フットボールフロンティア編
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おはよう、金曜日の凄かったね。かっこよかったよ。なんて教室に入るなりクラスの女の子に声をかけられた。
私はただのモブでありたいのに、また目立ってしまった。
ありがとう?なんて女の子たちにニコニコ笑って返事をしてから、自分の席に着いて頭を抱える。
『はー...』
「朝から辛気臭ぇな」
隣の席にドサッとカバンを置く音がして、見上げれば不機嫌そうな染岡が居た。
その顔には絆創膏が貼ってあった。昨日の帝国のラフプレーでついた傷だろう。恐らく学ランの下も傷だらけなのだろうなぁ。
『おはよう。金曜はお疲れ様。廃部にならなくて良かったね』
「ハッ、嫌味かよ」
そう悪態をついて染岡は席に座ってカバンの中身を机に移動し始めた。
『なんでそうなるの...。純粋に勝ったことお祝いしてるのに...』
「...ああ、勝ったな。お前と豪炎寺のお陰でな。お前もそう言いたいんだろ」
『は...?』
思わずポカンと口を開いた。どっちが嫌味なんだ、どっちが!
『誰もそんなこと言ってないでしょう!』
じろり、動いた三白眼が私の瞳とかち合った。
一触即発か!?とクラス中の目も集まる。
そんな中、あの...と後ろから声をかけられた。低くて細いその声に対し、え?と振り返ると結構な至近距離に影野が立っていた。
「お、おはよう、2人とも」
勇気をだして声をかけた、正にそんな感じで、あの...と再び呟やき、影野は両手を胸の前でモゾモゾと動かした。
「おお...」
『おはよう...?』
思わず梅雨も染岡も彼の近さに引きながら、挨拶を返した。
「水津さん、凄かったね...1人で10人相手にボールを取らせないの」
かっこよかった、と影野が純粋に褒めてくれる。嬉しいなぁ。まあ結局あのボールは天才ゲームメイカーさんに取られてしまったんだけどね。
『ありがとう』
「リフティングって言うんだよね、ああいうの」
『そうね。でも私のはフリスタで得たものだからサッカーの技術とはまた使い勝手が違うんだけどね』
フリスタ?と影野が首を傾げた。それにつられて彼の長い浅紫色の髪が揺れる。サラッサラだなぁ。なんのシャンプー使ってんだろう。
「フリースタイルフットボールな。チャラチャラしたお遊びみたいなやつだろ?」
『は?』
ハッ、と染岡が鼻で笑って言ったその言葉に対し、自分でも驚くぐらい低い声が出た。
『今なんつった?』
普段ニコニコしている梅雨の帝国のキャプテンに掴みかかった時と同じ程の迫力に、染岡は声を詰まらせた。
『お遊びだ?フリースタイラーはな皆真剣にやってんだよ!ふざけたりなんかしたら大怪我するの!!チャラチャラだなんて言うんじゃないよ!!』
バン、と力強く机を叩いて立ち上がれば、流石の染岡もその気迫に気圧された。
「お、おう...」
『わかったならいい』
そう言ってスンと椅子に座る。
そのタイミングでキーンコーンとチャイムが鳴る。
「お前たち、席につけ〜」
担任が教室に入ってきて、傍に居た影野と騒動を見ていた生徒達は慌てて自席に戻って行った。
「(わかればいいのか...)」
なに食わぬ顔で担任が入ってくるのを見ている梅雨を見て、染岡はなんだコイツと思っていた。
そして、本日授業課程が全て終わり放課後へ突入するや否や夏未ちゃんの手によって理事長室へと連行された。
今日は理事長は会合で居ないらしく、応接用のソファに夏未ちゃんに座りなさいと言われるがまま腰掛けた。
業間休みや昼休みに何も言って来ないなとは思っていたが、いやぁ放課後がっちり拘束かぁ。
「水津さん、貴女に聞きたいことがあるのだけれど」
『はい』
「貴女は帝国学園の目的が豪炎寺くんだって知っていたのね」
きた。聞かれると思っていた。
素直にコクリと頷けば、はぁ、と夏未ちゃんはため息を吐いた。
「なら、貴女はわざわざあんな危険な場に出なくても...」
あれ?教えなかったこと怒られると思ってたんだけど...。
「貴女、前にサッカーをやるって言っていたし、私はてっきり帝国の狙いは貴女の事だと思って」
これもしかして...。
『心配した?』
「なっ!そんなことはありません!」
そう言って夏未ちゃんは顔を真っ赤に染めた。
