脅威の侵略者編
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「凄い!本物の雷門中だぁ!」
目的地である白恋中学校に到着すれば、白恋サッカー部の子供たちは寒いだろうからとストーブを焚いた教室の中へと案内し歓迎してくれた。
「あの日本一のチームがここに居る!サインちょうだい!」
藁帽子を被った女の子とイヤーマフをした男の子が感激してくれていれば、その2人を遮るように、マフラーを頭巾のように巻いた大きな体の少年が目金の前へ詰め寄った。
「噂の目金くんだぁ〜」
そう言いながら彼は鼻を指の項でゴシゴシと擦っている。
「握手!握手!」
そう言って目金へと伸ばされた手にはびょーんと鼻から繋がる鼻水が付いていて、目金はうわぁ...と引いていた。
「ようこそ白恋中へ。円堂くん」
可哀想な目金の横で、これまたイヤーマフをしていて右目だけ前髪で隠れている少年が円堂と握手を交わしている。
「すっげぇ!みんな俺達のこと知ってる!」
「そりゃあ、もう」
なあ?と言うように白恋中の子達は顔を見合わせる。
「フットボールフロンティアで優勝した実感がようやく湧いてきたッス」
「円堂、目的はそれじゃないだろう」
風丸に言われて、あっ、そっかと円堂は頭をかいた。
「吹雪士郎くんは?何処に居るのかしら?」
そう聞く瞳子さんに心の中でさっきあったよ、なんて言いながら石油ストーブの前を陣取って手を翳す。はあ、暖かい。
「吹雪くん?今頃スキーじゃないかな。今年はジャンプで100メートル目指すって言ってたもん」
「いや、きっとスケートだよ!3回転半ジャンプが出来るようになったって言ってた」
「オイラはボブスレーだと思うなぁ。時速100キロを超えたって言ってたよぉ」
「スキーにスケートにボブスレー、それで熊殺し...」
白恋中の子供たちの言葉に、雷門イレブンたちは大男を想像している。まあアレは熊殺しには見えないもんなぁ。
「そんなにスポーツが出来るなんて凄いやつだな!ますます会うのが楽しみになってきた!」
ワクワクとした様子の円堂と反面、ストーブ近くの黒板を背に立った染岡は険しい顔をしている。
人でも殺しそうな顔してんなって言ったらキレるだろうな。ストーブ近くて危ないから弄るのはやめとこう。なんて思っていれば、廊下の方からガサゴソと音がする。
「帰って来たんじゃない?」
イヤーマフの男の子がそう言えば、藁帽子の女の子が駆けて入口のドアを開けた。
「あ!吹雪くんだ!」
どんなやつだろうか、と雷門イレブンたちが息を飲む中、女の子が早く早くと廊下の外の人物に声をかけて引き入れる。
「何処に言ってたの?お客さんが来てるんだよ」
「お客さん?」
聞いたことある声に、皆があれ?と首を傾げる。
黒板の前に立っていた染岡だけが先にその姿を見て、えっ、と声を上げた。
そうして、廊下から教室へと吹雪士郎が入って来れば皆も同じように驚きの声を上げるのだった。
「あれ?君たち...!」
「さっきの...!吹雪士郎ってお前だったのか!?」
驚いていれば彼は、うん、と頷いた。
「お前が熊殺しか!?」
「え、ああ、実物見てガッカリさせちゃったかなぁ?噂を聞いて来た人達はみんな僕を大男だと思っちゃうみたいで...」
まあ、中学生で熊殺しなんて呼ばれてたら、普通にゴリラみたいな男を想像するよねぇ。
「これが本当の吹雪士郎なんだ。よろしく」
にこやかに笑って吹雪が染岡へと手を差し出すが、染岡はフンとそっぽを向いた後、歩いて教室を出ていく。
「染岡!」
円堂が声をかけても無視して出ていく染岡を、秋ちゃんが私に任せてと慌てて追いかけて行った。
流石秋ちゃん、メンタルケア担当。とはいえ、大丈夫かな。ちょっと心配だ。
「あれ...なんか怒らせちゃったかな」
浮いたままの手をグッパと握ったり開いたりしながら吹雪は、去っていた廊下を見つめる。
「ごめん」
そう言って、円堂が吹雪に深々と頭を下げた。
「え?」
「染岡は本当は良い奴なんだ」
『そうね。今ちょっと虫の居所が悪かったと言うか...』
円堂に乗っかってそう言えば、吹雪は気にしないでと小さく笑った。
「吹雪くん。少し時間いいかしら?」
「ええ、えっーと...?」
「私は吉良瞳子。雷門中サッカー部の監督よ」
「雷門中サッカー部の?」
困惑した様子の吹雪に、瞳子さんが単刀直入に会いに来た説明をすれば、詳しいことは長くなりそうだし、他の人たちが暇になるだろうから外に行こうかと吹雪から提案された。
確かに要件とは関係ない他の白恋中の子達を拘束して置くのも可哀想だし、雷門の子たちは子達で東京ではこんなに積もることのない雪に興味があるようだしで、その様子を見た瞳子さんは二つ返事で了承した。
正直私は寒いのでストーブの前から動きたくないのだけれど、ストーブは消していきますよ、と無慈悲にも吹雪に言われて致し方なくみんなと共に外に出た。
「うぅ...寒い...」
