脅威の侵略者編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
なにわランド地下修練場での練習2日目。
皆、レベル1から始めた特訓をレベル5や6を次々にクリアしていっている。
「どうした吹雪?」
鬼道の声を聞いて、DF練習しているみんなの方を見れば、さっきまで一緒にやってた吹雪がマシンを降りていた。
「やめだ…。こんなトロイことやってられるか!!」
そう叫んで、走って奥の部屋に行ってしまった。
みんなそれをどうしたんだ、と言うように見つめた。
心配して皆、その後を追う。
シュート練習用の部屋の前でそっと扉を開け、一同は中を覗き込んだ。
「俺はシュートを決めなきゃいけねぇ…!完璧こそ全て…!喰らえデザーム!!!」
そう叫んで、ゴール前のマシンにシュートを放つ。
「イプシロンのキーパーにエターナルブリザードを止めらたのがよっぽど悔しかったんですね」
あの時、ヒロトに捕まって試合には出れてないし、見てもない事になっているから春奈ちゃんの言葉に何も言えないが、あれは悔しいどころか、焦りに焦ってるようにしか見えない。
「しばらく収まっていたスタンドプレイも復活ね……。まあ、それが魅力と言えなくもないけど」
夏美ちゃんはそう呟くが、下手したら前のスタンドプレイよりも周りが見えてなくてタチが悪い。
「まさか、染岡くんの離脱が影響を受けしているの……?」
真・帝国戦で出来たワイバーンブリザード。2人でのこのシュートなら!って思った矢先でそれも使えなくなったし………。
『それに染岡に託されたからね……。重責も感じてるんだろうね』
「…今は吹雪の思うようにさせよう。あの意気込みが試合でいい方向にでるかも」
鬼道がそう言えば、円堂が、ああ、と静かに頷く。
さあ、練習に戻るぞと鬼道が選手たちを連れて戻って行く中、円堂はじっと扉の先の吹雪を視線で捉えてたまま立ち止まっている。
「大丈夫かな、吹雪のやつ……。俺もマジン・ザ・ハンドを完成させなきゃって焦ってた時があるからさ」
「円堂くん……」
「あの時の貴方は見ていられなかったわね…」
確かにあの時の円堂と状況が似ているかもしれない。
たった1人のキーパーというポジションで、絶対にアフロディーのシュートを止めなくてはと思い詰めていた円堂と、1人にされてしまったFWで絶対にデザームから点を取らないといけない吹雪。
『吹雪がオーバーワークにならないように私が見とくよ』
「そうだな。頼むよ」
「お願いね」
そう言って円堂とマネージャー達も戻っていき、開いたままの扉の中にそっと入る。
吹雪はかなり集中しているようで全然こちらに気づいていない。
とりあえず、壁にもたれ掛かるように座り練習の様子を見守ることにした。
止まることなくただひたすらにシュートを打ちまくっている吹雪が、シュートマシンの何体目かを破壊し終わったところで、後ろから彼の頭の上にタオルをまるでベールかのようにかけた。
「なっ、」
急に視界が遮られ、吹雪は慌てて目の前に垂れ下がったタオルを掴んだ。
「何すんだテメェ!」
『汗拭きな、汗!それから、はい、水分補給』
そう言ってドリンクボトルを吹雪に向けて差し出す。
「後でいい」
『ダメよ。もう30分以上、休憩取らずにやってるでしょう?きちんと水分を取らないと脱水症になるわ』
「まだ、平気だ。練習の邪魔だ、退け」
ぎろり、と金に光って見える目を吹雪はこちらに向けてくるが、肩で息をしている。何が平気だ。息上がってるじゃないか。
『焦るのは分かるけど、せめて水分は取って。ちゃんと飲まないと危ないから、』
ほら、とドリンクボトルを差し出したままの腕を吹雪の方に1歩寄せる。
「いいっつってんだろ!!余計な事すんな!」
そう叫んで、吹雪は差し出されたドリンクボトルを手で押し払った。軽く添えるように持っていただけだったから、払われたボトルはぼとん、と下に落ちた。
「あ……」
その呟きがどっちの吹雪のものだったのか気にする余裕は無かった。
『あはは……、ごめん』
笑ってそう言って、落ちたボトルを拾った。
それをそっと、邪魔にならないように部屋の隅に置く。
「水津……?」
『もう余計な事はしないよ。私、他の子の練習見て来るから』
そう言って部屋を出る。
「っ、水津さん!待っ…!!」
扉が閉まる瞬間、士郎の方の人格に戻ったのは気づいたけれど、気付かぬフリしてそのまま走り去った。
「……なんであんな事言ったんだ。ボクの事心配してくれてたのに。休憩なんてしてる暇ねぇだろ。オレは完璧出なきゃいけねぇんだ…完璧じゃなきゃ……」
