脅威の侵略者編
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染岡と吹雪のエースストライカーの座をかけた戦いは、染岡の勝利で終わった。
みんなが凄いじゃないか、と染岡の周りに集まる中、地に転がされた後、未だ座り込んだままの吹雪に近寄って、手を差し伸べた。
『大丈夫?怪我はない?』
「あ、大丈夫だよ」
そう言って吹雪が手を取ったので、よいしょと引っ張り上げる。
『優しいわね』
そう言えば、吹雪は、え?と首を傾げた。
『リスが近くに来たからでしょ』
みんなは気がついていないが、吹雪はゴール付近にやってきた野生のリスに気がついて、恐らくそれにボールが当たってしまったら、ということを瞬時に考えてしまったのだろう。その一瞬の隙に染岡にぶつかられボールを奪われた。私もアニメを見てなきゃ、リスがいることにすら気づかなかっただろう。
「え、ああ、うん」
吹雪は驚いた顔をしながら頷いた。
そんな彼の背中に付いた土をぽんぽんと手で払ってやる。
そうしていたら、後ろから水津!と一之瀬に大きな声で呼ばれて、なに?と振り返る。
「染岡が拗ねてる」
「は、はあ!?」
一之瀬が手をメガホンのように丸めながらそう言ってきて、その横で染岡が大きな声上げた。
拗ねてるってなんだ?
そう思い、一之瀬の元に行く。
『なあに?どうしたの?』
「染岡が勝ったのに水津が構わないから拗ねてたんだよ」
一之瀬の言葉に染岡が拗ねてねーよ!!と声を上げている。
自分が勝ったのに吹雪の方に行ったからって事か。
『何それ、可愛いわね』
くすくすと笑えば、みるみるうちに染岡の顔が真っ赤に染まった。
「可愛くはねぇだろ、可愛くは...」
そう言ってボヤく染岡に、可愛いわよと返す。
『まあ、それは置いといて、ちゃんと成果出てたじゃない』
そう言えば染岡は、照れたように、おうと頷いた。
『おめでとう、エースストライカー!』
バシンっと気合いを入れて叩けば染岡が痛えよ!と声を上げる。けれどその顔は笑っていて思わずこちらも笑い返した。
そうしてるうちに、急に地に影が差し辺りがどんよりと薄暗くなった。
上を見れば雲が異様に渦巻いて空を覆っている。
「なに...」
ただならぬ雰囲気に白恋中の子供達は身を寄せあい怯えている。
『嗚呼...』
そうか。今日か。
「円堂!」
鬼道が円堂の名を呼び、ある一辺を見つめている。
「とうとう来たか...!」
振り返った先では、相変わらず小高い場所がお好きな宇宙人達がこちらを見下ろすように見ていた。
「待ってたぜ!エイリア学園!勝負だ!」
そう言って円堂が持っていたボールをレーゼに向かって蹴りあげれば、彼は表情ひとつ変えずに片手でボールを止めた。
「これ以上サッカーを破壊の道具にはさせない!」
意気込む円堂に、レーゼはこちらを見下ろしながら、またお前たちかと呟いた。
「何故ここにいる」
「俺たちが代わりに戦う!」
円堂がそう言って拳を握れば、レーゼはフッと鼻で笑った。
「地球人の学習能力は想像以上に低いな。2度も敗れたのに何故分からないのだ。我々には勝てないと」
「宇宙人の想像力も大したことないね!」
フン、とドヤりながら塔子ちゃんが喧嘩を売る。
「あたし達がパワーアップしたとは思わないの?」
ウインクまでして挑発する塔子ちゃんを見て、レーゼは、ほぅ、と呟いて目を細めた。
「いいだろう!地球にはこんな言葉がある。二度あることは三度ある、と!」
そう言ってレーゼは円堂に向かってボールを蹴り返した。
円堂はそれを両手でキャッチして、ニッと笑って見せた。
「凍てつく氷の大地を溶かすほどの熱気!緊急テレビ中継も行われる雷門中イレブン対エイリア学園ジェミニストーム!世紀の決戦が始まろうとしています!」
