脅威の侵略者編
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あの後、瞳子さんが響木さんに連絡を取り、向こうも鬼瓦刑事から連絡があり話は聞いているとの事だった。
刑事さんたちの追跡で、あの少年は京都から兵庫に向かいそれから四国に向かったという。
少年の身分は現在調査中で、彼が名を口にした影山は、何者かによって護送車が襲撃され逃げたことが確認されている、との事。
響木さんからは、何か分かるまで絶対に四国には向かうな、という指示が出た。影山の恐ろしさを同じチームにいた響木さんが誰よりも知っていて、子供たちを案じているからの言葉だった。
「貴女に接触した少年が本当に影山と関連している可能性が出てきたわね」
『そうですね』
いやまあ、100%関連してるんだけど。
『エイリア学園の襲撃情報も今のところない他にないみたいですし、この後どうするんですか?』
「とりあえず、いつまでも漫遊寺中の場所を借りている訳にはいかないし移動はするわ。そうね...今までエイリア学園は東日本中心に攻めていたのに対し、標的が関西に変わったようだし周辺で練習場を探すわ」
『ジェミニストームが東日本の強豪校はほとんど潰し終えたんでしょうね』
木戸川が雷門と同日に襲撃され潰されたように、フットボールフロンティア出場校はほとんど潰されたんじゃないだろうか。
「恐らくそうだと思うわ」
そう言った瞳子さんは翌日、みんなにも漫遊寺中を発ち、次の襲撃に向けて特訓出来そうな場所を見つけたからそちらに向かうと告げた。
「あとは...、これが最後ね」
『じゃあ私、積んでくるよ』
みんなが漫遊寺中サッカーと別れの挨拶を交わす中、よいしょとダンボールを持ち上げる。中身はユニフォームで、イプシロン戦の時に木暮に着せるため出していたらしい。
キャラバンの中に乗り込んで、後部座席に置こうと奥まで行けば、青い角のような髪の毛が、座席と座席の間に見えた。
『木暮?』
「げ、もう見つかった...!」
そう言って座席の隙間にしゃがみ身を縮こまらせていた木暮が居た。
とりあえず重たいから持っていたダンボールを奥の席の隅に押しやる。
『あ、そうだ。私の代わりに試合出てくれたでしょ?ありがとうね』
もう一度木暮のいた方の席を覗き込んでそう言えば、彼はキョトンとしたあと顔を反らした。
「別に...、あの音無って女が見返してやれって言うから出ただけで...」
『そっか。どんな理由でも、木暮が入ってくれなかったら10人で試合しなきゃいけなかっただろうから、助かったよ』
「ふーん...。てか、アンタ勝手に乗ってんのに驚いたり怒ったりしねぇの?」
『あー』
勝手に乗り込むの知ってたから、ここに隠れてたか、くらいの感覚だったな。
『もし脅かそうとしてたなら驚かなかったのは申し訳ないけど、怒るのは別に理由がないし』
「なんでだよ。勝手に乗ってんのに」
『だって勝手に乗り込むの悪い事って分かってるでしょ?』
だから怒られると思ってるんだろうし。
『怒られるの分かってるのに、乗り込んだって事は、それだけみんなと一緒に行きたいって事でしょう?』
そう言えば木暮、は?と驚いたような顔をした。
「べ、別にお前らと行きたいとかじゃ。あんな訳わかんない宇宙人と戦うの怖いし...!」
『まあ、そりゃあそうだよね。あんなのと平気でぶつかり合うのおかしいよね』
怖くないのがおかしいんだよね。
「そうだよ。それなのに、逃げて、転けて、たまたま取れたボールなのに...、いや、オレが凄いから取れたんだろうけど!......あいつら、やるじゃないかってオレのこと褒めたんだ」
『そっか』
ぽんぽんと、随分と下にある木暮の頭に手を乗せる。
『嬉しかったんだね』
「な!別にそういう訳じゃねーよ!!」
照れちゃって可愛いなぁ。こちとら普段から夏未ちゃんと染岡の2大ツンデレ相手にしてんだぞ。バレバレだ。
まあ木暮の場合はツンデレじゃなくて天邪鬼なんだろうけど。
「......ただ、漫遊寺の奴らとサッカーするより楽しそうだな、って」
『じゃあ一緒に行く?』
そう聞けば木暮はえっ、と呟いて、じっと黙り込んだ。
「......アンタがどうしても一緒に来て欲しいって言うんなら行ってやってもいいけど」
『うんうん。どうしても来て欲しいな〜!木暮、フリスタの才能もあると思うし、ちょうど弟子欲しいな〜って思ってた所なんだよね〜。それにエイリア学園のシュート止めれるなんて即戦力だしチームに欲しいなぁ〜?』
そこまでお膳立てして言えば、木暮はしょうがないなぁと立ち上がった。
「そこまで言うんならついて行ってやってもいいぜ」
『よし。決まり。じゃあ、監督に話に行こう』
はい、と木暮に手を差し伸べる。
「え、監督に話すのか?絶対反対されるし、こっそり乗ってくんじゃダメなの?」
急に弱気になるなぁ。漫遊寺の監督の前だと猫かぶった様に大人しかったし、監督としても育ての親としても漫遊寺の監督厳しかったんだろうな。
『ダメだよ。ちゃんと伝えに行こう。大丈夫、一緒に行くから。ね?』
そう言えば、渋々と言ったように木暮は頷いて、手を取った。
『......、木暮』
手と手の間に、ピタッという感触と少しひんやりした感触がある。
ニマニマとしながら木暮が手を離せば、私の掌の上にはカエルが乗っかっていた。
げこ、と鳴いて喉が膨らむ。生きてる。本物じゃねーか!
