脅威の侵略者編
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ジェミニストームに勝利した次の日、白恋中の校内に置かせてもらっていた荷物をキャラバンに詰め込んだ。
それとは別に、ありがたい事に近隣の農場や牧場を経営している方々が、野菜や牛乳などの支援物資を白恋中まで届けて下さったので、それも荷台に詰め込んだ。
『よし』
マネージャー全員で、校内に忘れ物がないかの最終チェックを済ませて、キャラバンの前に戻れば、白恋中サッカー部の子供たちが、吹雪の事を取り囲んで別れを告げていた。
「吹雪くん。そろそろ出発するわよ」
瞳子さんが戻ってきた我々を見て吹雪にそう声をかける。
他の皆はもうキャラバンに乗り込んでいるようだ。
「はい。それじゃあ、みんな行ってくるね」
吹雪がにこやかに笑って言えば、吹雪くーん!と声を上げて泣く者、頑張ってねと背を押す者、無言で手を振る者様々な反応で白恋中の子達はキャラバンに乗り込む彼を見送っていた。
「ほら、貴女達も」
瞳子さんに促され、慌ててハイと返事をして、私たちもキャラバンのステップを登って乗り込む。
『さて、』
どうしようか、と足を止めた。
奈良から北海道までの間は、なんか流れで染岡の横に座っていたけれど、その横は吹雪が座っている。
鬼道と塔子ちゃんの所にでも入れてもらおうかな、と思ったら、吹雪があっ!と声を上げて席を立ち上がった。
なんだ?と吹雪を見れば、彼は通路の方に出て、座席に向かって、どうぞと手で指した。
...前に座ってたの思い出して譲ってくれたのかな?別に席はどこでもいいんだけどな。
せっかく立ってくれたし、ありがとうと礼を言って、その席に入れば、吹雪も通路から席の方に入る。
あれ?と思いながらも染岡の隣に腰を
下ろせば、やはり私の横に吹雪も座って、2人に挟まれる形になった。
吹雪も座るんなら、彼が横に詰めるだけで良かったのでは?
『通路側の方が良かったの?』
そう聞けば、吹雪はううんと首を振った。
じゃあなんでだと首を傾げていれば、なぜだか吹雪は可笑しそうに、ふふ、と笑っていた。
しかし、吹雪は小柄だし、私もそんなに大きい方ではないけれど、染岡がガタイ良いし3人だと狭くね?
大丈夫か?と染岡を見れば、こちらもなぜだか真っ赤な顔をしている。
『染岡?顔赤いけど熱ある?』
そう言って染岡の額に手を伸ばして、触れれば、さっきよりも更に真っ赤になった。
「おまっ!?ね、熱なんかねーよ!」
『うーん』
唸りながら額から手を離す。
そうね、そこまで熱くないし、熱はなさそう。
瞳子さんの計らいで朝必ず体温チェックもするしなぁ。
『でも風邪の引き始めだといけないし...。壁山!後ろからブランケット回して!』
後ろ向いてそう叫べばハイっす!と1番後ろの席から返事が返ってきた。
「そうじゃねぇんだよ、そうじゃ...」
ボソボソとそう言った染岡を、ひとつ後ろの席の一之瀬と、通路を挟んだ斜め前の席の鬼道と、そして同じ席に座る吹雪が微笑ましそうに見ていた事は我々は知らない。
キャラバンを走らせて数時間後、休憩がてらサービスエリアに止まった。
トイレに向かう者、ずっと車内にいた事で凝り固まった体を解す者、飲み物やお菓子なんかを買いに売店やコンビニに向かう者、それぞれだ。
私も塔子ちゃんに誘われて、コンビニで飲み物と眠気覚ましにガムを買おうと手に取った。
「梅雨、それだけでいいのか?」
そう聞いてきた塔子ちゃんの手には、お菓子がいくつか握られている。
『うん。あ、あと制汗剤売ってるか見てもいい?』
「それなら化粧品の方じゃない?さっき入口側で見たような」
そう言う塔子ちゃんと共に、棚と棚の間を抜けて、入口付近の棚の前に移動する。
「あれ、染岡じゃん」