残された吹雪がひとり、そう呟いていた。
ああは言ったものの、他の子の練習見る気力もなくて、1人で修練場を出て、なにわランドの駐車場に止めてあるキャラバンに戻った。
キャラバン内の自分の荷物から、瞳子さんが購入し用意したトレーナーテキストの何冊かのうち、1冊を手に取ってページをめくる。
そうしてしばらくしてると、キャラバンの入り口が開いた。
ふと、顔を上げるとキャラバンのステップをそっーと、登ってくる角のような青い髪が見えた。
『木暮?』
椅子が視覚で見えないほど小柄でこの青い髪と言えば木暮しか居ない。
「うわっ!?びっくりした…!梅雨さん居たの!?」
『居たよー』
そう返せば、さっきまでコソコソしてたのに、木暮はタッタッタッとかけてそばに寄ってきた。
「サボり?」
『いや、お勉強中』
そう言って、テキストを掲げて見せれば、木暮はゲェ、と舌を出した。
「でもなんだそれ?アスレティックリハビリテーション……?」
テキストのタイトルを見て木暮は首を傾げた。勉強と言われて学校の勉強だと思ったんだろうなぁ。
『トレーナーとしての勉強だよ。トレーニング書とか医学書とか栄養学書とか瞳子さんが色々買ってきて全部読みなさい、って』
「うぇー、大変そう」
『そうだね。木暮は、サボり?』
聞かれたように聞き返せば、木暮は、あっ、と言う顔をした後、視線を逸らした。
「い、いや〜、オレはちょっと、休憩?」
『そっか』
そう言えば、木暮は、怒んないんだ…みたいな驚いた顔に表情を変えた。
正直なところ今は怒るとかそんな元気ない。
そのまま立ち去るかな、と思っていたが、木暮はちょこんと私の隣に座ってテキストの中を覗き込んだ。
「…なあ、これ読んでてわかんの?」
『………、うーん、自分が経験したことある部分は多少?ただ、専門用語も多いし難しいよね。でも、覚えて損は無いだろうし』
ふーん、と呟いて、テキストにはもう興味がないのか木暮は下を向いてプラプラと足を揺らし出した。
てか、練習に戻んないのかな。
「ねぇ、梅雨さん」
『なぁに?』
「まだ、腹痛い?」
そう聞いてきた木暮に、嘘つく意味もないし、まだちょっとね、と返す。
『なに?心配してくれてるの?』
「べっつにー。なんか顔色悪そうだったから、ちょっと気になっただけ」
知らん顔する木暮の頭を、ありがとね、と撫でる。
そうしているとまたキャラバンの扉が開いた。
「なんだお前たち、サボりか?」
そう言ってステップを登ってきた鬼道が怪訝そうな顔をする。その鬼道の手には携帯電話が握られている。鬼道の場合、木暮と違ってサボりではないだろうから、親御さんから連絡掛かってきたとかだろうな。
「違います、休憩です!」
慌てて鬼道にそう言う木暮を見て思わず笑う。
『もう戻るって言ってたところだよ』
「そうそう!じゃあ、オレは練習戻るから!」
じゃあね、と木暮は怒られる前にと、椅子から立ち上がって、鬼道の横を抜けてキャラバンを降りて行った。
「まったく……。しょうがない奴だな」
鬼道はそうは言うが言葉の終わりは柔らかいものだった。
「……、それで。水津は、吹雪の様子を見てるんじゃなかったのか?」
そう言いながら鬼道は通路を挟んだ横の席に腰掛けた。
そう言えば、鬼道と話すの久々かもしれない。真・帝国の事があって鬼道落ち込んでたし、気まずかったし。
『あー、うん。ちょっとね、どうしたらいいのか分かんなくて』
「なにがあった?」
鬼道が首を傾げる。
『いや、何でもないよ。私が余計な事しちゃっただけ』
「余計な事?」
鬼道は眉を寄せ、こちらを見つめた。
それ以上は何も言わないから、こっちから話せって事か。
『……吹雪、ずっとあの感じで動いてるから、水分補給してって声かけたんだけど……余計な事すんなって言われちゃった』
「………。円堂がああだった時は、何を言われても構い倒していただろう」
『そう、だっけ……。もう何が正しいのかわかんないんだもん』
はああ、とため息を吐いて、テキストに顔を埋めた。
その様子をみて、鬼道は話題に困ったのか、そうだ、と話を切り替えた。
「さっき、源田から連絡があってな」
その切り出しに、バッとテキストから顔を上げる。
それで携帯電話持ってたのか。
『なんて、』
「源田も佐久間も、愛媛の病院から東京の病院に移ったらしい」
つまり、長時間の移動が大丈夫なくらいには回復した、ったことか。
一陽来復
「それから源田からお前に伝言だ」
伝言?と首を傾げる。
「酷いことを言って悪かったと」
『……あぁ』
馬鹿だね。ホントの事だもの。謝る必要なんてないのにね。