脅威の侵略者編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『よし、できた』
フライパンで両面こんがり焼いた鮭を、ステンのトレイに並べて行く。
『にー、しー、ろー、はー...』
1人2切れずつの計算で人数分ちゃんとあるか確認する。
選手11名とマネージャー3人、監督と古株さん。あ、あと自分も入れて17人前。
『ん、バッチリ。これ盛り付けOKよ』
「はい!任せて下さい!」
春奈ちゃんにトレイをパスして盛り付けを任せる。
『味噌汁はどう?』
フライパンを洗いながらそう聞けば鍋の前に立った夏未ちゃんは、ふふん、と得意そうな顔をした。
「出来上がったわ!」
大変嬉しそうな夏未ちゃんは可愛いが、彼女がしたのは味噌を味噌こしで溶いただけである。具材のカットは他3人でして、だしは今、夏未ちゃんの隣で鮭に添える大根を下ろしてくれてる秋ちゃんが取ってくれたものだし。
「ご飯ももう炊けたし、大方いいんじゃない?私も大根おろしもうちょっとで終わるから」
『腕大丈夫?』
ぶっちゃけ大根おろしが1番の重労働だと思う。
「さっき1回春奈ちゃんに交代してもらったから大丈夫よ」
『そう?それじゃあ、夏未ちゃん。みんなを起こしに行くよ』
「え、ええ!あ、これはどうしたらいいかしら?」
「ああ、それはこっちに置いといて」
手に持ったままの味噌こしと菜箸を掲げる夏未ちゃんに秋ちゃんが笑って、流しに浸けるように促す。
洗い終わったフライパンを伏せて布巾で濡れた手を拭く。
『さ、行こうか』
夏未ちゃんを連れて、男の子たちが寝ている教室に向かって、その扉を、おはよう!と声をかけながら思いっきり開く。
「うわ寒っ」
急に廊下から冷気が入ってきて身震いしたのは、土門だった。
彼は既に起きていて、布団の上で同じく起きていた鬼道と話をしていたようだった。
「おはよう。もうそんな時間か」
鬼道は、寝起き感満載の土門と違って髪もきちんと結んであって、きっちりマントまで着込んでいる。
「みんな起きなさい。朝食の時間よ」
そう言って夏未ちゃんがパンパンと手を叩く。
「朝食!!」
パチッと目を開けて壁山が飛び起きる。
「もう腹ぺこぺこッス!!!」
『それじゃあ、みんな起こして顔を洗いなさい』
「はいッス!栗松起きるッスよ〜!!」
そう言って壁山は同じ1年生である栗松をゆさゆさと揺さぶる。
「おら、一之瀬も朝だぞー」
「ん、Good morning...」
土門が起こせば一之瀬も眠たそうに目を擦る。
「ほら目金も起きろよ」
甲斐甲斐しく土門が声をかけていく中、よく見れば意外と人が居ない。
何より確実にまだ寝てそうな円堂の姿がない。
「あら、円堂くんは?」
夏未ちゃんも気がついたのか首を傾げている。
「俺が起きた時には、円堂と風丸、それと染岡なもう居なかったぞ。吹雪はさっき起きて散歩に行ってくると出ていったが」
「円堂くんが、鬼道くんより先に起きてたの?信じられないわね...」
まあ驚愕するよね。でもサッカーが絡むと円堂は違うからなぁ。
話を思い返せば確か、ゲレンデで朝練してた気がする。
『4人呼んでくるから、夏未ちゃんは塔子ちゃん起こしてきて。鬼道と土門は男の子達のことお願いね』
「ええ」
「ああ」
「おう!」
三者三葉の返事を聞いて、教室を出て廊下を抜け昇降口から学校の外に出る。
『...、さむ』
暖房のない廊下も寒かったが、外はやはりまた一段と寒い。
昨日吹雪に案内された、ゲレンデまでの道を進んで行く。
1面真っ白だから気をつけないと迷子になりそうだ。
ぎゅっ、ぎゅっ、と雪を踏みしめながら歩いて山を登れば木々の隙間を抜けた先に、雷門のジャージに身を包んだ銀髪の後ろ姿が見えた。
彼はそこから斜面になっている下の様子をぼんやりと見つめているようだった。そんな下からはアハハハ!と3人分の笑い声が聞こえている。
『吹雪。何見てるの?』
そう声をかければ、驚いた様に吹雪の肩がびっくと跳ねた。
「あ...、えっと、おはよう水津さん」
振り返った吹雪は、一瞬困ったような顔をした後、やんわりと笑って見せた。
その隣に並んで下を見れば、円堂と風丸、更に染岡が雪合戦をしていた。その足元には3人分のスノーボードも転がっている。やっぱり朝から練習してたんだろう。
「邪魔しちゃ悪いかなって」
『あー、』
まあ、ここんところにしては珍しく染岡が笑ってるのを見ると、険悪な態度を取られる吹雪からすれば声はかけにくいよなぁ。
「水津さんも朝練?」
『ううん。ご飯だよって君らを呼びに来たの』
「あ、そっか。じゃあ、僕は先に戻っておくよ」
そう言って吹雪は踵を返す。
『あ、1人で大丈夫?』
なんとなく寂しそうなその背中に思わずそう声をかければ、吹雪は、え?と足を止めて、こちらを不思議そうな顔をして振り返った。
「大丈夫だよ?...ここは庭みたいなものだから」
そう言ってニコッと笑って吹雪は再び背を向けて歩いて行った。
