脅威の侵略者編
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瞳子さんに頼まれた仕事の為、紙の挟まっているバインダーとペンを持ちベンチに座って紅白戦の様子を見守る。
開始そうそう紅組の鬼道と白組の風丸による攻防戦。2人の足先でのボールのせめぎ合いが続く。
「いいぞ、2人とも!お互いに食らいついていけ!」
ゴール前に立つ円堂が声をかけた途端、攻防に進展があった。
「疾風ダッシュ!」
鬼道の足元からボールを攫いジグザグと素早い動きで鬼道の横を駆け抜けて行った。
「いい動きだ、風丸」
取られた鬼道は満足げに笑っている。
それを見て、私はガリガリと紙にペンを走らせた。
そうしているうちにフィールドでは、ドリブルで駆ける風丸の後ろから吹雪が追いついて来た。
「風になろうよ」
あっという間に、吹雪が風丸を抜き去って、Uターンして走り去る際に風丸の足元からボールを奪った。
「す、凄い!風丸くんをあんな簡単に...!」
「やっぱり吹雪さんは強力なストライカーと言うだけでなく、DFとしても力を発揮するんですね!」
本来ならそれそこ吹雪みたいな選手がリベロになるんだろうな。攻撃型DFとして。
「風丸何やってんだ!!行くぞ!」
イラついた様に怒声を上げる染岡に、風丸はくっ、と奥歯を噛み締めて、吹雪を追って走り出す。
『うーん...』
やっぱり風丸は足が速いな。先に駆け出した染岡よりも早く、吹雪の後ろに付いた。
「スピードはお前だけのものじゃない!!」
「吹雪無理するな!」
「こっちに回せ!」
吹雪のスピードに食らいつく風丸を見て一之瀬と鬼道が声を上げる。それを無視して走り続ける吹雪に風丸がスライディングを仕掛ければ、吹雪は真上に軽々と飛びのけてみせた。
「いくよ」
マフラーをギュッと握って吹雪はそう呟いた。
そのまま地に落ちた彼は、また豹変した。
「よっしゃあ!」
うぉおおおお、と雄叫びを上げながら先程の静寂で洗練されたような動きとは違う荒々しく激しい動きでボールを運んでいく。
「ま、まただ...!」
みんなが驚く中、どけどけ!と声を上げながら、強引に吹雪は敵陣に突っ込んで行く。
圧倒的なスピードで塔子と土門を抜き去る。
「ったく、しょぼいな。俺についてこれる奴はいねぇのかァ?」
「...勝手すぎるぞ」
「僕らもう完全に無視されてますよね」
ボヤく一之瀬に同意するように頷いて目金がそう言う。
まあ、これは大きな問題点だよね。
始める前に円堂がチームワークを鍛える練習だ、って言ってたんだけどなぁ。
「どうして誰にもパスを出さないの?」
「昨日と同じだわ。攻撃にまわるとまるで人が変わったようになる」
「確かに、ね」
夏未ちゃんの言葉に頷いた瞳子さんは、腕を組んだままじっとフィールド内の吹雪を見つめた。
「吹雪くんはとてもトリッキーなプレイヤーだわ」
事の全容を知ってる身からすれば、トリッキーというか、諸刃の剣なんだよなぁ。
「次のエイリア学園との戦いでもコントロールが難しそうね」
まあ、そこは何とかなる、とは思うけど...。
「ちょっと待ったァ!!」
急に染岡の怒声が響いて、え?と吹雪も動きを止めた。
コロコロと吹雪の足から離れたボールが転がっていく中、染岡を中心としてみんなが吹雪の方に集まった。
「お前なァ...一之瀬も鬼道もこっちに回せって声掛けてんだろうが!」
そう染岡が怒れば、吹雪はきょとんとした顔を見せた。
「だって、僕いつもこうしてたし...」
「白恋じゃそうでもうちじゃそんなの通用しねーんだよ!!お前は雷門イレブンに入ったんだ。俺たちのやり方に合わせろ!」
「そんな事、急に言われても...。そういう汗臭いの疲れるなぁ」
「誰が臭いって!?誰が!!」
怒る染岡を慌てて一之瀬と土門が押さえ付けて止める。
『まったく...』
ため息を吐いてベンチから立ち上がり、フィールドの中に入る。
「まぁまぁまぁ」
「落ち着け、染岡」
必死に止める2人の後ろで、目金が眼鏡をクイッと持ち上げる。
「とはいえ、世界トップレベルのチームの中には個人技を活かしたプレイスタイルを重視する所もあります。吹雪くんを中心とした白恋中はまさしくそうしたタイプなのでは?」
「ウチはウチだ!白恋じゃねぇ!!」
怒鳴る染岡に目金だけじゃなくて彼の隣にいた壁山もびくりと肩を震わせ固まった。
「どんなにスピードがあろうとこんな自分勝手な奴と一緒にやれるか!無理なんだよ!こいつに豪炎寺の代わりなんて!」
そう言う染岡に、吹雪は何も言わず少し目を細めた。
『こら』
ポン、とバインダーで染岡の頭を叩く。
「った、水津、てめえ!何しやがる」
『豪炎寺の代わりなんか何処にも居ないわよ。豪炎寺は豪炎寺。今君が、ウチはウチって言ったのと一緒。彼は吹雪士郎だ』
「なっ、」
眉間に皺を寄せているが言い返せずにわなわなと震えている染岡に、大きなため息を吐いた後、吹雪の方を見る。
