フットボールフロンティア編
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足元を狙ってくるスライディング攻撃は、派手なアクロバット技で飛んで躱し、あからさまにぶつかってこようとするチャージは逆に身を落とし、フリスタのシッティング技で、ボールを尻の下敷きにし取られないように匿う。
立ち上がる時は内腿にボールを挟んで、両手を地に着け腕力だけで足先から上に向けるように身体持ち上げそのまま後転して、起き上がり、ももからふくらはぎにボールを滑らせ踵でボールを蹴りあげて、それを背中に乗せてフィールドを走る。
「なんなんだコイツ」
「ボールが身体に磁石みたいにくっ付いてる」
水津の普通のサッカーとは異なる奇抜な動きに、帝国サッカー部も翻弄されていた。
「あの女、妙に必殺技も避けやがる!」
当然、サイクロンなんて必殺技食らったらたまったもんじゃないので、避けるに決まっている。他の皆はあまり技を見せないようにしているのか、現状でカット技を使用してくるのは万丈だけのようなので、彼の姿が近づいたらロンダートとバク転を使って彼から全力で逃げるようにしている。
「ちょこまかと小賢しい」
ちっ、と佐久間が舌打ちをする。
『あは、お褒め頂き光栄だね』
「褒めていないっ!」
そう叫びながらスライディングを仕掛けて来てたので、ボールを真上に蹴りあげ自分もジャンプで佐久間の足を躱す。
『よっ!』
そのまま前に倒れ込むように頭を下に向け、右腕1本で逆立ちになる。左足を大きく広げそのつま先で先ほど上に蹴り上げたボールを空中で拾う。
今度はその目掛けて、洞面が飛び蹴りの型でジャンプしてきた。
『危ない危ない』
つま先から内腿にかけてボールを滑らせ挟み込み膝を曲げ、腕も曲げて体制を低くする。
その頭上を身軽な洞面が飛び越えて行った。
地面と平行に近い形になっていた身体を足から順に地につけ、くるっと垂直に起き上がらせる。その際に腿から落ちたボールを右足で踏み確保する。
その正面に鬼道有人が立ち塞がった。
「お前の実力は認めよう。だかしかし何故今の今まで試合に出なかった」
『出たくない事情があったんだよ』
君らの目的の人物と一緒で。
『君らが想定外の事をするから、仕方なくだよ』
ボールを右足の側面、土踏まずでスるように足を降ろし弾いて少し上にあげる。それを今度は左足の側面で弾く。右、左とリズムを取るようにそれを繰り返す。
「そうやってずっとボールを守っているだけでは、点は取れんぞ」
『分かってる、よ』
左足に戻ったボールを高く跳ねあげ、左足を地に付けた瞬間右足でボールを蹴るかのように伸ばし内側に振る。
それに反応して、マークについている鬼道が左側に動いた。
しかし内側に回した足、それはボールを蹴るためでなく、左足首裏で叩き落とすためのフェイントであり、その足を振り下ろす勢いで身を半回転させ、降ろした右足を軸に変え今度は左足を伸ばした。
ボールの頭に足が掛かり下に叩きつけるように振り下ろす。
しかし、ボールはそこより下に行かなかった。何故なら、いつの間にか後ろに回った鬼道有人の足の甲が、下から上にボールを蹴りあげて挟むようになってしまっていたからだ。
『なっ、』
なんで。
「お前は極力身体から大きく横軸にボールを離そうとしない。飛ばしても自分の足が届く範囲まで。そして、アクロバットを行う時は右足が軸になる事が多い。予測など容易い」
そう言って鬼道の蹴りあげる力が増す。
梅雨はと言えば、不安定な体制での振り下ろしで、これ以上の力を込めるというの無理であった。結果、鬼道の力に負け、ボールは真上に弾かれ、バランスを崩した身体は頭から後ろに倒れていく。
頭を守るように両手を後ろに回し
腕で顔を挟み込む。体を縮こませてなるべく肩から落ちるように身体を向ける。
『ぐっ、』
衝撃を和らげる為にゴロゴロとフィールドを転がる。
そんな私の頭上から、パチンと指を弾く音が聞こえて、少し離れた所から3人が走り出す足音がした。
「デスゾーン開始」
鬼道がそう言って、私の頭上をボールが真っ直ぐ飛んで行った。
『くそ、』
そのボールの先には佐久間、洞面、寺門がいて彼らは身体を回転させながら中に飛び上がった。その先に見据えるのは雷門のゴール。
「来る気がなかったのに来たというのは、コイツらがボコボコにされたからだろう?ならばお前にはお前自身を対象とするより、アイツに食らわせた方が効くだろう」
そう言って鬼道はニヤリと口元を歪ませた。
コイツ、性格悪い...!!初期鬼道ってこんな性格悪かったか??
