「あんな動きをするなんて、僕も驚いて動けなかったや。流石、雷門イレブンだね。みんな、あまり気負わないで楽しんで行こう」

点を取られたことはあまり気にしていない様子でやんわりとチームメイトに声をかける吹雪を見て染岡がまたチッと舌を鳴らした。

センターラインにボールが置かれ今度は白恋中側のキックオフから。それでもやはり吹雪はゴール前のディフェンスラインに立っている。
ホイッスルが鳴り、喜多海が軽くけったボールを氷上が持って駆け上がる。
正面から向かってくる氷上の足元にスライディングをしかければ、彼は上手く避けれず転んで、ボールを奪う事が出来た。立ち上がってボールを1度バックパスで鬼道に回して、敵陣に再び駆け上がるが、先程の事もあり直ぐにDFの2人がマークに付いてきた。

「染岡！」

鬼道からノーマークの染岡にパスが行けば、またもゴール前に吹雪が立ち塞がる。

「防げるもんなら防いでみやがれ...！ドラゴン、クラッシュ！！！」

青い龍が愚直に真っ直ぐゴールへと飛んでいけば、吹雪は涼し気な顔で左足を軸にその場で身体を回転させて、その勢いで飛んできたドラゴンクラッシュを右足で打ち消した。

「な、何っ！？」

「な、なんと！吹雪がドラゴンクラッシュを止めてしまった！！」

「そうか！吹雪はFWじゃなくて凄いDFだったんだ！！」

まあ、必殺技を必殺技無しで止めるとか普通にDFとして優秀よね。

「ふぅ...。さっきの子と違って真っ直ぐだったから止められてよかった」

そう言って吹雪がほっとしたような顔をしている。いや、頼むから染岡を煽るのに私を引き合いにしないでくれ。
見ろ、めっちゃ顔怒ってんじゃん！！

『あ、』

言わんこっちゃない。キレた染岡がそのままボールをキープしている吹雪に突進していく。
雄叫びを上げてスライディングを仕掛けた染岡を前に、吹雪は首元に巻いたマフラーに手をかけ、出番だよと小さく呟いた。

染岡の足がボールに触れかけた瞬間だった。
吹雪がニヤリと笑えば、突如、氷の嵐が染岡を襲い吹き飛ばしてしまった。

「なんと！スライディングに行った染岡を簡単にはじき飛ばした！」

金に光る瞳、先程よりも逆立った髪、そして雰囲気が先程の吹雪とは違っていた。

『......お出ましか』

「この程度かよォ！」

ガラリと変わった雰囲気に、雷門イレブン達は騒然としている。

「吹雪くん！」

「任せとけ！いつもみたいにバンバン点、取ってやっからよォ！！」

任せろと拳を握り胸を叩く彼は、先程までとは全くの別人である。

「見てな！」

そう言って、吹雪はボールを持ってドリブルで駆け上がってくる。
うおおおおぉと雄叫びを上げて突っ込んできた吹雪に一ノ瀬が抜かれるが、すぐさま身体を捻りターンした一ノ瀬は吹雪を追いかけた。

「お手並み拝見と行こうか！」

追いついた一ノ瀬が、吹雪の真横に張り付き肩をぶつけた。

「一ノ瀬のショルダーチャージ！激しく行った！！」

お互いにドンドンと肩をぶつけ合いながら進む中、吹雪が一拍間を溜め、大きく身体を逸らしてから再度一ノ瀬の肩にぶつけに行った。

「ぐあっ、」

『一ノ瀬...！』

思いっきりドンっと腕で殴られた一ノ瀬はよろけて、その隙に吹雪は走り去って行ってしまう。

「大丈夫だよ。しかし、なんて突進力だ...」

こちらを見て平気だという素振りを見せた一ノ瀬はかけていく吹雪を見つめながらそう言う中、今度は風丸と鬼道の2人が吹雪に向かう。

「続いて鬼道と風丸のスライディングタックルだぁ！！！」

実況も白熱する中、2人がかりで蹴り挟んだボールに対し、吹雪は1人で持ちこたえている。

「う、おおおおおおおお！！！」

雄叫びを上げながらゴリ押した吹雪が押し勝ち、2人を弾き飛ばしてしまう。
そのまま上がろうとする吹雪に今度は土門がキラースライドを仕掛けるが、吹雪はそれをぴょんと軽々と飛び越えて進む。


