘆の声が出た。やはりドラゴンってかっこいいんだな。
なんですって!と尾刈斗ベンチで監督地木流は慌てている。
尾刈斗ボールで試合再開するものの、染岡のシュートで調子を上げた雷門陣は、上手くボールを奪いゴールへと上がっていく。
やはり豪炎寺にはびっちりとマークが付いていて、ボールを持っていた松野は染岡へとパスを出して、それを受け取った染岡は再び、ドラゴンクラッシュを放った。今度もまた、GKに何もさせることなくシュートが決まった。
勝てるんじゃないか!と雷門の選手たちも、そして周りで見ている生徒たちも浮かれだした。
そんな中、ゆっくりと地木流が座っていたベンチから立ち上がる。
ホイッスルが鳴り武羅渡がボールを蹴り、幽谷がそれを受け取りドリブルで駆け上がる。
「いつまでもザコが調子に乗ってんじゃねぇぞォ!!」
がらり、と雰囲気の変わった地木流が尾刈斗選手達に喝を入れる。
「テメェら!!そいつらに地獄を見せてやれ!!」
そして、選手達が駆け上がっていくフィールドの横で手を広げ、マーレマーレマレトマレと何かを繰り返し唱え始めた。
5人並んだフォーメーションで上がる尾刈斗選手を見て、風丸が雷門MF陣に指揮を取る。しかし、何故だか松野は宍戸に、少林は半田にと自陣の選手にマークを付けている。
そしてがら空きになったフィールドの真ん中を駆け上がる尾刈斗選手達に慌ててDFの影野、壁山がゴールの前へ立ち塞がる。
それを見て、幽谷はにやりと笑った。
「ムダだ!ゴーストロック」
幽谷はぐるりと片腕を大きく回して、それから突き出した。
「足が、」
「動かないっス!」
1歩も動かない2人をいいことに幽谷は、ゴール前へ寄り、ボールをヒールで持ち上げる。そして、
「ファントムシュート!!」
先程、月村が放ったシュートと同じ技をゴールへと撃ち放った。
そのシュートは円堂が何もすることなく、ゴールへと突き刺さった。
「幽谷のシュートが炸裂!!2対1!尾刈斗中点を返しました!」
傍から見ていても彼らの動こうとする意思に反して動けない様子がハッキリと分かる。
雷門ボールから再び試合が始まり、染岡がボールを持って先行する。豪炎寺が何かおかしいと呼び止めるが、染岡はそれを無視してゴール前へと駆け上がりドラゴンクラッシュを放った。
しかしそれは尾刈斗のGK鉈の手に吸い込まれるようにすっぽりと収まった。
『あれがゆがむ空間か...!』
キーパーが動くことなく、ボールの方からやってきたように見える。
キャッチしたボールは鉈が大きく投げ返し、前線に上がっていた幽谷の元に回る。
雷門選手たちが、慌ててマークに着こうとするが、もう遅いと幽谷は大きく手を突き出した。
「ゴーストロック!!」
再びゴーストロックで動きを止められ、今度はノーマルシュートで点が決められた。
その後もゴーストロックで動きを止められて、シュートを決められて逆転されてしまう。
そして畳み掛けるように前半戦終了のホイッスルが鳴り響いた。
こんなもんか、まあ頑張ったんじゃない?そう言った観客達の声が聞こえてくる。
正確には帝国学園から一点を取った、なのだがいつの間にか帝国学園に勝利したという噂が広まり集まった人々なので、期待値が高かったのだろう。皆、やっぱり弱小サッカー部じゃないか、といった反応である。
帰ろ帰ろと、観戦をやめて立ち去る者たちを見て、勿体ないなと独り言ちる。
『これから、面白くなるのに』
ハーフタイムももうすぐで終わりの時刻だ。部室で作戦会議をしていたであろう、雷門選手たちがフィールドに帰ってくる。
その様子を見ていると、視線に気がついたのか豪炎寺が振り返った。そして、豪炎寺はずんずんとこちらに近づいてきた。
「こんな所にいたのか。何故試合に出ない」
『え?いや、サッカー部じゃないからだけど』
そう言えば、豪炎寺は無言でぱちぱちと瞬きをした。
「...ユニフォーム着てるのにか?」
『いや、これは色々事情があってだね』
「どうしたんだ豪炎寺」
ユニフォームの事を説明しようとした所に円堂がやってきた。
「もう試合再開するぞ」
「ああ。後半からコイツを入れないか?ここから前半戦を見ていたなら何か気づきがあるかもしれない」
豪炎寺がそう言って、その言葉に円堂がキラキラと目を輝かせた。
「水津!!まさかまた試合に出てくれるのか!!もう始まるから行こうぜ!」
そう言って円堂に左腕を掴まれる。
『いや、円堂...ちょっと、待って』
「ああ、行くぞ」