「「「デスゾーン!!!」」」
佐久間、洞面、寺門の3人から放たれた必殺シュートは、真っ直ぐと雷門のゴール、円堂目掛けて飛んで行く。
「水津が、休む時間をくれたんだ!...今度こそ、止め...る!!」
真っ直ぐがっしりと円堂はボールを掴んだ。
『円堂...!』
グッと、力を込めた彼の手が一瞬黄色く光った気がした。
「ぐっ、わあああっ...!」
ボールの勢いは止むことなく、またも円堂の身体ごと、ゴールへと叩きつけられた。
帝国20点目が加算された。
『...ッ!円堂っ...』
円堂はゴール内にぐったりと倒れたまま、動かない。
そんな彼を見て帝国選手達は嘲笑った。
『おい』
梅雨はゆっくりと立ち上がり、スッーと息を吐きながら1番近い鬼道に歩み寄って、彼の胸倉を左手で掴んだ。
笛が鳴って審判からイエローカードを掲げられた。なんだ、ちゃんとイエローカード持ってたんだ。あの帝国のプレイにはイエローカード切らないのになぁ。おかしいなぁ?
まあ、帝国学園側が連れてきた審判だし買収されてるのは当然か。
「なん、」
パンッと派手な音が鳴って、鬼道の左頬に赤い紅葉が咲いた。
「だ...!!?」
審判から出された警告なんか気にせず、彼の頬を空いた右手ではたいたのだ。鬼道は、は?と口を開けたまま、はたかれた頬に手を添えて打たれた瞬間に横になった顔を、彼はギギギと動かした。ゴーグル越しだがこちらを睨んでいるのがハッキリ分かった。
「貴様...ッ!」
別方向からも、あの女ッ!と言う声が聞こえる。
そしてもう一度笛を吹いた審判が近づいてくる。
そんなものは無視して、目の前の彼の掴んだままの胸ぐらをグッと引き寄せる。
『なんだ。随分と驚いているね?1発頬をはたく以上の事を他人にしておいて、自分は殴られる覚悟もなかったのか?そんな奴が、真剣にやってる奴を笑うんじゃないよ』
「...!」
「ちょっと、キミ!」
審判に手を掴まれ、胸ぐらから手を離させられる。そして審判は再度イエローカードを、そして共にレッドカードを掲げた。
『へぇ、』
掴まれていたユニフォームを正した鬼道は、掲げられたレッドカードを見てフンと鼻を鳴らした。
「退場だ」
『ふふふ、』
おかしくなって笑えば、帝国選手達は怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
帝国の20点目が入って、円堂がゴールに倒れたのなら、彼が来る。そこに私は必要ないのだ。
感情的になり、叩いてしまった鬼道には悪いが、私がフィールドから出る為の手段としてこれ程都合のいいことは無い。
『私はただの調整役。あとは頼んだよ』
ゴールに倒れたままの円堂を1度だけ見て、それからフィールドの土をザクザクと踏みながら歩いてタッチラインを越える。
「何がしたかったんだあの女?」
「さあな。とりあえず、唯一まともに動けたやつも居なくなった」
「終わりだな」
地に伏せた雷門選手達を見て、鬼道以外の帝国選手達は再び大声を上げて笑った。
「まだだ!」
その大声に鬼道はハッとゴールの円堂を見た。
地に伏せたその身体がブルブル震え出し、ゆっくりと腕を使って身体を起こす。
「まだ......てねぇ...」
ゆっくり、ゆっくりと円堂は立ち上がった。
「まだ、終わってねーぞ!!」
「そうだ」
その声に、皆が一斉に誰だ!と振り向いた。
観客席から、おおーっとあの選手は!と実況の大きな声が響いている。
将棋部の角馬圭太くんだっけ?声よく通るなぁ。
「出場して10分経たずでレッドカードって...何をやっているんだ、お前は」
声の主は、青と黄の雷門のユニフォームの襟を立てて着ていて、タッチラインを出た梅雨に声をかけた。
『来るのが遅い君に言われたくないね』
「そうか」