「止まらない！止まらない！吹雪！あっという間にゴール前だ！」

向かってくる吹雪に対し、ゴール前の円堂はワクワクといったような顔をして前のめりに立ち構えている。

軽く飛んだ吹雪がボールの上で風を生む。

「吹き荒れろ...！」

冷気を含んだ風を纏い、ボールがカチコチと凍る。

「エターナルブリザード！！！」

「ゴッドハンド！！！」

氷の嵐のようなシュートに円堂は大きく手のひらを突き出した。
エターナルブリザードとゴッドハンドがぶつかれば、ボールの当たった中央からカチコチとゴッドハンドが凍っていき、パリンとガラスのように砕けた。

「なっ...！！」

ゴッドハンドを砕いたシュートはそのままゴールネットに突き刺さる。

「ゴォーーーール！！！」

ピィーッとホイッスルが鳴り響く。

「吹雪の必殺技シュートが炸裂！これで1対1の同点だ！！」

「ゴッドハンドがこんな簡単に...」

「これがブリザードの吹雪...」


フィールドの中でも、外のベンチでもみんな驚きの顔をしていた。

「凄い...。止めたと思ったのに、なんて破壊力」

呆然とする円堂に、背を向けていた吹雪が首だけ振り返って見せた。

「いいかよく聞け。俺がエースストライカー、吹雪士郎だ」

そう言ってドヤっている吹雪に、思わず、うーん、と顔を顰めた。
吹雪、士郎か...。

「吹雪！お前のシュート、どうしても止めたくなった！」

「出来るもんならやってみなァ」

拳を握り熱く叫ぶ円堂を横目で見ながらそう言って吹雪は白恋陣の方へ戻っていく。

「スーパーディフェンスに素晴らしいシュート力。噂以上のプレイヤーだ」

鬼道もべた褒めではあるが、問題はこっちだよなぁ。そう思って染岡を見る。

「どんなにシュートが凄くても、豪炎寺の代わりは居ねぇんだ...！」

それはそうなんだけど...。染岡は、吹雪が豪炎寺の代わりじゃないって事分かってるようで分かってないのが問題だよなぁ。

「やられっぱなしでたまるかよ！」

染岡が意気込んで、センターラインに戻すためゴールにボールを拾いに行く。つま先でボールを蹴りあげ手に持った時だった。

「そこまで！」

と瞳子さんが声を張った。
「試合終了よ」

「何っ！？」

「えっ、ここで終わりですか！？」

みんなが驚いてる中、瞳子さんは満足気に頷いた。

「このまま終わらせてたまるか！」

そう言って染岡が手に持っていたボールを地に落として、吹雪に向かって思いっきり蹴りつけた。ボールが飛んできた吹雪は反射的に蹴り返し、大きく弧を描いたボールに向かって2人は走り出した。