豪炎寺にも右腕を掴まれ、2人に連行される形でフィールドに足を踏み入れる。
「冬海先生!後半水津が入ります」
『いや、ちょっと、』
「ええっ!?」
冬海先生も唐突な事に驚いてるじゃないか。
雷門選手たちもなんだなんだと言ってその視線が私に集まる。
『ええい、2人とも離しなさい』
そう言って大きく腕を振り下ろし、2人の手を振りほどく。
「円堂くん、サッカー部じゃない者は試合には出せませんよ」
冬海先生が汗を拭きながら言って、それにうんうんと頷く。
「え、水津はもうサッカー部だろ?」
きょとん、とした顔でこちらを見つめてきた円堂に、何を言ってるんだと動揺して彼を見た。
「ほぼ毎日部にも来てるし」
いや、それは夏未ちゃんからの監視指示があったからだし。
「いつも木野の手伝いもしてるだろ?」
うんうんと、秋ちゃんが春奈ちゃんと並んで頷いているが、それはマネージャー1人で大変そうだったからお手伝いしてただけで。
栗松がはいはい!と手を上げる。
「俺たちのパス練にも付き合ってくれるでやんす!」
「ランニングで最後尾を走る俺たちに合わせて一緒に走ってくれるッス!」
栗松に合わせて壁山がそう言えば、松野がニヤリと笑った。
「ボールコントロールに関しては口煩くアドバイスしてくるよね〜」
「怪我した時の心配とかオーバーワークの心配もめっちゃしてくれますよね」
宍戸が言えば、うんうんと皆が頷いた。
「そう言われれば、もう水津はサッカー部な気がしてきたな」
風丸の言葉にいやいやいや、と首を振る。
『いや、それはただのお節介で』
「ただのお節介でそこまでするか?」
「水津さんがサッカー好きなの俺たちもう知っちゃってますよ!」
半田と少林寺の言葉に、ウッ、と言葉を詰まらせる。
正直に言えば、サッカーは好きだし、サッカー部の彼らの事も大好きである。
「皆もう水津の事はサッカー部の仲間だと思ってるぜ。な、染岡」
ポンと円堂が染岡の肩を叩けば、彼はあ?と声を上げ睨みつけてきた。うんうん、彼ならそりゃあ反対するだろう。
「チッ」
染岡は舌打ちだけして、他に何も言わなかった。いやいや、いつもならこんな奴チームに入れるのかよ!とか言うじゃん!!なんで妥協したみたいな雰囲気だしてんの。
『なんで、誰も否定しないんだ...』
「さっきしょうりんが言ってただろう。皆、お前がサッカー好きなのを知ってるからだ」
豪炎寺が真っ直ぐな目でそう言って来た。
『なん、で...』
あの世界で小学生だった頃、父に誘われて見に行ったサッカーの試合ですっかりサッカーにハマった。父にサッカーボールを買ってもらって、友達にサッカーやらない?と聞いても女の子達は皆首を振って、サッカーして遊んでいた男の子たちに声をかければ、女は入れてやらないと意地悪を言われて。田舎すぎて、稲妻町でいうKFCの様な小学生サッカークラブみたいなものもない。それからは1人でボールを蹴っていた。
唯一、誰かとサッカーをしたのは隣の家の大学生の兄ちゃんが、休みに実家に帰ってきていてその時に1人でボールを蹴ってる私を見て、大学でこんなのやってる奴がいるとフリスタの動画を見せてくれた時だけだった。それからは、必死に1人でボールを蹴ってた。
中学に上がっても学校にサッカー部はなくてマネージャーにすらなれない。部活は入らずに、家に帰っていつも1人でひたすらにボールを蹴っていた。
そしてここはイナズマイレブンの世界。このサッカー部に水津梅雨というキャラクターは居ない。
必要ない、そう思っていた。けれど、
『...私も、入っていいの?』
「当然だろ!」
円堂はニカッと笑ったが、瞬時にギョッと目を見開いた。
「ど、どうしたんだ水津!?」
『え、』
「キャプテンが水津さんの事、泣かせたっス」
壁山に言われて、目尻を拭うと確かに濡れていた。
『いや、これは違う』
ゴシゴシと目を擦る。使ってください!とハンカチを春奈ちゃんが渡してくれた。ありがとう、と言って貸してもらう。
『ごめん。今まで女だからってチームに入れてもらえなかったりしたから...その、嬉しくって。円堂はずっと誘ってくれてたけどさ、他の子たちは嫌がるだろうと思ってたから……』
「なんだ、そういう事か」
そう言って笑って円堂は私の背中をポンと叩いた。
「こいつらはそんな奴らじゃないからさ!水津、一緒にサッカーやろうぜ!」
その言葉に、うんと大きく頷いた。
欲しかった言葉
仲間とサッカーができる、その喜びに勝てるわけもなく。モブとしてひっそり応援するという当初の予定はもうすっかり諦めた。