そう言って待ちわびていたヒーローは、タッチラインを超えて、フィールドの中に入っていた。
見送ったその背には10の文字。
やっとか、とフィールドの中の鬼道も口元を歪めている。
「待ちなさい!君はうちのサッカー部では!」
慌てて冬海先生が止めに入るがそれを鬼道が片手で制す。
「いいですよ、俺たちは」
「そ、それでは帝国学園が承認した為選手交代を認める!」
審判がそう手を掲げれば、来てくれたんだな!と円堂が豪炎寺に駆け寄った。
全く、体力を温存する気がないな円堂は...。ああ、ほら、結局倒れかけて豪炎寺に支えられている。
そんな彼らを見ながら雷門ベンチの方へ向かえば気がついた秋ちゃんが隣の新聞部の女の子に声をかけて席を詰めて、ちょいちょい手招きしてくれた。
『レッドカード貰ってベンチ座っていいのかな?』
「公式戦じゃないし、大丈夫よきっと」
本来ならロッカールーム行きだろうけど、秋ちゃんがいいと言うのだいいのだろう。
よいしょ、と新聞部の子の隣に腰を下ろす。
「あの!水津先輩!」
そう言って、新聞部の子がペンとメモ帳をグッと握って詰め寄ってきた。
「私、新聞部の音無春奈です!あの先輩!笑うんじゃないよって、すっごくかっこよかったです!!」
『う、うん??』
あれ、君あれだよね。うん。私いろいろ知ってるけど、帝国のキャプテンの事、叩いたんだよ??え?良かったのか...???
「試合、再開するみたい」
豪炎寺がFWに立ち、円堂がゴールに戻っていく。
それにつられてそのそのと雷門選手達が立ち上がっていく。
「みんな、水津さんが時間稼ぎしてくれたお陰で少し回復出来たみたい」
時間稼ぎしてたのバレてーら。シュート狙いに行っても速攻取られるのは分かってたから、得意のリフティングでキープして少しでも彼らが回復する時間を伸ばそうとしてたのは確かだ。
「あ、でも、暴力はダメよ」
めっ、と秋ちゃんに怒られる。
『うん。反省します』
退場するのに都合はよかったが、さすがに叩いたのはちょっと後悔している。でも、本当に真剣にやっている円堂をバカにしたのが許せなかったのだ。だからあれは鬼道も悪い。
『さて、』
笛が鳴って、雷門からのキックで試合が再開する。
半田、染岡から宍戸へとボールが渡りそれはいとも簡単に辺見によるスライディングで奪われてしまう。
鬼道の指示で再びデスゾーンが開始される。
飛んでくるデスゾーンとは真逆に、帝国ゴールへと豪炎寺は上がっていく。
帝国選手も雷門選手も彼の円堂をフォローする様子のない行動に、驚きの声を上げている。
目金と同じ敵前逃亡か〜!などと実況が煽るようなコメントをしているが、それが違うと、梅雨はもちろんのこと、円堂も分かっていた。
円堂はゴールを託した彼の信頼に答えるようにグッと拳を握って力を込めた。
そして、
「はあ!」
デスゾーンに向かって大きく手を開いて突き出す。バチバチと光を放ってそれは黄色く輝く大きな手の型になった。
その掌の中心でしっかりとデスゾーンを受け止めていた。
『ゴッドハンド......』
これが。円堂守の必殺技。
彼がボールを止めるのも、ゴッドハンドを出すのも知っていた。
だけど思わず、よしっ、とガッツポーズをしてしまった。
隣では秋ちゃんと春奈ちゃんが立ち上がりやったと手を繋いで喜んでいる。
そして、円堂は豪炎寺へとそのボールを大きく投げた。
ボールを受け取った豪炎寺は、とんとんとリズム良くボールを上空に蹴りあげて飛び上がりクルクルと自身を回転させた。
その脚に炎が渦巻く。
ファイアトルネード。
そのシュートは、キャッチしようと上に飛んだGK源田の下を抜けてゴールへと突き刺さった。
1点
雷門イレブンで初めて取った1点。
この1点で帝国学園は試合を放棄し実質、雷門の勝利となった。