「染岡くん！？」

秋ちゃんが制止する声をかけるが、染岡は聞いちゃいない。

『全く...』

「お前に負ける訳にはいかねぇんだ！！」

「やる気か！おもしれぇ！！」

落ちてくるボールに2人の足と足がぶつかった。

「あ、！」

「染岡！！」

パワーで押し負け、染岡の方が吹き飛ばされてしまった。

「その程度か話にならねぇ」

見下ろしてきた吹雪に染岡は悔しそうに睨みつけている。

「こんなもんじゃ満足出来ねぇ、もっと楽しませろ！」

戦闘狂みたいな事言ってるよ。

「さっきのナヨナヨくんと全然違う...」

塔子ちゃんも驚きを隠せないでいるようだ。

クハハとまるで悪役のように笑った吹雪はその場で、また風を生んだ。

「エターナルブリザード...！！」

ほぼほぼセンターラインの位置からのロングシュートがゴールに向かう。
その前に塔子ちゃんと壁山が飛び出した。

「ザ・タワー！！」

塔子ちゃんのブロック技が炸裂するが、勢いを止めることなく塔が破壊され塔子ちゃんがフィールドに叩きつけられる。

「ザ・ウォール！！」

間髪を入れず今度は壁山の必殺技でシュートを受ける、が。

「お前らに止められるようなエターナルブリザードじゃねぇーー！！」

エターナルブリザードは壁山のブロックも打ち破って、ゴールへ飛んでいく。
円堂はぐん、と身体を後ろに捻り胸に手を当て気を溜めた。

「マジン・ザ・ハンド！！」

捻った身体を解き放ち、思い切り突き出したマジンの手の指先にボールは触れ、上に逸れてゴールバーの上に飛んで行った。

「あーっと！ゴールバーを超えた！ゴールならず...！」

「ちっ、アレでコースが変わったか」

「2人とも大丈夫か！？」

そう言って円堂が急いで2人に駆け寄って、塔子ちゃんを抱え起こす。

「はいッス...」

「いてて...しっかし凄いな。ディフェンス2人がかりでもコースを外させるので精一杯」

『いや、外させたってだけでも十分だよ』

壁山の傍に寄って倒れたままの彼に手を差し伸べる。

『外させたって事で相手の精神を多少なり揺さぶれるし』

「水津先輩考え方が悪役っぽいッスよ」

そう言って手を取った壁山がよいしょと重い腰を上げた。
その横から円堂の名を呼んで鬼道が詰め寄ってきた。

「どんな強力なシュートもこの方法なら！」

「うん。エイリア学園を倒せるかも！」

2人のお陰で希望を見出した所で、瞳子さんがパンパンと手を叩いた。

「はい、そこまで！」

熱の入っていたみんなは、その言葉に、あっ、と呟いて静かになった。
終わりということで、吹雪の瞳も元の灰色に戻り、逆立った髪の毛も元に戻った。

ふぅ、と一息つく吹雪に円堂が、すごいぜ、吹雪！と駆け寄っていく。

「あんなビリビッリくるシュート！俺！感動した！」

「僕もだよ。僕のシュートに触れることが出来たのは君が初めてさ」

にっこりと吹雪が笑って言えば、円堂もまた嬉しそうに笑い返した。

「吹雪！俺、お前と一緒にサッカーやりたい！」

「僕もさ。君となら。君たちとなら思いっきりサッカーをやれそうな気がするよ」

そう言って吹雪は雷門イレブン達を見渡した。

「吹雪くん。正式にイナズマキャラバンへの参加を要請するわ」

そう言った瞳子さんの顔は満足げだった。お眼鏡にかなう実力だったって事だ。

「一緒戦ってくれるわね？」

「うん。いいですよ」

吹雪が頷く中、1人がけっ、と悪態づいた。

「雷門の新しいストライカー誕生よ」

瞳子さんの言葉に思わず眉を顰める。
うーん、その言い方よ。雷門じゃなくて、せめてイナズマキャラバンの、だったらなぁ。
そう思いつつ、染岡を見ればやっぱり恐ろしい顔をしている。

「みんなよろしくね」

ふんわりと笑う吹雪にみんなは歓迎ムードだったが...、耐えられなくなったのかついに染岡はその場から逃げ出した。

「染岡くん？」

走り去る彼に秋ちゃんが声をかけるが、無視して走っていく。

「染岡！！」

慌てて円堂がその背を追いかけて行った。


氷炭相容れず
心配ではあるけれど、円堂に任せとけば大丈夫でしょう。