どういう訳か、雪だるまの中からこんにちはした角馬圭太くんが、いつものことながら実況を始める。
彼の言った通り、北海道の地方のテレビ局が慌てて白恋中にやって来て中継を始めた。
「私たちの学校、壊されちゃうの...」
不安そうにする白恋中の紺子ちゃんに吹雪が大丈夫だよと声をかける。
「白恋中は僕が守る」
「吹雪!頑張ろうぜ!」
「エターナルブリザードで奴らをバシバシ吹っ飛ばして欲しいでやんす!」
拳を握る円堂とその横で空を蹴りながら栗松が言えば吹雪は、うん、と力強く頷いた。
「宇宙人なんかに負けないよ」
そう言って意気込む吹雪を、瞳子さんが呼んだ。
「スターティングのFWは染岡くんと水津さんの2人。吹雪くん。貴方はセンターバックに入って」
ええっー!?と雷門の子達がコントのような反応をする。
てか、待ってくれ。やっぱり私も入るのか...。私が入るって事は誰かが、ベンチって事でしょう?恐らく、と言うか絶対目金だろうけど...、いいのかなぁ。
「ディフェンスに専念するのよ。絶対に前線に上がらないで。エターナルブリザードは封印してもらいます」
そんな瞳子さんの奇抜な作戦に、相変わらず染岡が敵意むき出して睨みつけている。
「はい」
吹雪が頷くが他の者がやっぱり黙ってはいない。
「なぜです!?」
そう言って一之瀬が食らいつく。
「吹雪のスピードを活かした攻撃!それが奴らへの対抗策でしょう!!」
「意見は聞いてないわ」
力説する一之瀬に、肩にかかった髪を払いながら瞳子さんは離れていく。
「なんだよあの監督。やっぱりわけわかんないよ」
ボヤく塔子ちゃんに幾人かが同意するように頷いている。
良くない雰囲気になってきたところにパンっとグローブとグローブのぶつかる音がした。
「監督の作戦に従おう」
空気を変えるように手を叩いてそう言った円堂に、みんながえ?と呟いた。
「円堂...」
「この試合は白恋中を守るためだけじゃない。全人類の命運がかかった大事な1戦よ!」
夏未ちゃんがみんなの前に出てそう言えば、鬼道が、ああと頷いた。
「監督もそれを承知の上で吹雪をDFに起用した筈だ。勝つために」
「そうさ!後は俺たちが結果を出すだけだ!」
円堂が拳を掲げてそう言えば、染岡がへっ、と笑った。
「俺のシュートで勝負を決めてやる!」
「僕も、白恋中とみんなを守るため、全力で戦うよ」
吹雪もギュッとマフラーの裾を握り締める。
私も、うだうだ言ってらんないか。
「よぉし!絶対に奴らに勝って、半田達に勝利の報告を届けるんだ!」
そう言って円堂が手の甲を向けて前に突き出した。
それにみんながうんとかはいとか返事をしながら次々と手を重ねていく。
半田達に、か。思わず目を伏せる。
あの子たちは今頃どうしてるかな。
多分まだベットの上だよね。
戦いなんかするなって、あの時言ってたら...、
「水津さん?」
吹雪の首を傾げるような声に呼ばれ、目を開ける。
みんなが手を重ね合わせて円陣を組んでいる。
私の名を呼んだ吹雪が1番上に手を乗せていて、吹雪自身と塔子ちゃんの横に入れるように彼は自分の右にいる一之瀬の方に身を寄せた。
あの子達が大きな怪我をすると知っていて、フィールドに立たなかった私が、今フィールドに居ていいんだろうか。
「梅雨!早く!」
塔子ちゃんにも名を呼ばれる。
『うん...』
恐る恐る、1歩踏み出して、そっと手を伸ばせば、塔子ちゃんが自身の空いた手を伸ばして私の手を掴んだ。
それを1番上に乗せて、ふふんと満足そうに笑っている。
それを見て他のみんなもうんと頷いている。
まるで、私も入っていいんだよって言ってくれてるみたいで少しほっとした。
「やるぞ!今度こそエイリア学園の侵略を終わらせるんだ!」
円陣全開
おおっー!とみんなが一斉に叫んで気合いを入れた。