「これくらい普通だよ。動けばあったくなるさ」
震える目金に対し片目の隠れている少年、空野がそう言うが、女子用にと夏未ちゃんが用意してくれた防寒具を着てる私でもめっちゃ寒いんだが。やっぱ雪国育ちはこれくらい何ともないんだなぁ。
校舎より低い所にある運動場に向かう階段を降りていれば、隣を歩く春奈ちゃんが、つるんと足を滑らせた。
「きゃあっ、」
あっ、と思って私が手を伸ばすよりも先に、彼女の後ろを歩いていた吹雪が抱きとめて支えた。
「気をつけて、階段は滑りやすいから」
「あ、ありがとうございます」
そう言って離れた春奈ちゃんは、少し頬を染めている。
...お兄ちゃんがだいぶ先の方に居て良かったな。
掴み損ねた手をゆっくりと下げていれば、頭上からゴゴゴ、と言う音が聞こえた。
なんだ?とみんな立ち止まって音のする頭上を見上げた。
「な、雪崩!?」
みんなが上を見上げる中、後ろの吹雪を見れば彼は目も口も開いたまま固まっている。
大丈夫?とかけた声はゴオオォという低い音に掻き消され、階段の上の崖から少量の雪の塊がバラバラと落ちてきた。それと共に吹雪が急に自分を抱き抱えるかのようにその場にしゃがみこんだ。
「びっくりした...!でも凄い勢いだなぁ、雪国ならではだ!」
「うぅ......」
『大丈夫よ』
彼に合わせてしゃがみこんで震えている腕に手を添える。
吹雪の呻き声にどうしたんだと前にいた円堂達も振り返っている。
「大丈夫だよ、吹雪くん」
そう言って吹雪の後ろにいた、藁帽子の子、紺子ちゃんが同じようにしゃがみこんで吹雪の背中を摩る。
「屋根の雪が落ちただけだから」
「や、屋根から...」
そう言って吹雪はゆっくりと顔を上げて見る。
『みんなちょっと雪被った程度だから、大丈夫よ。みんな傍にいるよ』
そう声をかければ、えっ、と言う顔で吹雪も紺子ちゃんも私を見つめた。
「なんだ?どうかしたのか?」
円堂が下から声をかけてくれば、吹雪は、あ、いや、と返す。
「なんでもないよ」
『立てる?』
手を差し伸べれば、うんと頷いて吹雪はその手を取った。
ゆっくりと立ち上がって吹雪を引き上げる。その顔は不思議そうにこちらを見つめていた。
「これくらいの事でそんなに驚くなんて、意外と小心者ね」
夏未ちゃんがそう皮肉を言えば、吹雪は、あはははと渇いた笑い声を上げながら頭に手を置いた。
知らないといえ、それは、なぁ...。
『本当に大丈夫?』
「え?ああ...大丈夫だよ。さあ、行こう」
歩き出した吹雪につられ、みんなも階段を降りていった。
運動場に到着すれば、トラックが見えない程、雪に埋もれて居て子供たちは雪合戦を始めたり、雪だるまを作り始めたりし出した。
瞳子さんと吹雪は造られて居たかまくらの中で詳しい話をする事になって、寒いから正直私もかまくらの中で温まりたいところだが、先程教室から飛び出した秋ちゃんと染岡はみんなでこちらに移動した事知らないよな、と思い出して2人を迎えに行こうと降りてきた階段を戻って登っていく。
ぐるりと、白恋中の校舎の周りを回ってみたら秋ちゃんの後ろ姿が見えた。
困ったように突っ立っている秋ちゃんの先には、木に拳をぶつけて項垂れた様子の染岡が居る。
『秋ちゃん』
小声で声をかけてその肩を叩く。
「梅雨ちゃん」
『どう?』
聞けば秋ちゃんはふるふると頭を横に振った。
「...染岡くんの気持ちも分かるから、どうしたらいいのか分からなくて」
秋ちゃんは優しいからなぁ。
私からすれば、豪炎寺の件は辞めさせられた事に納得が行かないにしろ、それを吹雪に仇するのは違うと思うんだけど。
『うーん。こればっかりは時間かな』
「時間?」
『まあ、私も豪炎寺も今は仲良くなったけど、染岡最初はツンケンしてたじゃない?』
そう言って染岡を見れば、隣で秋ちゃんが確かにと苦笑した。
『染岡ー!!』
手をメガホンに見立てて大きな声で名を叫べば、なんだ、と言うように染岡はこちらを振り返った。
「...んだよ」
『みんな外の運動場の方に移動したから伝えに来たんだよ。それで、いつまで不貞腐れてんの?』
「別に不貞腐れてねーよ」
ふん、と顔を背ける染岡を見て、やっぱり今もツンケンしてるわと秋ちゃんに小声で言えば、くす、と秋ちゃんは可愛らしく笑った。うん、困ってる顔よりこっちの方がいいな。
『ほら、こんなとこ立ってても寒いから行くよ』
行こう、と秋ちゃんの手を取って歩き出す。わ、秋ちゃんの手冷た。美少女をこんな手が冷たくなるまで待たせとくとか有り得んぞ。
『そーめーおーかー!!寒いから早く!!』
振り返ってもう一度声をかければ、ああもうと染岡は頭をわしゃわしゃと掻いた。
「行けばいいんだろ行けば!!」
そう言って、後ろを歩き出した染岡を見て満足したように頷いて、再び前を見て歩きだした。
雪解けにはまだ早い
やっぱり梅雨ちゃんじゃなきゃダメね、なんて秋ちゃんが笑いながら言うものだから、そんな事ないよと笑って返しておいた。