「それに私は怒っているんですからね!」
夏未ちゃんはぷんすこと効果音が付きそうな怒り方をしてる。
「他校の生徒に平手打ちをするなんて、暴力的な生徒が居るって噂になったらどうするつもりなのかしら。我が校の品位を落とすような事はしないで頂戴」
『はい...』
やっぱりそこは怒られると思ってたよ。
『その点は軽率な行為だったと深く反省しております。それでですね、反省文も書いて来てます』
そう言ってカバンを漁ってファイルから原稿用紙を出して夏未ちゃんに、どうぞお納めくださいと手渡す。
「随分と用意周到ね」
『社会人になったら報告書と始末書を書く日が必ずいつかくるんすよ...』
「何を言ってるの?」
ははは、大人になれば分かるさ。
まあ、とりあえず始末書は上司に言われる前に書いて提出すれば、お咎めがひとつ減ることを私は知っていたので今回も夏未ちゃんに言われる前に昨日の夜必死に反省文書いたよね。
反省文に目を通して夏未ちゃんはちゃんと反省しているのは分かったわ、と言って原稿用紙を折りたたんだ。
「それで、貴女はなんで帝国学園の目的が豪炎寺くんだって知っていたの?」
『それは、』
これも聞かれると思っていたので、ちゃんと休み中に考えたよ。
『ほら、女子の間で転校生の男子がイケメンだって、噂になってたから見に行った事あったんだけど、その時に、去年サッカー界で噂になってた木戸川清修の豪炎寺だ!って気がついてて、それで帝国が見に来たのは彼だと思ったんだよね』
なるほどね、と夏未ちゃんは呟いた。
「(でも、噂になってたから見に行く、水津さんはそういうタイプじゃないと思っていたのだけれど...まあ、いいわ)...それで、今日貴女をここに呼んだ要件なんだけれど」
『呼んだというか強制連行だったけど』
「何か仰って?」
いやなんでもないっす、と押し黙る。
「今回の帝国戦の話が何処からか漏れて、うちのサッカー部に練習試合の問い合わせが何件かあったのよ。まあ、恐らくはみんな豪炎寺くん目当てなんでしょうけど」
『彼、あの後サッカー部入ったんだっけ?』
いいえ、と夏未ちゃんは頭を横に振った。
「入部届けは提出されていないわ」
まあ、ストーリー的にそうだよね。
『なら、目的の彼が居ないとなると練習試合を申し込んできた学校には申し訳ないね』
「そこは、きちんと豪炎寺くんがサッカー部に入部しているか調べてない向こうが悪いんだし気にする事はないわ」
あ、そうですか。夏未ちゃんは手厳しいなぁ。
夏未ちゃんは、理事長の机からノートパソコンをこちらに持ってきて、電源を入れる。そして起動したPCのデスクトップからメールフォームを開いて見せた。
「私はサッカーに関して詳しくないから、貴女の意見を聞こうと思って。どの学園がいいか見て頂戴」
『うーん、サッカーは分かるけど、他校のサッカー部に詳しいわけでは...』
愚痴りながらも夏未ちゃんが1個ずつ開いて見せてくれるメールに目を通していく。
『あっ、』
その中の一通に見知った学園名が書いてあった。確実にコレだわ。試合を受けなきゃ呪うとか書かれてるのは見なかったことにしよう。
「このメール?尾刈斗中学校からね」
『この学校は聞いた事あるよ』
「へぇ、どんな学校なのかしら?」
『えーっと、独特のタクティクスを使う学園だったかな』
あれが反則にならないのは超次元サッカーだからこそだよね。
「タクティクス?」
『ああ、戦術って意味で』
「それくらい分かります」
説明する前に怒られてしまった。
要するにどんなタクティクスか?って聞いてるわけね。
『うーんと、まあ、視覚と聴覚を混乱させるような戦術というかなんというか...』
簡単に言えば暗示とか洗脳って事なんだけどね。
「そう。強いの?」
『確か、フットボールフロンティア出場校だったはずだけど』
そういえば夏未ちゃんは顎にを添え考える素振りを見せた。
強いならサッカー部潰すのにちょうどいいとか思ってんのかなぁ。
「なら、ここにしましょう」
あっさりと決めてしまった夏未ちゃんはパソコンを自分の方に向けて、返信のメールを打ち出した。
送信をクリックして、ノートパソコンを閉じた彼女は、それを理事長の机に戻して、それから私に向かって言った。
「さあ、行くわよ」
何処に?