『君も君だよ。最初に円堂はチームワークを鍛える練習だと言ったよね。そもそもサッカーは1人ではなく11人でやる競技だ。目金がさっき個人技を重視したチームの話をしたけど、プロは個人技ありきでも連携はちゃんと取るよ』
「え、と...」
『1人でやりたいんなら、サッカーじゃなくてフリースタイル始めれば?いくらでも教えてあげるわよ』
「...梅雨ちゃん、怒ってんなー」
小さく呟いた土門をジロリと見れば、はは、と乾いた笑い声を上げて一之瀬の背に隠れた。
「連携って言われても...」
困ったように吹雪は頭に手を置いた。
『私からも染岡と同じように郷に入っては郷に従えと言いたい所だけど、急に言われてもまあ無理でしょうね。だったら、』
ぐるり、と集まっているみんなを見る。
『こっちが合わせてあげるから、貴方も無理だと言わないで少し折れなさい』
「何言ってんだ、お前!なんでこっちが合わせてやんなきゃならねぇんだ!!」
正直この先、吹雪のスピードにみんなが追いつけるようになれば、天才ゲームメイカーの鬼道が居るのだから吹雪に合わせることはそんなに難しいことでは無いと思う。
相変わらず染岡がキャンキャンと吠えてくる中、風丸が1歩踏み出した。
「俺は吹雪に合わせてみるよ」
「はあ!?」
驚く染岡に、風丸は神妙な面持ちで俯いた。
「俺にも、吹雪のあのスピードは必要なんだ。エイリア学園からボールを奪うのは。あのスピードがなくちゃダメなんだ。そうでなきゃ...また前の繰り返しだ...」
「だったら風になればいいんだよ」
追い詰められたような顔をしていた風丸は吹雪のその言葉に、え?と顔を上げた。
「おいで、見せてあげるから」
「すげぇ、校舎の裏がゲレンデなのかぁ」
吹雪に連れてこられたのはスキー場だった。学校の裏にあるってことは、白恋中にはスキー部とかがあるのかな。
おいでと言って連れてきた吹雪はここには居ないし、紺子ちゃん以外の白恋中の子達はゲレンデの両サイドに直径1m以上の大きな雪玉を作って待機していた。
「あ、」
ザザっと言う音と共に、ゲレンデの山頂に現れた吹雪の足裏には1枚の板が。
「スノーボードか!」
怪我をしないように、頭にはヘルメットと膝にサポーターがしっかりしてある。
「それでどうやって」
「まあ見ててよ。雪が僕たちを風にしてくれるんだ」
そう言って吹雪はスノーボードで雪の斜面を滑り降りる。
「わ!速い!」
「かっこいいッス!」
「やるなぁ!吹雪!」
みんなが歓声をあげる中、染岡だけがハッと鼻で笑った。
「ただのスノボーじゃねーか」
「吹雪くんは小さい頃からスキーやスノーボードが得意でよく遊んでたんだって。走るよりも雪を滑る方がもっと速くなって風を感じるから好きだって言ってた」
「風か...」
真剣な面持ちで風丸が見つめている吹雪は、よろしくと白恋中の皆に片手を挙げて見せた。
はーい!と返事をした白恋中の子たちは順番に用意した雪玉を押してゲレンデの下に流していく。
「あ!危ない!」
横から迫り来る雪玉に円堂が叫べは、吹雪は楽しそうに笑った。
ボードを装着したまま軽々と飛んで身体を捻って雪玉を避けた吹雪は次に来る雪玉も、他の雪玉の間に逃げて2つをぶつけて相殺した。
「すげぇな。めちゃくちゃな雪玉の動きも完璧に見切ってるぜ」
「吹雪くんが言うには速くなればなるほど感覚が研ぎ澄まされて、自分の周りの物がはっきり見えてくるんだって」
「確かに速いよ!」
普通にスノボーやスキーって時速60~100キロ出るんだもんね。そりゃあ速いわ。
「あの特訓面白そう!」
「ああ!俺もやりてぇ!」
塔子ちゃんと円堂はワクワクといった様子で滑り降りていく吹雪を見ている。
「おおー」
「やるもんですねぇ」
感心したよう吹雪の方を見ている栗松と目金の2人は気づいてない。
吹雪が通り過ぎた後の残った雪玉がゴロゴロと転がってきていた。
「め、目金さんアレ!?」
先に気がついた栗松がそう言う間に距離を詰めた雪玉に2人はぶつかった。
「「うわぁぁぁああ」」
雪玉に巻き込まれた2人はそのままゴロゴロと反対側に転がっていき雪壁にぶつかった。
その衝撃で近くの木が大きく揺れた。
揺れた事により、葉や枝に積もった雪が一気に落ちて轟々と音を響かせた。
「あっ...」
雪の上を滑っていた吹雪は膝から崩れ落ち頭を守るように蹲った。
「吹雪?」
皆は突然どうしたんだ、と言う顔をしている。音が止んだ後も吹雪は怯えたように自分で自分の肩を抱いてガクガクとその場で震えていた。
「吹雪!?大丈夫か?」
『吹雪、ただ木から雪が落ちただけよ』
私がそう言えば一緒に駆け寄った円堂はきょとん、と言う顔をしたが吹雪はピタと震えるのを止めた。
「あ...う、うん。ごめんごめん」
吹雪は私を見上げて何事もなかったような顔をした。
「ちょっと、失敗」
そう言って作り笑いをした顔は真っ青だった。でも、事が事だからどうすればいいのか分からなかった。
アバランチコントロール
精神面の救助隊には向いていない。