塔子ちゃんの言うように、化粧品売り場の前でじっと睨みつけるように棚を見ている染岡が居て、彼はこちらに気づいて、げっ、というような顔をした。
化粧品売り場にいる染岡ってめちゃくちゃ似合わないな。
そう思いつつ、近寄れば彼が見ていたであろう物が分かった。
『ああ、染岡も制汗剤買いにきたの』
「なっ、悪いかよ!」
「あはは!悪くないよ!梅雨もそれ買いに来たんだもんな」
慌てたように大きな声を出す染岡に、塔子ちゃんがカラッと笑ってそう言えば、染岡は照れたようにそうかよと顔を背けた。
『しかし、吹雪に言われたこと気にしてたの?可愛いわね』
汗臭いと言われたことに、憤慨してたもんね、と笑えば、染岡は顔を真っ赤に染め上げた。
「違ぇよ、別に、吹雪に言われたからとかじゃ無くて...!」
一生懸命言い訳を探そうとする染岡の肩をハイハイと押し退けて自分の欲しかった制汗スプレーを手に取る。
「アタシも買っとこうかな〜。梅雨が取ったの何の匂い?」
『これ?これは石鹸』
「石鹸かー。それで梅雨いい匂いするのか!」
『あら、ありがとう』
唐突な褒め言葉にお礼を言えば、塔子ちゃんは、どうしようか棚を見つめた。
「フラワーとか香りが強いのは好きじゃないんだよなぁ」
『じゃあシトラスとかお茶は?この辺ならあんまり香りキツくないよ』
「んー。でも色んな香りが混ざると気持ち悪くなるよな」
『それはあるよね』
試合場所によってはキャラバン内で着替える事になるし、狭いと余計に匂い篭って最悪だしなぁ。
「アタシも石鹸にしよ!」
そう言って塔子ちゃんは私と同じものを手に取った。
「染岡はどうする?」
急に塔子ちゃんに話を振られて染岡はえっ、と固まった。
それから、何故か私の方に視線を向けて、直ぐに逸らすように商品の方に向き直った。
「お、俺は...」
『女子が居たら男の子は選びにくいでしょ。私ら先にキャラバン戻ってるからゆっくり選びな』
さ、お会計行こうと塔子ちゃんの背を押す。
「そっか。じゃあな染岡!」
「え?お、おう」
困惑したような染岡の返事を聞いてレジに向かった。
会計を済ませてコンビニを出る時に、入口付近の棚へと視線を向ければ、染岡はまだ悩んでるみたいで思わず笑ってしまった。
全員がキャラバンの前に戻ったことを点呼で確認した後、瞳子さんは理事長から連絡が来たことを伝えた。
「えっ、イプシロンからの襲撃予告!?」
「予告先は京都の漫遊寺中」
「漫遊寺中?聞いた事ない学校だな」
風丸が言うようにみんなも首を傾げている。
「確かフットボールフロンティアにも参加してなかったわね」
夏未ちゃんが確認するように言えば、うん、と春奈ちゃんが頷く。
「漫遊寺中は学校のモットーが体と心を鍛えることでサッカー部も対抗試合はしないのよ。でもフットボールフロンティアに参加してたら間違いなく優勝候補1つだったであろうと言われる実力のあるチーム」
瞳子さんがそう言えば、みんなが声を揃えて、優勝候補!?と驚く。
「厳しい修行で鍛え上げられた強靭な体と研ぎ澄まされた心を持つ漫遊寺のサッカーは、スピード、パワー、何を取っても超一流」
珍しく大絶賛だな。
「イプシロンは無差別に学校を襲っていたジェミニストームと違い隠れた強豪校に定めて来た...」
瞳子さんは顎に手を置いて、なにかを考えている。
「イプシロンを倒せばエイリア学園の本当の狙いが分かるかもしれないわね。直ぐ漫遊寺に向かうわよ!」
その言葉に一同は力強く、はい!と頷いた。
そうだ。京都へ行こう
キャラバンに乗り込めば、隣りに座っている染岡が膝に乗せたコンビニの袋に、私と塔子ちゃんと同じ香りの制汗剤が入ってるのが見えて思わず吹き出しそうになった。
結局匂い気にしてたのも可愛いし、私達が色んな香りが混ざると気持わるいって言ってたのも気にしたんだろうと思ったらますます可愛く思えた。