分からないまま、夏未ちゃんに再び連行されていく。
理事長室を出て連れ出されたのは、サッカー部の部室の前だった。
ちょうど部室の前の物干し竿にタオルを干してる秋ちゃんが居た。
「木野さん、円堂くん達は居るかしら」
やほ、と夏未ちゃんの後ろからから秋ちゃんに軽く手を振る。
「夏未さん!それに水津さんも」
「サッカー部の事で話があるのだけれど」
「あっ、みんな中に居ますよ!」
そう言って、秋ちゃんは仕事途中の手を止めて、ちょっと待ってくださいね、と部室の扉に手をかけた。
「みんなー!お客さんよ!」
そう言って扉を開けて、秋ちゃんはあれ?と固まった。
「何かあったの...?」
奥から、「ああ、ちょっとな」と円堂の声がした。
それを聞いて困ったように笑いながら、秋ちゃんはどうぞと私達が入れるように扉の内側に避けた。
夏未ちゃんを先頭に後ろから顔を覗かせると、え"っという反応を円堂が見せた。
夏未ちゃんは入口で立ち止まって、それから人差し指を鼻元に持っていった。
「臭いわ」
すん、と匂いを嗅げば、確かに...なんとも言えない男臭さというか...。
『汗臭い...』
「こんな奴らなんで連れてきたんだよ!!」
みんなが座ってミーティングをしていたっぽい中、なぜか1人だけ立ち上がって居た染岡が、夏未ちゃんと私を見て睨みつけてきた。
「話があるって言うから...」
私も来たくて来たわけじゃないんだけどなあ。
困り顔の秋ちゃんに対し、染岡はチッと舌打ちをして押し黙った。
「帝国学園との練習試合廃部だけは逃れたわね」
「お、おう!」
グッと円堂は拳を握ってみせた。
「これからガンガン試合していくからな!」
それを見て夏未ちゃんが、くす、と笑った。
「次の対戦校を決めてあげたわ」
ええっ!とサッカー部全員から声が上がった。
「次の試合!?」
「凄いでやんすね!もう次の試合が決まるなんて!」
グッと拳を作って、栗松が立ち上がる。それにつられて皆まちまちに立ち上がり、キャプテンである円堂を囲った。
やったな、と半田が円堂の肩を叩いている。
各々喜びの声あげたり、次の試合への気合いを入れる様子を見て夏未ちゃんがイライラと指で腕を叩いてるのが見えた。
『おーい、君ら...』
「話を聞くの聞かないの!!」
ほれみたことか。夏未ちゃんが切れた。
「ああすまない!で、どこの学校なんだ?」
「尾刈斗中。試合は1週間後よ」
尾刈斗中?とサッカー部員達は首を傾げた。
「もちろん、ただ試合をやればいいだけではないわ。今度負けたらこのサッカー部は直ちに廃部」
またかよ、と肩を落とす彼らに、夏未ちゃんはただし、と付け加えた。
「勝利すればフットボールフロンティアへの参加を認めましょう」
その言葉に、一同はえ、と呟いて部室内のポスターを見た。
これに出られるのか。凄い凄いと皆喜んでいる。勝ったらだよ??
「ちょっと、話はまだ終わってなくてよ!!」
騒ぎ出した彼らに夏未ちゃんのお叱りが再び入った。
「まだ何かあるのか?」
「ええ。試合があるんですもの、貴方たちが前みたいに日々の部活動をサボらないように、監視員を付けます」
ええ!!っと皆が声を上げる。
その中には私の声もある。監視員なんてそんなのストーリーにあったっけ???
「彼らの活動内容を毎日メールで構いませんから、送って来て頂戴ね水津さん」
『うん、わかっ......??ちょっと待って』
ん??と首を傾げる。
あれ?もしかして監視員って私か!?
『あの、夏未ちゃん...監視員って私...?』
「そうよ」
さも当然でしょと夏未ちゃんは頷く。
そしてなぜだか円堂は、なんだ水津か〜とほっと息をついていて、染岡は相変わらず睨んできて、1年ズが監視員...!とビビりまくって見つめてくる。
『聞いてない』
「ええ。今言ったもの。貴女にはサッカー部がきちんと部活動を行っているかの監視員をしてもらいます。無論、私の言葉は理事長の言葉だと思って構いません」
職権乱用じゃないか!!
『夏未ちゃん自身が監視すれば良くない!?』
こっちは極力関わらずモブとして生きていこうと思ってるのに!世界がそうさせてくれない!!辛い。
「私はサッカー知らないもの。貴女詳しいし適任でしょう」
『いや、私になんのメリットないし』
「...、確かにそうね。けど1週間だけ、どうしてもダメかしら」
しゅんとした夏未ちゃんにじっ、と見つめられる。
『う、ぐ...』
か、可愛い。
可愛い子からのオネダリ。
『...1週間だけ、なら』
そう言えば、夏未ちゃんはニッコリと笑った。可愛いなぁもう。
「ええ、貴女ならそう言ってくれると思ったわ。よろしく頼むわよ。それじゃあ、貴方たちはせいぜい頑張る事ね」
そう言って夏未ちゃんは私を置いて、部室を出ていった。
はあ、と大きくため息をつくと、秋ちゃんが困ったように笑いながらよろしくねと背を優しく叩いた。
サッカー部の監視員
そんな役職欲しくなかった。