木暮はキャーもギャーも言わない私を見て、あれ?と首を傾げている。
いやね、私、田舎育ちだから。その辺の田んぼにカエルなんぞ死ぬほどいるし(実際トラクターに引かれて道路でよく死んでる)、なんなら学校のプールにも浮かんでんだ。だから、こういうイタズラは男子女子関わらず皆やってたから今更驚くことでもないんだよなぁ。まあ、気持ち悪いとは思うから出来れば触りたくないけど。
『...木暮』
掌にカエルを乗せたまま、もう一度名を呼べば、木暮は上目使いでこちらを向いた。
「お、怒った...?」
はあ、とひとつため息を吐けば、木暮はビクリと肩を揺らした。
『死んじゃったら可哀想だから、出発前に元いた所に戻しとくんだよ』
そう言って、不安そうな顔をしている木暮の頭にカエルを乗せれば、木暮の代わりにカエルが、げこ、と返事をしてみせた。
さあ行こう、と木暮を連れてキャラバンを降りる。
「お、水津荷物積むの終わったの、か...あれ?木暮?」
降りてすぐこちらに気がついた円堂が驚いたような顔をした。
「まさか!」
恐らく先程まで円堂と別れの握手を交わしていたであろう垣田が、目を見開いた。
「勝手にキャラバンに乗って居たのですか!?木暮!!お前はいつもいつも!そうやって人様に迷惑をかけて...!」
怒る垣田を見て、木暮は至極嫌そうな顔をして、私を盾にするように後ろに隠れた。
「ほら、これじゃ絶対許可なんか下りないって」
木暮は後ろに隠れたまま、コソコソとそう言う。
『まあまあ、垣田くん落ち着いて。キャラバンに勝手に乗るのは確かに悪いことだけど、これにはちゃんと理由があるのよ。本人も悪いことだと謝って...、いや、謝ってもらってないな?』
あれ?と首を傾げて後ろの木暮を見れば、凄く驚いたような顔をしている。
「もう!お前どっちの味方なんだよ!!」
『あーうん。まあ、理由が理由だったんで、その辺は有耶無耶だけど...』
はあ...?と困惑したように垣田は口を開けている
「理由、ですか?」
うん、と垣田に頷いて、別の方に視線を向ける。
『監督御二方とも木暮の話を聞いてもらってもいいですか?』
ずっと静観していた瞳子さんと、漫遊寺中の監督に声をかける。
「何かしら」
瞳子さんが、肩にかかった長い髪を払いながらそう言えば、木暮はえーと、と呟いて言葉を詰まらせる。
瞳子さん言動に圧があり過ぎるんだよ。萎縮しちゃったじゃん。
木暮と前と後ろシフトチェンジして両肩に手を乗せる。
『頑張れ、木暮』
「......」
心配そうにちらりと振り替えった木暮の肩を大丈夫と2回叩く。
「...その、...」
ただ一言、みんなと一緒に行きたいと言えばいい。
「......。梅雨、さん、が、」
『ん?』
なんで私?
「オレに才能があるから?どうしても一緒に来て欲しいって言うから、そこまで言うんなら別に行ってやってもいいかなーって、...思って」
なるほど、実に木暮らしい。
「ふむ。それは誠かね」
「なっ!オレが嘘ついてるってのかよ!」
「そうは言っておらん。じゃが、本当に木暮に才覚があると思っておるのだろうか、お聞きしたい」
何だよっ!と木暮は監督を睨みつけている。その頭をよしよし、と撫でる。
『はい。先日も言いましたけど彼の潜在能力は素晴らしいものだと思っています』
「ふむ。それはフリースタイル、での話であったじゃろう。サッカーは11人でやる競技。1人でやる競技とはまた異なる」
能力があってもチームで上手くやっていけなきゃ、意味が無いってことか。
『要するにチームワークの問題ですか?でもまあ、パス連携も出来なかったような前例が居るんで』
そう言えば、後ろで吹雪が、僕の事かな?なんて言って笑ってる。笑い事じゃないが。
『そもそも、木暮が私が彼を勧誘したと言う話をした時に、驚いた子も否定した子も1人も居なかった。その時点でみんな彼の才を認めていますよ』
ね?と振り返れば、春奈ちゃんと円堂が大きな声でハイと返事をした。
「だってイプシロンのシュートとめちゃったんですよ!!」
「俺も木暮がチームに入ってくれないかなって思ってました!」
2人が大賛成と言うように、漫遊寺中の監督に力説する後ろで、塔子ちゃんや土門なんかも、まあいいんじゃない、と頷いている。
『才能があるのであれば、チームワークは後からでも何とかなります。ってかそもそも、木暮は天邪鬼ではあるものの基本素直だし、イタズラ好きで問題児ではあるものの、悪い子じゃないから扱いやすい部類ですね』
つんつんキャンキャンしてる夏未ちゃんや染岡を言いくるめられる円堂がチームのキャプテンだし、2人に近しい性格の木暮は円堂が居れば楽勝楽勝。
「なるほどのぉ。如何ですかな瞳子監督」
「本人が来たいと望んでいるなら構いません。ウチとしては戦力が多いに越したことはありませんから」
瞳子さんが淡々とそう言えば、漫遊寺の監督は、ふむ、と噛み締めるように頷いた。
「木暮のことを真剣に向き合ってくれる者が2人も居るなら、任せても大丈夫であろう。よろしくお願いします」
そう言って瞳子さんに漫遊寺の監督が深深と頭を下げれば、木暮だけ、え?と首を傾げた。
「いいの?オレがついて行っても...?」
『うん』
「ああ!もちろんさ!」
大きな声で言う円堂に、木暮はぱちくりと瞳を瞬かせていた。
捨てる神あれば拾う神あり
きっとここが木暮にとっての人生の機転。