迷子になるとかそういう意味じゃなかったんだけど。
『...一緒に声掛けて戻ればいいのに』
まあ、彼なりに気を使ってなんだろうけど。
『3人ともー!ご飯だよー!!』
そう言って下に向かって大声で叫ぶ。
「ん?あ、水津!」
よ!と円堂が上を向いて大きく手を振ってきた。
「もうそんな時間か」
「呼びに来てくれたのか悪いな」
『うん。早く片付けて戻らないと、壁山に全部食べられるよ!!』
そう言えば円堂が慌てて、地に置きっぱなしにしてたスノーボードを抱えた。
「俺、お腹ぺこぺこなんだ!急いで戻ろうぜ!!」
「ああ、それは大変だな」
だな、と笑いあって風丸と染岡もそれぞれのスノーボードを抱えて、斜面を登ってくる。
『君ら何時から練習してたの?』
上に上がってきた3人と校舎に向かって雪道を歩きながら話を振る。
「俺らは6時!けど染岡はもっと前から居たよな!」
円堂の言葉に風丸も頷けば、染岡はあー、と声を発した。
「起きたのは5時半くらいだったな」
『うわ、私らより早いじゃん』
私らマネージャー達も朝ごはんの準備に早起きしたが6時起きである。
『いくら北海道が日の入り早いとは言え、明け方は寒いんだから気をつけなよ。選手は体が資本なんだからね』
「あーあー、分かってるって。たっく、いちいちうるせぇな」
『あ?心配していってるんだが???』
うるさいってなんだうるさいって。食ってかかれば、まあまあと風丸に止められる。
「怒るなって水津。染岡のは照れ隠しだからな」
『あー、』
なるほど、と頷いて染岡を見れば彼は顔を真っ赤に染めた。
「ちげぇよ!!」
そう怒鳴ってはいるが、そうか照れ隠しか。反抗期って奴だな。うんうん、年相応で可愛いじゃないか。
「お前!ニタニタすんな!!」
『えー』
「風丸も変なこと言いやがって!」
染岡が睨みつければ風丸はハハハッと爽快に笑ってみせた。
「仲いいな!」
なんかよくわかんないけど、とそう言った円堂が笑うから、そうだね、と笑い返しておいた。
校舎に戻って朝食をしっかり食べた後は、昨日に引き続きスノーボードでの特訓の為、再びゲレンデに向かった。
「水津さん、一式借りれたわよ」
そう言って、瞳子監督が昨夜お願いしていた件の物を持ってきてくれた。
『ありがとうございます!』
そう言って受け取れば、スノーボードを始める前に、安全のためのヘルメットやサポーターを付けていた皆が不思議そうに手にしたものを見つめた。
「スキーをするのか?」
最初にそう言ったのは鬼道だった。
『うん。ショートスキーをね』
頷いて、監督に無理言って白恋中スキー部から借りた2本の板を叩く。それは、普通のスキー板よりも短い120cm程の流さ。
「わざわざそれを指定したって事は水津はスキーボードやったことあるってことか」
一之瀬の言葉に、まあね、と答える。
『子供の頃に少しね』
十数年のブランクがあるから、上手く滑れるかは分からないけど。
「でも梅雨ちゃんの運動神経ならスノーボードでも直ぐ出来るようになるでしょうよ?なんでわざわざ?」
首を傾げる土門に、あー...と言葉を濁す。
「あのアクロバットとかのレベルならスノーボードのジャンプとか余裕で出来ると思うよ」
そう言う吹雪の言葉にに更に、あー、と意味の無い声を発する。
多分、超次元世界にきて身体能力上がってるし出来るっちゃ出来るんだろうけど...。
『いや...その、スノーボードの方が危険度高いし...。両足張り付けになるからさ...失敗した時の怪我のリスク考えると、ね』
スキーの方が一定負荷が掛かると外れるセーフティボードもあるし、両足がバラバラに動く分何かあった時の安全さが違う。
そう答えれば、雷門イレブン達は、ああ...と納得して、塔子ちゃんと吹雪だけがみんなの様子に首を傾げた。
「でも怪我のリクスなんてそんなの他のみんなも一緒だぜ?」
首を傾げたままそう言う塔子ちゃんに、困ったなと頭を悩ませる。
それはそうなんだよね。
「塔子ちゃん、塔子ちゃん」
待った待ったと言わんばかりに秋ちゃんが割って入る。
「水津ちゃん前にフリスタの練習中に落下して、足に怪我を負ったり、脳震盪を起こしてその結果、記憶の1部を失ったりしてるらしいの」
記憶云々は響木さんによるデタラメだが、他はだいたいその通りだ。
「えっ、そうなのか?悪い、知らなくて...。そりゃあ、怪我しないようにって思うよな」
『いや気にしないで。私が単に臆病なだけだから。いつまでも過去に縛られてちゃいけないんだろうけど、こればっかりはどうにも慎重にならざるおえないというか...』
「...過去に、......」
小さな声で吹雪がそう呟いて下を向く。
「吹雪?」
どうしたんだ、と円堂が聞けば吹雪は顔をあげてううん、と首を振った。
「なんでもないよ。さあ、始めようか」
そう言って吹雪はまっさらな斜面をいの一番に滑り降りていった。
雨露霜雪を乗り越えれるかは
結局自分次第。